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サスガにそれはマズいかと……


――黒装束との偶発的な遭遇の後。

 部下の騎士達との、あらかじめ決めていた非常招集の集合場所、城下町のとある倉庫にて。

 重っ苦しい鎧を脱いだ、腕だけはたつ騎士の爪弾き者共が、思い思いの実用的・実戦的な恰好で集う場に到着した俺。とついでにアリューシャ……は不吉なので略称アリー、いや面倒クセエ、より短くリーでいいや。


 遅いですぜ副長とかあれ隊長は一緒じゃないのーとか声が掛かる。つか隊長居ねえのかよ訝るが、とりあえず大まかな状況を噛み砕いて説明する。

 ちなみに間者(スパイ)の存在に懸念がある為、先の遭遇は説明から除外した。

 アレはいざという時に使える。


 説明を終え、俺とその傍らの、何故か俺の袖を掴んで放さんリーに多種多様な視線を集め、その中の一人、金髪天然パーマが特徴的なウィアルが、愕然とした表情で口を開く。


「――そんな!」


 短く感情を表す叫びを口火に、ノリ易い阿呆共全員が好き勝手喋りだした。


「クク、的は国か。面白い」


 無駄に素早く妙な納得して何度か頷いてんじゃねぇスヴェア。そのチョビ髭毟ンぞ。


「子供を生体兵器にねえ」

「あ、オメエ知らないんだっけ? うちの隊長も、」


 おいバリー、知らされてねぇ奴に機密を語るなこの阿呆が。


「上層部の連中、其処までやるか」

「おいおい、今は半分戦時下だよ。それくらいはやってても可笑しかない」

「――でもこんな副長好みの、もとい小さな女の子を戦争に駆り出すなんて!」

「待てゴラ」


 血気盛んな阿呆部下共の、戦意高揚に煽るまでもない熱狂の最中。

 訊き咎めるべき単語を耳に留め制止を掛けるが、勢い付いた人参ぶら下げられた躾のなってない駄馬に等しい馬鹿共は、当たり前のように止まりゃしねえ。口々に好き勝手ほざいてやがる。


「最悪だよ最低だよ鬼畜だよ副長並みに。腹黒上層部連中め!」


 西方にゃ珍しい、黒っぽい赤髪ポニテの女騎士、キャリーが人聞きの悪い事を単純な義憤に燃えた目で絶叫しやがる。

 俺の視線に気付いたらしい、西方に属するここには大変レアな東方生まれの誠一が、若干蒼白したツラで自分の恋人の口を塞ぐが、もう遅ェ。後で覚えてろテメエラ。連帯責任だ。


「えゥ?! ま、せーくんみんなの前でそんな!?」

「!? そ、そんなつもりじゃ」


 何をどう受け取ったか赤面し体をくねらせるキャリーと、同調して狼狽える誠一。

…………ダレがいちゃつけと言った?


「で、ででででもせーくんなら、」

「キャリー……」


 見つめ合うなピンク色オーラを出すな鬱陶しいてか殺したい。

 そう思ったのは、無論のコト俺だけではない。


「テメエ誠一何やってんだ!」

「この非常時に!」

「え、ぇえ俺?!」

「他に誰がいるってんだド畜生!!」

「この発情えろ野郎ー! キャリーにナニする気だったんだー!」

「そうだそうだー! ヤッチマエ野郎共ー!」

「「オオオオオオーー!!」」


 気に喰わぬ空気を放つ同性の勝ち組に吼える負け組部下共。

 それを面白半分趣味半分に扇動(アジ)る双子姉妹のリアとユア。

 そして響くは異分子・誠一の断末魔。

 女はそっちのけというのがコイツ等らしい。

 基本的に、野郎の多い密集空間。

 恋人専用の不快領域ができる筈も無く、殴られ蹴られ踏みつぶされる誠一。

 あ、キャリーの奴が半泣きでキレた。

…………コイツラ、マジで暴力担当の暴君隊長が居ねぇと纏まらんかよ。


「――それで、非常収集掛けて、国家最重要機密知らせて巻き込んで。俺達に何させる気だ? 副長」


 からかうような探るような濁声が、喧々囂々にうんざりし始めた俺の耳に届く。

 発声者に、視線を向ける。

 にやついたダブル・スパイが其処に居た。


「なんだヴァルカ。テメエ生きてたんか」


 しかも無傷とはな。明言こそされてなかったが、てっきりあの三流暗部女に消されたと思ってたぞ。


「……命からがら生き延びた部下に、真っ先に言う事かそれが?!」


 喧しい間抜け顔で寄るな叫ぶな唾が散るだっ、……。


…………なるほど。対処は……どっちだ?

 観察は、いや面倒臭ぇ、いいや簡略で。


「るせえ。テメエの副長の名前も覚えてねえ奴に文句云われる筋合いはネェ」


 視線を無双と化したキャリーに戻し、なるたけ自然な感じで合図を送る。まあバレても問題ねぇがよ。


「……ああ? 何言ってんだ副長」


 莫迦っぽく肩を竦めるが、案の定警戒してる声音。

 まあいい、この程度の奴なら引っ掛かるかもしれんし。


「イイから、俺の名前言ってみろ。


 ――答えなけりゃ撃つ」


 明白に脅しながら殺気を放出、腰に下げた携帯銃のホルスターに手を掛ける。我ながらわざとらしい……

 俺の行動・気配に気付いてるだろう奴は、不細工寄りの顔面の強張りが二割増す。緊張が滲み出る。


「……何が言いてぇんだ、ラディル=アッシュ副長」


 なるほど、その解答ではっきりした。

 しばし、無駄に無言で見合う。

 西域じゃ珍しくもない青色の瞳は、変わらぬ警戒と……


「……オーケー、正解だヴァルカ」


 あっさりと、俺は警戒を解き、殺気を散らし、ホルスターからも手を離し降参のポーズを見せた。

 怪訝な表情で俺を窺う奴。


「――所で、ポーズってのは"ハッタリ"っつー意味も有んだが、知ってたか?」

「…………あぁ?」


 更なる合図を口に出す。阿呆共の喧騒の直中だが、聴き逃す無能じゃねえ。

 懐疑と不信に眉を顰める"奴"に、俺はいつも通り、"副長"の造り笑顔で口を開いた。


 ――或いは、"奴"への手向けとして。


 そして、銃声がひとつ。

 合図に従ったスヴェアが、"奴"を後ろから狙撃したのだ。

 直感か、手を読んでいたのか知る所じゃねぇが、ヴァルカの顔をした何者かは身と首をひねり、顔面風穴コースの弾丸が、頬の表皮を掠める程度に終わった――が、無理に回避したが為に、体勢がまともに崩れている。


 そして、テメエは誰と向き合ってたと思ってんだ、モドキ!


「――ッそ!」


 交錯は一瞬、忌々しいと吐き、突き刺す眼光を、全体重を乗せた踏み込み、握った拳で打ち抜いた。

 頬の出血と鼻血が、ヴァルカモドキ共々宙を舞う。


 かつて、糞隊長の思い付きで催された部隊内アームレスリング大会で、部隊内最年少(除・隊長)双子姉妹の妹との最下位戦で秒殺された経験のある俺だが、流れと力と体重の乗せ方次第では成人男性を殴り飛ばす事も可能だ。


「――で、テメエは暗部の誰クンだ?」


 地に転がるモドキに話しかけ、無造作に歩み寄る。

 んでナンカしようとしたら即射殺する、そんな意味合いで銃と殺気を突きつけた。


「――ヴあ、ヴァルカ?」

「何してんだ副長?!」

「騒ぐな、コイツァ偽物だ。ヴァルカじゃねえ」


 状況を知らない騒ぐ部下達を一喝。


「……な、に言ってんだ、俺は」


 痛みにくぐもったものの、ヴァルカとそう変わらぬ濁声で、俺にではなく部下共にしらばっくれるモドキ。つか声真似上手い奴だ。


「副長副長、なんでそいつニセモノって?」

「コイツは俺の名を言った」


 双子部下のどっちかが――声と喋り口だけじゃ判別できんのだ――皆を代表して疑問を口にし、俺は十分に説得力のある理由を語る。無論それだけじゃないが。

 知れ渡ってる情報としては、あの部隊有数の阿呆たるヴァルカが、俺の名前を覚えてる訳ないだろう。


「成る程ー」

「そりゃヴァルカじゃないねー」

「隊長の名前すらたまに忘れる奴だしな」

「ヴァルカだしな」

「……ふっ」

「せーくんせーくんしっかりして君がいなくなったらわたし……」


 双子を筆頭に、口々に同調を示す部下たち。無駄にウザい空間を形成してる最後のはスルーだ。

 ヴァルカの普段の行い、てかどれだけ頭可哀相か知れ渡ってる所以だな。

 頭を使わせなきゃ使えンだがなあ、アイツ。

……取って代わられてる今は虚しい言葉か。


「――ユア」

「なにー?」

「リアはー?」


 外見からは青っぽい紫髪を左右どちらに結わえてるかしか解らん双子姉妹の姉の名を呼ぶ。即座に陽気な馬鹿っぽい返事が二つ返ってくる。片方呼べば両方寄って来やがるからなコイツら……

 手招きすると、斜め後ろから軽快な足音。次に、傍らに居るリーを指差す。


「このガキを連れて退がってろ。血なまぐさい事になる」

「「いえっさー!」」


 物騒な単語に一切のリアクションも無く、天然を装った腹黒姉妹が口を揃え了解を示す。


「んでオイモドキ。それ、ヴァルカのツラの皮だよな」

「…………」


 誰かが息を呑む音を鼓膜で捉えるが、モドキは沈黙を保つ。俺はさらに続ける。


「てこたあ、テメェヴァルカを殺ったんだな」

「……ああ」


 黙秘も否定も無駄と悟ったか、モドキは簡潔に肯定した。

 ――まあ、事態は急だったからな、多分慌ただしくてミスったんだろう。うっすら血の跡が遺ってたんだよ、その皮。

 そっちの人間がツラの皮剥がれるトコまでやられて、生きてる訳ねぇ。部下共の何人かが騒ぎ始めたが、尋問中だと冷静な奴に留められる。


「ふくちょー」


 そんな中、比較的マジな空気を打ち壊す、陽気に間延びした声が微妙な広さの倉庫に反響した。


「……何してんだテメエら」

「リーちんがー」

「うごかんよー」


 不可解な双子の発言に、ちっと進んだ地点からいまだ動かぬガキ共の気配をちらっと見…………リーの奴が足を踏ん張り、先導する双子に抵抗してこれ以上進ませまいとしていた。

…………なにごと?

 とりあえず、無感動から駄々を学習し成長したらしいガキ。ひきづってくのを命令すンのもナンだから、その場で目隠し耳栓をさせた。



「――で、隊長にゃなんつって退席させたんだ?」


 気ぃ取り直してモドキに問い掛ける。割と急いでんだ。

……まあ、想像はつくがよ。

 あの天上天下唯我独尊隊長を動かすには、そこそこ隊長から信頼を得ているヴァルカとて、手段(いいわけ)は限られる。


「――俺の"弱み"を餌にしやがったな」

「…………」


 改めて重圧と殺気を叩きつけるが、野郎は不自然な息をしながらも汗だくで黙秘(ダンマリ)を通す。

……焦らしにも屈さない玄人(プロ)根性は認めてやる。

 だが、沈黙は肯定ととるぜ。

 これは実のところ尋問じゃなく、タダの確認だからな。


 ――俺のクスリ、期間がヤバイからとあのガキを呼ぶエサにしやがったな、モドキ。


「――じゃ、最期だ。俺らは、なんつー名目で裏切った事になってんだ?」

「――……ッ……」


 喋らない玄人の、口を閉ざす闇の住人の目を、見る、視る、観る、看る。

 目は口ほどにモノを云う。

 訓練された暗部といえど、ソレを完全に克服出来てる奴は少ない。

 だから観察する。

 蒼い瞳孔が、微かにというには微妙な位置付けで揺れる。

 ――裏はとれた。

 用済みだ。



「――尋問はもう?」


 頭を撃ち抜かれ射殺された名も知らぬモドキの死体を一瞥し、スヴェア=シグナリスがいつもと同じく口数少なめで、だが僅かに緊張の滲む落ち着いた声で問う。

 ――だから()ったんだろが。


「いらん。それよか此処を離れンぞ」

「なんでだ?」

「解らんか? 暗部に此処がバレてて、此処に国家最重要機密があるっつー事は、」

 部隊の誰かが零した疑問の声に、状況説明も兼ねて淀みなく答える。

「んな情報を回して無い筈がネェ……此処を包囲する形で、大量の増援が来る。それも正規の、サーガルド王国近衛騎士隊だ」



 ――例の極秘コード・インクティマト……その基本資料からして実際とは色々違うが、ありゃ国王の判が押されてた。

 つまり国王が、国の最高権力者が一枚噛んでる、国家的に明るみにしちゃマズい事項なんだ。詳細を知ってようとそうでなかろうと。

 近衛を適当な名目で動かしたり、その適当を捏造したりな……あるいは捏造じゃねぇか知らんがともかく、国の騎士隊を一つ潰そうと守らねばならない秘匿だってこと。

 来る驚異に単独で対抗しうる最大戦力もどっか行ったし、割れた居場所に留まる訳にゃいかんだろ――ッッ、


「……副長?」

「…………っもう、副長じゃねぇ……最低でも俺は主犯として、……コレだ」


 立ち眩んだ俺を案ずるようなスヴェアに、多分悪いだろう顔色で動悸がする胸を押さえ、もう片方の手で複数の意味をもつ、首をかっ切るポーズを見せた。


 ――しっかし、銀髪オールバックの糞爺の差し金か、こりゃあ……?

 ちょうど、クスリがキレる時期にこんな……


 ――チッ、上等だ。


 まともな視界じゃない激しい目眩に、脳天を鉄槌で断続的にど突かれまくるような頭痛、心臓を直接メスでかき回されるような神経を逆撫でし抉る感覚やらで倒れてのた打ち気絶したい感じの、クスリ未投薬による禁断症状だが、脂汗流しながらも根性とか怨念とか執念とかで堪え、動揺少なからぬ面々を見据える。


「――いいか、俺はもう、反逆者辺りとして騎士から除名されてる筈だ」


 少なくとも、あの糞爺なら確実にやる。それも迅速に。


「俺が敵に回したのは、国なんだからな」


 意識は異常な禁断症状のせいで逆にはっきりしている。精神がヤバい……尋常じゃない苦痛を早口説明で紛らわす。

 それに息を呑む音が複数、霞んだ視界の先からうっすら聞こえた。


「テメェらが、俺に従う理由はもう無え。今なら、反逆者の事は知らぬ存ぜぬで騎士に戻れる心算が高い」

「何、言ってるの、副長……?」

「……反逆者に付いても、得に成るものは何も無い。付けば逆に総てを喪う可能性が高い。よしんば逃走できたとて、国から追われる身になる……」


 困惑していると主張する声を出すキャリーに、誠一が冷静に俺の説明の一部を要約する。


「せーくんッ!」

「……そう、言いたいんですね副長。それを自分の口で告げる為に……」


…………霞んだ視界からは表情が確認できんが、掴み掛かったようなキャリーと、或いはそれに気付いてないくらいに感極まったような声を出す誠一。

 しかしお前、……解釈からして、俺を過大評価してねぇか?

 苦笑でか苦痛でか、引きつる頬を何となく意識しながら口を開く。


「まあ……半分近くはその通りだ。だが、決断はテメェらの自由だ」

「……爪弾き者の集団、我らサーガルド騎士団・第十三部隊。……国に潜在的な恨みを持つ者も居よう」


 古風な片言でスヴェアが俺に代わり続ける。

……そういや、テメェにゃ俺のクスリの事話してたな。


「……つまり、裏切りの勧誘も兼ねてかよ」

「まあ、単に別れだとか云う臭え理由よか遥かに副長らしいが」

「んだなー」


…………まあ正しい認識だがよ。

 なんかそう、軽口でほざかれるとイラっとくんな……――ッっ。

 

 ――ちっ、糞思考がなんかもうまとまラん……やバ……ー……――



 ――各地をアテも無くぶらついてた旅人だった俺は、指したる理由もなく、ここサーガルド王国に立ち寄ったのは、何年も前の事。

 諸々の事象から、後に爪弾き者集まる十三隊の隊長となる異能力者のガキに関わり、俺の親の友人であったと語る銀髪オールバックの爺に、ある因子とやらを打たれる。

 そして俺は、その爺が提供するカプセル状のクスリを定期的に飲まねば、致命的な禁断症状に襲われる、不自由な体に成った。

 ――かくて一人のチンケな旅人が消え、外道の手先が一人出来上がったわけだよ、畜生。



 ――眠りにおちる際にいつ寝たか分からんとか、そんな感じで意識が途切れていた。

 んで次に、俺が認識力を取り戻した時、まず目に入ったのは――粘着質な音をたて、零距離でしがみついた俺の口内を舌で舐め貪る、無表情ながらに何故かやや紅潮したリーの顔面であった。


…………先とは全く異なる理由から意識がトビ、数秒後、自分でよく出せたな的怪鳥音と共に怪奇ロリのコンプレ疑惑補強唇吸いマセ童女にアイアンクローをキメつつ、再度復活を果たした。



「――ナニしとんじゃオンドゥラァアアアアアアアアアアッ!!?」




 半分以上呆然とする元・部下共を含め、とりあえず何かに絶叫した。

……しかしはて、体中の禁断症状が綺麗サッパリ消えてるのはどういう現象だ?

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