第1章 2話 未知との遭遇
目を開けるとそこは見たことのない草原だった。
「おいおい!!!どうなってんだよ!本当に入っちまったよ!!VR世界に!!!」
発言したのはさっきから神崎と会話している二十代の男だ。
その男の発言を皮切りに参加者は騒ぎ始めた。
実際にはVR世界に入ったことに興奮している者が大半だった。
そんな中、卯月は手を握ったり広げたり、屈伸をしたり、歩いてみたり、走ってみたりした。
卯月の体感では現実世界とほぼ変わらない感じだ。現実世界にはステータスはないがあったらほぼ一緒の数値になっているだろう。
ほうほう。筋力は53か…。
っ!?なんで自然に数値がわかるんだ!?自分のステータスだからなのか? 驚き辺りを見回すと、他の参加者のステータスも手に取るようにわかる。というか見える。
元々、見えているわけでは無いが他の人の頭の上には名前とレベルが表情されている。
そこに意識を集中させるとその人のパラメータやスキルがわかるのだ。
そこで参加者全員のステータス、スキルを確認していくと不思議とステータスは個人によってバラツキがあることに気がついた。
これはたぶん、現実世界での筋力などが影響してくるのだろう。いわゆる個体値である。
ちなみに個体値の時点での総合値が1番高いのは卯月だった。これは自宅を守る自宅警備員としての日々の筋トレが実を結んだ結果だろう。
さらにスキルは大体の人が2〜3個持っている。
その中でも皆が共通して持っているのがゲーマーというスキルだ。
このことから、卯月はある1つの可能性を思いついた。さっきの神崎が言っていたアンケートが準備ということ。それならあのアンケートがスキルに反映されているのでは無いか?
あの場にいた者ならほとんどが趣味、特技の欄にゲームをすること。と書いていてもおかしくは無いのだ。それなら卯月の持つスキルにも納得がいく。
さて先程のアンケートを思い出すと他の参加者は皆適当にかき1分程度で終わらせていたがその所要時間がそのまま内容と直結しているだろう。だから他の参加者はスキルが2〜3つしかない。それは趣味の欄を1つ特技の欄を1〜2つしか書いていなかったということだろう。
しかし、卯月は完璧に書き上げた。
その結果、卯月のスキルはこんな感じだ。
・読書家
・睡眠家
・登山家
・創造者
・見物者
・料理人
・捕食者
うん、ステータス面でも総合トップは俺でスキル面でも保有数はぶっちぎりのトップ
もしかして俺は最強のチートキャラになってしまったのかもしれない。
「あぁ〜、みんなちょっといいか?」
さっきからやたらと仕切りたがる二十代の男が一頻り興奮を終えたのかその場を纏める。
ちなみにこの男、筋力だけなら卯月よりも上の60だったりする。
「俺は近藤光輝という。さて、みんなわかってると思うが俺達はVR世界に入った。あの神崎とかいうやつにこのゲーム名説明はまったくされていないが多分、このゲームは王道的なVRMMOと言っていいものだろう。」
その二十代の男、近藤はこの場を仕切ろうとしている。普段一緒にいたら多分、いや絶対やたらと仕切りたがって鬱陶しいのだろうけどこういう場だと助かる人材だ。
その近藤が言うことは概ね間違ってはいないが王道的なVRMMOと言ったがそれはラノベでよく使われるという意味での王道だ。初のVRMMOなわけだから王道も邪道もないのだから。
「ということでまずは近くの町の冒険者ギルドに行こうと思う。」
冒険者ギルドとはこういうゲームによくある感じのやつでクエストの管理やモンスターからのドロップアイテムの売買などをやっている組合のことだが。まずこの世界にそんなのがあるかどうかすらわからないのに…。そんな曖昧な提案にみんな乗るのだろうか?
「そうだな。それが1番だと思う。」
「うん。私もそれでいいよー。ってか鉄板でしょ。」
えぇーー。乗っちゃうの?そんなあるかどうかもわかんないギルド探しに…。
なぜか、参加者で近藤の提案に反対するものはいなかった。
卯月は少し他の参加者の近藤に対する肯定に怪しみ近藤のステータス、スキルをもう一度よく見た。
スキル
・ゲーマー
・先導者
なるほど。この先導者ってスキルが他のみんなを纏めているのか。仕切りたがる近藤にはお似合いのスキルであった。
大方、特技の欄に人の先頭に立つ事とか書いたんだろうと卯月は予想したがそれがドンピシャで当たっていたということはまた後でわかる話である。
「あの…それなら向こうの方角に少し大きな町があります。」
手を挙げ発言したのはさっきの部屋で知り合った島村アリスだった。
「ほぅ、なんでそんなことがわかるんだ?」
近藤が皆を代表して質問する。
「多分私のスキルだと、思うんだけど…。」
島村がそういうので見てみると確かに・案内人というスキルを持っている。
「なるほど。どんなスキルなんだ?」
「えぇーと、案内人って書いてあります。」
「それなら安心だな。では俺達の導き手をお願いできるかな?」
「えぇーと…はい。」
こうして、参加者一行は島村の導き通りに北へ向かった。卯月はもちろん1番後ろをついて行った。
少し歩いたところで卯月は頭の中で考えていた1つの可能性を捨てた。
それはこの世界はVR世界ではなく。あの四角い真白な部屋に映し出されたプロジェクションマッピングなのではないかというものだ。
実際これが1番可能性としては有り得た。なぜなら閃光が起きる前、神崎は本当に何も持っていなかった。そこからVR世界に入るということは有り得ないことだと思ったからだ。
そうなると残された可能性は3つ
1つ目は本当に機械など必要とせずにVR世界に入ることができる技術がトイフェルにはあった。
しかしこれだとわざわざ地下にまで移動した理由が見当たらない。本当に機械などがいらないのならば最初のトイフェル社の37階の部屋でやればよかったのだ。しかしやらなかった、ということは何か移動しなくてはいけない理由があったからだ。
2つ目は夢オチ。
よく漫画やアニメなとで使われるとギャグ的なオチだがVR世界に入るよりは現実味がある。
3つ目は異世界転移だ。
実はこれが1番あるのではないかと思っている。
この世界に来る前の地下のあの部屋。床は白塗りになっていたが所々ほんの少しだけ色が違ったのだ。
何を隠そう俺は色彩能力者で常人よりも細かく色を見分けられるという能力を持っているのだ。これは妄想とかではなく。本当にそうで自宅警備員をしているとき暇でちょっと検定を受けて見たらこれがわかるのなんのでその日から色彩能力者を名乗っている。というかやっぱカッコいいじゃん異能力的で。厨二心がくすぐられるよね。
ということであの部屋の床は地味に色が違い。その形は魔法陣的な感じになっていたのだ。所々に家具を散らばらせていたのはそれを隠すためだったのだろうけど俺の色彩能力の前では無意味だった。
うーん。やはり異世界転移というのは流石に有り得ないか?じゃあ、あの魔法陣は??謎は深まるばかりだ。
ガヤガヤ。
なにか前の方が騒がしい。
卯月は騒がしい前の方に視線を移すとそこには魔物の定番スライム様ではなく。ウォービーストという小型の狼というのか大型の犬というのか微妙な所の四足歩行の赤い獣が出てきた。
ちなみにこの参加者は誰も武器を持っていないので戦うとなれば素手だ。
どうやら、先頭を歩いていた島村が少しダメージを負ったらしい。
肝心のウォービーストは島村の次に歩いていた近藤によって撃破された。
結構苦戦していたみたいだがなんとかノーダメージで切り抜けた。
島村はというと手を噛まれたみたいで血がダラダラと垂れて表情は苦痛で歪んでいた。
「おい!だれか医者はいないのか!!」
近藤がほかの参加者に向かって叫ぶ。
お前は怪我人が出た時のキャビンアテンダントか!!
しかし、他の参加者の中に運良く現実で医者をやっているやつがいた。
名前は野村花梨というらしく女性医らしくメガネをかけている。まぁ、自己紹介をした訳ではなく頭の上の表示を見ただけなのだが。
ちなみにスキルで祝福者というのを持っている。大方回復などに使うスキルなのだろう。
野村は手慣れた手つきでポケットから白い布を出し負傷箇所を縛っていく。
ってか、ポケットから白い布を出した!?
これは今まで変わってなかったから気づいてなかったが参加者はこのVR世界に来る前の服装だった。野村がポケットから白い布を出したのを見ると荷物なども引き継がれているのだろう。
これはいよいよ、異世界転移説濃厚だな。VR世界はあくまで拡張現実ではなく情報化仮装現実世界な訳であって服装だけでなく荷物まで情報と読み取り引き継がれるということは有り得ないからだ。
ちなみに卯月のポケットにはグリーンガムしか入っていなかった。
そして野村が治療している時に二体目のウォービーストが1番後ろに出現した。
1番後ろとは卯月のことだ。卯月はとりあえず戦って見ることにした。武器がないのは心許ないが仕方ないだろう。
ウォービーストは卯月に向かって飛びつき嚙みつこうと地面を蹴った。
しかし、卯月にはウォービーストが地面を蹴った瞬間から世界がスローモーションに見えた。更にウォービーストの赤い身体にはいくつかの線が刻まれていた。
世界自体はスローモーションだが卯月だけはいつも通りに動くことができる。そこで物は試しにウォービーストに刻まれている線に沿って手刀で斬りつける。
すると驚くほど柔らかく豆腐にでもチョップしたかのような感触がしてウォービーストは真っ二つになり卯月の後ろに飛んで行った。
気持ち的には「また、つまらぬものを切ってしまった。」とでも言いたい気分だが。どうやら他の参加者は今の卯月とウォービーストの戦闘には気づいていないようだ。まぁ、驚くほど静かに1発で終わったしな。さっきの近藤は何発も殴ってやっと絶命させたのに。
たぶん、これもスキルの力なのだろう。しかし今使われたのがどのスキルなのかまではわからなかった。後々、研究が必要だな。
ってか、よく見るとステータスが上昇していた。今の戦闘でレベルが上がったということか。
ステータスを見て見ると全体的に2倍近く上がっている。ちなみに今の卯月のステータスはこんな感じ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
篠原卯月 Lv.5
筋力:120
体力:146
敏捷:135
防御:104
魔力:0
魔防:46
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さっきまでレベル1だったがウォービーストとの戦闘でレベルが4も上がっている。あんな雑魚との戦闘で…。このゲームのゲームバランスは見直す必要がありそうだな。
しかしウォービーストのドロップはないかなと倒した死骸に近づくと。
ピコンッ!
機械音と同時にウォービーストにアイコンが出た。なんとウォービーストという名前の横には捕食可と出ているのだ。少し意識を集中させると捕食しますか YES/NOと出た。少し嫌な予感がするがYESと念じる。
そうすると俺の左の掌が二つに割れ真ん中には口と歯が出てきた。おいおい、スキルよ。俺を化け物にするな。
そして恐る恐るウォービーストに掌を翳すとグチャクチョのような生々しい音はせず、どちらかというとキュポン的な音の後ウォービーストは跡形もなく消え去った。
そして新たにスキル"念会話"を獲得した。どうやら卯月のスキル捕食者はモンスターを食べてそのモンスターの固有スキルを吸収するというものらしい。
いくら、大体のものを食べれると書いたからといって流石にモンスターを食うって…。流石に好き嫌いしちゃうよ?
スキルの確認をしているとまたアイコンが光っている。次は読書家が発動できるらしい。一応YESと念じると、今吸収したウォービーストを読み解いていき。ウォービーストのモンスター情報がわかった。
うん、これはまともというかまだ優しいスキルだな。さっきの捕食者みたい身体を改造されたらどうしようかと思っていたからだ。ちなみに左の掌は今は何事もなかったように元に戻っている。どうやら捕食者のスキル使用時のエフェクトらしい。
ピコンッ!
先程と同じ機械音の後にスキルの読書家が使用可能と言わんばかりに光る。
意識を集中させると。
ウォービースト解析完了。
変身可能です。
変身しますか? YES/NO
と出た。先程まで読書家のスキルがまともだったことに一安心していたが、どうやらこの世界のスキルはなにかやらかさないといけないというルールがあるらしい。
一応、試しにYESを選択すると。
目線が明らかに低くなり四つん這いになっている。手や身体を見ると全身が赤い毛で覆われている。あぁ、ウォービーストになったのか。しかしこのままでいると他の奴らにボコされそうなので急いで解除を念じると目線が元に戻り手や身体からも赤い毛がなくなっていた。
ってか、もはや読書関係なくね!?!?なんだよ変身って。どこまで読み解いたんだよ!!
幸い変身などを誰にも見られてなくてよかった。ってか、1番後ろでよかった。
そうこうしているうちに野村が島村の治療を終えたらしい。
野村の能力の祝福者はどうやら野村が触れている者に発動するスキルで、もちろん回復スキルだったようだ。
やっぱ、ヒーラーってパーティに欲しいよな。ってか必須だし。島村にはパーティ組もうって言われたけど野村も誘うべきなのか?いや。周りの奴らも同じことを考えているだろう。それならいっそのこと捕食者でガブッと。ってなに考えてんだ俺。流石に俺の捕食者でも同族は好き嫌いするだろう。
ピコンッ!
どうやら、ステータスの捕食者が俺行けますよ!的な感じで光ったっぽいが無視だ。ってかなんだこいつらは意志をもっているのか。
全く。野村を捕食するのは最後の手段だな。 ってまた変なこと考えてる!!おいおい、スキルの分際で俺の思考回路まで乗っ取るなよ!
ふぅ、捕食者はどうやらグイグイくるタイプのスキルらしい。 スキルにグイグイくるってのがわからないけどグイグイくるからしょうがない。まったく登山家辺りを見習って欲しいもんだ。未だなんの反応も示していないんだから!本来スキルはこういうもんだろう!!
とりあえずは町へと一行は向かう道中卯月は他の人たちを観察していて気付いたがどうやら近藤はさっきのウォービースト戦でレベルが上がっていないらしい。
なんでだ、俺は4も上がったのに。
"マスターそれには成長速度が深く関わっています。"
うぉ!なんだ誰だ!
"私はマスターのスキルの捕食者です。"
あぁ?スキルがなんで話してるんだ??
"先程ウォービーストを捕食して得た固有スキルの念会話が関係しています。"
(あぁ、それを使えるようになったとでも言いたいのか?)
"流石マスター、理解が早くて助かります。"
(なぁ、それはもしかして他のスキルも使えたりするのか?)
"どうでしょう?私は私自身が捕食して得た固有スキルを私を経由してマスターへと伝わりますのでその過程で私も使えるようになるのです。"
(うわぉ。優秀なスキルですこと。)
"マスターに褒められると照れますよ…。まぁ、他にも使えるようになるとしたら読書家でしょか。"
(えっ、あいつもなのか。)
"はい。私が捕食したデータはあちらのスキルにも情報が行くので少しづつ念会話の取得をしていると思われます。"
(なるほど。取得するのには少し時間がかかるのか。)
"はい、マスター。マスター自身への固有スキルの癒着には時を要しませんが流石にスキルが固有スキルを使うとなると少し時間を要さないといけませんので。"
(たしかに。そりゃそうか。それで成長速度って?)
"それは先程のアンケートでの早熟か晩生かというものです。マスター以外は殆どの方が5番の超晩生型を選んでいますので成長には時間が必要なのです。マスター以外の方々は今の力では満足できずにまだまだ、自分という器が完成していると思いたくはないのでしょう。それに比べマスターは今ある自分の力でなんとかしようと…。流石マスターです。"
(なるほど。単純に俺が超早熟を選んだからなのか。ってことは俺は序盤はグイグイ育つけど終盤になるとステータスの伸びが低くて使い物にならないってことか。)
'それは違うよ〜。'
(ん?今のは捕食者か?)
"いいえ、どうやら取得が完了したようです。"
'やっほーご主人様聞こえる?読書家だよぉ〜。'
(これまた、可笑しなタイプのスキルだな。)
"マスターこれは読書家が特殊なだけです。"
'えぇ〜そうでもないと思うけどなぁ。'
(それでなにが違うんだ?)
'あぁ、流した〜酷ぃ。んーとねご主人様のスキルで登山家ってのがあるでしょ?あれのエクストラ効果が器の成長なの。だから、この先もご主人様はずっと今の速度で成長し続けて器としての限界が来ても器自体が成長していくから大丈夫〜。'
(他の奴らは晩生で育つのが遅い代わりにステータスの伸びしろが大きいのに俺は早熟で成長が早い上に伸びしろに限界がないってことなのか!?)
'んー。そういうことぉー。'
(なるほど…。とりあえずはレベル上げに専念すべきなんだな。)
"そういうことです。マスター"
(わかった、また後でな。)
"はい。"
'うん!'
返事が返ってくると卯月は意識的に念会話を切った。最初の方は使い方がわからずに考えが全部向こうに聞こえていたみたいだが。心の中で携帯電話をイメージしてから話したいことだけ伝えることができた。だから、切る時もボタンを押すイメージで切れる。多分かかって来る時も着信音が鳴るのだろう。
なるほど…。ってか、エクストラ効果ってなんだろう。やっぱり、スキルにもレア度があるのか。まぁ、わからないことは後であいつらに聞けばいいだろう。
それはそうと話せるならスキルにも名前を付けてやらなきゃな…。
こうして、町に着くまでの小1時間の間卯月は2人?の名前を考えていた。
野村の治療はこの世界で初めての治療ということでまぁまぁ、時間がかかり他の参加者はその治療を食い入るように見ていたので卯月の戦闘に気付かなかったという設定でおねがいします。