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君に捧げる鎮魂歌(レクイエム)  作者: 秋元智也
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事件の真相


昼休みになると二人は、例の如く昨日のその後の話になった。

「だーかーらー。何も無いんだって。それに、二人きりじゃないし~」

「今日も呼ばれてるんだろう?付いてってやるよ」

「健斗、なんでお前が付いてくるんだよ!少しは凌平を見習え」

「なに言ってんだよ。凌平は鈴ちゃんとデートで忙しいだけだろ?俺にもデート相手がほしいんだよ!」

「そんな事知るかよ!僕を巻き込むな」

「そんな~」

笑いながら健斗と悠人を凌平は見つめると、

「お前らも、もっと大人になれよ」

といった。

「「凌平だけには言われたくない」」

と、二人の声がハモったのだった。


放課後になると鈴が来て校門を指差した。そこには門で男子生徒の注目の的である大学生の葵先輩が立っていた。まるで誰かを待っているような感じで、待たせている相手を一目見ようと男子生徒が殺気だって周りを囲んでいた。

いきなり肩を叩かれると健斗がそこにいた。

「頑張れ。俺は関われねー。じゃーな」

と言うと、帰ってしまった。

「なんて迷惑な人なんだか」


puruuuuuuu. puruuuuuuuuu.

「はい、赤羽だ。まだ出てこないのか?今校門で待っているぞ?」

『知っています。迷惑なんで帰ってくれますか?』

「そういう訳にはいかん。君の事だからそのまま帰ってしまうかも知れんからな?」

『ちゃんと行きますから、そこにいられるとこっちに殺意が向けられるのできついんです。あまりに強い殺意だと引きずられるんです。わかってます?』

「あっ、・・・そうだったな。では一旦研究室に帰る事にするよ。それと、昨日の永田刑事がもうすぐ来るから早く来るといい。また、あとでな」

プツッ。ツーーー。 ツーーー。 ツーーー。

窓から眺めていると葵先輩が帰った瞬間蜘蛛の子を散らすように皆、帰っていった。

その場の殺意はきれいに霧散した。それから鞄を掴むと昨日の研究室に向かった。

コン。コン。コン。コン。

「どうぞ~」

男の声が中から聞こえてきた。

ガチャッ。

「失礼します」

「はじめましてだね、君が神倉悠人君だね?私はここの管理者の伊吹勝だ。」

「はい、伊吹教授の事は聞いています。」

伊吹教授はボサボサ頭の56才だと聞いていたが、それ以上に見える。

無精髭を手で撫でながら考え事をする癖があるらしい。

よーく眺めるとパンダがごろごろしている。笹をくわえては見つめて来るのが愛らしかった。

似つかわしくない内面に笑いを堪えていると教授はにこやかに笑った。

「何か見えたかね?」

「はぁ、ちょっと・・・教授の内面が、、、パンダがごろごろとじゃれていたので・・・」

「面白いね、もっと聞きたいが君と話がしたいと言っている青年がいてね」

「?」

すると隣の部屋から二人が出てきた。

葵先輩と永田刑事だった。永田刑事は情けない顔をして教授の言葉に反論した。

「青年って。もう、立派な大人ですから」

「わしにとっては若者の違いはわからんよ」

悠人は永田刑事の話に関しては思い当たりがあったので聞いてみることにした。

「僕に話って昨日の事ですか?」

「あぁ、そうそう。昨日の裏を取ろうとして調べた結果なんだけどね。君の言った通りで掃除機のコードからは修三さんの指紋と首のかすり傷の皮膚片も検出された。それから次男の勇次さんに証拠を突きつけたら自白したよ。あと、お手伝いさんが見た手紙も娘の実和子さんが書いたものだと自供も取れたし自殺で決まりだったよ。保険金は出ないし特許の事だが取り消しになりそうだよ。」

「なぜ?」

葵先輩が話に割り入ってきた。

「お金が払えないからだよ。特許を取るにもまずはお金なんだ。それが期日までに払えないとなれば何処かに買い取ってもらうしかないだろうね。それが出来ないのなら、工場を売ってでもお金を作るしかないだろう」

永田刑事はうん。うん。と頷くと付け加える。

「それに、長男がまーた、多額の借金を抱えていてね。もう、たちゆかないだろうね。だから自殺を他殺に見せかけて死を選んだのだろうね」

「そうですか、なんかそのままにしておいた方が良かったのな?」

「そんな事はないよ。刑事は真実を追求しなくていけないからね?それでだ、今度はもっと奇っ怪な事件なんだけど・・・」

それを聞くと悠人は踵を返して帰ろうとドアの方に歩いていく。

「待ってくれよ、さっき赤羽君に聞いてもらったのだがあまりにも猟奇的な死体で、犯人像のプロファイリングを頼んだんだけど、奇妙な事を言われてね、君の意見も聞いておきたいんだ」

教授は自分の席に座るとお茶を用意し机に3人分を淹れてくれた。

「あんまりあてにしないで下さいよ」

嫌な予感に顔をしかめると溜め息を付いた。

「助かるよ」

永田刑事は軽快に写真を昨日のように机に並べていった。

「今日の朝方、散歩中のOLが出勤前に見つけたらしい。荒川の橋の下で見つかった死体がコレね。そして、殺されたのが福岡達也。昨日の夜に仲間と町で女をナンパして別れた後の足取りは不明。どっかのホテルに連れ込んだと思われたが死亡推定時刻は仲間と別れたすぐ後という事で夜9時から10時。一緒にいた女はどうなったかが心配なとこだね。」

「その子が犯人って可能性は?」

永田刑事はキョトンとすると笑いだした。

「君もそんな事を言うんだね?赤羽君にも言われたけどそれはないよ。首をへし折られているんだよ?しかもかなり大きな手で絞め殺してるんだ。首に跡がくっきりとついていてね。それを見る限り女性ではあり得ないんだよ!それに、そのあとに心臓をえぐりだして持ち帰っているんだ。コレは猟奇的な殺人としか言えないだろう?」

悠人は大体の説明を聞くと写真を眺めた。その写真が昨日の夢と重なる。

いきなり吐き気がしてきて目の前が揺らいだ。息が上がり呼吸が苦しくなる。

悠人の状態を見ていた教授と葵先輩は素早くかけよってソファーへと運んだ。

悠人の目の前には映像がフラッシュバックしていた。それは少女の影とその後ろから伸びる黒いおぞましい手であった。少女は笑っているように見える。しかし、顔は見えない。

制服は見たことがある。妹と同じ制服だった。

おぞましい黒い手は少女の思いのままに動くようだった。

そのまま心臓を貫き引きずり出していった。

そこでやっと呼吸が整ってきた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」

「大丈夫かい?何があったんだ?」

教授は背を擦るとゆっくりと聞いてきた。

まだ、落ち着く事は出来ずにただ、息を整えることしか出来なかった。

葵先輩は目からわくわくしているのが伝わってくる。

永田刑事は自分の見せた現場写真のせいで過呼吸を起こしていると思ったらしく慌てていた。

すまなそうに悠人に謝ると資料を片付けた。

「すまない。そうだよね、一般人が見て平然としていられるのはここの二人ぐらいだと認識を改めるよ」

悠人は大分落ち着くと少しずつ話し出した。

「犯人は少女に間違いないです。それも桜花中学の制服を着ていた」

「え!」

「そうだろう?私もそうだと思ったんだ。だが気になるのは首をへし折ったという指の跡だ」

「それも少女の手だ、一人でやってる。仲間は居ない。しかも・・・笑ってた」

悠人は震える身体を自分の腕で抱き締めた。

永田刑事は意味がわからないと言うように悠人に聞き返した。

「君は何を知ってるんだ?」

「少しは黙っていろ!」

葵先輩は永田刑事の言葉を先制すると悠人が話すことをメモし出した。

「それ以外に何が見えたのかね?」

教授はのんびりとした口調で聞いてきた。

悠人は首を振るとただ、ひたすら冷や汗をかくと震えを止めるのに必死だった。

「なるほどな・・・じゃー直接死体か犯行現場に行けばもっと詳しいことがわかるかも知れんな?永田刑事、車を回してくれるな?」

「ちょっと待ってください」

葵先輩の強引な態度と説明なしのいきなりの強行に、さすがの永田刑事も説明を求めた。

「仕方ないな、説明してやろう」

と葵先輩が言い出すと簡単な説明をし始めた。大体の説明が終わると永田刑事は納得しがたい事だが、と言葉を濁しながらそれでも飲み込んだらしい。

なんというアバウトな刑事だ。それとも葵先輩と絡んでいつもだからそれなりの理解者なのだろうか?

「でも、彼はこんなに体調が悪そうなのに現場に連れていくのも死体安置所に連れてくのも危険じゃないのか?」

永田刑事の言うことも最もだった。しかし、悠人は確かめなければならなかった。

あの視界に映ったシルエット。制服を着ていた少女の事を。

後ろから出てきた黒い手に捕まれた被害者の引きつった恐怖。

どうしても忘れられなかったのである。

「大丈夫です。どこまでわかるのか試してみます」

悠人の言葉に反応するように葵先輩と教授も荷物を取ると出掛ける準備をし出した。





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