番人
これは「ひだまり童話館」の第1回企画「めでたい話」の参加作です。
小窓から差す朝日を顔に受けて目を覚まし、窓に近付いて空を見上げると1日が始まる。
下に伸びる螺旋階段に耳を澄ませ、物音がしない事を確認してから部屋のドアを開ける。
中には1人五月蝿いのがいる。
「オハヨ~!今日は天気が良いから布団干しちゃって良いよね?後、お腹空いちゃった」
この部屋にはバルコニーがあり、布団位なら余裕で干せるだけの広さがある。そんなバルコニーの端には、先日コイツが「ドライフルーツを作ってみたい」と言う理由で並べたスライスリンゴがあった。
「たまには自分で朝食を作りなさい」
この部屋にはキッチンも完備されているので、いつでも自分で飯が作れるというのに、コイツはいつも俺に作らせる。
「え~、あーちゃんのご飯美味しいもん」
誰があーちゃんだ。
仕方なくキッチン台の前に立った所で階段から足音が聞こえてきた。
「あっ!お客さん!?ど、どうしよう髪のセット間に合わない~」
足音を聞いて落ち着きを失った奴の細い肩を掴み、至近距離で両目を見つめると一瞬にして眠りに落ちていった。
眠る奴をベッドの中に寝かせて部屋を出て、ドアに鍵をかけてからその鍵を分かりやすいように首にかける。
「出たなバケモノ!今日こそは退治してやる!」
現れたのは何度か見た事のある若者。
こうして何度も来ると言う事は、このドアの向こうにいる奴の事を本気で想っているのだろう。そうでなければ何度もこうして負けには来ない筈だ。
この若者ならばアイツを任せられるかも知れない。任せて良いのかも知れない。
俺では幸せにしてやる事が出来ないんだ。
「ぐぅぁああっ!!」
若者の攻撃をしばらく避け続け、頃合を見計らい自分から当たりに行って大袈裟な叫び声をあげて倒れた。
後は只管死んだ振り。
数回の追加攻撃をして俺の首から鍵を奪った若者は、ドアを開けて部屋の中に入っていった。
「おぉ、なんと美しい姫だろう」
受けた傷が癒え、起き上がって入った部屋の中には誰もいない。ふとベランダを見るとリンゴのスライスが半分残されていた。
「王子のキスで目覚めた姫は、城で末永く幸せに暮らしましたとさ・・・」
めでたし、
めでたし。