日曜日
日曜日。こういうのは早めに行動した方がいいと、昨日の内に届いた荷解きもほどほどに外に出る。クロはまだ呑気に夢の中で、すぴすぴ鼻を鳴らしては前足を動かしている。
「あれ? 受け取ったんだ」
202号室のドアノブには何もかかっていない。少し意外に思っていると、階段を登ってきた新居地さんと鉢合わせした。
「おや、おはよう。こんな朝早くからどうしたんだい」
「新居地さん、おはようございます。いえ、昨日101号室の方に渡し忘れてしまって」
昨日渡した袋をひょいっと持ち上げて見せる。
「偉いわねぇ、あのご家族ならまだ部屋から出ていない筈よ」
「新居地さんは詳しいんですね」
「そりゃずっと此処に居るからねぇ、旦那も死んで年金暮らしだし、日がな一日私は犯人を見張って街を守ってるつもりなのさ。知ってるかい? 何故かここの住人はね、殺人事件が起こってもこの裏野ハイツから出て行かなかったのさ。あたしはね、一番犯人に近いのは102の市野仁だと思ってるけどね、このハイツの人間の誰が殺人犯だったって驚きゃしないのさ。まぁあんたとあたしを除いてね」
冗談なのか本気なのか解りづらいままウインクを一つして、新居地さんはその手にホウキとちりとりを持ったまま近付き昨日の様に顔を寄せた。
「あんた、昨日櫟の奴に会ったんだろ? 気をつけな、あの男はアタシをイカレた婆さん扱いしてくるけど、アイツこそ普通のフリしてるだけの狂人だよ。自分が狂ってんのがバレないように他の奴等をイカレてる呼ばわりしてるんだ。あんたも見ただろ? 102号室の市野仁を。あんなのがまともな筈ないのに、アイツは隣の奴に関しちゃなぁんにも言いやしない。そりゃそうだ、態々煩くない寝てる虎にまで粉かけて偽装する必要はないからね」
ホウキがミシリと音を立てる。下から覗き込んでいた新居地さんが、少し顔を白くこけさせながらぼそりと低い声で言った。
「櫟の秘密が知りたいならねぇ、来週の土曜の夜に裏のナツツバキの下に行ってみるといいさ」