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君に捧げる鎮魂歌(レクイエム)  作者: 秋元智也
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夢の続き

「はぁ、はぁ、はぁ 」

暗い夜道をひたすら走り続けていた。

ここは何処かなんてもう分からない。

それにどこへ向かっているのかも知らない。

ただ、逃げ切る事だけを考えてただ、走っているのだ。

何から逃げているのかさえわからなくなっている。

ただ、一言言えるとしたら・・・そいつはすぐそこまで来ている。

ヒタヒタとゆっくりとした足音が後ろから追いかけてきていた。

ー まだ、走れる。今日こそは逃げ切ってやる ー

少年はひたすら走る。

路地を曲がり、そして人の家の垣根の中を通り抜けて裏の柵を勝手に開けて通過する。

どんなに走っても距離は開く事なく段々と追い詰められていく。

それでも彼は諦めずに走っていく。

足が絡まりその場に倒れ込んでしまうが、直ぐに痛い足を引きずって前に歩き出す。

ー このままじゃ捕まる。ー

体力の限界を自覚すると他所の家に逃げ込んだ。なぜか玄関は空いていて人は誰もいなかった。

入ると鍵を閉めると台所で包丁を探した。

すると玄関でガタガタッ。っと扉を開けようとする音が聞こえる。

ー 来やがったか!殺られてたまるかよ! ー

包丁を握りしめ入り口をそっと覗き込む。

扉は壊されていない。まだ入ってきていないのだ。

シーンと静まり返ると余計不気味に感じた。

それから物音は全くしない。

ー 諦めたのか? ー

息をするのを忘れていたためか苦しくなって息を吐き出した。

大きく深呼吸すると、ほっとして台所に戻ろうと振り返ると目の前に黒い影が立っていた。

「うわあああああーーー」

包丁を奴に突き刺した。しかし、刺さったまま抜けなくなってしまった。

「離せ、化け物~~~」

兎に角早く逃げなければと焦るが両腕を捕まれ逃げることも叶わない。

足をばたつかせ蹴ろうと試みるが届かない。

「くっそぉーーー」

叫びは虚しく誰にも聞かれることはない。

影は腕を持ったまま近づいてきて首もとにざらっとした感触がしたかと思うと痛みと焼かれるような熱に襲われた。

次の瞬間真っ赤に染まった死体がだらりとその場に崩れ落ちていた。



「うわわわわわあああぁぁぁぁーーー」

pi pi pi pi ーーー

「はぁ、はぁ、はぁ」

朝を知らせる目覚ましの音が軽快に鳴っていた。

汗をびっしょりとかいて布団から起きたのは神倉悠人(かみくらゆうと)

高校に入ってから毎日のように見る夢に魘されているのだ。

毎晩毎晩同じ夢を見続ける。どんなに逃げても最後は殺されてしまうのだ。

今日から新学期が始まる。

高校に入ってからやっと友達もできたというのに未だにこの夢だけはつきまとう。

小学校も中学校も人付き合いが苦手で友達は出来なかった。

正確に言えば友達を上手く作れなかったのだ。

最近は落ち着いて考えることも出来るようになりそれなりに話すことも出来るようになった。

悠人は人が羨むような綺麗な容姿をしていた。身長は平均的だが、細身でさらさらの髪に色素が薄いのか髪は元々栗毛色だった。丸っこい瞳はいつも女の子と間違えられる程だ。

声もなかなか声変わりせず高いため余計間違われる。

鍛えてはいるのだが筋肉は一向につかず、よく食べるわりに脂肪もいっさいついていない。

運動神経はいい方で、動きまわるのは好きだった。

運動部に何度か勧誘されたが、それは全部断っていた。

人付き合いの苦手な彼なりの悩みがあったからだった。

体を起こすとシャワーを浴びるために浴室に向かう。

寝ぼけまなこでパジャマを篭に突っ込むとサッとシャワーを浴びて出てくる。

洗面台の鏡を覗き混んではっと息を飲んだ。

首もとに噛まれたような痕があったからだ。昨日殺られた場所だった。

瞬きをするとその痕は消えてしまった。

「一体何なんだよ!」

いつもこのように一瞬だけ見える痕は体には何の変化もないのだが鏡越しだとたまに見えることがあるのだ。

何事もなかったかのようにキッチンには朝御飯が用意されていた。

父は単身赴任中で母と妹の早希(さき)と暮らしている。

「悠人、また朝シャワー浴びてたの?早くしないと遅刻するわよ~」

「じゃーね、お兄ちゃん!」

先に食べ終わった早希は玄関に向かった。

「いってきまーす」という声が聞こえたので出掛けていったのだろう。

悠人はしっかり食べると鞄を持って学校に向かった。

学校までは自転車で15分位のところにある為、あまり急がなくてもチャイム迄には間に合う。

私立桂ヶ丘高校。それが悠人が通っている学校だ。

偏差値は平均的なもので多少頭があれが誰でも入れる私立高校だった。

クラスに着くと1ーAとかかれた教室に入った。

「悠人~聞いてくれよ昨日さ凌平のやつがさ赤羽鈴に告ったんだけどさ~ぷぷぷっ」

「こらっ、何話してんだよ!健斗のやつお喋り過ぎんだよ」

いきなり肩を捕まれて馴れ馴れしくしてきたのが朝野健斗(あさのけんと)

噂などの面白いし事が大好きで、黙ってられないお喋り屋だ。

そのあとでこちらに来た、噂の本元は月島凌平(つきしまりょうへい)

3人でよく話をする悪友だ。

高校に入ってから出来た初めての友達だった。

朝野健斗は人なっつこくて誰とでも話すことができて話題が豊富だ。

髪は刈り上げていて身長は150cm位で皆からはチビザルというあだ名もついているくらいだった。

月島凌平は一見、眼鏡をかけた秀才タイプだが、その実はかなりの女好きであった。

彼女を作るのも早いが別れるのも早い。

いきなり飽きたと言ったと思うと次の彼女を探し出す。

それが結構モテるもんだから次から次へと取っ替え引っ替えしているのである。

振られた話はほとんど聞かず、大体は凌平から振っていた。

「今回は不調か?」

「いや~悠人、健斗が言った話は信じるなよー、振られてないんだって!」

「じゃー次は誰と付き合う事にしたんだよ?」

凌平は照れながらまだ告白してねーんだと話した。

「ほら、隣のクラスの赤羽鈴(あなばねすず)。彼女をお茶を誘ったら用事があるって言われちゃってさ~だから明日なら空いてるって。そこで告ってみようと思ってさ~。そしたら断られたとこだけを健斗に聞かれててさ~」

「なるほど、勘違いして噂をばらまいてるって訳か・・・」

「そうなんだよ~あのヤロウ見つけたらとっちめてやる」

「そろそろチャイムがなるから戻ってくるだろう?」

「あぁ。あっ、健斗ー!」

チャイムがなり始めた時、前に健斗が現れると凌平が大声で呼びつけて突っかかっていった。

なかのいい二人を見ながら席に着くと先生が入ってきた。

「朝野、月島。なにやっとるんだ!席に着け!」

「「はーい。」」

ホームルームを終え、昼休みに入ると入り口に隣のクラスの生徒が立っていた。

「おい、あれって赤羽鈴じゃないのか?くっそー凌平のやつ~」

健斗は悔しがって凌平を見送ると悠人と共に食堂に向かおうとする。

凌平は鈴の元へと歩いていった。

「デートは明日のはずだろ?凌平はいいのか?」

「あんなやつほかっとけばいいんだよ。行こーぜ」

健斗と一緒に教室を出るといきなり呼び止められた。

「待って。話があるの!」

振り向くとそこには鈴の姿があった。

「凌平を呼びに来たんじゃないのか?」

悠人は鈴に聞き返すと首を横に振った。

そしてあからさまに自分の首もとに指を持っていきとんとんと触れる仕草をした。

何の事かわからず困惑すると。

「痛かった?」

と一言漏らした。

その言葉で今朝の事がフラッシュバックして思い返された。

言葉に詰まって真っ青になっていく悠人には気づかない健斗は意気揚々と食事に誘う。

悠人の顔色が悪くなったのを察した凌平が近づいて来た。

「悪いんだけどさ、今から3人で食堂に行くんだよ、遠慮してくれるかな?ほら、こいつ人見知りなんだよ、な?」

健斗を小突いて無理矢理同意させる。

「そんなっ、いってっー・・・ああ、そんなんだよ。ごめんな」

「そういう訳だから、じゃーね。明日楽しみにしてるよ」

悠人を連れてその場を離れようとする。

「放課後門のところで待ってるから。」

そう言うとクラスに戻っていった。

「おいおい、凌平狙いじゃなくて悠人狙いかよ!」

口を尖らせる健斗に凌平は口をつぐんだ。

明らかに悠人を好きとかじゃなくて何か嫌な予感がしたからである。

「悠人、鈴の事、知ってるのか?」

「知らない。健斗が言ってたからそうなんだって、会ったこともないはずなんだけど・・・」

でも、なんで夢の事を知っている!?

この事は悠人自身しか知らないことだったし、誰にも言うつもりもない。

そして、悠人がもつ能力もだ。

気味悪がられてしまうに決まっている。そのせいで友達も出来なかったのだ。

悠人は小さい時から生き物を見るとその生き物の本質が見えてしまうのだ。

いくら隠そうとしても本質が暴れだす。

言ってることと思っていることが違う時なんかがよく、ハッキリと見えてくるのだ。

さっきの鈴の後ろには真っ黒な蝶がいた。

黒い燐分をばらまき周りを虜にしようとしているような・・・。

最近はよっぽど見ようとしない限り見えなかったのだがさっきの一言でまた見えだしてしまった。

暫く一人になって気を落ち着けたかったので食堂へは向かわず保健室に向かうことにした。

「悪いんだけど、気分が悪くなってさ。保健室に行ってくるな」

「大丈夫か?」

心配する凌平には悪いが一人になりたかった。

「大丈夫だから・・・悪いな」

健斗は不思議がったが凌平には引きずられるように食堂の方へと向かった。






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