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君に捧げる鎮魂歌(レクイエム)  作者: 秋元智也
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新しい一歩

「人の多いところは勘弁してください。ただ、ちょっと海が見たいかな?」

「どこでも連れていってやるよ、これくらいしか出来ないしな」

そう言って家の前に車を回した。

車に乗り込むと、少しは息が上がるのを感じた。心臓が締め付けられるような感覚に動揺していると肩をポンッ。と叩かれるとつい、ビクッとなってしまう自分がいた。

「悪い、触られるのがダメだったな?」

「はい、どうしてもまだ・・・」

「悪かったな。出すぞ。」

海に着いたときには夕暮れ時であった。砂浜には人がまばらにいるだけだった。

波打ち際に近づくと、波がそこにかかれた誰とも知れない落書きを消していった。

「このまま消えて無くなればいいのに」

ぼそりと呟いた一言に永田刑事が息を飲むと、悠人の瞳から涙が零れ落ちた。

「生きてる人間は死んだ者の分まで生きなきゃならんのだ。だからだな・・・えっーと」

「分かってますよ。僕は探偵になろうと思うんです。僕の力は探偵向きでしょう?いつもの相談もお金取ってもいいですよね?」

振り返って笑う悠人はとても綺麗だった。

「それに、僕だって意外と気づかないもんなんですね?」

「そりゃーそうだろう?今は・・・」

帰った時にはもう陽も落ちて辺りは暗くなっていた。置き手紙は置いてきたが果たして読んでいるだろうか?

家の前に停めて貰うとドアを開けた。すると奥からダダダダダッーという騒がしい足音が走ってきた。

「お兄ちゃーん。何処行ってたの?心配したじゃん!」

玄関に来ると永田刑事の横にいる悠人に気づかず永田刑事を問い詰めた。

「ちょっと、お兄ちゃんを何処にやったのよ。刑事だからって信用されてると思ってるの!」

横から顔を出すと早希は般若のごとく怒っていた。

「永田さん、彼女なんてお兄ちゃんに紹介するつもりじゃないでしょうね!絶対にダメだからね」

早希の束縛が余計に酷くなっていくような気がする。

「早希?ただいま」

「・・・・・・えーーーお兄ちゃん!!」

「なんじゃ?騒がしいな?悠人君おかえり。早希君は何しとるんじゃ?」

永田刑事の考案で今は白い丈の長いワンピースに唾の大きい帽子、ヒールの低い靴を履いていた。

少しチークとマスカラをつけ、口紅を塗り黒い腰までのロングヘアーのウィッグをつければどこからみても清楚なお嬢様風に見えていた。

元々可愛らしい顔立ちであったし。

細い腰にかけてのラインも、身長の低さも女装するには向いていた。

そもそも声も全く声変わりしていないので全く違和感がないのだ。

「うっ嘘でしょ。お兄ちゃんなの?」

「あぁ。おかしいかな?早希がよく化粧してたから変わるかなって?」

「結構化けますよね!最初はビックリしましたよ。違和感がないんですもん」

永田刑事も誉めてくれた。

早希だけは口をぱくぱくとさせていた。

それから3年が経ち、高校卒業資格を取ると探偵として伊吹教授の知り合いの探偵事務所で働く事になりました。


「今日からかぁ、緊張するなー」

「行ってらっしゃい。向こうにはあらかた話は通してあるからそのままの悠人君を受け入れてくれる。心配はいらんよ」

「はい、行ってきます」

教授には送り出されて有馬真治(ありましんじ)探偵事務所を訪れていた。

ドアをノックすると女性の声が聞こえてきた。

「はーい。君が今日から入る伊吹悠ちゃんね?入って。かわいい子で和むわ~」

事務員の方が悠人を見て思いっきり女性だと認識してくれたようだった。そのまま有馬真治先生のところまで通されるとドアを締めた。

二人になると緊張する。どうやって話そうかと悩んでいるといきなり笑われてしまった。

「そんなに緊張しなくてもいいよ。君の事情は聞いているし他言はしない。ここでは女性として扱わせて貰う。それでいいね?」

「はい。」

楽にしていいよと席を進められたのでソファーに腰かけた。すると騒がしくノックと同時に暑苦しい男性が入ってきた。悠人を見ると一気に距離を詰めて来て顔を近づけてきた。

「新人かぁ。かわいいね。開田陸(かいだりく)。俺も入ってまだ1年だが先輩だ、宜しくな」

悠人の手をいきなり握ってきたので叩いてしまった。

男性にいきなり近づかれるのも、ましてや手を握られるなんて問題外であった。

いきなりの反応に驚かせてしまったと思い今度は紳士に手を差し出した。

握手のつもりなのはわかる。わかるが悠人はまだ男性には触れられないのだ。

そこに有馬先生が事務員の人を呼ぶとこぼしてしまったお茶を片付けると共に皆にあいさつすると全員を集めた。

「今日から一緒に活動することになった伊吹悠さんだ。ちょっと問題があって男性恐怖症だ。だから男性は絶対に彼女には触れないでほしい。それと、暫くは一応こいつが相棒になる」

そう言ってさっきの開田陸を指差した。根はいいやつなんだがなと一言溢していた。

それから開田は有馬先生に呼ばれていった。


「なんすか?まさか彼女には彼氏がいるからあんなこと言ったんすか?」

「違う、この事は他言無用だが、彼は男性にレイプ紛いのいたずらをされている。それ以来外に出るのも難しかったんだ。それがやっと出れるようになったんだ。くれぐれも慎重にな。それに君より何倍も優秀だよ絶対に下手な真似をするなよ」

「へーい。彼ね~・・・ん?」

歩き出してドアに手をかけてから、いきなり振り向いた。

「彼女の間違いでしょう?」

「いや、彼だよ。皆の前では彼女ということにしておいてくれ」

「嘘。あの容姿で?」

「そうだ。早く仕事に戻れ」

「はいはい。」

そう言って出ていった。悠をじっくり見ているとどうしても女性にしか見えない。

トイレも障害者用のを使っているので確かめ用がない。

「伊吹さん、行こっか?仕事だし。」

「はい。」

今回の以来は人探しだった。依頼人の娘がいきなり家出したので探してほしいというものだった。

「じゃー駅から探しますか?」

「いえ、依頼人に会いましょう?話を聞きたいです」

「はぁ?今更?何にも変わらないよ。もう一ヶ月も探してるんだし」

悠人は聞かなかった。一人でも行くと言い出したので付き合うことにした。

依頼人は快く家に入れてくれた。娘の部屋や写真を見せて貰うと悠人はじっと眺めていた。

少し瞳が潤んでいた気がするが気のせいだろうと開田は気にも止めなかった。

「彼女の事探せる?」

『んー出来るけどもう死んでるね!死体は・・・千葉にある清澄山の麓だね』

「ありがとう」

『別にいいよー暇だし』

小声で誰かと話したかと思うと依頼者に向かって『今から迎えに行ってきます』とはっきり宣言してしまった。

「バカ、何いってんだよ。見つからねーからここに来たんだろう?勝手なことするなよ!」

おもいっきり悠人の胸ぐらをつかんで引き寄せた。

ビクッと震えたのが伝わってきた。それでも離さないでいると段々と顔色が悪くなってきていた。

怯えているのが見てわかった。

掴んでいる手を離そうとするといきなり苦しみだして呼吸困難になってきた。

「おい、嘘だろ?」

過呼吸だった。極度の恐怖と緊張状態で引き起こすものだ。

「手を背中に添えて擦ろうとして気づいた。自分が触れているせいだと」

「いやっ、イヤだ・・・触るなっ・・・ひっく・・・はぁ、はぁ、はぁ」

正に絶対的な拒絶だった。こんなになるほど何されたっていうんだよ!

一人愚痴っても何も代わらなかった。

公園で暫く落ち着くまで離れた場所で見守っていた。

大分と落ち着くとこちらに寄ってきた。

「すいません。取り乱してしまって」

「それはこっちが悪いんだし・・・あんたは何でそうなったんだよ。それに男なんだよな?」

ビクッと震えた気がした。

「誰にも話さねーよ。俺、口は固いんだ」

「有馬先生から聞いたんですね。3年前にネットにレイプの映像が拡散したんです。それ以来どうしても人の目が怖くて。男の人にはどうしても・・・」

「それって神倉悠人だっけ?えらい綺麗な子だった・・・えーーーー。」

「見たんですか?最低です」

「イヤ、悪かった。仲間に見せてもらったんだけどよ、えらい綺麗な子だったから。それにあれって撮影用に作ったって聞いてたから・・・」

「撮影用に?本人の許可もなく?いきなり襲われたのにっ・・・」

悠人は泣きだしてしまった。あんなに辛かったのに。

辛い日々を送っていたのに、見ている人は好き放題にコピーとペーストを繰り返し広がって収集がつかなくなったのだ。

単純な興味本意で人に進めたり見せたりしていたんだと思うと悔しかった。

開田はどうしていいか途方に迷った。

触ることが出来ないので抱きよせて慰めることもできない。だからといってこのままだと、端からみると女性を泣かせた悪い男でしかない。

「すまなかった。興味本意だったんだ。絶対に誰にも話さないそれに・・・これからは俺が守るよ。」

「ひっく・・・すん、すんっ。何を言ってるんですか?バカですか、あなたは」

まるで告白シーンのようになってしまった。通りかかった人からは哀れみの眼差しを向けられた。

「何でこうなるんだよ!」

「自業自得です。さっきの娘さんを迎えに行かなくては。陽が暮れると捜索は難しいですから。」

「一体、どういうことだよ」

悠人は永田刑事に連絡を入れると事の次第を話して協力を仰いだ。

すぐにパトカーが来て二人を乗せると千葉県にある清澄山へと向かった。

付くと悠人は目を閉じると自分の中にいるもう一人と一体になり、彼女の目を通して周りを探った。

「おい、なにし・・・」

開田は永田刑事に口を塞がれ『静かに!』と叱られてしまった。暫くすると悠人はフラッと木に凭れかかった。

永田刑事は近づくと『わかったのか?』と聞いていた。

何の事だかさっぱり分からない開田はその成り行きを見つめるしかなかった。

「はい、見つけました。沢の方です」

悠人の案内で付いていくといきなり開けたところに出た。水が流れていて美しい風景だった。

そう、そこに死体が転がっていなければ!

「うわっーーー何なんですか?これは!」

「依頼達成ですね。」

「伊吹さん、これってあの?」

「そうです。娘さんですよ。さっき写真で見たじゃないですか?」

こういう事は平然としてるんですね?とでかかったがやめておいた。

悠人にはしっかり聞こえていたので曖昧に笑って誤魔化した。

「さて、永田刑事?私に依頼しますか?犯人探し!」

小悪魔的な魅力と誘惑的な瞳が輝いた。まるで犯人を探せます的な雰囲気だった。

「そうだな。一回操作本部でお手上げだったら頼むとするよ。有馬探偵事務所だったな?」

「はい。お願いしますね。あと、明日にでも彼女の両親を呼んでもいいですか?」

「わかった、こっちでも話を通しておくよ」

「助かります」

にっこりと微笑むとさっきまでの震えていたイメージは何処にもなかった。

それから依頼は不本意ながら達成した。そして刑事から正式に指定依頼を承った。

その頃には伊吹さんは犯人とその日の行動をリストアップして、今の潜伏先も割り出していた。

あたかも神の目でも宿っているかのような早業で早々に容疑者は捕まった。

「伊吹さん、一緒に帰りませんか?」

一瞬嫌な顔をされた気がするが、すぐににこやかに笑うと。

「嫌です。仕事意外はかかわりあいたくないです」

と、はっきりと断られてしまった。

一瞬ビデオで喘いでいた少年を思い出して、重ねてしまうと、いきなり振り向いてこちらを眺めてから。

「変態」

とはっきりと言われたしまった。開田は心を覗かれたような気がしてならなかった。

しかし、その逆によそよそしかったのが段々と悪態を着くようになってきたことに喜びを感じていた。

きっと、それが彼の本性なのだろう。

そのうち肩を並べて飲みに行ける日が来るといいなと思うのだった。




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