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39.スカーレットラースゴーレム

「ああ、問題無いぞ。とっととやっちまってくれ」

 杏香の問いに、ブリーツが答えた。

「オッケー、あたしはガウスガドリングと榴弾砲を同時に操作するから、ブレイズはそのぐにゃぐにゃブレード頼んだわよ」

「了解だ。でも、大丈夫なのか?」

「防御面を考えなけりゃ、どうにかやれるわ。そっちもガンガン攻撃しちゃって!」

「へっ、面白れえ! こういうの、大好きだぜ!」

 WG(ウォーゴッド)Σ(シグマ)から様々な武器が一斉に放たれる。それが七つ目に命中すると、激しい爆炎と共に、赤黒い瓦礫が周囲に飛び散った。

「うおおおおおお!」

 マクスンの叫びが轟く。縦横無尽(じゅうおうむじん)は七つ目との間合いを一気に詰めると、まさに縦横無尽(じゅうおうむじん)に七つ目の周囲を飛び回り、両手の魔具(まぐ)で次々と、七つ目の体を斬り付けていった。


「そろそろだぜ、準備はいいか?」

 ブリーツがカノンに声をかける。

「……うん」

 カノンはそう言って、ブリーツの手をきつく握りしめた。

「はー……」

 ブリーツが溜め息ともとれる深呼吸をしながら、七つ目を見据える。

 相変わらず周りの事を一切考えずに暴れている七つ目だが、WG(ウォーゴッド)Σ(シグマ)縦横無尽(じゅうおうむじん)の攻撃で、七つ目の外側は見る見るうちに剥がれ、中の液体のような部分が剥き出しになっていった。


「よし……そろそろいくぜ?」

 ブリーツがそう言うと、カノンは無言で頷いた。

(けが)れしその身に解呪(かいじゅ)(げん)を……ディスペルカース!」

 魔踊剣舞(まようけんぶ)の左手から放たれた一筋の光が、真っ直ぐに七つ目に向かっていく。

「始まったか」

「タイミングはばっちりね!」

 マクスンと杏香が、なおも攻撃を続けながら言った。

「おおおおお……!」

 ブリーツは、自らの体内から急激に魔力が流れ出るのと同時に、カノンの手から引っ切り無しに流れ込む魔力を感じていた。

「凄えな……!」

 カノンの魔力量に驚きを隠せないブリーツだが、そんなブリーツに七つ目の瓦礫が迫る。


「させんぞ!」

 縦横無尽(じゅうおうむじん)のフレムベルグが、七つ目から放たれた瓦礫を一刀両断する。

 七つ目は、自らの体が削れているにも関わらず、なおも周りから瓦礫を吸い寄せ、それをWG(ウォーゴッド)Σ(シグマ)縦横無尽(じゅうおうむじん)、そして魔踊剣舞(まようけんぶ)に投げ付けている。

「おっしゃあ! いけるぜこれなら!」

 ブレイズが叫ぶ。七つ目の体は見る見るうちに小さくなっていき、吸い寄せられる瓦礫の量も、目に見えて少なくなっている。

「しっかし凄いなあ、お前の魔力量。どんだけ底なしなんだ?」

「もうすぐ……尽きる」

 ブリーツに流れ込む魔力が徐々に弱くなっていく。それに伴って、魔踊剣舞(まようけんぶ)から放たれている光の筋も、徐々に細くなっていった。

「……へ?」

「でも、まだ絞り出せる。だから……」


 カノンは徐にブリーツに顔を近づけた。

「むぷっ……!」

 そして、カノンはブリーツの唇と自分の唇を深く重ね合せた。

「うん……ん……」

「ん……」

 ブリーツは驚いたが、反射的に振り放そうとする気持ちをぐっと抑え、受け入れた。その意味を知っていたからだ。

 魔力の受け渡しは、その方法を知っている者同士ならば、体を触れ合わせることで可能だ。だが、もっと効率的で強力な方法がある。それは体内から体内へ直接移動させること。そして、その方法の一つが「口付け」だ。

「んっ……んんんんんんっ!」

 ブリーツは、カノンの口から驚く程の魔力が体内に入っていくのを感じた。底を尽きかけているといっても、元の量は膨大だ。ブリーツにとっては驚異的な魔力を、カノンは絞り出している。

「すげえ……!」

 ブレイズはカノンと口づけをしたまま、もごもごと感嘆の声を漏らした。ディスペルカースの光は太く、力強くなり、それとは対照的に、七つ目はその体を削られ、徐々に小さくなり――遂にはディスペルカースの光に包み込まれてしまった。


「やったぜ!」

 ブレイズが叫ぶ。

「まだだ!」

 マクスンは声を張り上げた、ブレイズの叫びを掻き消すかのように否定した。

「まだ核が残っている!」

「核? ……あ!」

 マクスンの言葉を聞き、杏香はモニターの倍率を拡大させた。すると、そこには透明で、それでいて濃い色をした、暗赤色の石があった。その石からは赤黒い液体がしみだして、ポタポタと地面に滴り落ちている。あれが七つ目の本体だ。


「あの状態なら、Σ(シグマ)で……!」

 杏香はWG(ウォーゴッド)Σ(シグマ)を七つ目に向けて急発進させた。

「おい、杏香!?」

「あれがある限り、七つ目は再生する! 急いであれを壊すのよ!」

「ちっ、面倒臭えな!」

 ブレイズもWG(ウォーゴッド)Σ(シグマ)を操縦し、ブレードを構えさせた。

「だが、再生なんてさせねえ!」

 ブレードを構えたWG(ウォーゴッド)Σ(シグマ)が、七つ目に向かってブースターを最大出力で噴出させる。

「うおっ、何だ!」

「ブースターが……!」

 WG(ウォーゴッド)Σ(シグマ)のブースターは、最大出力の二倍くらいの炎を噴出し、爆発、四散した。

「なんてこと……七つ目の攻撃が、予想以上にダメージを与えてたのよ。それなのに最大出力を維持し続けてたから……」


「冗談じゃねえ! まだだ! まだ決着は付いてねえ!」

 ブレイズはコックピットハッチを開けた。

「え……ちょっと、ブレイズ!?」

 杏香は直感的に、嫌なことを感じ取った。

「まさか……生身で七つ目に突っ込む気!?」

「杏香だってやっただろうが! とどめだぜ化け物! うおおおおおおおお!」

 ブレイズは案の定、コックピットからジャンプした。

「うわああああ!」

 ブレイズの跳躍が七つ目まで届く筈がなく、ブレイズの体は為す術もなく落下を始めた。

「あの馬鹿! 届くわけ無いでしょうが!」

 杏香は毒づきながらもWG(ウォーゴッド)Σ(シグマ)のバランスを取るのをやめ、コックピットハッチを開けた。そして属性銃ハイブリッドブラスターを取り出し、素早く属性弾を装填した。

「<風>と<圧>重衝撃波(ウィンドプレッシャー)!」

 杏香は属性銃ハイブリッドブラスターを後ろに向けると引き金を引いた。すると、杏香の体は勢いよく、宙へと投げ出された。

「ブレイズ!」


 抜け殻となったWG(ウォーゴッド)Σ(シグマ)は為す術もなく地面に倒れ、宙に投げ出された杏香は、落下しているブレイズの元へと滑空し、向かっていく。

「うわああああ……あっ!?」

 杏香は抱きつくようにして、両手でブレイズの体を抱え込むと、その更に先にある七つ目のコアへと、視線を向けた。

「おおっ、ナイスキャッチだぜ杏香!」

「喜んでる場合じゃないわよ。チャンスは一回。その腰のブレード、有効に使いなさいよ」

「ああ、分かってる!」

 ブレイズは腰のブレードを引き抜き、前に突き出すように構えた。

「うおおおおおお! 壊れろぉぉぉ!」

 二人はそのまま七つ目へと突っ込んでいきブレイズのブレードの切っ先が、七つ目の核とぶつかり合った。

 七つ目の核がカキンという一音を放ち、ほんの数ミリのひびが入った頃には、二人の体は核を通過し、核の遥か後方へと遠のいていた。


 数ミリのひびは徐々に広がっていき、それが全体に達すると、一番間近に居るブレイズと杏香にも聞こえないほどの、小さな音を立てて、粉々に砕け散ってしまった。

「おっしゃあ! やったぜえ!」

 核が砕け散ったことを知ってか知らずか、ブレイズは歓声を上げた。

「落ちながら燥ぐな!」

 杏香の声も、荒れ果てた森林に木霊する。

「お疲れさん」

 二人を受け止めたのは、魔踊剣舞(まようけんぶ)の掌部だった。

「おお、サンキュ、助かったぜ」

「どーいたしまして」

「へへっ、ブリーツだったか? 虫っぽい機体のパイロット、お前もよくやったじゃねえか。ちょっと降りて話しねえか?」

「……ああ、丁度いい。俺も話したいことがあるんだ」

「へへ……お互い、ゆっくりと(つら)あ見てみてえもんな」

「ああ……そうだな……」


七つ目は倒せましたが、相応の代償もありました。そして、杏香とブレイズ、カノンとブリーツの共同作業……と結構目まぐるしいこの章ですが、物語は終息していくのです……。

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