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最強の自宅警備員を目指して  作者: 高橋 空
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第1章 8話 本当の気持ち

始まりの町アルファングのギルドは混乱に陥っていた。ウェーブには慣れているギルドの職員だが今回はモンスターが多過ぎる。しかもいつも通りのウォービースではなく。絶滅した筈の変異種ナイトビーストも混ざっている。


「おい!ウル!今回はお前が無理矢理この町に残した冒険者はいないのか!?」


「いる筈なんですけど…。何かあったのかも知れません!今回はイレギュラーが多いので!!」


ギルドは現在アルファング支部のトップ2である。ウルとギルドマスターのガイの2人によって守られている。接近してきた敵を国王が率いた百戦錬磨の伝説の戦闘部隊で隊長を務めたガイが愛用のハンマーで叩き潰し。遠くにいる敵を精霊に愛された魔女(エレメンタルマスター)という二つ名を持っている元ランク黒のトップ冒険者ウルが多彩な魔法で葬り去っていく連携でギルドを危なげなく守っていく。


他のギルド職員は町の所々に散らばりモンスターと戦う、今回はそこに勇者近藤が集めた義勇軍が加わり町を防衛している。


南側の工業地区からギルドに向かってくる人影が一つある。小さな子供のだ。よく見るとそれはシュタだった。


「ウル!!」


「シュタどうしたの!?」


ウルの元へと走ってきたシュタは部屋着の白のワンピースを所々血で赤く染めながらボロボロになっていた。


「あのね…あのね!パパがパパがぁ〜。」


シュタは家からここまで一度も涙を流さなかったしかしウルと会った安心感からか先程の卯月が殺された光景を思い出し涙を流す。


「ウル!こっちは俺1人で守れるからその嬢ちゃんの話聞いてやれ!」


「感謝しますガイ!」


短い会話を交わし、ウルはシュタを抱き抱えギルド内へと入る。


「シュタ何があったの!?」


「あのね…おねぇちゃんがパパのことをレイピアで刺して!血がいっぱい出てて…!」


どうやらシュタはパニック状態へと陥ってるようで上手く話せていない。だが、事情は大体わかった。どうやら卯月は島村に殺されたようだ。島村がなにを思ってこのタイミングで殺したのかわからないが…。何故このタイミングで…、殺そうとするなら他にもいくらでもタイミングがあった筈だ。2人でレベル上げに行った時に殺せばモンスターの所為にできた筈。


今考えても仕方がなかった。とりあえずシュタをギルドの中で待たせて外へと出る。すると町の所々でした戦闘の音や市民の悲鳴が止んでることに気付く。まだ1時間ほどしか経っていない筈だ。


「ガイ!?なにがあったの!!」


「わ、わからねぇだが急にモンスターが全部居なくなっちまった!まさか、これで終わるなどないと思うが…。」


それはウルも同意だ。あの魔王がこんなので手を引く筈がなかった。


「おいおい…なんだありゃ!!!」


ガイの声にウルもガイの視線の先を見つめる。


「あ、あれは…!?」


町の南側の上空に巨大な影が見えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


勇者近藤はこの町で集めた義勇軍を率いて市民を助けている。この義勇軍にはβテスター総勢28名も含まれている。近藤が自ら赴き呼び集めたのだった。彼らは以前よりレベルが上がっており皆Lv.15付近になっているのでウォービーストなど話にならなかった。しかしナイトビーストに苦戦して3人がかりになりようやく1匹を倒せるほどであった。


近藤はあの洞窟で見た1人の人間を思い出す。100体近いナイトビーストを1人で倒したあの人を…。しかしあの人のようには動かず負傷する、しかし直ぐに野村が回復魔法『ハイレン』を唱えてくれる。


そうだ。俺には仲間がいるあの人のように1人ではない…。俺には仲間がいる。『繋がる力が俺の力だ!』と言うゲームの主人公が居たがこれのことを言っているのか!


そして1時間ほど経っただろうか?急にモンスターがいなくなった。


「なんだなんだ?もうウェーブは終わりか?」


近藤のパーティメンバーの松本秀人が声を発する。これで終わりなら拍子抜けというものだ。しかし、暫くしてもモンスターは召喚されない。


野村は倒れた市民の手当てをしている。マナが尽きるが直ぐにマナを回復させるエリクサーを飲み、すぐに手当てを再開する。ある程度の回復を終わらせると上空に巨大な影を見つける。


「あ、あれは…。」


ーーーーーーーーーーーーー ーーーーーーーーー


昔々、この世界にまだモンスターが2匹の龍しか居なかった時の話。その後2匹のうちの1匹は双子の子供を腹に宿した。こうして、この世界に3匹目4匹目の龍が産まれた。


しかし2匹の龍には知恵がなく話すことができず己の本能の赴くがままに行動するようになる。小さい頃はよく寝てよく食べる可愛い子達だったが成長して親の元を離れていってから問題が起きた。


子供である2匹の龍がこの世界に住んでいた人間を襲い食料にした、時には生殖活動の対象として襲ったりしたのだ。そして人間に宿った龍との子供はお腹の中で成長途中、母体である人間からとてつもない量のマナを奪っていくため、母親となった人間は必ず死んでいった。子供はお腹の中での母体が死んだことがわかるとさらなる栄養を求め母親の腹を突き破り地上へと降り立つ。これが今のモンスターの元となる怪物だ。そして怪物は双子の龍のように本能の赴くままに行動した。


そんな中、ある1人の女が龍の子供を出産する。女は圧倒的なマナ量を持っていて胎児にマナを奪われてもなんとか持ち堪えて遂に出産を果たしたのだった。出産された子供は今までの怪物とは姿が異なり、人間にとても近い姿だったと言う。女は自分の子供を愛した。子供も母親である女を愛した。成長するにつれ子供は知恵をつけていきこの世界での現状を知るようになる。


この世界ではたくさんの怪物が生まれ続け多くの人間を殺していると…。そこで大人に成長した子供は自分の祖父、祖母に当たる2匹の龍に会いにいった。


2匹の龍と子供は話し合い、龍はこの世界の怪物を7匹選び知恵を与え怪物達を纏める役を託した。これが後々魔王と言われるようになる。


子供はこの世界に人間の国を作りそこで王を務め人間にその知恵を持った怪物達に対抗できる力を蓄えることになった。これが初代国王の英雄譚の始まりだった。


2匹の龍はこの世界を観察する。


いつか自分達と対等な力を持つ人間が現れるまで。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


島村は自分の手の中で大切な人から命がなくなっていくのを感じていた。どうしてこうなってしまったのか…。あれは1年前の出来事だった、妹と2人で出かけていた時のことだ。その日島村は寝不足で注意力が散漫になっていたこともあり島村は信号が赤になってるにも関わらず渡ってしまったのだ。車が横から来て轢かれそうになったが間一髪のところで腕を引かれ歩道に戻されて轢かれずにすんだ。その直後車のブレーキ音が甲高く響いた。島村の横に手を引いてくれた筈の妹がいない。辺りを探すと他の人の悲鳴が聞こえる、その先では妹が倒れコンクリートを朱色に染めていた。


妹はなんとか一命を取り留める事が出来た。この先目覚める可能性は0に近いと医者と宣告された。島村は自分自身に失望し目的もなく町を歩いていた。神崎という人物と出会ったのはこの時が初めてだった。


彼女は自らの計画の為にある人物を殺して欲しいと言われた。流石に殺人には手を貸せないと思ったがどうやらゲームの中でのPK(プレイヤーキル)のことらしい。それをやるだけで妹を目覚めさせることが出来るかもしれない手術を施してくれると言ったのだ。妹の病室などの費用は到底1人の学生で賄える者では無く藁にも縋る思いでその条件を飲んだ。


殺すのは篠原卯月という人物らしい。その為にアンケートの時やパーティを組む時などあたかも運命のように卯月に付きまとった。しかし2人の出会いは予め決められた予定通りのモノだった。


「卯月さん、そのこと知ったら怒るかな…。怒るよね絶対…。結局私は自分勝手な理由でしか動けないんだな…。」


島村は目の前で倒れている卯月に抱きつく。顔に卯月の血が付くが気にすることではない。ずっと自分の心を偽って来た。卯月を殺す為に。信頼を得る為に好意を抱いているつもりだった。しかしそうではなかったこの人は自分以外の為に頑張れる人だ。ランクに対して興味がないのに夜な夜な抜け出してたった1人でレベル上げを行い全く自分はレベルが上がらないのに島村のレベル上げにも嫌な顔一つせず付き合ってくれて…。


「最後まで言えなかったな…。本当の気持ち…。」


(今言ってくれよ?)


何処からともなく卯月の声が聞こえた。これは神が自分に与えた罰なのだろう、それとも本当の気持ちを伝えるために与えた機会なのかもしれない。もう島村は卯月の死体を見ていられず死体から離れ背を向けて卯月の声と会話する。


「でも、彼はもう死んだよ…。」


(そうなのか?)


「もう心臓も止まっているし…。これならさっきちゃんと言えばよかった。」


(なんて言いたかったんだ?)


「好きですって。本当に…大好きですって。」


そうだ、やっとわかった。偽り続けた自分の気持ちが…。本当に卯月のことが大好きだったんだ。彼なら自分勝手な私を許してくれると信頼していたんだ。


すると頭の上に手が置かれた。その手は優しく島村の頭を撫でる。


「俺もだよ…アリス。今の言葉忘れんなよ。俺は英雄になってくるから、ちょっと待っててくれ。」


何処からともなく響いていた声は遂に実態を持って島村に話しかけて来た。島村は恐る恐る、後ろを振り返るとそこには誰もいなかった。自分の頭を撫でた人も卯月の死体も。島村は撫でられた頭をさわる。


「ちゃんと名前くらい言ってよ…。でも忘れないよ絶対。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


卯月の意識は暗闇の中を彷徨っていた。これが死後の世界か。異世界の次は死後の世界とか…ついてないぜ。でも結局みんなどうなったのかな?俺がいなくてもアルファングは大丈夫かな?ウルは…島村は…シュタは…。


「汝、力を欲するか?」


いや、力はいらない。俺は守る力が欲しい。


「汝、権力を欲するか?」


権力なんていらない。俺には泣かせたくない人がいる。


「汝、何を欲する。」


俺の大事な人が泣いてんだ。俺の大事な人が戦ってるんだ。だからそれを全部守りたい。泣かないで済む世界を作ってやりたい。


「汝は他人の為に戦うか?」


あぁ、それが出来るなら俺は満足だ。


「ならば、この力を手にするがいい。我が名は登頂者ノボリツメタモノ全てを守り抜いて見せよ!」


そうか…任せな、全て守り抜いてやるよ!卯月は歩きだした。暗闇の中でも今は帰りたい場所がある。守るべき人達がいる。泣かせてはいけない人がいる。だから、迷わない決めた道を真っ直ぐに突き進む。


気がつくと地面にうつ伏せに倒れていた、まだ起き上がることは出来ない。卯月は念会話を島村に飛ばしつつ自分に創造魔法の回復系『神祝』をかける。これで動ける筈だ。


「好きですって。本当に…大好きですって。」


島村の言葉が心に響く。もうこの子を泣かせてはいけない。守らなくてはいけないそう誓い島村の頭を撫でる。


「俺もだよ…アリス。今の言葉忘れんなよ。俺は英雄になってくるから、ちょっと待っててくれ。」


それだけ言い残し町へと出て行く。上空には1匹の龍が卯月のことを待っていた。


「さぁ、ちゃちゃっと英雄になってきますか!」


そういい飛翔と天翔を使い上空で待つ龍の元へと向かう。


「汝は我等と共にこの世界を観察するべき存在として認められた。我等と一緒に来い。」


さっきの暗闇の中で聞いた声とは違う声だ。


「俺はそんなもん望まねぇよ。そんなことより俺を仲間に入れたいならこんな分身じゃなくてしっかりと自分ら2人で出てくるんだな。」


「ほぅ、我等が分身だと見破るか。汝、名はなんと言う。」


「篠原卯月だ。そんな観察者なんてもんいらねぇよ。俺にはもう見物人っていう優秀なスキルがいるんだよ。」


「なるほど、ならばこの試練を超えて見せよ。」


そういうと龍は火球を町へ向け吐き出す。


「ちっ、そんなぬるいのかよこの世界は。」


卯月はそう言うと火球に向かい飛びオルクスで縦にサタンで横に切り4当分に切断する。そして割れた火球を捕食する。


「ほれ、お返しだ!!」


その火球にさらに自分の魔力を込め詠唱する。


「焼き払え『炎帝:軻遇突智カグツチ』」


すると卯月の右腕から巨大な火龍が一直線に天を翔ける。


「見事である。この先も全てから守り抜いて見せよ!!」


龍はそう言うと卯月のカグツチをもろに貰い燃え尽きる。


「くそ、騙された…。まぁいいか。」


卯月のスキルの見物人は観察者になっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ウルは驚愕していた。上空にいた龍もそうだがそれを焼き払った巨大な火龍。龍を殺すなんて規格外なことをする人間をウルは1人しか知らない。


「絶対に卯月様だな…。」


しかし、卯月が龍を焼き払ったことでこの町からはモンスターが1匹もいなくなり今回のウェーブは終わった。ギルドの中にいるシュタを連れて来ると空から1人の人間が降ってきた。


「あれ?なんでここにシュタがいるんだ?」


もちろん、卯月だ。


「はぁ…。シュタは卯月様が死んだとこを見てここまで走って私に知らせに来てくれた筈なんですけどね。」


「おぉ、偉いなシュタ!!」


卯月はシュタの頭を乱暴に撫でる。


「パパだよね?」


「おう、蘇ってきた。」


「パパ!!」


シュタは卯月が本物だとわかると胸へと飛び込んできた。そんなシュタを抱っこしているとウルが卯月へと質問して来る。


「それで蘇ったとは?」


「うーん、難しいけどお前らを守りたいって強く願ったら。スキルが力をくれてな。」


「ほんと、卯月様のスキルは優秀な子たちばっかですね…。」


「あぁ、自慢の子たちだ。」


ウルは深くため息をついた。少しでも死んだのかと思った私が馬鹿でしたね。


「卯月様、この度はこの町を守っていただきありがとうございました。」


「守ったって龍1匹しか殺してないけどな。」


「龍とは本来ランク赤〜黒の冒険者が100人規模でパーティを組んで討伐するものなんですよ?あのデカさとなると200〜300は必須です。」


「そうか?案外弱かったし。」


「はぁ〜。それで次はどこへ行かれるんですか?王都にでも行かれるんですか?」


「次って?俺の家はこの町にあるんだぜ?とりあえず帰ろうぜ。我が家へ。」


卯月はそう言うと2人と我が家へ向かった。家の玄関前ではアリスが待っていた。


「卯月!!」


アリスは卯月が見えるなり抱きついてきた。


「私、貴方へ酷いことをした。ごめんなさい。」


「アリス…。」


卯月は胸の中にいるアリスへとデコピンを放つ。


「!?」


「いいか?みんなでこの家に帰ってこれたんだ。それ以外に何かあるか?過程プロセスなんてどうでもいいんだよ。大事なのは結果だろ?俺らはまた4人で帰ってこれた。」


「卯月は優しすぎるよ…。」


アリスはその言葉を聞くと全てを許された気がして涙が止まらなくなった。


「パパ、おねぇーちゃん泣かせた!!」


「卯月様?いつアリスとそんなに仲良くなったんですか?殺されたんじゃなかったのですか?」


「ほら、殺されて初めて気付くものもあるんだよ。」


「そんなの初めて聞きました!」


「まぁ、今日は祝勝会だ!パァーッとやろうぜ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


篠原卯月Lv.100+53


筋力:10563

防御:6321

敏捷:9804

魔力:12643

魔防:3526

総合値:42857


ゴットスキル 2種


登頂者ノボリツメタモノ


観察者ミトドケルモノ


エクストラスキル 4種


読書家ヨミトクモノ


睡眠家ネムリツクモノ


創造者ツクリダスモノ


美食家クライツヅケルモノ


ユニークスキル 1種


・料理人


固有スキル9種


・念会話


・影渡り


・闇眼


・飛翔


・擬態


・突破


・風化


・天翔


・分身

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


卯月の+53については次の話で詳しく説明します。


いやぁ、卯月は殺された相手をも許せるんですね。器がでかい。


明日も0時更新です。

一章もう少しだけ続きます。

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