悪戯もほどほどに
東方を統治している大国、といって差し支えない巨大な帝国。
ここ西方と比べ、温暖で四季がくっきりしていて、宗教の代わりに利権を翳す貴族が蔓延る、豊かに腐りかけた国。
その頭脳が出ばってきた割に、交渉はシンプルなものだった。
災害を超えた共通の脅威があり、それに対する決め手をこちらが持っている。
帝国は一切の邪魔はしないし、むしろサポートをする。
必要な情報も提供する。だから共闘しよう。
纏めればそんな感じだ。
額面通りなら、こちらとしても帝国の横槍が無くなり、情報を仕入れるメリットはあっても、直接的なデメリットは皆無な取引。
それだけに胡散臭いにもほどがあったがとりあえず、あちらが協定を破らない限り、結ばない道理はなかった。
かくて、飛竜が佇み見守るクレーターの真ん中、国家反逆者と帝国の智恵の間に、密約が交わされた。
「協力を感謝するわ。ラディル」
御託はいらん。さっさと概要を説明しろ。
握手の形に差し伸べてきた、怪異じみて小さい手を無視しつつ、視線にそう込める。
「とりあえず、ディ・ベルゼブを抹消する方法は簡単。アリューシャちゃんが核を回収すればいいわ」
同盟は結べても友好的ではないと正しく解釈したか。
手首を振り、やや不機嫌そうに唸ると、月城 聖は解説を始めた。その内容に真っ先に表情を歪めたのは、どういうわけか相手側の変態、司とかいう女男であった。
「あんな可愛くて小さくて可愛い子がですか」
なんで二回言った。
だってそれしか手が無いのだもの。クレバーな主の返しに圧し黙り、しかし納得はしていない顔で一歩下がる。
仕方ない。非常時だ。便利な言葉だよな。
「核ってのは、具体的に?」
変態の小抗議が収まったのを見計らい、問う。
「アリューシャちゃんの首筋にある痣。それを肥大化させたような外観をしている筈よ」
僅かばかり語尾が曖昧なのは、参照した情報そのものが曖昧なのか。それとも、他の要因か。
少なくとも、月城の情報はかなり古く――下手をすれば前文明以前の断片を解読している所以なのかもしれん。
遺失文明の宝庫である遺失遺跡。
その所有権は基本的にその発見された土地の領主、から強請取った国だ。
そんで先史文明の防護というえげつない危険を突破するのは大抵が国家派遣の調査チームであり、領主か国から黙認された――或いは認識されていない――旅人や冒険者である。
その際、後者ならば遺跡の謎アイテムをかすめ取る機会はある。
それは実際、俺もやったことがある手だ。
だが防護を突破した後、更に詳細な調査報告を受け取ることができるのは国の上層と、それに連なる秘匿機関くらい。
一般公開されるものはその一割にも満たんだろう。
その国家間秘匿情報の中の、俺も知らない魔人の情報。
「その核をアリューシャが回収すれば、アレが死ぬって?」
「注入された魔人の因子が苗床を汚染して、丸ごと乗っ取り同化したのが、あのディ・ベルゼブの正体」
その解釈でいくなら、死体に注入したから"ああ"なったんだと思いたい。下手をすれば俺もああなってた可能性なぞ、考えるだけでおぞましい。
いや、今でもいつくるか解らん禁断症状を抑えるため、ガキの唾液をすすらにゃならんという最大級の屈辱を味わっているところだが……ロクなもんじゃねぇな魔人。
「つまりその要因であり、制御機能であるそれさえ取り除けばいいのよ」
取り除く、具体的にどうやるか以前に、そこまでをどう持っていくかだ。
多分、アリューシャに頼りきったやり方にはなるのだろうが。腹立たしいことに。
「つーかその、ディなんたらの所在は掴んでるのか?」
「肥大化して被害が出始めれば、遠目からでも一目瞭然になるわ」
そりゃ、被害が出るまでは解らんということか。
月城の傍らに佇む隻腕仮面シスター剣士という変質者さえ、呆れたように肩をすくめた。
なんかなんとなく探知できそうなアリューシャも解らんらしいし、手持ち無沙汰か。
しかしうちの連中は大丈夫だろうな?
あのエグい形状した触手の、弾丸じみた速さを、異形としか言いようがない異様を思い出す。単純な早さと手数に、不規則さ。心理的な要素も含めれば、逃げることさえ難しいだろう。
捜しに出させたミソラも大丈夫だろうか。グロテスクに遭ったら逃げろ、いやもう遭遇するなと言い含めてはいるが。
で、アリューシャよ。肝心要はお前なわけだが、わかってんのか。
おい、小首を傾げてるな。もう一度あのグロテスクと、
「……うぅ……ぅーっ」
俺のコートの裾を掴む力を強め、涙目で首を振るうガキ。
またもどっかに落としたらしい帽子に収まっている筈だった桃色の糸束が、俺の黒いコートを叩く。
いつだったか、風邪をこじらせたフォリア(小)が、わずかばかり苦い薬を飲むのを嫌がり駄々をこねるような仕草と目を思いだした。
まあ、あんなグロテスクと再び対峙したくないわな。
「あー、なんだ、怖いのか?」
「……うーっ」
恐怖を肯定し、イヤイヤを視線と態度に込めるアリューシャ。
こいつはへたれの気質があると感じていたが、別にこれに関しては特別へたれた姿勢というわけじゃないだろう。
誰だって災害の人身御供になるのはゴメンだ。
嫌がるな、とは流石に言えん。
「アリューシャちゃん」
言葉に迷った俺に代わり、口を開いたのは月城 聖だ。
「あなたが頑張らないと、ラディルはあなたの事、嫌っちゃうかもしれないわよ」
…………ナンダその言い種ハ?
「余計なことをほざくな月城 聖」
殺気すら込めて要らん発言をした月城 聖を睨む。肩をすくめて受け流された。余裕のある対応がまた一層に腹立つ。
「…………?」
ちょっかいのように言われた内容すら理解できんガキ風情に背負わすにゃ、デカすぎるし危険にも程がある役割だ。こんなんに当面は全力投資せにゃならんとは……
「まあ、気にすんな。どっかの腹黒が盛大なフカシほざいてない限りは、楽勝らしいぞ」
「その言い方はあんまりじゃないかしら?」
横手からの視線をシカトし、未だうーうー唸りぐずるガキの正面に膝をつき、目線を合わせる。
「イヤか?」
「……」
無言の肯定。俺につかまれてる細く小さい双肩は、小刻みに震えていた。
やれやれ……ん?
何やら、今一瞬一際大きく肩が跳ね、重大な過失を犯したような唐突さで目が見開かれる。
スイッチが入ったように、恐怖の質が変わったような。
「ら……らでぃるは……ありゅーしゃが、がんばらなきゃ、あいつたべなきゃきらいに、いやに、なるのぉ……?」
蕾のような口元は脅えに引きつり、震えは痙攣の領域に入っていた。
あまりの姿に呆気にとられて――ではなく、目眩を伴うような怒りで思考が停止し、ナニカ返すべき言葉を思いつけさえしなかった。
「や、いやぁ……!」
それを、思考という以前により深い所を共感しているこいつはどう受け取ったか。
歪む。アリューシャの顔が、ぐしゃぐしゃにゆがむ。
それを見た、その反応を見た月城 聖が、視界の外で嘲笑った気がした。
「がんばるから、なんでもするから、ありゅーしゃ……なんでもがんばる、だからあっ、すてな」
「阿呆め」
――ごっ。
鈍い音と衝撃が直に脳を揺らす。
最後まで言わせてたまるか、んな胸糞悪い台詞。
憤怒で打ち下ろされた頭突きが、見事その目的を果たした。
あううぅ? とか間抜けに呻くアリューシャのでこに頭を突けたまま、
「すてな、なんだ? 訳のわからん事を抜かすな」
口笛を吹くような音を聞き流しつつ、戸惑いかなんかで揺れる金色を間近で睨む。そらさせないように顔面を固定しているが、コイツはそんなことも忘れたように固まっていたが。
「んな事を抜かそうとするから、テメェはガキだってんだ」
周囲の視線に特殊な色が付属され殺到するが、構わず続ける。
憤怒と羞恥で頭が沸騰しそうだが、それでも。
「ガキには保護者が――テメェを一番に考えてやる存在が必要で、そこにガキの意思を挟む余地は無ぇ」
それが当たり前なんだ。俺が体験する事のなかった、日の中る所の当たり前なんだよ。
沸騰した頭が若干支離滅裂なことをほざく。それも化膿、じゃなく可能な限り無視。
「保護者もだ。別に血が繋がっていようとなかろうと、」
途中、不足してきた息を吸う。
思考を読まれていようといまいと、そんな事関係ないくらい視線に込める。込めるべきものを、眼と声に込める。
「一度保護者として認識した以上、ガキがガキでなくなるまで、保護者は保護者でなくちゃならねぇんだよ。だから」
――ありえねー事でそんなんなってんじゃねぇ。
その台詞を最後まで口にする事は許されず、姿勢的に無理があるはずの無理を押し通し、ガキは俺を押し倒した。
半ば条件反射的に染み着いた受け身をとってなけりゃ、気絶していたかもしれない勢いで後頭部をしたたかうち、怒りまじりの苦悶が口からまろび出る。
犯人たるガキは、俺の思考やら態度やら台詞やらをどう受け取ったのかさっぱりだが、俺の胸に縋って泣く。強く強く――っておい、人のコートをんなバカ力で握るな糞ガキぃ!
「あらあら。熱烈ねえ」
茶番を嘲笑う観衆。いや、成果を得られた研究者のような声。
効果は抜群。色んな要素で湯気がのぼり始めた頭の温度が、反転する。
コレか。アリューシャをつつけばどうなるか、俺がどう出るか、観察してたのか。
「月城 聖」
茶番を仕組んだ主の名を口にする。
その声は、そうなるように努めた俺自身で感心したくなるような、平坦なものだった。
「なにかしら」
からかうような煽るような宥めるようなどうでもいいような。
多様な矛盾を含む声には先から苛ついていたが、今はそれにどうとも思わない。
ただ、すがりつくるガキが、鬱陶しく喧しくうざってえなあ。と、
「――次、うちのガキにくだらねぇちょっかいかけたら、殺す」
そんな不愉快な事態を誘発した犯人への、揺らぎない殺意くらいしか頭にない。
それを反映させた声を聞いて尚、月城 聖は表情を変えない。
角度的にも距離的にも見えんが、確信に似た認識があった。
「うふふ、大事なのねぇ。けどそれはその子に、かしら。それとも――」
「月城 聖。お前の読心術、そんなに融通が効かないらしいな」
もしくは、本当に死んで構わないのか。
月城 聖は答えず、ただ雰囲気がやんわりと変質させた。気を張るような。
正直、本当に混じりっ気無しに正直。
もう半分くらい、後先とかどうでもいいかなと思考の隅で考えてる。
このガキが延々とこの体勢維持してなきゃ、俺はお前をはずみで殺していたとこだ。
例え地に仰向けで、恐らくはその道の達人であろう隻腕の剣士から得物を突き付けられていようと。同郷の狙撃者に警戒されていようと。関係ない。
今、俺が殺害衝動を抑える最後の壁は、ガキが泣きじゃくって俺に何かを求めているということ。ただそれだけ。
俺は、そこまで気が長くない。温厚でも優しくもない。ただの、
「そこまで」
何かのタイミングを見計らったみたく、陰気な制止と共に、沼にでも沈むような感覚、最近にして覚えた、独特の沈澱感。
俺にのしかかっているガキごと、下がっていく視点。
何かと思えば、影に潜み渡る変態の影潜りだった。
視界の暗転。しかし術者は一切の断りを入れることなく、数秒の後に再び地上に。
赤らみ始めた空と、翠の飛竜の偉容が視界に映る。ガキはまだしがみついたまま。
しかしどう融通をきかせたのか、仰向けから胡座をかいた姿勢になっていた俺。ガキは泣きやまない。しかし鳴いてはいない。
無言で、視点を移す。
仮面を取り払ったみてくれはかなり若い、てか声からして憶測はついていたが、幼いといって差し支えない容姿をしている、黒装束の変態。
しかし、達人級の剣士と相対し、得体の知れない能力を行使する実力者は、静かに腕を組み唇を一の字に締め、俺の傍らに立っていた。
隻腕の剣士と狙撃者は殆ど配置を変えず、此方を見据えている。そこに先のような緊迫感は無い。間合いと共に、状況は変わったのだ。
純粋な、殺し合いに成りうる間合い。
さらに相手方も尋常ならざる使い手じゃない故、先とは質の違う硬直が生まれている。
しかしまあ、どうせおひらきになるんだろうが。いくらなんでも不毛過ぎるからな。
――残念。
そんな中、溜め息に混じれ消えてしまいそうな――どんな囁きだろうが軍勢に染み入りそうな声の主にしては、本当に何の力もなく弱い声。
緊迫につき五感の精度を高めていた俺には、少なくともそう聞き取れた。
――こいつ……
それさえ演技であるという可能性は消えない。むしろそのセンのが濃厚といっていいくらいだろう。
だが、俺が可能性として一瞬でも想定しておきながら流石にないだろうと切り捨てた可能性が、妙に琴線に触れる角度で再び頭をよぎったのは紛れもない事実。
「――――くちょおおーぅ!」
遠く、といっても、飛竜の巣として成立しそうなクレーターの外から、声がした。俺を呼ぶ声だった。しゃくりをあげるガキの声はカウントしないにしても。
声は気配を伴い、複数の気配が近寄ってくる。数は……全員無事だったか。
「……一度引くわね」
浅い嘆息をしながら、月城 聖が言う。
穏便に済むような流れではないし、危急ではあるが発見はまだであり、消耗を考えても今すぐである必要はあまりない。
結局、魔人を頼らなけりゃ事態の収拾はできないんだから。月城 聖と協力しようとしまいと、こっちが動かなきゃならん事に変わりはない。
その辺りをよく考えること。
要約すればそう言いたいようだった。
「行く前にこれだけ答えろ」
某なんちゃって野生児並みのネーミングを振るわれた飛竜の背に乗った月城 聖を見上げる。見えたのは無骨で威嚇的な竜鱗だけだったが。
「先日の遭遇戦でミソラとは違う部下が一名、行方不明になった」
「私は知らないわ。これは本当よ」
そういう附属を付けた以上、これはというのに関しては本当に本当だってのが定石だが、どうなんだろうねコイツの場合。"私は"とかも気になるし。
誰かがクレーターの端に辿り着いたか、翼を広げた飛竜をまんま呼ぶ声が聞こえる。
直ぐにデカい翼の羽ばたきでかき消されたが。
「明朝、また此処に」
風圧で髪が真後ろに吹き流される中、再び発生する砂塵。
飛竜がその呼び名の如く、重力に逆らい、法則に抗う。
こんな巨体が飛行できるという非常識、風にも乗らず風を発生させ、翼以外の要因で飛翔を始める。
竜が竜たる以前の、魔物が魔物たる所以。人間や動物が縛られる物理法則を打ち破る、怪異。
そのまま飛び立って往く飛竜を止める術を、俺は物騒な方法以外に思い浮かべることができなかった。
その後、合流した連中から質問責めにあったのは言うまでもない。
中途半端に要領が悪く人見知りがちなミソラから聞いた情報の断片に関するもの、月城 聖の介入、このクレーターはなにか、あの異業は、なんでリーちゃんが泣いてんだテメェ何しやがったロリコぶくふぉああ、どうしてミソラがひらひらなのか、等の諸々。
最後の二つは撲殺と黙殺で済ましたが、それ以外には多少の説明が必要か。
判断を下し、場を移す。んで掻い摘んだ説明を済ました頃には、日が沈みきっていた。
腹がへった。いい加減に泣き止んでいたアリューシャの腹の抗議をキッカケとして、まじめな説明に胡座をかいていた馬鹿共が、一斉にダレはじめる。
「腹へったー」
「晩メシにしましょうぜ副長」
「あっちにな――」
「ごっはん、ごっはん」
「……うにー」
喚く奴、提案しながら返事を待つ以前に荷物を漁る奴、無断でどっかに行こうとする奴、なんか一人で食い始める奴、猫のように背を丸めて未だ俺にしがみついてる奴、未だ女装してる奴、それを血走った目で視てる変態、新たな仮面を付けてる変態……
焚き火のはぜる中に溜めた息を吐き出し、眉間をこねる。
そして未だ三角座りとか傭兵座りとかしてる極少数を眺め。
「……この中だとやたら浮いてるよな、真面目組」
「お前の部下が奔放すぎるんだよダメ上官」
隻眼のマ○馬鹿女に冷めた目で多少気にしているところをツッコまれた。
どうしよう、どつきたい。
「何をするか!」
とりあえず後ろに回り、思いの外細い首に腕を絡め、締めた。落とす気は無い、声が出せる程度の地味な痛みだろう。
「いや、何かお前に反抗的な態度を取られると、何故か完膚無きまでにねじ伏せたくなる」
「なんだその歪んだ願望は――にきゃーっ!?」
何となく耳裏に息掛けたら、予想以上に艶がある悲鳴と痙攣じみた震えが返ってきた。
存外に響いた反応に目をしかめ、もう一度、二度。
「ふっ、やあっ!」
耳元は真っ赤に染まり、ちょっと刺せば血が噴出しそうな勢い。そして震えというよりは身悶えするような、そんな感じ。
……面白。
弱点発見の愉悦に頬を歪め、さらにそこを突こうとしたら、悪寒がした。
「せくはらー」
アスカの後頭部に、フルスイングの回転が乗った突撃銃の底が突き刺ささる。
鈍い音、勢いよく崩れ落ちるアスカ。疑うまでもなく気絶コース。
悪寒に従いとっさに転がり避けてなけりゃ、俺がああなっていただろう顛末。
「よけるなー、ふくちょー」
何故か異様な程に頬を笑みに近い形で歪ませ、笑みとは対極の位地にあるだろう色を瞳に宿す双子の片割れが、何時もの甲高い口調で言った。
無茶言うな、何をするか、危ねぇだろが。頭の端に思いついたツッコミは、何故か喉から出す事ができない。
「うふふふふー……ちょおっとばっかり発育がよくて精神年齢低い単純純情ツンデレーな娘にせくはらなんかしちゃめーなんだよふくちょーはろりこんなんだからー――うふふふふふふ」
な、なんだってんだこの圧迫感は?!
声は異様に抑揚が無く、早口であったが為に解読は殆ど不可能。双子の……多分妹の方が何を言っているのか判らん。
が、なんか得体の知れん明確なヤる気だけはビンビン伝わってくる。
「……修羅場?」
「そだねー」
類人猿みたく木にぶら下がる変態仮面の言葉に、双子の姉の方(多分)が、たんこぶこさえ微動だにしないへたれの介抱をしながら肯定する。いや、まずこっちを助けろや。
「めーだよふくちょーひととはなすときはちゃあんとあいてのめをみなきゃ」
……初撃を避けたのは失敗だったかもしれん。
気絶しとけばこの淀んだ目と相対することも、とか逃避してる場合じゃねぇか。
「何が言いたい」
「せいざー」
うん? 眉をしかめて問い返すと、双子妹は上辺だけの笑みを張り付けたまま、言う。
「人の説教聴く時ゃまず正座しろっつーてんだよ……小僧」
驚いた。お前の低音ドス声の中でも最高記録だぜ。なんつー迫力か。
「つーか小僧ておま」
「黙れ」
黙る。
「せいざはー?」
従う俺に気を良くしたのか口調を一転、ドスの利いたものからいつもの幼児口調になった。
しかし形だけの笑みとアンバランスに鋭く濁った眼光だけは全く変わってねぇ。
いつだったか、自分の得物に落書きされた時の隊長を彷彿とさせる雰囲気だな。実際その時潰された内蔵が妙に疼くし。誰一人として仲裁に入らないというのもあの時に似てる。まあ内蔵を潰されるだの生命がタイレクトに脅かされるだのといった危険性はないだろうが、
「いいかーふくちょーてめえはけんせつしたふらぐのしつをはあくしてねえんだよこのどちくしょうがまいなすになんねえんだよあのつんでれてんまぞにかんしてはっつーか」
なあ、幼児みたいな声音の上、抑揚ない早口で喋るのは止めてくれないか。割と本気で怖えし聞き取り難いし聞き取ろうとする気にもならねえし。
ついでに突撃銃を素振りするのもだ。頭の直上で鉄塊がえらい勢いで通り過ぎて風切り音がしたりするのは、意外と怖ぇえんだぞ。
「つーかお前、なんかキャラ違うような気がするんだが」
「……誰のせいだと思ってんだロリータホイホイ」
誰がロリータホイホイか。
無言の訴えは、飛んで火に入る羽虫が灼かれ死ぬような自然さで流された。