6035年 空音の鐘
――鐘の音はお好きですか?
◇
平凡なジキシヌは、或る服飾屋の店員に恋焦がれている。
その相手とは、目を見張るほどの美人ではなく、いたってどこにでもいそうな女性である。
服飾屋の中でいつも明るく接客し、誰からも好かれる柔和な笑みをへにゃりと浮かべる可愛らしい店員だった。
ジキシヌはフラリフラリと各地を放浪する旅人である。長くても数カ月しか滞在せず、時期が来ればまた次の場所へと歩み去る。大概、充分な資金が貯まってからの旅立ちとなる。
行く先行く先で人出不足の穴埋めとして労働し、生計を立てていた。
スェグナ共和国も、ベイド帝国も、FE連合国も、若い労働者が慢性的に不足していた。長い長い戦争で多くの人間が斃れてしまったからである。そのために、国内の復興、主に戦場となった個所の復旧作業に割く人員が足りなかった。
戦争の傷跡は、どこの国にも生々しく残っていた。
戦跡には、建物が僅かにしか残っていない。魔導人形の圧倒的火力により崩壊してしまっていたのである。
戦時中、皇国は複数の魔導人形を一気に攻め込ませた。皇国自体の兵士はさほどではなかったが、魔導人形の数が他国と違い過ぎた。
ひとつの地域に三、四人もの魔導人形を送り込み、瞬く間に制圧させる、というシンプルな戦術で勝利を掴み取った。対する敵軍が一個師団程度ならば圧勝に終わり、相手も魔導人形を出撃させてようやく五分に近付く、といった具合であった。しかし、他国における魔導人形の保持数は皇国に比べて少ない。戦争が長引けば長引くほど、物量で劣る国は不利になるのみである。
ベイドとFEが降伏した後も、スェグナだけは皇国に抗い続けた。エクエストという規格外が、皇国から送り込まれる魔導人形の尽くを討ったのである。
多方面から送り込もうとも、エクエストは同時に全てを迎撃した。必ず現れるのである。スェグナの領内に踏み入ろうとする者達の眼前に、灰の魔導人形が。
故に、皇国はスェグナに入ることすら出来ずにいた。暗赤がエクエストを斃すまでは。
皇国からの旅人ということで、明らかな敵意を向けてくる者も少なくなかった。罵倒する者や、気が触れたように突っかかって来る者もいた。その殆どが、親しき者の死を悲劇的な形で経験していた。
ジキシヌは彼らを憐れみ、感情のままに対応することをしなかった。
皇国の勝利は全て魔導人形のおかげだというのが他国の弁である。ほとんど揶揄の意味で用いられるその言葉は、皇国の人間は自らで戦わない臆病者達だと暗に述べる。
もっとも、皇国の者達はそれを重々承知している。言われて怒るは、皇国の兵士達ぐらいである。国民に対しては罵倒にすらならない。自国の魔導人形を褒められていると勘違いする者すらいた。
皇国の人間達は皆平和な頭をしている、と他国の者達は言う。彼らの多くは戦争を経験していない。皇国内は、最初から最後まで戦場にならなかったためである。元々の軍隊に加え、自ら志願した兵士と魔導人形だけが、皇国が戦争で用いた戦力であった。
たったそれだけで、皇国は勝利した。
◇
フラフラと世界を旅し続け、ジキシヌは皇国内へと戻ってきた。といっても一時の滞在であるから、また時が来たら他国へ旅立つつもりである。
関所を抜け、皇国の土を踏んだジキシヌは、改めて皇国が平和であることを知る。
関所付近は自然豊かで、整備された道が皇都まで続く。歩き続ければ長閑な街並みが視界いっぱいに広がり、遠くに皇都の城壁が見えてくる。そして広がる、荒野。
関所で見た予報によると、雨はしばらく降らない、とのことだった。少なくとも数日は降らないだろうが、念のため防魔性のレインコートを持ち歩き、空が淀み始めたらすぐ近場の家屋に避難してくださいと関所の兵士たちは言っていた。
灰の雨を除けば、皇国内は至って平穏である。
やはり故郷は平和に限る、とジキシヌは感慨深くなった。他国の惨状を目の当たりしてきたばかりなのだからなおさらである。
旧ヒコ市ノアタリという、皇都近辺の街に足を運ぶ。
ジキシヌはそこを一時の宿にするつもりだった。
宿屋の予約をとり、大通りをぶらつく。
食料品を買い込む前に、ところどころ損傷を受けた服を新調しようと服飾屋に寄った。最近できたらしく、建物は新しい。ピカピカの看板に《服屋・空音の鐘》という文字が描かれている。
品ぞろえは豊富とは言えなかった。ただ、頑丈に重きを置いているらしく、価格もそう高くない。気軽に手が出せるぐらいのお値段である。
適当な服を選び、ジキシヌはカウンターへと持っていく。そして、にこにこと笑顔を浮かべる店員に銀貨を数枚渡した。
「遠くから来たんですか?」
店員は聞く。砕けてはいるものの、不思議と馴れ馴れしさのない声だった。名札には、ナナ・ドウガネという文字。それがこの店員の名なのだろう。
「ええ、まあ……ちょっと、ふらついてまして」
「あ、やっぱり旅人の方ですか!」
途端に声を弾ませ、ナナは続ける。
「なんとなーく私見当がついてたんですよっ。旅人の方って、独特の落ち着きみたいのがあるんですよね」
ナナは次々と喋った。それはもうぺちゃくちゃと話した。
屈託のない朗らかな笑みを浮かべ、コロコロと表情を変える彼女に、ジキシヌは魅力を覚える。殺伐とした旅から帰還したばかり、というのも大いにあっただろう。
開店したばかりで客足がまだ少ないらしく、「暇なんですよね」とナナ。
一時間経過したことに気付き、我ながらよくここまで話せたものだとジキシヌは驚く。
「それじゃあ、そろそろ――」
と、ジキシヌが店を出ようとした折、
「鐘の音はお好きですか?」
と、ナナが質問する。突然のことだったのでジキシヌは数秒の間狼狽し、
「え……えっと、好き、ですかね……」
「か、鐘だけに……?」
窺うようにナナは言う。その動作がなんとなく面白く感じ、ジキシヌは笑ってしまった。
「あ! 笑いましたね、今っ。変なことを言ったのはあなたの方ですよ!」
二人は笑い、その日はそこで別れた。
◇
街中のとある食料品店(ヒコ総合商店)にて、ジキシヌはナナとばったり出会う。
「やっ、奇遇ですね!」
ててて、とナナはジキシヌに近付く。
「ナナさん――っ!? どうしてここに!」
ジキシヌは目を丸くする。
「なんですかぁその顔。私だって人並みにご飯食べたりするんですよ」
ぷうと、ナナは頬を膨らませた。ジキシヌはそれを潰したい衝動に駆られる、だが耐えた。
「い、いえ、すみません。ナナさんはずっと服屋にいるイメージでしたから、まさかこんなところで会うなんて、と驚いちゃって……」
「ふふ、私と会えて嬉しいですか?」
「え、ええ……まあ、その……嬉しい、ですね……」
ジキシヌの本心である。彼はナナとの奇縁を幸せに感じていた。ナナはいつもの笑顔を浮かべ、
「私も、嬉しいですよ」
その言葉はジキシヌを有頂天にさせた。
そんなジキシヌとナナの傍ら、店の主人と長身痩躯の軍服男がなにやら話し込んでいた。
「なあ、なんか甘いモノねえ?」
「おお? どうしたクレマの兄ちゃん、甘党に目覚めたか?」
「急に食いたくなっちまったんだ」
「天下のウィザードさんがなあ……食事だけにとどまらず、おやつまで食べ始めるたぁ……ケーキとかでどうだ? というかケーキぐらいしかここにはねえよ? いくら総合商店とは言ってもよ、甘味のバリエーションには正直自信ねえぞ家ぁよ」
「安心しろ。端から期待してねえよ」
「ったくよ、そもそも甘味が食いたいならそれ相応の場所に行けってんだ」
「そういうのには疎いもんでねェ、なんせ俺はつい最近まで戦闘兵器やってたもので。まあ、今もなんだけどよ」
「……だが、そうやって人らしく物を食ったりしていた方が、俺は好感がもてるぞ。正直、クレマの兄ちゃん達のような魔導人形はよ、なに考えてるか分かんねえからちょっと恐ろしいところがあるんだよ。
だから人のような振舞いをしてくれると、なんつうか、安心するんだ。ああ、こいつらも俺たちみたいに物を食って、笑う奴らなんだなあってさ」
「人のような振舞い、なあ……心配しなくとも、戦うこと以外にはなーんにも考えてねえよ。俺達魔導人形はさ」
「ウソつきやがれってんだ。それならどうして、クレマの兄ちゃんは毎度毎度難しい顔で食材を選んでるんだ。レシピのことで頭を悩ませてる証拠だろ」
「……ちょっと、小うるさいのがいるもんでね。料理に関しちゃ、頭が上がらねえのよ」
「おお……!? まさか、恋人か!?」
「違う違う。ぜーんぜん違う。どっちかというと保護者だよ」
盗み聞きするつもりはなかったが、魔導人形なる単語がジキシヌの耳に入った。どうやら、あの軍服男が魔導人形であるらしい。
皇国が誇る最高戦力の一体。戦場を駆け抜け、暴力的恐怖を敵軍に植えつけた者達。
ジキシヌの目には、その軍服男は人間と寸分違わぬ姿に映った。
目的のものを買い終えたのか、軍服男が「じゃあな」と店の主人に言い、店を出ようとジキシヌの傍を通る。その、折り――
「なあアンタ。悪いことは言わないが止めときな。その女の傍にいちゃあ、いい死に方はできねえぞ」
と、ジキシヌに耳打ちした。
「な、なんなんですかあなたはいきなり!」
ジキシヌは非難の目で軍服男を見る。陰に隠れる形で、ナナもまた難色を示している。そして、
「そ、そんなひどいことを言わないでくださいっ! 私は、別に、そんなっ……ひどい死に方だなんてっ、ひどすぎます……!」
ナナの声が震える。それがまた、ジキシヌの怒りを助長した。だが目の前の軍服男は全く悪びれる様子がない。
「ハハハッ! ぬかせよ、おじょうちゃん!」
カラカラと笑い、一切の反省の色を見せずに軍服男は去った。
「な、なんなんだ……アイツ……」
呆気にとられるジキシヌ。魔導人形とは皆ああいう奴らなのか、という軽蔑が彼の中で渦巻く。
ジキシヌはすぐにナナの方を心配げに見遣った。
ナナの目は赤い。彼女は悲しんだのだ。あの魔導人形の心ない言葉によって。
ジキシヌは、怒る己を抑え込むのに必死だった。
「……少し、気分が悪いです」
と、ナナ。
「だ、だよね。まったく」
さすがに全部の魔導人形があの軍服男のような奴ではないだろうけど、それでも印象が悪くなったのは確かだった。魔導人形の実態を知らない平凡なジキシヌは、一面的な印象でしか彼らを理解できない。
「あまり、気にしちゃいけない……結局は魔導人形だ。人の心なんてないんだよ」
「うん……」
ジキシヌは、自分がナナに惹かれていることに気付いた。とっくの昔に分かっていたことではあるが、こうして悲しむナナを見て自分が憤慨したという事実が、紛れもなく彼女を大切に想っている証拠に他ならないと理解した。
平凡なジキシヌは、こうして一人の女性に恋焦がれたのである。
◇
だが、出発の時は否応なく近付く。
次にスェグナへ向かうつもりだった。
その前に、できればやっておきたいことがある。
伝えておきたい恋がある。
◇
その日も良い天気だった。
空には雲ひとつない澄み切った灰空が広がっている。灰、というのが惜しい。
ジキシヌは服飾屋を訪れる。出発する旨をナナに言おうと思ったのだ。
「寂しくなりますね……ああ、数少ない常連さんがぁ……売り上げがぁぁぁ……」
よよよ、とナナは崩れ落ちる。おふざけである。
意を決し、ジキシヌは尋ねた。返答の如何によっては自分の本心を吐露するつもりで。
「あ、あのさっ……恋人とか、いるの?」
一瞬、ナナが遠い目をしたのをジキシヌは見逃さなかった。
「いる、んですけどね……今、ちょっと眠っちゃってて」
愚かな質問をした、とジキシヌは悔やんだ。
ナナには恋人がいるのだ。そして、生死の境があやふやな状態にある。生きてはいるのだろうが、望ましくない生にある恋人がいる。平凡な彼の質問により、彼女を無暗に悲しませてしまった。
「君みたいな素敵な子を待たせるなんて、罪深い男だな」
取り繕うようにジキシヌは言う。おどけた調子だが、内心暗い気持だった。
「ええ、彼は罪に塗れてるんです」
と、ナナは屈託なく笑う。
陰の無い笑み。ジキシヌが彼女に心惹かれた切っ掛けとなった笑顔。
ジキシヌはその笑顔を見て、心から安堵した。自分の無思慮な問いが彼女の笑顔を取り除いてしまったのではと恐怖していたのである。
「それじゃあ、また服がボロきれになったときにでも来るよ」
「はい! 早くボロきれになるよう、お祈りしてますねっ」
「服屋の子としてそれはどうなんだ」とジキシヌは笑う。
ジキシヌは宿へ歩みを進める。
出立の準備を済ませねばならない。
実らない恋だったが、せめて彼女の幸せを祈ろう。そう、思いつつ。
◇
夜。
「鐘の音がお好きな皆さんへ、 からの贈り物ですっ!」
ナナは満天の星空に叫んだ。
「どんどん《/発動》!」
◇
そこは、ジキシヌが泊る宿屋の一室。
彼はぼんやりと今日の失恋を反芻していた。想いを伝える前に終わった恋を、ジキシヌはぼけーっと思い直していた。
――ガラン。
どこか遠くで鐘が鳴った。
「鐘……? いったい、どこから」
ジキシヌは訝しがった。近辺に鐘楼はない。けれども今確かに、鐘が
ガラン、ガラン――
鳴った。今も鳴った。
「幻聴、か……いや、でも……」
ガラン、ガラン、ガラン――
鐘の音が聞こえる。
鐘の音が聞こえる。
はっきりと、ジキシヌの耳に響いた。いよいよ彼は事態をおかしく思い始めた。
窓から街を見渡すも、夜に塗りつぶされた世界が広がっているのみである。
辺りはどこにも鐘はない。一番近いところで皇都中枢の教会である。それでもここからは遠い。
グァラン、と。
一層の鈍さを増し、鐘は八方で鳴り渡った。
おかしい、おかしい。ジキシヌは恐怖を覚えた。
グァラン、グァラン――
上からも下からも聞こえる。右からも左からも、斜めからも360度から鐘の音が聞こえてきたぞ。物理的に不可能だ、なぜ、なぜ、どこが鳴っている。どこで鳴っている。
グァラン、グァラン、グァラン――
空。空から聞こえる。ベッドの隙間、窓の外、灯りの光、爪、心臓、目から、全てが鐘を鳴らしている。世界が、ジキシヌを取り巻く世界が、厳かに華やかに嘆き悲しみ喜び震える鐘を鳴らす。
そうだ、世界だ。
世界が鐘を鳴らしている。
ジキシヌは耳を抑え、そう結論した。そうでなければ道理が通ってくれない。そうでなければ、そうでなければなぜ、この鐘は俺からも聞こえるのだ。
グァラン、グァラン、グァラン――
鐘は厖大な幸福をジキシヌの世界全体に鳴らしている。
平凡な彼ではとても耐えきれないほどの福音を鳴らしている。
「ぐ……! うるさい、うるさいなっ!」
鐘の音は既に轟音と化していた。
耳元でその莫大な音量を響かせていた。
脳がかき回されるほどに、気が狂いそうなほどの――
グァラン、グァラン、グァラン――――
「止めてくれ止めてくれ止めてくれッッ――――!」
ジキシヌは頭を両の手で押し潰すように強く握りしめる。
「早くこの音を止めてくれ!! 誰か! 誰かぁッ!!」
半狂乱のジキシヌは、宿屋じゅうに響きわたる程の大声で叫んだ。当のジキシヌには自らの声は届かない。世界が鳴らす鐘の音が、葬送の意思を帯びてきた鐘の音が、全ての音を遮断し鳴り響く。
「なんだ! おいどうした!」
主人が駆けこんでくるも、ジキシヌは蹲り震えるだけである。
「鐘が、鐘がァッ! アンタは聞こえないのか! 聞こえないのかッッ!?」
ジキシヌの形相は、ひどく恐ろしく哀れなモノだった。見開かれた目は充血し、大粒の涙を流している。体中が打ち震え、必死に耳を抑えている。なにかを聞きまいとして叫ぶ、叫ぶ、叫ぶ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
鐘は止まない。
「クソッ! 気が触れてやがる! おい誰か医者だ! 医者を呼べ! 鎮静剤でもなんでもいいから打ち込むんだ!!」
耳穴を塞ごうと指を入れる。深く、抉り込むように指を押し入れる。
人差し指は外耳道を押し通り、鼓膜を突き破り中耳に達する。
けれどそれでも――グァラン、グァラン、グァランと、音が、鐘の音が、鳴り止ま――――
「助けっ、誰か、誰か鐘を止めてくれよ!! 誰でもいいんだ! 早く鐘を!!! 鐘ヲぉぉおお嗚大オオオオオおお乎嗚ッ!! 鐘嗚嗚嗚嗚嗚嗚おお乎嗚嗚嗚嗚おお乎嗚嗚嗚嗚嗚嗚おお乎嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚おお乎嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚おお乎嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚おお乎嗚嗚嗚嗚嗚嗚嗚お――――ッ!!」
◇
一人の男が狂い死んだ。
旧ヒコ市ノアタリ街にある、とある宿屋にて。
蹲って頭を抱え、指を耳穴に突き入れた状態でその男は事切れていた。
指は鼓膜を突き破り、脳にまで達していた。砕けた歯が如何ほどの力で食いしばったのかを物語っている。見開かれた目はそのままで、目玉が突出たままの硬直。
凄惨、としか言いようのない状況。
苦悶に歪むその顔は、見る者の目を背けさせた。
だが、この不可思議な事件はこれだけではなかった。
奇怪なことに、世界中でジキシヌと同じように狂い死んだ者がいたのである。
一人、二人ではなく、大勢の者が、全く同じ時間に、同じように叫び、鐘の音を止めろと言い、気が狂って無惨な死を遂げた。
その惨状を目の当たりにした人々は、首を傾げて口々に言った。
「俺にはなにも聞こえなかったぞ。こいつはいったい、何の音を聞いていたんだ」
◇
堂鐘奈々は今日も尋ねる。
「《禍福/空音の鐘》」
子犬のように人懐こい笑みを浮かべ、人々との問答を行う。
「《/受容/待機》」
好きなら、聞かせてあげよう。
天使の鳴らす、鐘の音を。
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