路上のタンポポ 5
「笹原君」
額田君が僕を見つけ少し興奮気味にこっちによってきた。
「ああ、額田君。おはよう」
「ああ、おはよう」
僕の言葉に気づいて、額田君が挨拶をする。しかし、額
田君はそれよりもこの話題をいきなりふれてきた。
「笹原君。昨日言っていたCDもってきたよ。君もきっと気
に入るから聞いてよ」
「うん。わかった」
それで僕はそのCDを受け取った。これを気に入るかど
うかが、今後の友情の試金石になる、と思う。
しかし、それだけではダメだと思うので僕は他にも色々
聞こうと思った。
「それでさ、額田君。額田君が好きなゲームってなに?」
「ああ、ゲームね。俺はTT系とかドラコエとかが好きなん
だ」
「なるほどね〜」
僕はにこやかに笑いながら心では、それらは自分が好き
なものじゃない!と思っていた。しかし、これをどうする
か。しかたないので自分が好きなものを言ってみるか。ち
なみにTTとドラコエはゲーム好きなら誰もが知っている
超有名ゲームだ。それらはシリーズとかしており、6や7
とかいろんなのが出ている。
「メイルズ・オブ・エターニアは知ってるかな」
「ああ、ソレあるね。かなり古いやつだよね。でも、僕のメ
イルズの最高はアビスだよ」
「へ〜,そうなんだ。でも、エターニアもおもしろいとは
思わない?」
「う〜ん。確かに悪くなかったけど、ちょっと地味だという
か」
第一の作戦失敗。他に話題は何かないだろうか。
ここで僕は新しい話題を探そうとしたけど、少し人生経
験をすんだ今ならわかるけど、今出た話題を使って関係を
つなげるというやり方ができるのだ。つまりこういう事だ。
額田君はTT、ドラコエ、アビスが好きだと言っていた。こ
れらについてなぜ、それが好きなのか、という事を聞けば
話題が新たに生まれるのだ。
しかも額田君は歴代メイルズの中でもアビスを上げてそ
れをもっと詳しく聞けばより彼の自分に対する好感度があ
がるだろう。
ちなみにメイルズというのも超有名ゲームだ。MMやド
ラコエよりは知名度が下がるが、ストーリー構成なら少な
くともMMよりは丁寧に作られている。このシリーズは1
とか2という形式ではなくてメイルズ・オブ何々という形
式でシリーズを出すのだ。
話を戻す。この対人関係のスキル最近気づいた。しかし、
これを中々実行する事ができない。というのはつい人とつ
きあう時これを失念してしまう。色々話してると目先の事
に気をとらわれて相手に詳しく尋ねるという事を忘れてし
まうのだ。
特に僕の場合、人とつきあうのが基本的に嫌いだから、
人と話すと消耗して、この事を尋ねる事が頭に浮かんでこ
ないのだ。
こういう事を考えるとまだまだ自分も修行が足りないと
思う。
しかし現在の事は置いといて、当時の自分に話を戻す。
当時は確かゲームの話がダメだったから漫画について話
したんだっけな。
「ねえ、額田君が好きな漫画って何かな?」
(どうだろう。これがダメだったら僕はどうつきあえばい
いのだろう?)
と内心思いつつ、額田君の話を聞こうとした。
「ああ、僕はワンピールが好きだよ」
「そうか......ワンピールかぁ。まあ、僕も好きだよ......」
「そうか!そうだよな。ワンピールっていいよな。ああいう、
仲間を思う気持ちっていつ見ても感動するんだよ、ホント
に」
「............うん,そうだね......」
僕は言葉だけ同意していても、本当はワンピールは好き
ではなかった。時たま見る程度だった。まあ、嫌いではな
いよ?嫌いではないけどでも、格別好きなわけでもないの
だ。
まだこの頃は高校生の入り立て、つまり昨日まで中学生
だったからな、少年漫画もこの当時は案外好きだった。
しかし、この頃はもう漫画やライトノベルから関心から
少しづつ離れて文学系等に興味が移りつつあったんだ。こ
の頃には重松清とか森絵都あたりを読んでいたし、夏目漱
石もちらほら読み始めていた。確か、この一年後にドスト
エフスキーの『罪と罰』を読んだっけな。
そのまま、額田君がワンピールについて熱く語るのを
懸命に聞いていた。
その時だった。
教室のドアが開いて一人の少女が入ってきた。その少女
が昨日の僕の横に座ったクラスの少女だ。
「はぁはぁ、うん,ギリギリセーフ」
少女が時計を見て一人納得していた。その少女に女の子
達が声をかける。
「寺島、遅〜い。ホントギリギリだね」
「うん,ギリギリ。私,ギリギリ感を楽しむ女なの♡」
それをまた別の少女が突っ込む。
「ほらバカな事言ってないでさっさと席に座って」
「ハーイ」
それで少女、寺島さんが女の子達の席のすぐ近くに座る。
今はまだ席替えを行っていないから各人が自由に座れるの
だ。確か、席替えは今朝あるはずだ。
寺島さんの笑顔を見ていると、なぜか胸がきゅっとなっ
て.........。
「おい!笹原、聞いているのか」
「ああ、ごめん。ぼーっとしてたんで」
笹原が怒ったように言ってくる。
「もう、せっかく人がワンピールについて語っているって言
うのに......で、笹原はワンピールの中じゃあ、誰が好き
だ?」
「............。それよりも額田君。そろそろ、ホームルームが
始まるんじゃない?」
「おっと!いけねえ。じゃあ、昼飯の時にでもワンピールに
ついて語り合おうや」
「ああ」
それで額田君は僕の後ろの席に座った。それでも額田君
は何か話そうとしてたけど、先生が来て、話をやめた。先
生は挨拶をして早速、席替えの発表をしたのだ。