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信じるべきは




「やぁ三竹さん、昨日は大分天気が荒れてたねぇ」

「新居地さん…、そうですね。あんなの初めてだったもので、慌てて部屋にとんぼ返りしましたよ」

「へぇそうだったのかい。大丈夫だったかい?」


 自然な流れの様に聞かれる。年長者としての心配そうな顔。しわくちゃの、細い、けれど蛇の様に絡み付く力を持つ老婆。


「…何がですか?」


 もう跡が消えた筈の痣があった場所をさする。小柄な体躯がいっそ態とらしくきょとりと目を瞬かせた。


「洗濯物とかだよ。急に降って来たから急いで帰ったんだろう?」

「…ああ、大丈夫です。昨日は2着ぐらいしか干してなかったんで。それよりも傘持って行ってなかったのが痛かったですね」

「そりゃ大変だ。あんたも若いとは言っても風邪引かないか気を付けなきゃねぇ。…そうだいえば、三竹さん、あんた昨日櫟のとこに行ったかい?」


 新居地さんは、途端先程までの面倒見良さそうな顔をぐにゃりと歪ませ豹変させる。

 どっちだ?確信を持って聞いている?確信があるなら何故知っている?また見ていたのか?


「ええ、正直、驚きました」

「ああ、遠慮しなくていい、私は偶然知って以来あいつが気味悪くて仕方なくてねぇ。あいつはアタシが見ちまったのを知ってんだ、だからアタシを狂人扱いする。これであんたも分かっただろう? どっちの言葉を信じるべきか。まぁ下手に避けたらあいつに疑われるからね、アタシが2号室と櫟を見張っといてやるから、あんたは大人しく過ごしとくんだよ」


 それは優しさか、騙りか


「あの、実は今週の木曜日に引っ越す予定なんです。すいません、色々心配して頂いたのに」

「ええ? そりゃ…突然だねぇ。でも、そっちの方がいいかもね、あんたは若いんだし、こんなジジババが居るとこよりももっと良いとこに住みな」

「はい…、ありがとうございます」


 自分の顔を隠すように頭を下げた。




「ああ、残念だねぇ、そう、それは、残念なことだねぇ」






 ピンポーン


 日曜日の昼なのにインターホンが鳴る。訪ねてくる人に心当たりなどないので、訝しさと警戒心が募る。だが、こんな昼日中に犯人が訪ねてくる筈もないだろう。

 私は手元の白いビニル袋を冷凍庫に戻すと、恐る恐るドアに付いている覗き穴から外を伺った。そして、そこにある姿に慌てて外へと顔を出す。


「こんにちはぁ、突然すみません、僕達は…――って、あれ?あの時の。此処だったんだね」

「は、はい、その節はどうも」


 ドアの外に立っていたのは、いつぞやの痩せぎすとガッシリペアの警察官であった。


「おい、まだ聞いてねぇ家はいっぱいなんだ、チンタラすんな」

「はいはい、別に雑談続けないってば。ええっと、ごめんね、それであの時と同じなんだけど、何かあれからニュースやら何やら見て思い当たったこととかないかな?」

「す、すいません、お力になりたいのですが…」

「いや、いいよいいよ、嘘ついてなさそうだし」

「お前は毎度適当過ぎなんだよ!」

「やだなぁ、優秀過ぎるんですって」


 これでも嘘発見器バリなんですよ?と笑いかけられる。冗談かどうか分かりにくいが、愛想笑いをしているとふと頭を過ぎるものがあった。


 警察は所詮金?


「あの…」

「ん?」

「…いえ、あの女の子は見つかりそうですか?」


 すんでで結局呑み込んだ。武二の言葉を信じるでもないが、一連のことを説明しようとするとどうにも自分が可笑しい人間にしか思えないのだ。このハイツの人間は皆狂っていて、だからクロを殺した犯人はこの中にいると思うんです。10年前の事件の犯人であるかもしれなくて、私も殺されるかも…なんて。 

 私は自分に言い聞かせる。そう、火曜が来てから警察に相談するか決めればいい。


「ええ、大丈夫、もうすぐ解決出来そうですよ」

「おい、だからお前は口が軽い!!」

「いいじゃないですか、それよりも、本当に聞きたいことはそれだけ?」


 変に邪魔されるのは困る、でも疑いの目が向けられるのも困る。へらへらと口元を緩めながら私の返答を待っている警察官を私は見た。


「ええ、それだけです」


 そう、邪魔されるのは困るのだ






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