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君に捧げる鎮魂歌(レクイエム)  作者: 秋元智也
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違法な実験


話し声が聞こえる。

ゆっくりと目を開けると真っ白な天井が映った。そして点滴が見える。

悠人はゆっくりと起き上がると周りを見回した。そこはどこかの病院のようだった。

するといきなりガラッと音がして葵先輩の声がした。

「目が覚めたか?大丈夫か?どこかおかしなところはないか?」

どこも痛いところはなく、いたって健康そうだったので点滴をはずそうとしたら止められた。

「ここは教授の知り合いの人の経営する病院でね、暫くゆっくりするといい」

永田刑事はそういうと側の椅子に座った。

「いきなりの出来事でね、神倉君が宙に浮いたと思うと苦しみ出すから何が起きたのかわからないんだよ。出来たら説明をしてほしいところなんだけどね」

悠人は少し黙ると口を開いた。

「あの光は?」

「あれは教授の仕業だよ。でも、そのお陰で助かったよ」

「早希は?妹はどうなったんですか?」

「眠っているよ、薬で眠らせて隣の部屋にいる。後で見に行くといい。」

「そうですか、ありがとうございます。これは現実なんですね?」

俯くと永田刑事はコクリと頷いて見せた。それからさっき見た事を葵先輩と永田刑事に話した。

永田刑事は荒川の下流を総索するように指示を出すとそれから暫くしてから遺体が見つかったと報告を受けていた。

「理解しがたいんだがなぁ?となると、犯人は神倉早希であってそうでないということなのか?」

悠人は困ったように頷くしかない。

葵先輩だけは違って嬉しそうであった。

「こんなことがあり得るのか?実際にこの目であり得ない現象を目のあたりにしているのだから、これを奇跡の力と言わずしてなんというのだ?実に興味深い。惹かれる存在だ。いつ目覚めるんだ?話してみたい。どうなってるのか!どういう状態なのか?」

ほんとにデリカシーの欠片もない人だ。でも、少しホッっとしている。

あのまま全員殺されるのではないかと不安だったのだ。

母は殺されてしまったけど、まだ早希がいる。

早希だけは守らなくては!と悠人が決心すると教授が姿を現した。

「ちょっといいかね?」

少しドアを開けると中の様子を確認してから入ってきた。

「神倉君、君には酷な話になるが聞くかね?」

「・・・はい、知らない事ほど、恐い事はないのでっ。」

「そうか、少し昔の話をしようと思うてな」

教授は自分が若い頃に出会った学生と恩師の話をし始めた。

教授がまだ助手だった頃の話である。

ー その当時は栗田雅人(くりたまさと)という教授が念力体質と感応体質の研究をしていた。

念力体質は見えない力でものを動かしたり、直接的な行動につながる力のことで、感応体質とは心に働きかける力の事をいった。

簡単に言うと相手の精神状態や記憶を読み取る力である。

無意識ではなく、故意に発動する研究や、実際に予知夢を見ることの出来る人などから血液やらのサンプルを買取り実験を繰り返していた。

最初は面白そうだから、という興味本意だった。

だが、次第に栗田教授はのめり込んでいった。

助手も段々と怖くなって去っていった。ー

伊吹教授はそこまで話すと、一旦座り直し、窓の外を眺めた。

ー 私はね、暫くして研究から離れたのだよ。

そして数年がたったある日、栗田教授の研究室を訪ねたんだ。

すると、そこには一人の学生が熱心に教授とあの研究を続けていたんだ。

彼女の名前は小林彩美(こばやしあみ)

そしてそこには二つのビーカーに入れられた生命体があったんだ。

教授は大方完成したと言っていたよ。

それから、私にこれまでの苦労やここまでに至る様々な妨害も聞かせてくれた。

しかし、実に嬉しそうだった。それをどうやって使うつもりなのかを聞くまでは。ー

「人体実験でもしたって言うんですか?」

永田刑事はふるふると拳を震わせて怒りを抑えていた。

「その、小林彩美とは、母の事なんですね?」

悠人はゆっくりとした動作で身体を起こすと訪ねていた。

教授はコクリとだけうなずいた。

ー 妹から生えてきた黒い皆には見えない手はそういうことだったんだ。そして皆の心を覗くって言うのは僕の・・・ ー

教授は話を続けた。

ー 産まれた赤子に移植すればどうなるのかと言い出したのだ。私も助手の彼女も反対した。

子供の人生を奪ってしまうかもしれない行為だと。

しかし、諦めなかった。私が帰ってから数年がたった頃だろうか、彼女が訪ねてきたんだ。

研究をデータと対処法を持って。さっき使ったものだ。

あの光は特殊なもので、浴びている間は力を失ってしまう。

隣の部屋の照明を改造させて貰ったよ。だから隣の部屋では君も妹さんも力は使えない。

その代わり、ふつうでいられるはずだ。

その後だったかな、栗田教授の研究室が火事にあって燃えたのは。

その火事で資料も教授も亡くなったと聞いている。

それを彼女が持っていたなんて、あんなに反対していたというのに・・・。

一体彼女に何がそうさせたのか?わたしにもわからんよ ー

悠人は近くの果物ナイフを握ると腕に当てた。

それを見ていた永田刑事は慌てて取り上げようとするが間に合わず血が飛び散った。

「いっ・・・てぇ~」

「当たり前だ。バカもん」

葵先輩が布を当てるとぎゅっと傷口を縛った。

「一体何を考えておるんだ!」

教授からもお叱りを受けた。しかし、悠人は確信していた。

これまで傷を負っても治りが異常に早かったのだ。

数分もすれば血は止まり、皮膚が盛り上がって1時間もしないうちに治ってしまうのだ。

小さいときはこんなことなかったのだ。

子供の頃に妹と遊んでいて崖から落ちて意識不明の重症を負ってからだった。

あの時、妹に靄のような影が入っていくのを見ていた。側には母がいて心配そうに眺めていた。

その事を話すと教授は納得したかのように頷いた。

「そこで君達に移植したんだな。そうすることでしか助からないと踏んだのだろう?しかし、誤算があった。もうひとつの人格が産まれてしまったことだ。そもそも、ビーカーで育てていたときに人格成形をしていたと書いてあった。一方だけ人格を整形し、もう一方は自然に任せたとある。」

「そんなことが、、、可能なのか?実に素晴らしい」

葵先輩が感動しているが、今はそれどころではない。

だったら、早希にはもうひとつの人格が形成されている事になる。

「どうすれば普通の生活ができるんですか?」

「それは無理な事だ。一度移植してしまうとその体と融合してしまう。それは君が一番よくわかっているのではないかね?」

悠人はさっきの布を取り、傷を晒した。

すると何事もなかったように血だけがこびりついているだけだった。

葵先輩は食い入るように傷口を見ると喜んでいた。

「神倉君、君だけなら今まで通り暮らすのに支障はないはずだ。ただ、妹さんはそういう訳にはいかない。精神が昂ると知らないうちに周りを傷つけてしまうからね。早希君には悪いが警察の方で保護してもらうのがいいかもしれんな」

「そんなの、あんまりだ。たった一人の妹なんだ」

教授は、分かってくれ、それが君と早希君の為でもあるんだ。っと言っていた。

そんな理不尽な事をどうやって理解しろというんだ。

それから隣の部屋で眠っている早希の側に来ていた。

葵先輩には暫くここへは来ないように配慮してもらった。

ただし、扉の外では永田刑事が見張るという条件付きでだ。

うっすらと早希が目を開けたのがわかるとそっと頬に触れた。

「おはよう。大丈夫か?」

悠人の声に反応するようにこちらを見つめた。

「お兄ちゃん?どうして・・・私が、お母さんっ、お母さんを?」

掴みかからん勢いで悠人にしがみついてきた。

今も震えているのがわかると、そっと背中に手を回すと抱きしめた。

「大丈夫だから。もう、あんなこと起こさせないから。僕がついてるから」

「うわああああーーー」

早希はその場で泣き続けた。




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