表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

ただいま状況確認中

 殿下と踊った翌日の午後、父が血相を変えて王宮から帰って来た。


 曰く、


 アルディーン殿下がロラン侯爵家のアンネリーゼ嬢に結婚を申し込んだ、と噂になっている。


「何、それ。申し込まれてないわよ」


 私は呑気に手を振った。


「殿下と続けて踊ったとハロルドが言っていたぞ」

「あ、それは本当」

「何曲?」

「五曲くらいかしら?」


 父は脱力したように項垂れた。


「アンネリーゼ、殿下は通常一人に対して一曲しか踊らない」

「決まりでもあるの?」

「暗黙の了解というやつだ。何曲も踊れば、相手を気に入ったとのだと周囲は受け取る」

「そうなの? もう! 殿下も案外迂闊ね」

「何を呑気な事を……国王陛下からも噂の真偽を下問されたのだぞ」

「ごめんなさい、お父様。陛下にお叱りを受けたのね」


 父は深々とため息をついて、こめかみを押さえた。


「そうではない」

「えっ?」

「むしろ、お前さえよければ王太子妃に迎えたいというのが、陛下と王妃様のご希望だ」

「よくない、よくない、よくない! 殿下には恋人がいるでしょう?!」


 王都に住む者なら、みんな知っている。


「彼女は年上の未亡人だ。将来の王妃には相応しくない」

「いや、いや、いや、いや、私だって相応しくありませんって!」

「私も陛下にそう申し上げたのだが、殿下と伯爵未亡人との関係に困っておられるようでな。逆にお前を説得してくれと頼まれた。王の頼みなど、命令よりも始末が悪い」


 自分が悪者になったような気にさせられるのだと、父はぼやいた。


「でも、私が説得されたところで、どうしようもないわ。夕べはお互い昔なじみだから、思い出話が弾んだだけよ?」


 だろうな……と、父は胃の辺りを押さえながら頷く。


「とにかく殿下に手紙を書くわ。妃として私を望んでいる訳ではないもの、すぐに噂を打ち消してくださるでしょ」



私は殿下に手紙を書いた。


『困った事になっています。殿下のせいですからねっ! 火急に、速やかに、事態収拾希望』


 ――という趣旨を、さすがにそのまま書く事もできないので、柔らかく女性らしい言葉でくるんで。


 後はほとぼりが冷めるまで、殿下に会うような公の場に行かなければいい。



 ――はずだった。



「お嬢様、アルディーン殿下からお花が届いております」


「王太子殿下から、お嬢様へ贈り物が来ていますわ。どこに置きましょう」


「お嬢様、王宮から夜会の招待状が届きました」



 あ・の・か・た・はっ!


 何がしたいのよ、全く。



「全部送り返して!」


 さすがにそれはできないと、家人達に止められた。



 その後、噂は止まるどころかさらに加速していった。現在、私は殿下から熱烈な求愛を受けているのだそう。


 誰か見たの?


 父と叔父は国王陛下に丸め込まれて、むしろ私の敵になりつつある。


『はいと頷いておけ。妃"候補"というだけだから、深く考えるな』


 そんなの信じられるか!


 なし崩しに祭壇の前まで連れて行かれる気しかしない。殿下も国王陛下に命じられれば、嫌とは言えなくなるだろう。


 もう、こうなったら!


「今日から私は病弱になるわ!」


 私は侍女達の前で宣言した。みんなの顔に疑問符が浮かんでいる。


「私は、体調を崩して臥せっていることにします!」



『うちのお嬢様が?』

『無理ありすぎでしょう』

『この十七年間に、寝込んだのは二回だけよ』

『しかも、その一回は土手から転げ落ちて腕を折ったせいだったような……』



 ヒソヒソと囁かれる失礼な意見は捨て置いて、私は当分の間、自室に引きこもる事を決意したのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ