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君に捧げる鎮魂歌(レクイエム)  作者: 秋元智也
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見えたもの

「そう仮定した方がしっくり来るからです。」

「仮定の話ね。了解。話を続けて?」

「あくまで仮定ですが、予め父の修三さんは自殺する旨を次男の勇次さんに話していた。そこで勇次さんはそれを娘さんにも話したんじゃないでしょうか?しかし、娘さんに話したのは自殺して亡くなった後にです。そこで娘の実和子さんはお手伝いさんに手紙を書きます。しかし、コレが警察の手に渡って筆跡鑑定でもされたら疑われるという事で見たのを確かめるとなに食わぬ顔で回収し、お手伝いさんのいる前で父の部屋の異変に気づいた振りをしながら第一発見者になったのではないですか?もちろん第一発見者は娘の実和子さんって言いましたけど、その時近くに近藤美代子さんもいたのではありませんか?」

「あぁ、その通りだ。でも、そうなると動機は保険金目当てということかぁ~」

「それも有りますが特許を通らせる為でもあったんじゃないですか?」

「どういうことですか?」

「特許を申請してから時間がかかってるように思えます。もしかすると邪魔が入っていたのではないですか?自分が殺されたとあれば警察の目が入る。そうなればおいそれと邪魔は入れなくなるのでは?あと、多分ですけど凶器は隅に写り込んでいる掃除機のコードではありませんか?きっと、首もとの擦ったような後の原因がわかるんじゃないでしょうか?」

「・・・」

「そこまでは望んで無かったのだが・・・面白い推理だ。永田刑事、裏付けを取ってきたらどうなんだ?」

呆気に取られて何も言えないでいた永田刑事はすぐに立ち上がると資料を纏めて出ていってしまった。

悠人は外を眺めてまばらになった帰宅中の生徒を眺めながら葵先輩が悠人を呼んだ理由を聞いてみた。

「僕のは仮説ではなくそう見えたんです。写真であっても心を具現化して見えるんです。って言ったら信じますか?」

嬉しそうに微笑むと葵先輩が頷いた。

「勿論だとも。そうだと思って呼んだのだからな!明日はここの研究室の伊吹勝(いぶきまさる)教授が帰ってくる。もう一度詳しく話してくれないだろうか?悪いようにはしない。君が困っていることも一緒に考えて答えを出そうじゃないか?」

目をギラギラさせてこちらに近づいてきた。

「近いですって。僕のこといい実験体って思ってませんか?」

じっと疑がった目で見つめた。

「そ、そんなことはないぞ。ほれ、コレが私の連絡先だ。いつでも連絡をくれ」

「・・・一応、受け取っておきます」

そういって研究室から出ると大学を後にした。そのまま、家へと帰った。

寄り道はしていないと思う、なぜなら気づいたら家の前だったからだ。

ぼんやりと歩いていたら着いていたといった方が正しいかも知れない。

「ただいまー。」

家に入ると制服を着替える為に二階の部屋に上がった。

ルームウエアに変えると、制服をハンガーにかける。

ふと、制服の後ろが土で汚れているのに気づいた。

「あれ?こんなとこ汚したっけ?」

制服を手に取ると洗濯物の方へと出しておいた。

ー 今日一日なんだかすっごく疲れた気がする ー

色々なことがあった。いきなりの葵先輩の訪問からドタバタ騒ぎだった気がする。

ー 明日、行くのめんどくさいな ー

考え事をしているうちにだんだんと眠くなってゆっくりと瞼を閉じた。

そこはまたいつもの鬼ごっこの舞台だった。

悠人は必死で走るが足音はだんだんと近づいてくる。

いつもと同じように息を切らせながら走るが追い付かれてしまう。

玄関にあるバットを握りしめると扉が開いた瞬間に振りかざした。

するとそこには誰も居なかった。

ただ、空を切ったバットが地面に叩きつけられた音だけが響いていた。

そして振り返った瞬間、首に太い指が食い込んでくる。

次の瞬間、腹部に痛みを感じた。黒い影の腕が腹部に突き刺さっていた。

「うわあああああーー」

引き抜かれると息が出来なくなり体も重く動かすことすら出来なかった。

ー 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い ー

その事だけは頭の中を支配していた。

虚ろな瞳で見上げると影はなぜか笑ったように見えた。

そして影の黒い手の中に収まる赤黒い固まり。

ドクン。ドクン。 と波打っているのは心臓の鼓動。

あれは僕の・・・っ。口から言葉を紡ごうとしたが、大量の血が逆流してきて上手く話せなかった。

その場に倒れ込むと、ただその影の存在だけを見ていたがやがて意識は薄れていった。

「うわあああああーー」

勢いよく布団から飛び起きていた。するとまだ目覚ましは鳴っていないようだった。

爽やかな朝。とはいつもながらならなかった。

目覚ましを止めると風呂場に向かった。

シャワーを浴びるために風呂場に向かう前に鏡を覗き込むと、首もとにははっきりと手の跡が残り、腹部はえぐられたようになっていた。

「わああああーーー」

一瞬、目を疑った。血がベットリとついていて、心臓があった場所は内蔵が見えるかのようにエグい事になっていたからだ。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

廊下から声がして早希が扉を開けた。

すると裸になって鏡を覗き込むと兄の姿を目にした瞬間、一瞬固まりそして、、、

「きゃああああああーー」

いきなりかん高い声で悲鳴を上げると思いっきりドアを閉めた。

「変態ー!」

呆然としていたが誤解を解くためにドアに手をかけるが、思いとどまった。

このまま行けば間違いなく変態の汚名を上塗りするようなものだった。

一回鏡を振り向くと裸の自分が映っていた。何の変鉄もない。キズひとつない自分が。

溜め息を付くとシャワーを浴びるために風呂場に入った。

朝食を食べにキッチンに行くと早希がまだ食べていた。

「さっきは、お前が勝手に入ってきたんだからな?」

「変態。自分の身体見てるなんて変態じゃない?」

「あのな、別に身体を見てた訳じゃ」

「全裸になって?変態じゃん」

「あのな~」

そこへ母が来ると早希に向かって弁当を渡した。

「はい、コレね。あんまりお兄ちゃんを苛めないの!そういう年頃なのよ」

「はーい」

「か、母さん。そんなんじゃないんだって!」

全く理解されず弁解も聞いてもらえなさそうだったのでそのまま学校へと向かった。

朝から騒がしい一日になりそうであった。

門のところで凌平とあった。

「おはよう」

「おはよう、昨日はあれからどうなったんだよ?どこまでいったんだ?」

「はぁ?」

リスは腰を振りながら薔薇色のバックで踊っているのが見えた。

「ぶっ。」

「汚ったねーな!どこまでいったー?白状しろ!」

いきなり吹き出したら悠人を問い詰めるべく凌平はが脇に手を回した。

「ちょっ、ちょっとやめろって、何もないってー」

「男女が二人きりで、何もないなんて言えるか~」

「二人じゃないって!永田刑事も来たんだって」

手を止めると『刑事が?』と疑問を投げ掛けた。

「そう、昨日は刑事さんがきて事件現場の写真を開いて先輩と話してたんだって。今日だって、伊吹教授が帰ってくるから、また来てくれって言われただけだし」

「・・・また、行くのか?抜け駆けだー」

「僕は行きたくないんだって!」

全く聞く耳を持たないので隙を付いて抜け出すと教室に向かって走った。

教室にはまだ、健斗の姿はなかった。どうせ、同じ事を聞かれるんだろうな?

っと思っていたのでちょっとめんどくさくなった。

すると凌平の後ろから健斗が顔を出した。

身構えると健斗はそれどころではないと言い出した。

「見たか?今朝のニュース。」

悠人は首を傾げると凌平が『ニュースぐらい見ろよ』と突っ込んできた。

「悪い、あんまり見ないんだ、何かあったのか?」

「いやさ、この近辺で他殺体が見つかったんだって。それが荒川をプカプカ浮いてたらしいんだよ」

「それも、心臓を鈍器でえぐられたみたいで心臓だけが見つかってないって奴だろう?」

続きを凌平が補足した。健斗は続きを話し始めた。

「被害者なんだけど、ここらじゃ岡町辺りを根城にして恐喝紛いの事を繰り返してた奴らしいんだよ!天罰下ったとか言われてるんだぜ?」

悠人はなんの気なしに心臓を押さえた。

「心臓を・・・ねぇ~痛いだろうな」

うわ言のように呟くと健斗は眉を寄せた。

「気分でも悪いのか?顔色悪いぞ?この手の話は苦手だったのか?」

悠人の顔を覗き込んできた。サッと離れると作り笑いを浮かべると平気だと強がってみせた。

昨日の夢のことがあるのでどうしても思い出してしまう。あの時の痛みと苦しみ、噎せかえるような血と嗚咽の感覚を。そして何より体が覚えている。

丁度チャイムがなり、授業が始まった。







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