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路上のタンポポ 3

岡山駅の構内。山陽本線からの列車から降りて、エスカ

レーターを上り、改札にでる。

「じゃあ、一樹君。少し待っていてくれ、すぐ入場券を買う

から」

「はい」

 叔父さんとおばさんは入場券を買うために売り場に行っ

た。

 僕は少しため息をつく、帰ってしまうのか、と思ってし

まったのだ。

 今日で東京に帰る。そのために新幹線に乗るのだ。

 入場券を買った叔父さんとおばさんと一緒に改札を通っ

て、東京行きのホームにでる。 

 ホームにはいると、いつも見える岡山の山の景色は何度

見ても気分がいい。

 それはともかく、僕は叔父さんと康子さんにお別れを言

わなくてはならない。

「じゃあね。叔父さん、康子さん」

「ええ、元気でね一樹君」

「達者にするんだぞ」

 僕は叔父さんの言葉に頷いた。確かにあそこにいても自

分が壊れないようにしなければ............。

 正直言ってお別れはつらかった。というよりあそこには

戻りたくなかった。

「じゃあ、お父さんたちにもよろしく言っといて」

「............ええ」

 僕があまり楽しくなさそうに言ったのだろう、叔父さん

が訝しげに僕にある事を尋ねた。

「一樹君。まだ両親の事を根に持っているのか」

「そりゃあ、まあ」

 そうしたら。叔父さんは僕に対してたしなめるように言

った。

「ダメだよ、一樹君。親に対してそんな事思っちゃあ」

「でも、あいつらかなりむかつくんだけど」

「むかつくなんて言っちゃあダメだ、一樹君。親だよ、自分

を育ててくれた親だよ。それをむかつくなんて言ってどう

する」

「しかし!あいつらは嫌なんです!気持ちがムカムカす

る!あいつらを思うと!なんか、違うんだよ、何かが違う

んだよ、こんなにむかつくなんて異常だよ!」

 僕は一気に吐き出した。いや、吐き出したという事はい

えないか、なぜならいったいなにが問題なのかがわからな

かったからだ。親のなにが問題なのかわからないのだ。た

だ、むかつく。それは今も続いてる。現在の僕が見たら君

に必要なのは友達という存在、というだろう。しかし、現

実に友達はいなかった。そして、駅の中の周囲の反応がす

こしざわめいてる事に今気がついた。

 おじさんは僕の発言に対して少し驚いたものも、僕をゆ

っくりと呼んだ。

「一樹君、一樹君ちょっと聞きなさい」

「はい」

 僕は素直に聞く事にした。こういう激情に駆られた後と

いうのはなぜか人の説教を素直に聞いてしまうものがある。

「一樹君、今は親に対してむかつく事があるかもしれないけ

ど、時がくればいずれなくなってしまうから、そんなに悲

観する事はない。その時になって親に対しての考えを決め

なさい。少なくとも私はそうだった」

「叔父さんが?」

「そうだよ。というより大人はみんなそうなんだよ。誰もが

親に嫌な感情を持っていた。それが時が来ると薄らいでい

くのさ」

 僕はびっくりした大人が昔は親に対してむかついていた

なんて、だってあれほどテレビとかで親とこの愛情が大切

だと言っていることを言ってるのに!親に対してむかつい

ていただなんて!僕はびっくりしまったのだ。

 その時はそういうものか、と思ったが、今のぼくはちょ

っと考えが違う。

 今のぼくは無職でなにも勤めていないが、そのぼくが親

を許せるかというと全くそうは思わない。

 就職から逸脱してしまった僕はなにも安定した環境はな

いし、日々いらいらしてばかりだ。

 それに比べて、まだおじさんの時代は就職が期待できた、

結婚も期待できた。僕の場合は小説が売れない限り無職の

状態のまま、なにも誇ることがないまま、自他責の沼に身

を入り込ませるだけだ。

 もう、親を非難する嵐に身を置かないが、しかし全く許

そうという自発的な感じは起きない。

 つまり僕がいいたいのは親を許せるかどうかは時間の問

題もあるが、それより重要なのは今現在の環境ではないの

かと僕はいいたいのだ。

 それはともかく、僕は新幹線に乗りながら考えていた。

あそこにまたいけるのだろうかと、それを考えていた。




 今、僕は家にいる。岡山から帰ってきたのだ。叔父さん

達と過ごした日々はよかった。僕に今までにない充足感(じゅうそくかん)

もたらす事ができたのだ。

 それはいいのだが、問題はあの事だ。叔父さんの家で過

ごすという事だ。まだ、この事は親に話していない。後、

少しして話す予定だ。

 なぜ、話さないのだと疑問に思うかもしれないが、ちょ

っと話す前に確認しときたい事があるのだ。

 

 


 家に帰った翌週、今日は後藤先生の授業?があるのだ。

勉強の間の休憩のとき、後藤先生に話しておきたかった。

「後藤先生」

「ん?なんだい、笹原君」

 僕は少し先生にある事を尋ねてみたかった。

「ねえ、後藤先生。僕、この生活が嫌なんです。家族も何も

かも嫌なんです。将来も不安だし、もうすごく不安や嫌が

ごっちゃになってすごい不安なんです。先生はどう思いま

す、僕の状況に」

 僕は思い切って吐き出した。これに後藤先生はどういう

か、気になったのだ。

 後藤先生は俯いてぼつぼつ話しだした。

「まあ、なんだね、大変だね、笹原君も。でも、人生にそう

いう時期があるよ。君は若いからそう悲観的に考えがちだ

けど、これを過ぎたらまあ、いい事もあるよ、だから、そ

う悲観的に考えない事だね」

 言葉が身体にぶつからず、上滑りしていく。

 僕はこういう言葉を言ってほしくなかった、と考えなが

ら言った。

「はあ、そんなものですか」

「そうだよ、そんなものだよ」

 僕と先生は黙った。完全に弛緩した空気が蔓延している。

こんな身体が薄くのばされた感覚になってほしくなかった。

しかし、僕はこういう結末をどこか想像していたのだが。

 最後にこれだけは聞きたいものがあった。

「あの先生。僕はかなり苦しいんですけど、先生は何かして

くれないでしょうか。何でもいいので、何かありますか?」

 後藤先生は僕の問いに答えず、ただ穏やかに笑っていた。




 僕は何となくこの結末を予想していた。何となくこうい

うものだろうと思っていたが、やはり後藤先生は何もでき

なかった。そして、普通に誰だってこんな対応をとるだろ

うと思うのだ。

 何かこれが人の普通の反応だろう。しかし、そうしたら

僕の心はいったいどうなるのだろう。親が子どもの面倒を

見る、というのが社会の通念だけど、親とは何かイライラ

して何も話せない。だいたい、自分の年だと親になんかに

話せないだろう。それなのにテレビの中に親と子どもが理

解し合える関係が美徳だというものが多かった。

 それで僕は後藤先生の対応に何か虚無感(きょむかん)を感じていた。

後藤先生というより、あの先生の対応は普通の対応だから、

だからこそ、虚無感(きょむかん)を感じていた。

 これが普通の大人なのか、大人はこんなにも子どもとは

距離が遠いのだと僕は感じ取ってしまったのだ。

 そして僕は親に失望と恨みを抱いていた。いろんな感情

がごちゃ混ぜになって、ここにいたら本気でどうにかなっ

てしまうと感じたとき、僕は高校の事を親に話す決心をし

た。




 もう、親の事は書きたくない。そう何度も書いたが、も

う一回言わせてもらう。もう、親の事は書きたくない。

 思い出すだけ怒りや憎しみがどろどろとあふれてしまう。

本来小説ならこういう登場人物に強い影響を与える出来事

を詳しく書くものだが、この小説は作者の精神衛生面の安

定を第一に考えたいので、この面を簡略化する。

 僕は高校は岡山の高校に行きたいという事を親に話した。

ここにはもういたくないという事を話して。

 両親は最初渋った。ものすごくこちらの立川(たちかわ)の高校に行

ったらどう?ということを母が特に言ってきた。

 最初はすごく渋って、渋って、ある時パタと180度転

換して、叔父さんのところに言ってもいいという許可が降

りた。

 いきなりの事だったので僕はびっくりした。そこでこの

事で質問したのだけど、親がいうには最初は戸惑ったけど、

一樹の好きなようにさせたらいいのではないかと思って。

 僕はこれには困った。好きなようにさせるのだったら最

初からいかせればいいではないか、それならなんであんな

に渋ったのか理解に苦しむ。それに渋るのなら、渋る正当

な理由があるはずではないか、それはいったいどうなった

のだ?

 結局、最初提案されて驚いて僕と離ればなれになるのが

嫌だったから、反対して、その後冷静になって賛成したと

いうところか。

 しかし、それなら「難しいわ」と苦渋に満ちた表情で渋ら

ず、最初からこのことを考えておきますと言えば済む話で

はないか。

 あんないやいやしている声や、強引に立川(たちかわ)の高校に行か

せる言動はなんだったのか僕は今になって思う。

 当時はこの事を考える事はできなかった。親の態度にす

ごく疲れたのを覚えている。親の嫌なところをもう少し言

ってもいいのだが、書いているうちに憎しみが増えてきた

ので、この辺で書くのをやめたい。

 それで僕は晴れて叔父さんの家に行く事になった。


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