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冬の女王の大脱出

作者: ツチボシ

 とあるところに小さな国がありました。

 小さいながらも皆助け合い笑顔の絶えない心豊かな人々の暮らしていました。

 その国には、春、夏、秋、冬、それぞれの季節を司る女王様がおりました。

 女王様たちは決められた期間、町外れにある大きな塔で交代で暮らすことになっています。

 そうすることで、その女王様の季節が巡って来ていたのですが…


 外はビュービューと吹き荒れる吹雪。

 本当ならひと月前に春が訪れているはずでした。

 しかし辺り一面は雪に覆われ、普段は賑やかな声踊る昼の町中も今は人影なく静まり返り、塔の中にいる女王様とも連絡がとれなくなってしまったのです。

 この国の長い歴史の中で初めてのことです。

 王様は容易に外出できない町の人たちの為、お城の保管庫にある食糧を届けるよう兵士たちに言いました。

 けれども、早く春が訪れてくれないことにはその食糧も尽きてしまいます、王様も国民も大変困っていました。


 只、


「本当…これどうしたらいいの…」


 困っていたのは塔の中の冬の女王様も同じなのでした。


 ◇


「ふふ…私はただね、いつもより塔ライフを満喫しただけなのよ、それなのに…それなのに…」



 塔には女王様以外の人間はおりません。

 ですが、塔内のモノには意思を持つ精霊が宿っていて女王様の身の回りのお世話をしているのです。

 さらに女王様たちが退屈しないよう大量の書物や娯楽施設、そして、いつでも美味しいものが食べられるよう様々な食糧が蓄えられて、その季節の間外に出れない代わりに、塔の中では贅沢な生活をおくる権利を持っていました。

 そのため毎回、自分の期間には快適塔ライフを送れていましたが


 ーーせっかくの楽して暮らせる期間だもの今冬は私、倒れるまで…いいえ倒れようとも遊びつくしてやるわ!!


 そう心に決め塔にやってきた冬の女王様は、秋の女王様との交代をスムーズに終えると、美味しい料理にデザートをテーブル一杯に用意して下さいな♪とすぐに豪華な料理を注文し三日三晩、眠ることなく精霊たちと歌い踊り、4日目にはさすがに疲れ果て死んだように眠りにつき、目覚めれば再び倒れるまで宴をひらく、そんな生活を冬の期間いっぱいまで送っていたのです。

 その結果…


「なんで外に出れないのよーっ!!」


 連日の猛吹雪、精霊の力が効果を発揮するのは塔内だけです、室内は暖かく過ごしやすい環境に保たれていましたが、塔の周りは分厚い氷が覆い、扉も窓もビクともしません。

 そう、冬の女王様は塔の中に閉じ込められていたのです。


「まあまあ、冬の女王様落ち着いてくだされ、そのうち時が解決してくれますじゃ」


 塔の中央に建つ古い大時計がそう言い冬の女王様をなだめます。


「そうね、大人しく塔の中で待っていれば解決…しないじゃない!あなたがそう言うから待ってみたけど、何も変化ないまま、もうひと月もたっちゃたわよ!」


 始めは冬の女王様も時が解決してくれるのではないかと楽観していましたが、そのアテは外れたようです。


「フォッフォッフォッ」


「いや、笑いごとではないわよっ!うう〜春の女王はるるん…この異常事態に気付いて、どうにかしてくれないかしら」


 さて本当なら交代して塔にはいっているはずの春の女王様はどうしたのでしょう?

 話はひと月前に遡ります。


 ◇


「クシュンッ…寒いぃ〜私と交代の日だっていうのにまだこんなに雪降らせて冬の女王ふゆゆんはどういうつもりなのぉ〜」


 春の女王様は期限通りに塔を訪れていました。


「ふゆゆ〜ん来たよ〜交代だよ〜」


 塔の前までやってきた春の女王様はそう声をかけますが中から反応はありません。氷が厚く塔の中まで声も届かなかったのです。

 春の女王様は首を傾げ、塔の扉へと近づきますが「あいたっ!?」と氷の壁に頭をぶつけ、行く手を遮られてしまいます。


「むぅ〜…こらー開けなさ〜い、私だーあけろー!こらー!」


 春の女王様はガンガンと氷壁を叩きながら大声をあげますが、氷はビクともせず、扉も開く様子がありません。

 そこへちょうど町の住人Aが通りかかりました。


「おや、春の女王様こんにちわ、寒いですがこれから春の期間ですね、よろしくお願いします」


 と住人Aはこれから塔に入るだろう春の女王様に挨拶をしますが


「う〜っ、寒い帰る!!」


 春の女王様はプンプンと怒りながらそう言うと「えっ?」と何が何だか分からず呆気にとられぽかんとした住人Aの横をすり抜け帰えられてしまったのです。


 ◇


 ーー再び現在、冬の女王様のご様子は…


「マズイわ…このままだと冬の女王は国を滅ぼそうとする悪い女王と思われ、あの温厚な王様も国の為となれば、私を討伐する兵士を送り込んできてもおかしくないわ…早くなんとかしないとっ!」


「フォッフォッフォッ」


「大時計は、もうだまっててくださるっ?!それに水晶、雑音ばかりでなんでお城に連絡できないのっ!?」


 相変わらず、落ち着いた笑い声をあげる大時計に怒りをぶつけつつ、テーブルの上に置かれた水晶を手に取る冬の女王様。

 本来、この水晶はお城にある水晶に念波を飛ばし連絡がとれる電話の様なものでしたが、それも厚い氷に阻まれ連絡出来なくなっていたのです。

 連絡なく外は猛吹雪、冬の女王様が国を滅ぼそうとしている悪女になってしまったと考えられても仕方がない状況です。


「うう〜、せめて外に私の状況を知らせる事が出来れば少しは安心できるのにぃぃ…この役立たずーーっ!!」


 冬の女王様はそう叫ぶと、水晶を床に思いっきり投げつけました。

 すると…

 カーン…カンカンカンカンカン!


「えっ?えっ!えっ?」


 床に弾かれた水晶は天井、更に弾かれ部屋中の壁に当たっては速度を増しながら跳ね回り。


「ほごぉ!ボディ!?」


 目にも留まらぬ速さとなった水晶はその勢いのまま冬の女王様のお腹へと体当たり、それでも止まらない水晶はスーパーボールのようにドドドドドドドドッと音を立てながら部屋中を跳ね回り冬の女王様に襲いかかります。


「肩ぁ!…顔はやめゴフゥ…フギャァ足指ィィィ…ガフゥ、脇ィィィ…」


 これはひどいたこ殴り状態です。

 そして、冬の女王様の直下で弾んだ水晶は顎へ強烈な一撃。

 冬の女王様はたまらずノックアウト、地面へ倒れてしまいます。でも大丈夫。


「グフぅ、私でなければ死んでたぞ…」


 季節を司る女王様たちは他の人たちより体が丈夫なのです。この程度、冬の女王様にはかすり傷にもなりませんが、普通の人なら大怪我をするので真似はしないようしましょう。


「ぬぅぅ、どうしましょう」


 冬の女王様はむくりと立ち上がると再び考え始めました。


 すると


「女王様、僕たちに考えがあります」


 と部屋のキャンドルが声をかけてきました。

 キャンドルの話はこうです。中の温度を上げれば塔表面に張り付いた氷を解かせるのではないかと、藁にもすがる思いの冬の女王様、キャンドルに塔の中の温度を上げるように命令します。

 すると

 キャンドルの炎は大きくなり内部の温度を上げていきますが、そこになぜか都合よくあるお祝い用の打ち上げ花火の導火線、当然の如く都合よくキャンドルの炎で着火。


 ドドーンヒューンドドドドンッ


 大爆発。

 次々に誘爆し部屋の中は色とりどりの火花が咲きほこりました。


「ゴホッ…ゴホッ…ゴホッ」


 ようやく爆発が止み煙の中から現れた冬の女王様の姿、体中黒く汚れ、普段は奇麗で艶やかな青髪がチリチリのアフロヘアに…

 冬の女王様だからこそこの程度で済んだのです皆さんは決して真似は以下略


「フォフォフォ」


「ぐぅ、何が可笑しい大時計…もうヤダァー」


 そう言って冬の女王様が座り込んだ時です。


「おいらたちを誰か呼んだかい?」


 塔の固い床を貫いて顔を出したのは鼻先に強力なドリルが付いていて、どんな固いものも掘り進むことが出来るドリルモグラです。


「へっ?モグラがなんで此処に?」


 冬の女王様は尋ねると


「何言ってんだい、さっき地面を叩いてドリルモグラ暗号でSOSを送ってきたじゃねいかい!」


「暗号…?はっ!」


 そうです、先程、水晶は只ムダに跳ね回っていただけではなかったのです。

 お城に連絡が出来なくなった代わりにドリルモグラたちに助けを求めていたのです。


「水晶あなた…それ私をたこ殴りにする必要はあったか!?」


 冬の女王様は水晶にお礼を言いかけますが先の仕打ちを思い出し睨みつけました。


「ハァ…まあいいわ、それでドリルモグラさん…」


 冬の女王様はドリルモグラに春の女王様と王様にこの状況を知らせるようにお願いをし、駆けつけた春の女王様と城の兵たちにより塔から抜け出し無事季節の交代を致しました。


 これに懲りた冬の女王様は塔では度の越えた乱れた生活は控えるようになっそうです。

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