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君に捧げる鎮魂歌(レクイエム)  作者: 秋元智也
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真実を

まずは時間的に死体安置所に向かった。そこはいくつかの扉がぎっしりとあって、その一つを永田刑事は鍵で開けると中から滑車を引き出すと死体が出てきた。

勿論死体には布が被せてあり、臭いもあまりない。

中からは冷たい冷気が吹き出していた。近づくと葵先輩が布を剥ぎ取った。

そこから出てきたのは心臓辺りにぽっかりと穴の開いた死体だった。

死体を目の当たりにした瞬間、映像がフラッシュバックする。

悠人はその死体を見ると、いきなり息が詰まり意識を手放すとその場に倒れ込んでいた。

「神倉君!?」

教授は身体を支えると永田刑事に休ませられる所を聞いた。

悠人の細い身体を抱き上げると仮眠室に運んだ。それから救護班に連絡をつけてくれた。

いきなり倒れた悠人を診察した医師はどこも異常はないといって戻っていった。

「全く、ビックリしましたよ。一体どうしたんですか?」

永田刑事は何が起こったかわからずに葵先輩と伊吹教授の方を眺めてきた。

「それは彼にしかわからんよ。しかし、ちと刺激が強すぎたかも知れんな?今日は殺害現場に行くのはよした方がいい」

教授はたんたんと言って悠人の脈をとっていた。

「折角だから、このまま調べるべきだ。それに彼の力は本物だ。こんな素晴らしい力に恵まれているんだ。使わない手はないだろう?」

葵先輩は興奮しながら熱弁に語る。しかし、教授はそれを良しとはしなかった。

「君の力なら試してもいいかも知れないが、このまま行けば彼は壊れてしまうかもしれん。精神的に衰弱しつつあるんだ。今日会って思ったのだが、彼はこの力をあまり好きではないようだ」

「なぜだ?こんなに素晴らしい力なのに・・・」

「なんにせよ、これ以上は許可できん」

永田刑事も教授の意見に賛成だった。彼の顔色は未だに悪いままだった。

部屋に入った所まではよかったのだ。しかし、死体を見た瞬間急変した。

確かに事件解決出来るならと安易な気持ちで連れてきたのだが、倒れた彼を見るとまるで死んだかのように蒼白になっていくのを見るのが怖くなってきたのだ。

葵先輩の意見は二人に説得されて目が覚めたら家まで送っていくということに決まった。

暫くすると悠人は目を覚ました。段々と顔色は戻ってゆき大分と落ち着いたようだった。

悠人はぽつりぽつりと、見たことを話し出した。


被害者の福岡達也はその日も町をうろついていた。

仲間5人を引き連れて昼間っから学生の分際で徘徊していたのである。

素行が悪い事で知られる古城高校に通っており、昼になると帰宅していた。

町のなかで気に入った女性を物色してはナンパしたり仲間で取り囲み連れ帰ったりしていた。

補導歴は数知れず、それでも同じ事を繰り返す。

そして、事件当日。いつものように恐喝紛いの事でお金を作り2人の少女の後をつけて仲間内で取り囲んだ。いつものように仲間で強姦紛いの行為をした後でその一人を連れ帰ったのだ。


震える手を押さえながら悠人はそこまで語ると目をぎゅっと閉じた。

何かに耐えるように・・・。永田刑事は唖然と話を聞きながら嫌な予感に苛まれていた。

このまま聞けば被害者はまだ、いることになる。

急かす気持ちを抑えながらも先の話を待った。

「2人のうちの一人は桜花中学に通う三芝遥香(みしばはるか)。そして、もう一人は早希・・・」

涙と嗚咽が混じる。抑えきれない感情に抗うようにそっと答えた。

「僕の妹だ」

「「!!!」」

永田刑事はすぐさま桜花中学に連絡をすると三芝遥香の居所を聞くと、今日はいきなりの休みで昨日から帰っていないことが分かった。

悠人は早希の携帯に電話するが留守電になってしまった。

仕方なく家に電話したが、母も出なかった。

「どうなっているんだ?」

一行は一旦神倉家に行くことにした。パトカーを走らせ神倉家に着くと悠人の鍵で中へと入った。

「ただいまー」

「・・・」

全く誰の声もしない、それどころか電気も着いていない。

「この時間なら母さんがいるはずなんだけど・・・」

悠人の疑問を否定するかのように静まり返った室内にある疑問が浮かんだ。葵先輩が教授に悠人を任せると外で待機するように言ったが、聞き入れなかった。悠人は家の中へと入っていく。

「母さん? 早希?」

「神倉君、待ってくれ」

永田刑事は後を追って入ってくる。

電気をつけて部屋を明るくしていく。玄関には靴が並んでいた。乱れた形跡はない。

「やっぱり、いるんじゃないか!」

悠人はリビングの電気を着ける。食事の用意が既に整っていた。

しかし、二人の姿は見えない。すると二階から物音がした。振り替えると直ぐ様悠人は走り出した。

「待つんだ、神倉君!」

永田刑事の焦った声がこだまする。

音は二階の父の書斎からだった。扉を開けると真っ赤に染まった絨毯には母彩美の死体が転がっていた。そのそばで動く影があった。電気を着けると泣きながらうずくまる早希の姿があったのだった。

駆け寄ると、そっと抱き寄せた。

「早希、何があったんだ?大丈夫か?怪我はないか?」

「お兄ちゃん?・・・あわあぁぁーーーん」

悠人にしがみつくと泣き崩れた。

早希を抱き締めて立ち上がろうとした時、早希がさっきまで見ていた風景が流れ込んできた。

今目の前にいるのは早希に似た早希ではないもの?とっさに妹を突き飛ばした悠人を見ていた永田刑事は驚くと近寄ろうとして足を止めた。

早希の様子がおかしかったからだ。

さっきまで震えて泣いていたというのに、今は笑みを浮かべている。

「誰だ、早希は?早希をどこへやった!」

悠人の震える声が響いた。

「母さんを殺したのも、お前か?」

早希とそっくりな少女は凍てつくような冷たい目でこちらを見つめた。

「この女は母ではない。」

永田刑事は昨日の事件も君がやったのかと、問い詰める。

「昨日の?あの人間か?あれは私のものを汚そうと下から殺したにすぎん」

あっさりと肯定すると悠人の方に歩いていく。

手を差しのべると悠人は早希のその手を叩いた。

拒まれた事に目の色が代わると後ろから黒い靄のような手が生えてきた。

「手が・・・」

「手がどうしたって言うんだ?」

後ろにいる3人には見えていないようだった。

いきなり伸びると悠人を捕まえると持ち上げた。

「はっ、、なせっ、、、」

段々と絞まっていく感覚に体が軋みだす。

その時光が放たれた。その光を浴びると霧のように手が消えて床に落とされた。

光が収まったときには早希が床に倒れているのが見えた。そして、意識は薄れていった。


早希はあの日悠人を見かけたのだ。

「お兄ちゃっ・・・」

あの日呆けて歩いていた悠人に福岡達也が殴った奴がぶつかって行ったのだっだ。

尻餅を付いたがそのまま立ち上がると帰りの道を歩いていく。

どうしても様子がおかしかったので母に相談したのだ。

するとそろそろ限界かしらね。と呟くと二階に上がっていってしまった。

後を追うと、父の書斎に入っていった。中には隠し扉があってその中は実験室のようになっていた。

「お母さん、ここはどこなの?」

「いらっしゃい、あなたもそろそろ封印をしなおさなくちゃね?」

その言葉に恐怖を感じて外に飛び出したのだ。町をさ迷っていると塾帰りの三芝遥香にあった。

遥香と二人でいるとさっき見かけたあの男が目の前にたっていた。

周りを仲間が取り囲んでいて逃げられそうになかった。

それから倉庫のような所に連れていかれると、早希だけが福岡達也という男に橋の下に連れて来られた。

服に手をかけられ、悲鳴を上げた瞬間、頭のなかで声が聞こえた。

体が軽くなり、心が静かになった。

自分を見ていた男が恐怖を張り付けている。

不思議に思うとやがて後ろから黒い靄が広がって男の首を締めあげた。

ー うるさいな。静かにしてよ ー

声がしたかと思うと自分の手が勝手に動いて男の心臓を易々と貫いていた。

握ると生暖かいものが握られていた。

引き抜くとそれがさっきまで動いていた心臓であることを理解したが、心が冷めているせいか全く何も感じなかった。

さっきの倉庫に戻ると乱暴されて事切れた三芝遥香の体が横たわっていた。

近くを流れる荒川に流すと、なにくわぬ顔で家に帰って来た。

すると玄関で待っていた彩美によってまばゆい光を浴びるとその場に崩れ落ちていた。

それから朝目が覚めると、昨日の事をすっかり忘れていた。

しかし、今日学校からの帰り道に昨日の男の仲間を目撃した時はっきりと思い出した。

罪悪感に苛まれた瞬間また声が聞こえたのだ。

ー あの女を殺さないと、自由になれない。私の核を取り戻さないと ー

そこからは狂気の沙汰ではなかった。家に着くとなにくわぬ顔で母に接した。

油断を付いて後ろから心臓をえぐりだして腕をもバラバラにちぎった。

動かなくなったのを確認すると立ち上がろうとすると電話が鳴り響いた。

着信の相手は悠人であった。

すると身体を支配していた何者かが消えて早希が自由になったのだった。

しかし、もう遅い。何もかもが遅すぎる。

「私は何者なの?どうしてこんなことになるの?お兄ちゃん、助けて」





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