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29.暗赤色光

「師団……長……」

「サフィー、離れろ! なんかやばそうだぞ!」

 ブリーツが叫んだ。

「……くっ!」

 気持ちの整理が出来ないサフィーだったが、その気持ちをどうにか頭の隅に追いやり、横たわったザンガ師団長から走って離れた。

 その瞬間、辺りがぐらぐらと揺れ始めた。

「杏香、地震」

「うん。これが呪いの力なのかしら」

「いや、これはだな、地震に見せかけて、実は地面は揺れて無くてな、この砦の方が揺れてるんだよ」

「そんなわけないでしょ! ……って、嘘! 本当に、地面は揺れてない!?」

 カノン、杏香、ブリーツ、サフィーはそれぞれに異変を感じ取っていた。


「うん? 何?」

 杏香が呟いた。ザンガから、暗赤色の光が漏れているように見えたのだ。

「光ってる……」

 カノンが呟いた。

「うおお! 師団長が赤く燃えているぅ!」

「こんな時にふざけてる場合か! この状況、相当やばいわよ!」

 ザンガの体の端から発生した暗赤色の炎は一気に広がり、見る見るうちにザンガの体を包んでいく。


「この炎も気になるけど、確かに、地下でこの揺れは良くないわね、上が崩れたら一巻の終わりだわ」

 杏香が言うと、サフィーがそれに同意した。

「さっさと出るわよ!」

 ブリーツとサフィーが走り出した。二人は部屋に一つだけぽっかりと開いた、縦長の四角い穴へ向かっている。

「罠とか、無いでしょうね……?」

「分からないわ」

「ええ? だって、ずっとここに居座ってるんでしょ?」

「居座ってるんじゃないわ! 守ってるのよ!」

 杏香の言葉に、サフィーは反射的に反論した。

「ああ……ごめん、言い方、悪かったわ」

 思慮が足りない言い方をしてしまったと、杏香が謝る。

「俺達だって、こんな部屋初めてなんだよなぁ……」

「ええ……まさか、こんな空間があったなんて……」

「ま……今まで呪いのことも隠し通してきたんだ。こんな小さい部屋くらい、簡単なんだろうぜ」

 サフィーとブリーツの会話を聞いて、杏香も納得した。

「ああ、そりゃ、そうよね。こんな、あからさまに怪しい部屋、放置しておくわけがないか……」

「ひとまず……あそこから出るしかないんじゃないか?」

 ブリーツの指差した先は、外とつながる唯一の通路だ。杏香が侵入してきた場所は、新たな瓦礫が崩れてきたせいで塞がってしまっている。

「珍しくまともなこと、言うじゃない」

 サフィーもそれに同意した。天井に穴を開けて侵入してきた杏香達と同じで、サフィー達も、あの通路を意識の無い状態で、運ばれて通ってきたのだから、何があるか分からない。

「杏香……行く?」

 カノンにとっては敵側の二人が勧めているので、カノンはその意見に慎重になっている。

「行きましょう。上の廊下との位置関係から考えると、一般的な砦の作りなら大丈夫そうね」

 杏香がそういうと、カノンが頷いた。この何が起きるか分からない状況では、無駄に属性弾を消費するのも得策ではない。通路を使う方を選ぶ方が賢明だ。

「でも、念のために確かめてみましょう」

 杏香は、部屋の中の、まだ生きている獣の檻を開け、その隣に置いてある、鳩の入った鳥籠も開け、中の動物たちを解放した。動物たちは、一目散に入口の方へと走っていった。

「……野生の感を信じましょう」

 杏香が言うと、ブリーツも同意した。

「ま……俺達より動物の方が先に住んでるしな」

「なんか、二人、息が合って……」

 サフィーの言葉が途切れる。

「小石……が……?」

 サフィーの視線の先を、杏香が見た。

「え? ……本当だ、小石が動いてる……」

 小石が、まるで風に運ばれているかのように、じわじわと、出口とは逆方向に移動している。杏香はそれを見るために一瞬床を見た。すると、杏香の第六感が、危機を告げ始めた。


今回はちょっと量少な目です。分割すると、一つ二つ、こんな感じの短い話が出来てしまいます。

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