路上のタンポポ 9
第4章 崩壊、そして再起。
放課後、僕は一人で帰る支度をして席を立とうとした。
その時、教室でひときわ大きい笑い声が聞こえた。
「あはは、何それ美春。それチョー、おかしいよ」
「そんな事ないよ。私,おかしくないもん」
「でも、上履きで校舎の外出ないよ、普通。小学生じゃない
んだから」
「それは、あれだよ。ほら、何か楽しい事考えながら校舎出
ようとすると、つい、脱ぐのを忘れてしまう事があるじゃ
ない?それと一緒だよ」
『そんなの美春だけだよ』
「そうかな?」
それでまたこの子達は爆笑するのだ。
もう、高校が始まって2週間になる。最初はまだ緊張し
ていたためか、あまり動かなかった、寺島さんが三日ぐら
い経った頃にはその明るさでクラスの視線を一身に集める
結果となった。
確かに額田君が言った通りに寺島さんはおもしろい。た
だ、単におもしろい人じゃなくて、いるとほんとに自然に
笑える。すごい人だ。
それに比べて僕は............。
僕はせっかくできかけた友達を失いつつある。今でも僕
と額田君はお昼を食べるが、明らかに食べる機会はどんど
ん少なくなっている。
僕はどうすればいいのか?
そう思いながら家路の道を辿っていった。
家路につくと、今まで咲いていたタンポポが今日は散っ
ていた。
なぜかはわからない。まだ、咲いていると思っていたの
に。
そう、思いながら僕は家に入っていった。
夕食の時。今日の料理は餃子と野菜炒めだ。それを食べ
る。気分が鬱々としてもこういうものはおいしく食べられ
る。
しかし、康子さんには少し気づかれたようだった。
「どうしたの、一樹君?」
「?、なにが?」
「いえ、何か、最近元気がなさげよ。登校仕立ての頃はあん
なに元気だったのに、今は何か元気がないわ」
「...............ちょっと、いろいろあって。...............現実は
想像どうりには中々動いてくれなくて、それを今更ながら
痛感してるのですよ」
「まあまあ、若いのにそんな事を考えているの。それはいけ
ないわ、もっと明るい事考えないと」
「はは、そう、中々考えられないのですよ.........」
そう僕は言った。世の中どうしようもない事がある。こ
の事例はどうにかなるかもしれないが、僕にはどうすれば
いいのかわからなかった。
夕食後。僕は叔父さんとソファに座ってテレビを見てい
た。見ていたテレビは歌番組だ。僕には今のメジャーの歌
は加奈子以外はピンとこない。
それはともかく、僕はおじさんと一緒にソフャに座って
いる。別に僕も叔父さんも歌番組が見たいから座っている
のではなくて、ただ食後にコーヒーを飲んで別に見たくも
ないテレビを見て、そういう何も考えない時間がある。こ
ういう時に人に何か話したいという気持ちになっていく。
何か食後の雰囲気はそういう魔力を感じさせるのだ。
それで僕は叔父さんに学校の事を話してみようと思った
のだ。
「叔父さん、少し話したい事があるんだけど......」
「ああ、なんだ」
叔父さんはテレビの音量を下げてくれた。
「学校の事だけど、あまりクラスの人となじめていない、と
いうか、学校生活そのものが自分にとってきついよ」
「そうか、そうか」
おじさんは優しく笑っていた。僕はそんな叔父さんに重
ねて悩みを言おうとした。
「それでさ、せっかく友達ができかけたのだけど、その友達
が僕からはなれていくんだよ。趣味が違っていてはなれて
いくんだ」
叔父さんは微笑んだまま聞いていた。そして、今まで僕
がたまっていた思考のもつれを言う事にした。
「どうすれば友達と仲良くなれる?」
それに叔父さんは身体を前に乗り出して言った。
「一樹君。これは覚えておいてほうがいいのだけど、友達は
そういう意図的に作るものじゃなくて、自然に気づいたら
友達になっていた、というあり方しかないんだよ。意図的
に作る友達はやはりどこかいびつなものを抱えていると叔
父さんは思うな。まあ、一樹君は若いのだから焦らなくて
も友達はできてくると思うよ」
僕はそれを聞いて、友達を作るのってそんなものか、と
思ってしまった。今までのイメージだともっと、対人関係
のスキルを身につけなければできないと思っていたからだ。
だから、なんだか叔父さんの話は新鮮に思えたのを今でも
覚えている。
今はどうだろうか、だいたいおじさんの話に承知してい
るけど、しかし、やはり友人ができない人は何かが欠落し
ていると思う。友人を得る何かの力が、
まあ、当時の僕はこれを聞いて、それで納得して寝たの
を覚えている。