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なつのらくえん

作者: 宵見

 小さい頃の夢を見た。自分が確か小学六年生くらいの時の話を回想する夢だった。

 

 夢だというのに何の変わっていることなく思い出そのまま。

 空高く燦々と輝く太陽。むせ返るような草と土埃の匂い。吸い込む息があまりに熱くてクラクラしそうな夏の日だ。

 そして、音がする。

 三人の立った公園に鈍い衝突音、三人がつられて空を見ると容赦なく陽光が目を晦ました。

 また、鈍い音がして、それにひとり倒れる。 



 グラウンドの砂が熱風に煽られて、土臭い香りと少しの涼しさを運んでくる。

 兄はプラバットをブンブンと降っていて妹はそれをつぶさに見ていた。僕の兄弟三人で野球をしに来たのだ、とても久しぶりに。

 空はこれ以上ないくらいに青々としていて快晴、風はそこそこ。

「良い野球日和だー!」

 野球をしたことのない妹の言葉で自分はクスリと笑う。


 年下の妹が遊びたいと言い出して、中学生になって忙しかった兄が久しぶりにそれに乗ってくれた。兄は優しかったし何をやらせてもカッコよいから、自分もああなりたいといつも思っていた。妹はお転婆だったが明るく元気、何時だって全力が取柄だった。そんな妹が僕は可愛くて仕方なかった。

 

 だから、その日も自分は楽しみに遊びに行ったのだ。

 それがこれ以上ないくらい酷い形で、壊れる。

 

 僕、兄、妹ときて、三週目の妹の打席だった。

 投手は僕で兄が野手だ。

「打ち崩したげるよ!」

 妹は一回目と二回目の打席と同じように強振の構え。それに自分は野球選手の見よう見まねの投球フォーム。

 足を上げて、腰を捻って、肩を振り下ろして、手首を柔らかく。

 その時、やけに放たれたカラーボールが良く見えた。

 大股十歩の距離を飛ぶ極彩色の球はそのまま、青色のバットに吸い込まれるように。

 そして、打ちあがる。皆つられて空を見上げると、太陽のせいで何も見えない。

 そのとき、妹があっと言った。僕は顔に衝撃を受けてそのままぶっ倒れた。カラーボールが頭に落ちてきたのだと分かるまで暫く自分は白黒していて、冷製になって周りを見渡すと妹は大口を開けて笑っていたし、兄は掛ける言葉を探して棒立ちになっていた。

 妹に打たれたのが悔しかったのではなくて、妹が笑ったのが悔しかった。だから突っかかろうとしたけれども驚いて腰を抜かしたのか力が入らない、悔しさだけが募って涙になって溢れ出す。

 それをみて兄が自分に慰めの言葉をかける。それに今度は悔しいどころではなくて、恥ずかしくなって強烈に恨めしくなった。

 兄は「だいじょうぶか」と声をかけたから、自分は大丈夫じゃないと叫びたくなった。

 なにも分かってくれないのがとにかく恨めしくて、なにも伝えられないのがとにかく悔しい。

 

 夏の楽園はこうして、夏の地獄に変わった。

 

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