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君に捧げる鎮魂歌(レクイエム)  作者: 秋元智也
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ありふれた日常

二階に早希を寝かせると一階に降りてきていた。

さっきのゴタゴタでめちゃくちゃにされた室内を片付けようと見回した。さっきまで縛られていたベットの側には死体が転がっていて、片付けるのに苦労しそうであった。

「僕はここで・・・」

さっきまでの事を思い出し体が震えた。

今更ながらに恐怖が襲ってきたのである。

自分自身をぎゅっと抱き締めるとその場にしゃがみこんだ。

「僕はあいつらに犯されたのか?」

『 正確には未遂よ、色々と舐められたりしてたけど・・・あぁ、そう言えば指ぐらいなら突っ込まれてたけど?』

「って、そんな事聞きたくないよ!」

『 何も無かったんだからいいじゃない? あんた女々しいわね? 』

「ただ見てただけの君には言われたくないよ。僕がどんなに苦しかったか、どんなに気持ち悪かったか、君には分からない、どんだけ・・・怖かったか・・・」

嗚咽混じりにうずくまると、今ごろ涙が溢れてきた。

『 ・・・分かるわよ。あんたと繋がってるんだから、あんたの感情は全部私にも流れ込んでくるんだもの 』

暫くその場にうずくまると泣き続けた。温もりを求めるかのように自分の体を抱き締めながら・・・。



葵はその頃送り込んだ刺客に連絡を取ろうとしていたが誰も生きていないため電話に出る者はいなかった。

諦めて悠人にかけるも出る気配がない。

これはヤバイ事態になってしまったのかと思い、車を回した。

永田刑事に理由を話して一緒に同行してもらった。勿論教授もついてきた。

行く途中でガードレールが突き破られているところがあったがそのまま放置して先を急いだ。

真っ暗な室内にドアは壊されており、強引な侵入者が伺えた。

中へはいるとヒタヒタと足音が聞こえてきた。

懐中電灯を向けるとそこには風呂上がりの髪を濡らしたままの悠人が立っていた。

「無事だったか?なぜ逃げたんだ?」

永田刑事は当然のように問い詰めてきた。

「あのままだったら早希を閉じ込めたでしょう?それと、葵先輩。これで満足ですか?」

虚ろな瞳を向けると葵先輩は少し後ろへと下がった。懐中電灯の明かりで照らし出された悠人の体に刻まれた紅い跡は首筋から胸にかけて続いており、誰がみてもレイプされた跡にしか見えなかった。

永田刑事はその事実に唖然として葵を振り返った。

「だが早希君はただの少女に戻ったのだろう?力は君が食べたんだろう?」

興奮しながら聞いてきた。

この人は、こういう人だった。自分の興味のあることの為だったら何でもやる人だ。

教授は反省しているようだが、葵先輩は決して反省などしていない。

そのまま悠人が弄ばれた部屋へと行くと電気をつけた。

そこには人間だったものがパーツごとに散乱していた。

「コレも折り込み済みですか?凌平も?」

「赤羽君、君という人は何て事をしでかしたんだ!」

永田刑事も責めるがそんなことがどうしたと言わんばかりの勢いで感動していた。

「素晴らしい。素晴らしい力だ。神倉君、今度は君がこの力を受け継いだのだね?」

「使えませんよ。僕が出来るのは人の心や感情を見るだけです。確かに早希の力は僕に流れ込んで来ましたが、そもそも使えないんです。早希の中にいた人格は僕に入るときに消滅したみたいですからね」

「それでも君が襲われることで得られたモノは大きいだろう?」

キィッ。っと睨み付けると二階へと上がっていった。

ただ一言を言ってから。

「それ、片付けておいて下さい。あなたがそうさせたんですから・・・」



朝起きると隣の部屋で寝ていた早希が悠人の布団に潜り込んでいた。

髪を優しくすくとモゾモゾと動いて目を覚ました。

「おはよう。怖かったか?」

笑って聞き返すと顔を赤くして潜ってしまった。

「ご飯、食べるだろう?昨日は大変だったからな~」

起き上がろうとすると抱きつかれてベットから二人とも転がり落ちた。

「いってぇ~。何したいんだよ。早希?」

「私ねお兄ちゃんが大好きだから!」

「なに言い出すんだよ~僕も早希の事は好きだよ。大事な妹だしな」

「・・・」

「ほら、起きるぞ」

ぐいっと起こされ部屋に帰るように言われてしまった。

悠人にはまだ色々と整理したいことがあった。自分の死や、これからの事などである。

そして何より凌平の死である。何であんなところでひどい怪我しながらいたのかとか、やつらを差し向けたのは葵先輩としても、どうしてそこまで力に拘るのかとか・・・。

一階に降りると昨日の部屋はちゃんと片付けられていた。

5人分の食事を用意し終わると、早希が降りてきた。そこで葵先輩と鉢合わせになり驚いてキッチンに駆け込んできた。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん。あの女がいるのー何でよ!」

「昨日の夜に来たんだよ、席に着いて落ち着けよ」

「むーーー」

外から永田刑事と教授が戻ってきた。

「おおー旨そうじゃないか?」

葵先輩は能天気に席に付くと食べ始めていた。

ぞろぞろと後の二人も席に付くと食事を取り終えてソファーに場所を移した。

「話がしたいんだがいいかな?」

と言い出したのは永田刑事だった。

福岡達也殺しの犯人は紛れもなく妹なのだ。しかし、証拠も凶器もないのだ。

立証は難しいだろうとなった。

「じゃーここへの襲撃はどうなるんですか?」

「それは・・・言いにくいんだが犯人の一人がスマホで動画を撮っていてね、そこに君が・・・あーなんだ。その、色々とされてる場面が写っていたんだよ。でも殺しの犯行は奇妙な写りかたをしていてCGで加工したしたとしか言いようがない映像だったんだ。それに向き的に早希君は写っていなかったんだ。だから立証は不可能。ただネット上にアップされてしまった分も責任をもって消させてもらう」

「そうですか・・・学校行けないですね?」

「それなんだが、通信学校にいかないか?こうなってしまったのはこっちの落ち度もあるからな」

俯くと悠人は首を振った。

「そんなお金はないですし。借りたくもないです」

「その事なんじゃがな~」

教授が名乗りをあげた。

「わしの養子にならんか?どうせ独り身よ。老い先短いんじゃし、騒がしい方が楽しかろうて。それに、神倉君、君は自分の体に違和感を感じているのではないかな?」

「!!!」

「それは、どういうことだ。実に興味深いぞ。まずは調べねば!さぁ、ここで脱いでくれ」

「赤羽君、君は黙っていたまえ。考えてはくれんかの?」

早希と顔を見合わせると考えさせて貰う事にした。

「私のところに来てもいいぞ。いつでも君の事を調べ尽くしてやろう。大歓迎だ!」

「結構です。二度とあなたにはかかわりあいたくないです」

「そりゃそうだ」

永田刑事は笑いながら頷いた。

「しかし、未遂だったのだからいいではないか?子供を孕む訳でもないんだし」

「「よくない!」」

悠人と早希はハモるように訴えた。

「あなたはそんな体験ないでしょうが恐怖でしかないんです。人間嫌いが酷くなりそうですよ」

「はっはっはっ、なら私の事を犯せばいい。どうだ、今夜は?」

早希は悠人と葵先輩の間に立つと腕を広げると、『これ以上お兄ちゃんに近づかないで!』

と、可愛らしい盾になろうとした。

悠人は横を通りすぎるとお茶を皆に注いでいった。

「葵先輩が相手だとこっちが襲われているようで嫌です」

それからは一時だけアパートを借りて住んでいたが通信制の高校に通うことになった悠人は早希と共に伊吹教授の家に養子になることになった。

家の地下にあった資料は警察が押収したあと教授が保管することになった。

「この資料と君のお母さんが先に送った資料はこの地下に保管しておくから好きにみるといい。ここにあるものなら好きなように使って構わない。何かあったら二階の自室に大体は籠っておるからきいてくれればいい。」

「はい。ありがとうございます」

二人は教授と共に住んではいるが教授自身元々出歩くタイプではないので、ほとんど家の事は悠人がやることになった。早希は近くの中学へ編入して今も通っている。

ピンポーン。

「はーい」

ガチャ。

「元気でやってるかい?」

たまにこうして永田刑事が訪ねてきてくれる。

結局、事件はお蔵入りして悠人と早希は罰せられる事はなかった。

埋めた死体も後日行くと掘り返され、無くなっていた。

ただ、ネット上で公開レイプの画像は完全には消すことが出来なかった。

あれから誰が調べたのか顔や住所が晒され、学校には到底行けなくなってしまった。

今では伊吹悠と名前を変えて暮らしている。

どうしても外に出るのが怖くて買い物は教授か早希に頼んでいた。

「どうだ?少しは外に?」

悠人は首を振ると微笑んだ。

「まだ、出れないか?そうだよな。甘く見ていたよ、あんなに拡散するなんてな。それでだ!コレなんかどうだ?」

紙袋を取り出した。

「コレなら外に出れるだろう?訓練だと思って少し出てみないか?」

中を開いてビックリした。コレをつけろと?

疑いの眼差しを向けると『決して僕の趣味じゃない』と必死で否定していた。

ずっと家にいても暇なので試しに着替えてみた。







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