20.次の任務
「考えれば考えるほど無茶よね、今回の任務は……」
杏香は顔深刻な顔をしながら腕組みをしている。目の前に広がる荒野が、その思いを更に加速させているのかもしれない。
「それにしても妙だわ……」
土煙を上げながら荒野を移動するWG―Σの中で、杏香はレーダーを見ながら何回も、無茶だ、妙だと同じ言葉を繰り返していた。
「さっきからそればっかじゃねえかよ杏香。ちゃんとレーダー見てんのか?」
「うん? ……うん」
杏香は曖昧な返事をした。誰かに敵の機体に見つかれば見つかるほど難しくなるのが今回の任務なので、杏香はいつも以上にレーダーには集中しているのだが、返事は曖昧だ。ある違和感が頭の中に纏わりつき、それについて考えることをやめられないでいることも確かなので、自分が本当に集中できているのか分からないからだ。
「杏香、この任務のこと、まだ気にしてる?」
カノンが心配そうに言った。
「ええ……だって、あれほど大切にしてたWG―Σを、ここにきていきなり危険に晒すなんて、おかしいと思わない?」
カノンの言う通り、この前の、この任務に関する会議のことが、杏香の頭の中に未だにこびりついている。
「それに、呪術砲の時の襲撃もあったのに、計画はむしろ前倒しされてるのよ。Σの整備もやたらと急ピッチだったし、カノンのこともあるわ」
呪術砲の時の、魔力の大量消費による副作用も酷かった。杏香の憂鬱の原因は、呪術砲の一件で、カノンの魔力が異常をきたしていないか不安なことからもきている。
「私、大丈夫。魔力は完全に戻ってるって、なんとなく分かる」
「カノンが言うなら大丈夫なんだろうけど、未知の部分もあるし……あれだけのことがあったのに、あまり深く調べようとはしてなかったってのは、どうもね……」
いつものメディカルチェックも、これといって手厚くするわけでもなかった。WG―Σの検査も、カノンの検査も、何か特別なことがあった時は、いつもよりも細かい検査をしていたのだが……。
「確かにまあ……杏香の傷も、まだ治りきってないしな」
ブレイズも、思い出したかのように苛立ってきた。
「あたしは別に、いつも通り動けるくらいにはなってるからいいけど……いえ、それも引っ掛かるか……自分で言うのもなんだけど、今回の作戦では、あたしは肝の部分だし、命令する側だったら万全な体勢にはする筈よね……」
「呪術砲にびびっちまったんじゃねえの?」
「そんなことだったら、これまでだって何回もあったわ。黒閃とかね。それでも、こいつを自ら危険に晒すような命令は一度も無かったのよ。なのに、急にさ。おかしいとは思わない?」
「ん……そ、そうだな……あー……カノン……?」
「ブレイズ、分からないなら分からないって言った方がいい」
「うっ……」
カノンの冷静な分析が、ブレイズに突き刺さる。
「でも、私にも難しい……確かにおかしいけど……」
カノンが考え込む。
「カノンでも難しいのか。じゃあ俺には分からねえな」
ブレイズは完全に開き直り、そう言った。
「あんたね……あんたこそ、ちゃんと見てるんでしょうね、レーダー」
杏香が画面の左端に、ブレイズのコックピットの画面を映した。
「おお、勿論だ。さっきからずーっと見てる」
ブレイズが、つまらなそうに頬杖をしながらレーダーの方を見ている。見れば見るほど「一応」見ているように見えてくる。
「あのね……見てるだけじゃないでしょうねー、注意して見てんの?」
「……やってるよ。カリカリすんなよ。てか、会議のことなんてよく覚えてるなあ、俺なんて女WGの所しか覚えてないぜ……くくく」
「くすっ……」
ブレイズとカノンの、堪え切れずに漏れた笑い声が、通信機を通して杏香の耳に入る。ブレイズにいたっては、足をバタバタとさせながら笑い転げている始末だ。
「もー、あんた達ね……あの突撃隊長のセンスでよく笑えるわね」
「だってよ、杏香がSTやリーゼだったら丁度そんな感じじゃねえか! ガオー! って」
「あたしゃ怪獣か! てか、それもうSTとかリーゼじゃなくなってるわよ!」
「ふふ……あはは!」
カノンが声を上げて笑った。二人の絶妙な掛け合いが、なんとも面白いからだ。
「カノン、笑い過ぎだって……でも、ま、なんかリラックスしてきたかも。ありがとうね」
「へっ、考え込む杏香なんて、杏香らしくねえからな」
「なんか引っ掛かる言い方だけど……うん? これは……」
杏香は思わずレーダーを凝視した。
「あ……敵機、接近」
杏香の通信を聞き、カノンもレーダーを見た。
「すぐにブースターを止めて。この様子じゃ、気付いてなさそうだけど……」
「やっちまおうぜ、この数なら一瞬だ!」
「気付かれるの、良くない」
いつものブレイズの反応に、カノンもいつものように冷静に突っ込んだ。
「うん……なるべく気付かれずに行きたいところね。こいつらの動きに警戒しながらゆっくりと進みましょう」
なおも舞い上がっている土煙を背に、WG―Σはブースターを使わず、ゆっくりと歩き出した。
この砂煙も誰かが気付かないうちに収まってくれればいいが……。杏香はそう思わずにはいられなかった。
ガオー!




