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君に捧げる鎮魂歌(レクイエム)  作者: 秋元智也
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もう一人の人格

運転手として頼まれた若い男はリーダー格の男が連れてきた少年に目がいった。

「伊藤さん。その・・・それはどういったことなんですか?」

どぎまぎしながら聞くと伊藤はそれほど関心がないらしく手足をまた縛ると口にも布をしっかりと噛ませた。

「今回のレイプ依頼の標的だよ。男にしとくのはもったいないだろう?俺は女の方がいいんだが、仲間が気に入って犯してたんだよ。だが女の方は化け物だな。殺人鬼としか思えねー。こいつは戦利品ってやつだ。お前も入れたいのか?売る前に使わせてやるぞ?」

「そうっすか?そんじゃーお願いしようかな?」

運転手の男はしどろもどろに答えた。

破れたシャツを羽織ってるだけで下半身は何もはいていない。

しかも白い肌からはちらほらと紅い後が首筋から胸にかけて彩っていた。

そして何より彼は悠人の事をよく知っていた。

今は眠っているが目が覚めたとき自分がこちら側にいると知ったときどう思うだろう?

いつも気にはなっていた、だがそんな事を言ったら今までの関係も終わってしまう。

そう思ったらどうしても出来なかった。

それが今目の前にあるのだ。しかし、それ以上に彼を助けたいとも思っていた。

山道を蛇行しながら下っていくと目の前に少女が飛び出してきた。

とっさにハンドルを切ってしまった。

「あっ、、、」

「ばかっ、、、」

ドンッ。

という大きな音がしてガードレールを突き破り崖下へと車ごと落ちていった。

途中で岩にぶつかりその弾みでエアバックが開いた。

強い衝撃が走った。凌平はエアバックに押さえつけられながら気を失っていた。気が付くと足元のナイフを手探りで探し当て、エアバックを切り裂き外に出た。

後部座席には誰も居なかった。

「まさか、吹き飛ばされて?」

慌てて捜索しようとすると少し離れたところで悠人を引きずりながら歩く伊藤を見つけた。

「伊藤さん、無事でしたか?」

「あぁ?なぜ引き殺さなかった?」

「えっ?何言ってんですか?それに悠人が傷だらけじゃないですか!」

「こいつの名前を何で知ってんだ?さっきのはわざとか?」

凌平は後ろに隠したナイフを強く握ると伊藤に向けて刺した。今なら殺れると思った。

しかし、刺さったのは伊藤ではなく盾にされた悠人にだった。

「うああああああー。違う。違うんだ。悠人?俺は、、、。」

ドサッと悠人の体を投げ捨てると凌平の鳩尾に蹴りを入れた。

「俺を騙そうとしてたのか?偉くなったもんだなぁ?」

ドカッ。ドカッ。ボコッ。

蹴られ殴られを繰り返すうちに伊藤は忘れている。車の前に飛び出した少女の存在に。

「やっと見つけた」

冷ややかな声が背後で聞こえてきた。

早希の目にはボロボロになって倒れている兄の姿が映ると強い怒りを覚えた。

「死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえ」

いきなり伊藤を持ち上げる力が働いたと思うと一気に地面に叩きつけられる。

その後は地面に段々とめり込んでいき、身体中の骨が軋み、耐えられなくなった頃、とうとうミンチになり、そこには血の池が出来上がった。それでもまだ、圧力が加わったのか周りに血しぶきが舞っていた。

あらかた終わると悠人の方へ近寄り戒めていた物を外すと抱き締めた。

凌平はよろめきながら少女に近づくと自分の服を手渡した。

「これでも着せておいたらどうかな?君、悠人を助けてくれたんだろう?」

「何を言っているの?これは私のモノよ取り返しにきたの。誰にも渡さない」

意味がわからなかったがあんな男に売られるよりましだろうと判断した。

「ん・・・んっ・・・」

気がついたのかうっすらと目を開くと凌平は覗き込んだ。目が合うと悠人は飛び起きた。

「いっ・・・てぇ~。どこなんだここは?なんで凌平がここに?」

聞いてから自分の体を見て真っ赤になると前を隠そうにも破れたシャツだけではどうしようもなかった。

「なんかベタベタするし、なんで僕が真っ裸なんだよ!」

凌平に渡されたシャツを着ると下は車の後ろに積んであった布を切って腰に巻き付けた。

「早希なのか?」

恐る恐る聞くとにこやかに頷いた。

ぎゅっと抱き締めると、『無事でよかった。』と呟いていた。

凌平は伊藤の言葉を思い出していた。

『女の方は化け物だ。殺人鬼だ。』

そんな風には見えない。

確かにどんなマジックを使ったかわからないけど助けてくれた事には感謝していた。

「君のお陰で助かったよ。改めてありがとう」

早希に手を差し出すと睨まれてしまった。

手を引っ込めようとするとそこには腕の先が無くなっていた。

それから焼けるような痛みが襲ってきた。

「わああああああああーーーー」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

とにかくそれしか考えられなくなっていた。

「何をするんだ!早希、やめてくれ!」

「やつらの仲間だ。私の悠人を汚そうとした罪は重い」

両手足がいつの間にかなくなりその場に血を撒き散らしながら転がった。

もう、意識すらなかった。

「凌平・・・どうしてこんなことするんだよ。早希頼むからもうやめてくれ。僕になら何してもいいから、もう誰も傷つけないでくれ。頼むから・・・」

早希はそっと悠人に近づき顎を自分の方に向かせると口づけをした。

長い口づけの間、息苦しくて悠人は体を離そうとしたががっしりと体を見えない手で押さえつけられていて動けなかった。段々と内蔵の辺りが競り上がっていく感覚に気持ち悪さを感じていた。

「うんっ・・んんんっ・・・んんっ」

段々と力が入らなくなる体を無理やり支えられたまま続けられた。

意識が朦朧としてきてそのまま眠ってしまいそうになったとき声が聞こえてきた。

『 飲み込まれるな。意識をしっかりと持ちなさいよ。あんた男でしょう?このままだと力を全部持っていかれちゃうじゃない!抗いなさいよ 』

「誰?・・・もう、疲れたんだ。このまま終われるならそれもいいかも」

『 よくないわよ。せっかく出てこれたのに、すぐに食べられて終了?冗談じゃないわ。起きなさい変態 』

「なっ、変態じゃない」

『 だってこのまま死んだら股間さらしたままよ。しかも男なのに犯されましたーって感じの死体が転がるのよ?変態じゃない? 』

「むー、布を腰には巻いたよ。って君ね失礼じゃないか?誰が死ぬって?ふざけんな!」

意識が抜けはじめていたのが一気に体に流れ込んできた。

何が起きたかわからずにいると早希の悲鳴が耳に聞こえてきた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー」

ドサリッ。

倒れる音がして草むらに早希が横たわっていた。

「早希、早希!」

揺さぶるが起きない。焦って体を抱き締めるとそこから黒い靄が出て来て悠人の中へと入ってきた。

「うわああああーー何なんだよコレ?」

『 それは彼女は使っていた能力の源よ。もう彼女にはその力を使う事は出来なくなった。あなたが食べたのよ 』

「っていうかお前誰だよ!僕の中から出てけよ」

『 嫌よ、やっと出てこれたんだもの。それに私の力があったから助かったんでしょう?私の傷を治す能力、便利でしょう? 』

「知るかよ。でもこれで早希は普通の女の子に戻ったのか?」

『 そうよ。あなたが食べちゃったからね。どう、能力を手に入れた気分は? 』

「そんなの要らない。普通でいたかったんだ」

『 力の制御なら私がやってあげるわよ?何も聞こえない、何も見えない、ようにしたいんでしょう? 』

「出来るのか?」

『 勿論。でも私に出てけってのは無理よ。だって私はあなたの心臓と融合しているの。取り出されて潰されたら共倒れよ。それに私が離れるとあなたは死ぬわよ。元々死んだあなたの遺体に取りついたんだもの! 』

「!・・・死体?僕は死んでるのか?」

『 記憶はないでようね。崖から落ちた時に、妹を抱き締めてたからね。損傷が激しかったの。妹とは違って即死だったわよ。それを私が取りついて生きていられるって訳。その時の衝撃で私が表に出られなくなっちゃってね~でも食べられる寸前で出てこれて良かったわ。 』

「もし、早希に能力が渡っていたら僕はどうなっていたんだ?」

『 ん?死んでたわね。だって私が融合している心臓ごと持っていかれるのよ?生きていられるわけないじゃない? 』

「はぁ、まずは家に戻らないとな、ここどこなんだよ全く~」

『 まさか歩いて戻る気? 』

「それ以外どうやって戻るっていうんだよ!少しは黙ってろよ」

『 っていうか。飛べばいいじゃん? 何の為に力を奪ったのよ、使いなさいよ!』

「使い方なんて知らねーよ大体好きで奪った訳じゃねーし」

『 仕方ないわね、よーく見ておきなさい。ちょっと体の制御を代わるわよ 』

一気に靄が外に飛び出す感覚がすると背中に黒靄でできた翼が生えていた。それを思いっきり羽ばたくと一気に早希を抱いたまま飛び立った。上空へ上がると目的地の別荘がすぐに見えてきた。一気に高度を下げると着地する寸前で羽ばたきを小刻みにしてゆっくりと着地した。

「便利なんだな?」

『 もっと敬いなさい 』

「なんか感動が薄れるな、お前の言い方だと・・・」

そう呟きながら中へと入った。



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