第1章 6話 蹂躙
次の日の朝。結局卯月は一睡もできなかった。
3人の中で1番最初に起きたのはウルだった。
「ふぁ〜。卯月さんおはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
少しウルと会話をしているとシュタが目を覚ました。
「パパおはよ〜。ムニャムニャ…。」
「おはよう、シュタ。とりあえずウルと顔でも洗ってこい。」
ウルとシュタは2人で部屋を出て顔を洗いに行った。卯月も眠気を飛ばすために行きたいところだがまだ左腕に島村が抱きついているので諦めた。それにしてもよく寝ている。少し悪戯しても起きないんじゃ…。危ない危ない。一線を超えてしまうところだった。
暫くすると島村も起きた。
「卯月さん、おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
島村は起きるなり卯月の左腕に抱きついてきた。卯月の左腕は夜の間の島村の圧力?乳圧?により血がそんなに巡っておらず真っ白になっていて感覚がそこまでない。だから、島村の胸の感触もわからないので少し残念だ。
島村の気がすむまでそのままでいさせたらシュタが部屋に来た。
「パパ、朝ごはんできたよ!!」
「あぁ、今行く。」
どうやら、ウルが朝ごはんを作ってくれてるらしい。
「全く…。ここまでアピールしてもダメなんじゃ自信なくします…。」
島村はそんなことを口ずさみながら食堂へと向かう。十分俺の心は揺れまくっているのだが…というか犯罪を犯そうとしているのだが…。どうやら食堂は一階の左奥らしい。
食堂へ入るとテーブルの上には真っ黒な炭が並んでいる。
「卯月様…すいません。」
そういえば、昨日の料理は島村とウルの2人で作ったんだった。
「よし、ウルと島村はこの家で料理禁止な。」
「なっ!なんで私も!?」
「昨日のオムライス忘れたとは言わせないぞ?」
「シュタはパパの料理がいいから賛成〜。」
こうしてこの家での料理当番が決まった。とりあえず朝ごはんは残った食材で作った。
「ところでウル、このへんで効率のいい狩場はあるか?」
「そうですね…。基本的にはどこも効率は変わらないと思いますよ。あっ、でもアルファング大森林の南東にある洞窟には近づかないでください。」
「なんでだ?」
「あそこにはウォービーストの変異種のナイトビーストの巣になっていますので。ナイトビーストは夜行性なので日中は種の殆どがその洞窟にいます。それが厄介でギルドも迂闊に手が出せないんです。駆け出し冒険者が夜町の外に出れないのはそのナイトビーストの影響が大きいです。」
「なるほど。単体では弱いのか?」
「いえ、単体でも適正ランクは青です。1集団となると赤。1種族となると金まで跳ね上がります。なので王都の黒の守護者にクエストを要請していますが受けてもらえるのは当分先でしょう。」
「その、黒の守護者ってのは?なんだ?」
「はい、ランク黒の国内最強の冒険者です。今現在、この国にはランク黒の冒険者は6人います。その内の4人が王都で国王の守護者として活躍しています。」
「なるほどな…。わかった、気をつけるとしよう。早く討伐出来るといいな。」
「…?そうですね。」
ウルは朝からギルドで仕事があるらしく朝ごはんを食べ終えるとギルドへと向かった。
「さて、私たちはどうしますか?」
「んーとね、さっきウルが食材を無駄にしたからもう残り少ないよ〜。」
「そうか、じゃあ島村とシュタで買い出しに行って来てくれ。」
「えっ、卯月さんは?」
「ちょっと調べたいものがあるから色々と調べておく。」
「むぅ〜パパとがいい。」
「シュタ、島村で我慢してくれ。それよりこの家に書庫はあるか?」
「うん。二階の左奥だよ。」
「はぁ、私に拒否権はないんですね。」
「悪いな島村。わかったことがあったら後で教えるから。」
そう言いながら卯月は昨日ウルから貰った金貨を島村に渡す。
「はいはい。行きましょシュタちゃん。」
「パパ行って来ます〜。」
「いってらっしゃい。」
2人を見送ると卯月は書庫へと向かう。それにしてもこの家は広いな…。20部屋ぐらいあるぞ…。左奥の部屋につき扉を開けると埃っぽい部屋に壁いっぱいの本棚がある。さてここでヨミ先生の出番だ。
'はーい、みんな大好きヨミ先生ですよ〜。'
(ヨミ先生、どの本を読むべきだ?)
'そうだねぇ〜。ツーちゃんは鍛治の本で、リオは料理のほん、ネムはどうでもよくて、ミケは全部だって。登山家とマールは返事がないや。'
(まてまて、名前の説明をしてくれないか?)
'あっ、そういえばまだだったね。ツーちゃんはいいとして、リオは料理人、ネムは睡眠家、ミケは見物人だよ〜。'
(ん?登山家はなんで名前がないんだ?)
'うーん、登山家とは誰とも話したことがないの…。話せないのかもしれないけどね。だから、名前もつけられないの。'
(なるほど…。それでどの本を見ればいい?)
'うーん、実はねヨミのエクストラ効果は別に1つ1つ見る必要ないんだ。なんならもうこの部屋の本は全部読んじゃった。'
(はっ?そうなのか!?)
'うん、あとはねご主人様寝れば、ネムのエクストラ効果でご主人様にも反映出来る筈だよ〜。'
(そうか、寝る必要があるんだな。)
そう言われると急に睡魔が襲ってきた。まぁ昨日寝てないし当然か…。とりあえず寝室に行きベットで寝よう。
〜10分後〜
まだまだ寝足りないがやることもあるので体を叩き起こした。別になにか変わったことはない。
(ヨミ、失敗か?)
'ううん、成功してるよ。ご主人様が欲しいと思う情報を考えれば出てくるよ。'
そう言われたので歴史について考える。すると元々知っていたかのように知識が湧いて来た。しかもだいぶ簡略化されている。どうやら成功したらしい。
(これは他のスキルも情報を共有できてるのか?)
'うん、みんな読みたい本の情報は見てる筈だよ。'
(じゃあ、ツーに剣を作れるか聞いて見てくれ。)
'…。うん、昨日のオルクスを参考にして作ってみるって。なんか要望はある?'
(そうだな、今回のはスピード重視にしてくれ。)
'はーい。ちょっと待っててね'
5分くらい経っただろうか…。色々な本の情報を読んでいると
'ご主人様〜できたって〜。'
(おっ、できたか早いな。ん?どこに剣があるんだ?)
'えーとね今はツーちゃんが持ってるからご主人様が手元に来るように念ずると出て来るって。'
言われた通りに念ずると左手にオルクスとは真逆の純白の刀身をした片手剣が出て来た。オルクスに比べると数段と軽い。
(うん。完璧だな。黒と白の1対の剣か。かっこいいな。)
'ツーちゃんが褒めてだって!!'
(あぁ、よくやった。ありがとうツー。)
'えへへ〜、ツーちゃん照れてるよ。名前はサタンだって。'
憤怒の罪サタンか…。どちらかと言うとラファエルの方がピッタリだけどな。まぁ、そこはツーの付けた名前だ。何か意図があるのだろう。
さて、じゃあちょっと腕試しでもしにいくか。何処かだって?もちろんアルファング大森林の洞窟だ。
卯月はオルクスを肩に掛け町を出る。
外に出て暫くするとウォービーストが飛びかかって来た。しかし前回と同じように線が刻ませているのでオルクスでそこをなぞるように切る。するとなんの抵抗もせず真っ二つになる。文字道理一刀両断だ。
(ヨミ、今の線は誰かのスキルか?)
'うん、今のはリオの料理するときに切りやすいところを教えてくれる一刀両断って言うスキルだよ。'
料理って戦闘も料理なのか…。まぁ便利な能力だな。その後も大森林の洞窟に着くまで何度かウォービーストに襲われたが一刀両断を繰り返した。ちなみに初めての戦闘のようにすごいレベルが上がるわけではなく5体倒してレベルは3しか上がらなかった。
さて、洞窟に着いたわけだが真っ暗で何も見えないな。とりあえず昨日ウルから盗んだ炎魔法フレイムでも使ってみるか。卯月は右腕をあげ詠唱する。
「暗闇を照らし全てを燃やし尽くす業火の焔となれ『フレイム』」
もちろん詠唱は適当だし多分無くても発動できるだろうけどあった方が雰囲気が出るから詠唱は必要だ。卯月が詠唱を終えると突き出した右腕の先から直径10メートル程の火球が炎を周りに撒き散らしながら洞窟内を進んでいく。そして大地を揺らすような轟音を伴って爆発した。
こ、これって、炎の初級魔法だよね…。初級とは思えないレベルの大魔法だった。撒き散らした炎はまだ燃え続けていて明るくなった洞窟内には肉の焦げた匂いが充満していた。どうやら今ので半数近く始末したようだ。洞窟の奥からは生き残っていた漆黒の身体をした狼が卯月に向かって飛びついて来る。ナイトビーストだ 。
卯月は左手にサタンを装填して右手にはオルクスを装備。黒と白の美しい一対の剣、二刀流で次々とナイトビーストを一刀両断し身を真っ二つにした。斬り伏せたのが40体を超えた頃に奥から他の雑魚より2倍くらいの身体をしたナイトビーストが出て来た。多分あいつがボスだろう。卯月は雑魚を全て斬り伏せボスと向き合う。一対一の真剣勝負だ。
ボスは卯月に向かって駆け出してきた。早い!卯月の首に向かって噛み付こうとして来たのを間一髪でオルクスで防ぐ。しかし威力は殺しきれずに2メートル程吹っ飛ばされた。
なるほど…俺の冒険譚の1ページ目に相応しい相手じゃないか。面白い。
ボスは卯月へと駆け出し地面を蹴った。勝ったそう確信した、もう首は目の前だ。この人間は多くの同胞を殺したそれに報いる為にはボスとして殺すしかない。何千何万回と繰り返してきた動作で首を噛みちぎる。
そして卯月に噛みつきボスは卯月の背後2メートル程の所に着地した。しかし、その瞬間視界が真っ二つに割れ左右に倒れ、地面を血で朱色に染めた。
何があったのかというと卯月が一刀両断で叩き斬っただけだ。ただ、ギリギリまで引きつけツーのスキル『創造する世界』を発動して相手の動きが遅くなった世界を創り叩き斬ったのだ。
ふぅ〜、スキルがなければ不味かったな…。
ピコンッ!
久しぶりに聞く機械音だ。
"マスターお久しぶりです。マールです。"
(久しぶりだな。マールなにしてたんだ?)
"自らの限界を超えて来ました。"
(限界を超えたって?)
"はい。私はユニークスキルからエクストラスキルへと進化しました。"
確かにステータスを見てみるとユニークスキル『捕食者』からエクストラスキル『美食家』になっていた。
(おいおい、スキルが進化って…。)
"マスターが望むのであれば何度でも限界を超えて見せましょう。"
どうやら、ウチのスキルは天才らしいな。そういえば倒したボスを捕食すると固有スキル闇眼と影渡りを所得した。闇眼は暗闇でも視界が明るくなり影渡りは行ったことのある場所に限るが影から影へと移動できるらしい。ものすごい便利だ。例えば、ここから家の近くの影まで一瞬で移動することも出来るようになる。うん、すごい便利。
さてさて、卯月の今のレベルは…56だ。最初のナイトビーストを倒したフレイムの時に10近く上がりボスを倒した時に30近く上がった。どうやら、初めて倒すモンスターなら経験値の入りがいいようだ。それにしてもやはり、レベルが上がるにつれ必要な経験値が増えていくな…。こりゃ次の村とかに行かなくちゃな、まぁウルとの約束は守るけど。
とりあえず家に帰るか。卯月はシュタの家の庭にある木の木陰まで影渡りで移動した。
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篠原卯月 Lv.56
筋力:1565
防御:1069
敏捷:1681
魔力:1837
魔防:698
総合値:6850
エクストラスキル 6種
・読書家 《ヨミ》
・睡眠家 《ネム》
・登山家
・創造者《ツー》
・見物人 《ミケ》
・美食家 《マール》
ユニークスキル1種
・料理人 《リオ》
固有スキル 3種
・念会話
・影渡り
・闇眼
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勇者近藤は恐る恐る大森林を歩いていた。パーティメンバーの野村や仲間2人にも緊張が伺える。
「や、やめない?別に私達が行かなくても…。」
「だめだ。市民の平和の為に行動するのが勇者だろ?」
近藤達は先程まで大森林でレベル上げをしていたが大地を揺らす轟音がしてその原因を調査しているのだ。
轟音の先はギルド嬢に近づくなと釘を刺された洞窟だった。近藤は恐る恐る中を覗くとそこは地獄絵図のようだった。手前では真っ黒に焦げた死体が転がっており奥の方には真っ二つに割れた死体が転がっている。そして奥ではとてつもなく大きい獣と1人の人間が戦っている。いや戦ってはいない獣の一方的な蹂躙だ。そしてトドメとばかりに獣が飛びつくと世界が歪み人間はとてつもない速度で動く。早すぎて辛うじて動いたことがわかるだけだったがその直後獣は文字道理真っ二つに割れ倒れた。
近藤達はその戦いに度肝を抜かれ暫くその場を動ごけなかった。
「なに、あれ?本当に人間?」
野村が言葉を発するが誰もそれに答えなかった。よくやく近藤が動き始め4人は戦闘があった奥へと向かう。その途中でも真っ二つの死体は転がっており合計の死体は100体近くある。
しかし先程まで戦闘があった場所には獣の血の跡が地面に残っているが死体はなく戦闘をしていた人間もそこにはいなかった。その先の洞窟は行き止まりだった。
近藤達は恐怖でギルドまで走って帰り、そのことをギルドに報告した。ギルドは近藤達の報告を受け正式にナイトビーストの全滅を発表した。そのことによりギルドは騒がしくなっているギルド職員も大忙しだ。
市民の間では1人の人間が町を困らせていたナイトビーストを全滅させその後その場から消えたことから神の裁きや悪魔の悪戯など色々と噂されていた。ギルド内の酒場でも神側と悪魔側で別れ真相を暴くべく話し合いをしている。
そんな中、ただ1人ウルだけが冷や汗を流しギルドマスターに2日連続となる早退を申し出るのだった。
影渡りは影と陰両方ともに使えるスキルです。
ちなみにスキルは
ノーマル→ユニーク→エクストラ→ゴット
の順でレアです。基本的にはエクストラでも凄まじいレア度ですけどゴットになると歴史に名を残すと言われています。今決めました。
明日も0時更新です。