路上のタンポポ 11
5月の独特の陽気の中、自転車で登校しながら周りを見
る。緑が明らかに増えてきた、気温も相変わらず暖かくな
ってきてる。しかし、僕の心は冷たいのを通り越して、も
う完全に空洞化している。
額田君とはもう、まったく話さなくなった。僕も額田君
にどうやって話せばいいのかわからなくなってきた。どう
やって話をすればいいのか見当がつかない。
僕は午前の授業を受けていた。今日は日本史の授業だ。
しかし、僕はまるで授業についていけなかった。なんだか、
最近すごくだるくてしかたない。だから、授業中でも先生
の話をぼんやり聞いてしまう。
先生は勝本先生。50代の太ってはいるが、かなり厳し
い先生だ。
「ええ〜、だから聖徳太子が作った法は冠位12階梯と憲法
17条です。冠位は603年に憲法は604年にこの年号
は間違えないように覚えてください。次回小テストをしま
すので」
だるい。何かだるく感じられる。
先生の言葉などまるで聞かず、僕は意識を空中に漂わせ
た。
僕は家に帰ってきて、速攻で寝ていると電話が鳴り響い
た。
『一樹く〜ん。ご飯よ〜』
「もう、こんな時間か」
おばさんはこうやって僕にご飯を教えてくれるのだ。5
時頃に帰ってきて今は7時だからもう3時間は眠ってしま
ったのか。しかし、それにしても時が経つのは早いな。3
時間ぐらい過ぎていくなんて............。僕は起きて食卓に
向かう事にした。
夕食後、僕と叔父さんはまったりとした時間を過ごして
いた。今のテレビはつるべの『家族に乾杯』なのだ。つる
べとゲストが地方の人を来訪するバラエティ番組だ。何も
考えたくない時に見る時最適な番組だ。そんな中、僕は何
となく叔父さんに学校の事での悩みを伝えようと思った。
「ねぇ、叔父さん」
僕が呼びかけると叔父さんはその微笑みながらこちらに
振り向いてくれた。
「なんだい、一樹君」
「いや、たいした事じゃあないんだけど、学校が中々きつい
んだよ」
そういうと叔父さんは驚いた顔をした。その後僕に険し
い表情で言ってきた。
「一樹君。何か学校でいやな事でもあったのか?」
「ないない!いじめとかそういうのはないから!」
僕は急いで否定した、そういう解釈をさせてしまったか
と不覚をとられた気分だった。
「そういうのじゃなくて、何かかなり学校生活がしんどいん
だ。学校に行くのがきついというか、学校から帰ると何も
考えられないんだよ」
「そうか............」
叔父さんは頷いたあと、こう、言葉を継ぎだした。
「一樹君には結構いやな思いがあったんだね。一樹君、これ
に答えてほしいのだが、学校にはまだ行けそうか?」
「...........................」
僕は考える。学校には行けるのか、と。
「多分、行けます。まだ、だいじょうぶです」
「そうか。.........じゃあ、行っておいで。あと、これからつ
らい事があったらいつでもおじさんやおばさんに相談しな
さい。いいね?」
「はい」
僕はそう答えた。しかし、僕は何でも叔父さんに相談で
きるわけではなかった。例えば、親の事。僕はこの家にき
てから親の話題にはいっさい触れていない。あまりに親の
事での負荷が多過ぎてまったく話せずにいたのだ。だから
この事は叔父さんにでも相談しようと思わなかったのだ。
いつか。
いつか、叔父さんに話せる日が来るさ。そう思いながら
僕は部屋にあがっていったのだ。
今日も学校に行かなければならない。朝、起きるたびに
そう思ってしまう自分がいる。
しかし、行くしかないので、僕は下に降りていった。
「おはよう、叔父さん、康子さん」
「おはよう」
「おはよう、一樹君」
それで僕は康子さんが焼いてくれたトースターを食べる。
-あまりおいしくない。
そうは思いつつ、コーヒーを飲みながらなんとかやり過
ごす。
「一樹君、学校で何か会ったら叔父さん達にいいなさいよ」
「はい、そうします」
そうして、僕は出かけるための支度をした。
テレビを見る、今日は曇りだ。いつもははれている分だ
けに時々曇ると何かいやな気分になってくる。
支度はできた。さあ、でるか。
「じゃあ、行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
康子さんに挨拶をして、僕は家をでる。今日はどんより
と天気が曇っている。
僕はいやな天気だな、と思いながら自転車に乗って学校
に急いだ。
僕は教室に入る。まったく、挨拶をしない。挨拶をしな
いキャラクターにクラスに位置づけられるとそういう風に
なってしまう。そういう事を破るにはかなりのパワーがい
るものだ。
ともかく、教室に入って自分の席に座る。クラスはすご
い会話量が溢れ出ているけど、僕にはまったく届かない。
それから、しばらくして先生がはいってきて、生徒達の
出席を取った。
午後の授業。今受けてる授業は日本史だ。しかし、僕に
とっては授業とか成績とかそんなものはどうでもよくて、
ただ自分が孤独であるという事実が何よりの問題なのだ。
今日も僕は孤独に昼食を食べていた。周りがいろいろ雑談
している中で一人食べるのは結構きついものがある。
だから、当時僕は孤独を何より意識していた。なので、
授業の時に自分が当てられる事を考えていなかった。
「笹原君」
「あ、はい!」
僕は当てられた事に気づいて、すぐ席を立った。なんだ
ろう、なにを言わせるつもりなのか?
「聖徳太子が施行した政策が二つあります。年代を入れてそ
れぞれ答えなさい」
「は、はい」
聖徳太子。確かなんだったっけ。
「憲法17条です」
僕はとぎれとぎれ、聖徳太子といえばこれだというもの
を出した。
しかし、勝本先生は僕の目を覗き込んでこう切り出した。
「それは何年ですか?」
「え?」
僕は戸惑った。何年だって?
「本当は聖徳太子が行った政策がもう一つあるんですけど、
それはまあいいでしょう。この憲法17条はいったい何年
に施行されました?」
「え、え〜と」
中学までは別に年号までは聞かれなかった。憲法17条
といえばよかった。なのに高校は年号とあともう一つ政策
があるらしい。僕はまったくこれを覚えていない。
「..................わかりません」
「ふむ」
勝本先生は考え事があるように手を口の方にもってきて、
腕を組んだ。僕はどうしていいかわからなかったのでとり
あえず、席に座ろうとしたら勝本先生が待ったをかけた。
「ちょっと、まちなさい。席に座ってもいいと言った覚えは
ありません」
僕はびっくりして席に座るのをやめた。
「ちょっと、笹原君、こっちに来なさい」
「はい」
僕はびっくりしながら先生のあとをついていった。
先生は僕を廊下に呼び出して、こういった。
「笹原君、これは私の授業ではなく、他の先生からも言われ
ている事だが、君は宿題をおろそかにしているね?」
「は、はい」
「それに授業の態度もそうだったけど、君はこのところ、本
当に学業の態度が悪い。いつもぼーっとしているみたいだ
し、宿題もやってない。これはどうなっているのだろう、
と職員室でも話題になっているのだよ」
「.....................」
僕は答えなかった。人から注意された事なんてほとんど
無い僕はもうこんな事言われた時点で頭が真っ白になって
しまったのだ。
「笹原君。君は生徒の本分である学業をほとんどしていない
でないか。高校は義務教育ではないから学業する気がない
のだったらすぐやめてもらって結構だ」
僕はもう頭が真っ白になって自分が経っている感覚さえ
もほとんど無くなっていた。そういう状態でかすれた声で
これしか言えなかった。
「...........................すみません」
そうしたら空気が震えた。
ようやくそれが声だと僕の頭が理解した。
「こっちに向いて話しなさい!」
僕は思わず、勝本先生の目を見た。勝本先生の目はもの
すごく厳しい目をしていたという事を今、ようやくわかっ
た。
「とにかく高校に来るならしっかり勉強してください、わか
りましたか?」
「は、はい」
僕はやっとの事で返事をした。
僕はその後どうやって帰ったのかまったくわからなかっ
た。夢遊病者のように帰宅したという事しかわからなかっ
た。
そして、帰宅した僕は上に上がり、そのまま寝たのだ。
-ブルルルル、ブルルルル。
電話が鳴り響く、その後声がする。
『一樹君、ご飯よ』
康子さんの声だ。そうか、もうこんな時間か。すっかり
暗くなった窓を見ながら僕は独りごちた。
居間に行くか。
そう思って僕はベッドから降りて、食卓へ向かった。そ
して、そこに座る。
「一樹くんどうしたの?」
「いえ、ちょっと............」
康子さんが心配そうにこちらを見る。無理もない、今の
僕はほとんどの料理に手を付けず、みそ汁だけのんでいる
のだから。
今日の料理はハンバーグにフライドポテトとサラダの
品々だ。ただ、僕はこれにまるっきり食欲がでず、むしろ
ハンバーグを見ただけで、食欲がなくなってしまうのだ。
しかたなくフライドポテトやサラダを食べる。
そんな僕の姿に叔父さんも何か違和感を覚えたのだろう。
こんな事を聞いてきた。
「どうした?一樹君、学校で何かあったかい?」
僕は叔父さんの目を見てこれだけは言おうと思った。
「叔父さん、あとで話があります。その今日起きた出来事を
話しておきたくて」
叔父さんと康子さんは顔を見合わせた。そして、叔父さ
んがいう。
「ああ、わかったよ。これが食べ終えたら話そう」
「はい、そうしましょう」
それでいったんこの話は止む事となった。




