水たまり
傘を持っていなかったから全速力で雨の中を走っている。
抱えた鞄の中身がガサガサ音を立てる。
雨宿りをしている人を流し見て家への帰路を駆ける。
目の前を踏切が遮り、轟音が右から近づいてくる。
舌打ち をして顔を濡れた袖で拭う。
踏切の向こうを見ると、青年が慌ただしく駅の方へ走っていった。
その景色を轟音と銀色が遮った。
轟音が遠ざかり、急いで踏切を渡る。
その時、いつの間にか白い服を着た女性が向こうに立って居た。
彼女は不思議そうにこちらを見て傘を畳んでいた。
そこを横切ろうとして、足が水を踏みつけた。
あっ
と思った時にはもう遅く、
靴の中に冷たい水が入り込んだ。
苛立ちが沸騰してアスファルトを踏み鳴らす。
すると、乾いた音がそこから鳴った。
あれっ
そこを見ると、乾いたアスファルトが日光を受け輝いていた。
晴れている。
何故だ?
晴れて乾いたとしても、乾くのがはやすぎる。
頭が空っぽになってさっき踏んだ水たまりを見ると、水たまりはそこにあった。
雨も降っていないのに激しく波打っている。
水たまりを覗き込むと反転して景色が映りこんでいた。
そちらは雨が降っていた。
私の鞄が向こうの淵に落ちている。
そんな私の横を、晴れているのに傘をさした男性が不思議そうに通り過ぎた。
再び水たまりを覗いた時、ちいさな靴底が水たまりを押し上げ、水たまりが波打って濁った。
目を凝らして見つめたが、もう何も見えなくなった。
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