18.赤い光
「第二部隊が全滅……!?」
杏香達は一射目の呪術砲に愕然としていた。突然、目の前を禍々しい赤い光が横切ったかと思ったら、部隊が一つ、消滅していたのだ。
「こんなのがあるの……? こんなのまともに受けたら、WG―Σだって……」
「右、敵がいっぱい」
カノンがレーダーとモニターで確認した。
「第二部隊がやられたから、一気に攻めてきたわね。あたしが榴弾砲で数を削るから、寄って来た奴らは頼むわよ!」
杏香は、赤い光に圧倒されている気分を払うかのように、首を小刻みに横に振った。
「任せろよ!」
ブレイズが猛る。
「着弾地点指定……自動計算……そこっ!」
杏香の手で、榴弾砲が発射される。出来るだけ敵軍のリーゼが集中している所のど真ん中に落ちるように着弾地点を指定している。
「……いける、相対座標、手動修正……二発目発射!」
杏香は素早く、更に細かい修正をかけ、榴弾砲の二射目を発射する。
「敵さん来たぜ!」
ブレイズが、高速でWG―Σに近付いてくるリーゼの集団をモニターに見た。
「後ろにも」
カノンが言った。リーゼの集団の更に後ろにも集団が形作られている。その遠目に見える姿から察するに、ウィザードエンチャンターの集団だろう。
「高速型が切り込んで来たのね。後ろの集団、全部ウィザードエンチャンターってことは補助役? にしては数が多すぎるけど……とにかく、あたしが榴弾砲で狙ってみる」
「頼んだぜ、俺は前衛を片付ける!」
「敵、散開」
高速型のライトムーバーは散開し、それぞれWG―Σの周りを動き回りながら攻撃し始めた。
「無駄だ!」
ブレイズは、WG―Σの右手に握られたブレードを大きく横に振り、上半身も回転させた。するとブレードは見る見るうちに蛇腹状になり、しなった。
「回転切りで片付けてやる!」
ブレイズはなおもWG―Σの上半身を回転させ続けている。
「ちょっとブレイズ、これじゃ照準が定まらない!」
杏香が文句を言った。これほど強烈に動かれると、榴弾砲の照準がブレブレになってしまう。
「ちょっとだけだって! 前衛を片付ければ、思う存分後衛をやれるぜ」
WG―Σの胴体はそのまま一回転をし、蛇腹状に伸びきったブレードも、それに合わせて、WG―Σの周りを大きく一周した。
「どうだ!」
「一機は撃破。でも二機、まだ動ける」
「ほら! 補助魔法使いの後衛に接近されたのよ。後衛優先よ、後衛優先!」
「……来る、オーブ」
カノンの声を聞いたブレイズと杏香はモニターを見た。モニターには大量のオーブがこちらへと向かっている様子が映し出されていた。
「ちっ、また面倒なのが来たわね。こいつら、徹底的にΣの足を……足……止め……?」
ふと、杏香が気付いた。こいつらはWG―Σの足止めに徹している。
「バリアを」
WG―Σの周りに小さな魔法陣が形成される。カノンが魔力を用いた武装を使ったのだ。
「こんなオーブくらい盾と装甲でどうにでもなるぜ! 無駄に魔力を消費させるなよカノン!」
ブレイズがブレードと盾を操作しながら言った。
オーブは空中を縦横無尽に動き回るが、そこから発せられる攻撃はそれほど強力なものではない。WG―Σの装甲なら、ほぼ無力化できる。
「二人とも、Σを一旦退かせるわよ」
杏香がコイルガドリングでオーブを撃ち落としながら言った。
「ええ? 何でだよ、折角のってきたところなのによお!」
「相手の動きがおかしいわ! 何機か撤退してた!」
「逃げたんだろ! 怖気づいたんだよ!」
「ならいいけど、執拗にWG―Σを狙う理由があるはず……あ!」
杏香が叫ぶ。
「撤退したのは魔法主体の機体よ! 急いで、二発目が来る!」
「二発目?」
「あれだけの魔力を取り扱うんだから、それなりの魔法使いが……うあっ!?」
「うおっ!?」
突然、杏香とブレイズが声を上げた。WG―Σの両手には、いつの間にか稲妻で出来た手錠がかけられていた。
そして、更に次の瞬間、WG―Σの足元を囲むように、厚い氷の壁が現れた。
「しまった……! プラズマバインドとアイスプリズンよ。ブレイズ、急いで引きちぎって!」
WG―Σの足止めに必死になっているということは、その先にある目的は何なのかは明白だ。杏香は頭の中でいくつかの目的を思い浮かべて検証してみたが、絞り込むことは容易にできた。
絞り込めたからこそ、焦燥感ばかりが増していく。この場に留まったらWG―Σもあたし達もただでは済まない。
「お、おう」
ブレイズは、WG―Σの両手を広げた。WG―Σの両手はプラズマバインドの弛みが無くなったところで一旦止まったが、十秒も経たないうちにプラズマバインドを引きちぎり、両手は思いきり外側へと広がった。
「おっしゃあぁ!」
杏香はそう叫びながら、WG―Σをジャンプさせた。
榴弾砲の砲身の高さを除いたとしても、単純な高さなら、高層ビルをゆうに超すであろうその巨体が宙を舞い、アイスプリズンを悠々と飛び越えた。
「よし、後は急いでここから……あっ……」
杏香は敵機の動きを見て、背筋が凍った。
「残りの機体、退いてく」
カノンが淡々と言う。
「し、しまった、遅かった!?」
杏香の顔が青ざめる。杏香の思い浮かべた作戦が、最悪なかたちで成功しようとしている。
「何だ、どういうことだ?」
ブレイズはわけがわからず狼狽しているが、説明している時間は無い。杏香は急いで二人に指示する。
「とにかく逃げるのよブレイズ! カノン、魔法バリアの準備を。かなり強力なのが来ると思う」
「了解」
カノンが、いつものように抑揚のない返事を通信機に流した。杏香は最大速度でWG―Σを呪術砲の効果範囲内から逃がそうと、足のブースターを吹かした。
「これなら……ぎりぎり間に合うかも!」
杏香が少し安心した瞬間、猛スピードでこちらに突っ込んでくるナイトウィザードが、モニター越しに目に入った。
「あいつ一機だけ動きが……マズいっ!」
杏香が気付いた時には、ナイトウィザードはすぐそこまで迫ってきていた。
そして、回避行動をする間も無く、ナイトウィザードはWG―Σへと衝突し、バラバラに砕け散った。
「なっ……凄い衝撃……こいつもただのリーゼじゃない……? いえ、防御と速度アップのバフをかけられてるだけか……!」
杏香が急いでWG―Σの位置を確認する。WG―Σは杏香の思った以上に押し戻されていた。完全に呪術砲の効果範囲に入っている。
「だめ、間に合わない……来る……!」
杏香の目に、第二部隊を全滅させた光と同じ、赤い光が映った。
手錠をかけたり氷の壁を作ったり、魔法も多彩になってきました。
前作「内気な僕は異世界でチートな存在になれるか?」では道具を作るための魔法も出てきました。




