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ありゅーしゃのれべるがあがった!

 黒。

 黒、黒、黒くろクロ黒、一面の黒。

 右も左も、上下に正面背後、三百六十度全方位。

 夜の暗黒よりもくまなく真っ黒な闇に満ち、どれだけ目をこらそうと首を回そうと一切の明かりが見えない、ついでに遠近感もイかれてくる空間。底の見えない奈落が全域に広がっているとでもいえばいいのか。

 精神的にも肉体的にも薄ら寒い、不可思議かつ不気味な漆黒。


 ――何やら、うっかり久しぶりな気すらする。

 二度と見る事は無いだろうという気がしていたが別にそんなことはなかったらしい、某糞ガキの謎空間だ。

 それ以外有り得ない。

 我ながら疲れきっていると断言できる嘆息を一つ。何やら謎空間で妙な反響音。


 ――とりあえず、状況を説明すると。


 変態仮面と話を終えて、寝て、んで気づいたら此処に立っていた。

 相変わらず踏みしめているはずの足場がアレだから、いつものブーツ越しで地面を踏みしめている、というには曖昧すぎる感触だが、とりあえず感覚的、俺の主観では突っ立っているで間違いない。以上。

 意味は判らん。

 ついでに何故?

 外見上は、以前あの馬鹿ガキの姿をした電波ガキが発生させた謎空間と寸分違わず――かどうかは規模のよくわからんが、とりあえず目につく闇の質は同じっぽい。だが、決定的な相違点がひとつ。


「……いねぇ、な」


 呟いた言葉は俺の声とは思えんように、不気味に不快に謎空間で木霊(こだま)する。

 ――で、犯人であるガキは、どこだ。

 ぐるりと視界を回しても――肩をひねっても、どういう訳か筋肉痛の類は感じない。念の為抓った頬は普通に痛かったが――闇、黒一色。

 薄い桃色も、特徴的な金色瞳も見えない。いや決して小さすぎるという事実から見えないとかではなく。てかそれ以前に、全く光源が無いのに見えるわけねーだろという定説もあるかもしれんが、この謎空間では適用されない法則だ。もの悲しいことに。

 事実、以前のあの薄桃幼児はしっかり見えたし、自分自身の服装が変わってない――意味不明な闇の色とは何か違う、異常の中では保護色になりえん黒いコート姿――という事も判別できる。

 視覚が正常に働く以上、単純に見当たらないだけ。さらに云えば気配も無い。

 ――どういうわけだ。

 この謎領域に引きずり込んだからにゃ、何やら常人には理解困難な御託を不規則に並べたてるってぇのがパターンってもんだろうに。姿さえも見せんとは。


「どこにいやがる、糞餓鬼(リー)


 吐いた悪態は再び不快に歪み、鼓膜を揺すり。


「――ありゅーしゃ」


 次いで俺のものとは全く違う、舌っ足らずでいてまったりとぶーたれたような声が、間近を通り越した至近から聞こえた。


「……りー、ちがう……ありゅーしゃ。らでぃいるが…………つけてくれた、名前」


 か行とた行があ行混じりに聞こえる、覚えたてた言語を回らん舌でぶつ切りに使っているような声。

 つーかこだわるな、その長いのは不吉なんだよ。

 重苦しいもんを吐きながら、すぐ真下。視線を傾けると、いた。

 どういうわけか、そして何時の間にか。俺の腹部に顔を埋める薄桃色の後頭部があった。


「……で、何がお望みなんだ。こんな場所で」


 不機嫌隠さず、この謎領域の犯人たる薄桃頭に無駄を省いた台詞を吐き。


「……こわ、かった…………」

「だろうな」


 

 あんなぶっとんだ場所にいて恐怖を感じんほど無感情じゃないだろう、お前は。

 応答しながら、蚊を殺せるくらいの要領で内約通りの拳骨をおとし、そのまま平手にした手でわしゃわしゃと後頭部をまぜる。


「…………りりあ、が……」


 弄くっていた手が止まるほどの間をおくと、何故かガタガタと震えながら、ガキはらしくない程にガキそのものな仕草を見せる。

 それに何か妙な、同情に近いモヤモヤした得体の知れないモノが沸きかけたが、


「りりあ、の。かぞく…………みんな……したい、死体に、なった」


 ――親しい者の不幸を嘆くような、当たり前だが当たり前故に――ガキの境遇をかんがみれば――不自然すぎるガキのその様に、続いて困惑も湧く。

 そして直ぐに、困惑が違和感、疑惑へと転移。

 長年の直感に従い、今はそれの解読に集中し、何時の間にか中途に開いていた口を縫った。




「――きゅうに……、はしって、とまった。ちが、チが、いっぱいあって…………黒いのが、ジュウ、かばった、ありゅーしゃ……が……のに…………」


 ――時間経過にして二分と少し。要領を得ないガキの、独白とも懺悔とも甘えとも受けとれる台詞の切れ端切れ端を、そこまで聞いて。

 友達の惨劇を拙く語りつくしたガキに、ある仮説が浮く。


「……なか、なおり……して、おともだち、いっしょにいてくれる……いった、のに」


 確信が深まる。そっち方面には疎いという自覚があるが、これは。


「りりあ、が、らでぃる、も……――カナシイ?」


 無言で、腹にあるガキの後頭部を撫でてやりながら、思い出す。

 精神関連について、独自の技法をもつ能力者である双子の言葉。その場でどうにもならん問題だから捨て置いたが、今は拾う時。

 ――コイツと、俺の繋がり。コイツは俺の"中身"を参考にし、情緒的成長を促進させているという可能性。

 中身。精神。それは俺の知識、それだけとは限らない。


「……俺の知識を吸収するのは、よかあないがまだ良い」


 知識は、知識だけでは情緒は育まれない。ならばコイツは、ちょっと前までは言葉を発する事すらまともにできなかったコイツの、情緒面成長率の早さは。

 周囲に目をとられ、あちこちに興味をもつことは判る。

 だが、例えばあの時。

 俺らが氷原で合成獣(キメラ)に追われていたあの時の行動。

 そして――リリアが、俺に抱きついた時。


「――……ッ!」


 そこまで回想した瞬間、アリューシャが俺から離れ後ずさる。

 奇しくも、丁度回想していた、あの時あの瞬間みたく。

 まず間違いなく当たっている推測に、まず嘆息をひとつ。

 ――常識的に考えて、超人的というより超常的な力をもっていようと、それを行使・制御する自我・意思がなくば、あの場面――合成獣(キメラ)という驚異"だけ"を消す、という異常は起きなかった。

 それ以外にも思い当たる節はある。俺を抱えて走るだとか、俺以外の十三隊の面々に懐かないだとか。色々。

 その極めつけが――保護者に該当する筈の、俺からの逃走。

 今までの統計が、ただ本能だけで動いている、というのを否定している。

 感情、より明確な自我の開花を肯定している。

 通常の早さでは無い、なら、その要因は――


「――お前、俺の思考を、いや、もっと深い部分まで参考にしてるんだな」

「…………」


 頷くようにうなだれるように俯くアリューシャ。

 わかっているのだろう。具体的などうやってかはわからんが、感情の機微さえも見通しているならば。

 その行為が、現状が俺にとって――とてつもなく不愉快なことを。

 わかっている……いや、或いは。


 ――(ラディル)という他者を、自分自身(アリューシャ)と混同させている?


 ならば、俺の意に沿う行動をしていたのも、俺ならばどうするか、中途半端にトレースしていたとすれば……

 それに、ならば俺の意思と、アリューシャの意思。

 それらが噛み合わず相反し、混乱していたとすれば。

 あの逃走やら、銃弾かすめて昏倒やらも、さらに細かく説明ができる。

……詳しくは専門家の意見を伺う必要があるやもしれんが、なんか今を逃したらマズいような気がするし。多分、そんなに間違ってもいないだろう。


「気づいているだろうが、更なる懸念を思い至ったから、言わせてもらう」


 敢えて口頭で前置き、推察を進めながら、


「お前はお前だ、俺じゃない」


 まあとりあえず、対ガキ用の本質だけ伝える、三文小説じみた恥ずかしい直感的物言い。我ながら。

 だが、これぐらいストレートな方が、単純な馬鹿ガキには丁度いいだろう。

 相対するガキは沈黙を守る。

 ――子供(ガキ)というのは、大人が思うそれよりは賢明という。


「俺とお前を、混同するな」


 だから、基本的にそいつにとって大切なことは、本当に"今"通じているかは別として、伝える必要はあるんだ。

 多分な。


「……うー」


 案の定、眉をしかめ潤んだ上目を向けてくるリー。


「……りー、ちがう。ありゅーしゃ」


 ほれ、こんなとこでもう意見が食い違ってるだろが。

 つーか思考を読むな。そういうのは止めろ。


「…………なん、で……?」


 そういうのは、アレだ、不自然なんだよ。摂理に反している。思考だの知識だの、人が長年積み重ねていったもんをそんな風に読み取るな。

 なんか、体洗いから風呂上がりまで尻の穴とかしつこく覗かれてるみたいで、気色悪いだろが。


「……ヒトが、いやがることは……やっちゃいけない?」


……お前、どこまで俺の記憶を(さかのぼ)った?

 じと目で見下ろすが、ガキはあうぅとか涙目で怯えつつ一歩後ずさるだけ。

 流石、ただの蝶々の群れに追いかけ回されていただけのことはあるビビリだけはある。

 嘆息し、手を軽くひらひらと振り。


「ま、とにかくだ。そういう、ワケの解らん能力で俺を参考にするな」


 言いたかないがな、俺を見本(ベース)に育つなんぞしたら、ロクな大人にならねぇぞ。人様に気安く話せるような道を歩いてきたわけじゃねぇんだから。


「…………ぅ」

「……何故泣く」


 一切の日焼けがない白い頬に、生ぬるいだろう液体が伝う。

 言葉にならない言葉がガキの口からこぼれ、段々と引きつったような嗚咽(おえつ)に成り代わっていく。


「――ぁ゛り゛ゅーじゃらもん!」


 俺の思考を読むのを継続しているらしい。

 なにやら、ごねる隙間に一際ヒステリックに喚いた。


「……っキじゃ……らぃもん……あり、ーじゃ……ひッ……あっ、あ゛りゅーじゃ……っく」


 難解、とまではいかんが片目をしかめる程度には難しい暗号。

 そんな感じの嗚咽の内容、その真意を解読し、口を開く。


「ガキじゃない、アリューシャ。そう言いたいのか」


 鼻水ぐずりながら、首を大きく上下させた。肯定の意。

 ふむ、ということは……ああ、馬鹿隊長のちっこい方やらその他諸々での経験から、ある程度読めてしまうのがなんか微妙に不快だ。


「んで、ガキだの略称(リー)だのと呼ばれるのが嫌だから、さっさと成長したいと」

「……うーっ」


 こくこくと、小動物が木の実でもかじっているような愛嬌で何度も肯く、完全なる馬鹿餓鬼(オコチャマ)

 本人にとっちゃ重大事なんだろうがな……

 夜よりも静謐(せいひつ)な空間を矮小単位で揺らす、人体に溜まるには過剰なモノの詰まった溜め息を一つ。

 んで、びくりと震えたガキに思考を読ませぬため思考を閉ざし、足場の無い足場を無造作に進み。


「この馬鹿野郎」


 正当な評価を下すと。唐突な接近に潤んだ目をしばたかせる馬鹿餓鬼へ、容赦なく拳骨を落とした。


「――ぅ、いっぃぃーーっ!?」


 頭を抱えてうずくまるガキをひとしきり観察。

 んで哀れっぽくうめくその脇の下に手を回し――


「……にぃっ?!」


 筋肉がほぼ皆無な俺ですら容易という、呆れるほかないガリガリで幼稚な体を持ち上げる。

 俗に言うところのたかいたかいで、狼狽と涙に染まった金の瞳を、俺の目線よりやや上に配置し。


「ガキをガキと言って何が悪い」


 虚弱体質な俺ですら持ち上げられるチンチクリン。

 外を出歩けばあちこち目移りする鬱陶しさ。

 ちっと小突いただけで泣く涙腺の柔さ。

 背伸びしようともがく失笑もんの滑稽さ。


 並べたてるまでもなく――完っ全なガキンチョじゃねぇか。


「テメェはガキだ。チビでバカで不安定でワケのわからん、どっからどう見ても、ややアレなガキだ」

「ち、ちがっ」


 ちなみに、テメェを頑なにガキと認めんことも、相当なガキの証明だぞ。


「認めろ。テメェはガキだ。ガキで良いんだ」


 ――ガキは嫌いだ。

 多分、そんな俺の根っこが、部分的にコイツにうつったんじゃないだろうか。

 ガキは嫌われている。

 だからガキじゃいたくない、なくなりたい。

 嫌われたままでいたくない。必要とされたい――多分だが、そういうのが重なって、こんな風になってんだろうか。


「誰も、お前がまだガキである事を咎めやしない。俺はガキは嫌いだが、そういうもんなんだ。否定はしない」


 子供(ガキ)である時期は短いようで長く、長いようで短い。

 ガキである時期は、貴重だ。そっから先の根っこになりうる時期なんだから。

 無理矢理に伸びて、その根っこを疎かにして良いわけがない。させて良いわけがない。

 ――内心の隅の方、この馬鹿にちょっとだけ似た、愚かで滑稽で惨めで哀れな誰かの過去に胃もたれしながら、


「だからお前は、まだガキでいい」

「…………っん」


 迷い、困惑、不安。そんな感じに眉を寄せるガキの目は、未だ潤んでいる。

……つーか、いい加減腕も疲れてきた。

 いくらガキが軽くとも、この体勢は疲れる。

 よって俗称たかいたかいの体勢から、零距離。あやすようなおんぶに切り替えた。微妙に冷たい体温に触れる面積が、当然ながら増える。

 二度、軽く叩いた薄桃の長い髪に被われた背中は、想定よりも幾分か小さい。


「……あぇ?」


 困惑にまみれた呆け声。

 いいじゃねぇか、こういうのはアレだ、ガキの内の特権だ。

 経験則で、ガキというものは、一度懐けばソイツにベタベタする。

 人肌に触れるのは、他者の体温を感じて安心できるから、という。

 だからたまには、俺からやってやるのも構わんだろう。趣向返しも兼ねて。


「……らでぃ、るぅ…………」

「お前、リリアがあんなになって、リリアの家族がああなって、悲しかったんだろ」


 俺は違う。

 人の生き死にで悲しいとか嬉しいとか、そういうのが希薄だからな。

 それよりかは、どっか損得感情に近い部分があるんだ。

 だからまず、真っ先に奪ったことの代償を――報復を考える。

 例えば、とっさに庇うとか、こいつが話した孤児院の場面。

 そこでこいつを俺とすげ替えたら、と仮定すれば、多分。

 庇うより殺意が先立って、ヤった連中を殺す方を優先していた心算が高い。

 だから、リリアを庇うなどという青臭いことをしたのはこいつ、アリューシャ自身の意志。自我だ。俺の自意識に賭けて、そう断言する。

 ならば、


「それを大切にしておけ。俺にゃ、薄い感覚だからな」

「……ちがう」


 語調の強い意外な言葉に、怪訝を覚えるより早く、


「らでぃるも……きちん、と…………カナシン、でた」


 告げられた二の句に、今度こそ怪訝に眉をしかめる。

……悲しい? 俺が?

 いや、確かにガキや部下が殺されてちょっとはへこんだり鬱になったりしたが、感情の制御にゃ慣れてるし、面には……

 思い至り、おんぶから姿勢を変えず、ベアーハッグ。


「……にぃー」


 大して効いてない風なうめきがまた激しく腹のたつ。

 ――ドコまで読みやがったあ……?


「…………ごめんなさい」

「謝るくらいなら読心(ソレ)を止めやがれ!」


 怒鳴りつけ、不快のあまり乱れかけた呼吸を寸でで整える。


「テメェの能力だ、使い方くらいわかる筈だぞ」


 半分推測半分願望の台詞に、ガキは肯いた。肩にくっついた顎の感触でそう判断。


「……でも、ね…………もすこしだけ……もうすこしだけ、ゆるして」

「ああ?」

「らでぃるは……ありゅーしゃの"力"……が。ホケンになると……おもっている」


…………


 静かな、どこかこの静謐な空間のような声音で、効率的な俺そのものな見解を言われ、とっさの言葉を無くした。


「――イノウリョク、人ではどうしようもない、キョダイでリフジンなちから……を、ありゅーしゃが"力"をつかえば、そうなればなんとか……なるかもしれないと……すこし、おもってる」


………………確かに、進軍してきた衛宮(エミヤ)、場合によっては敵になっているかもしれん隊長。

 そのどちらも、敵として遭遇すればオシマイな、規格外れの力を持っている。

 極力、当然だが、軍勢を避ける以上の注意をはらって接触しないようにするが、それは絶対じゃない。自信も、他の面子への信頼もあるっちゃあるが、確証はない。

 遭遇すれば全滅必至な、単体で動きまわる敵。

 そんな天災じみた不条理への抑止力が欲しいのもまた、至極当然なこと。

 その可能性として、俺が調達できる中で、現実的な対象をリストアップすると……これまた必然的に、アリューシャの名が浮かび上がる。


「…………だから……まだ、ちょっと、だけ……らでぃるを……かんじさせていて……」


 要は、こいつは進んで規格外れへの抑止力に……人身御供(イケニエ)になると、いざという時に矢面に立つと、そう、言っている。

 その為の、情緒成長の促進、か。


「……何を言ってるのか、いや……どうなるかわかってんのか?」

「…………ありゅーしゃは……よくわかんない、なにがよくわからないのかも……よく、わからない」


 がきだから、と。間に俺の受け売りをはさみ。


「ありゅーしゃは、わかるようになりたい…………だから……なにもできなく……らでぃるといれなくなる…………シタイに、なりたくない。らでぃると……いっしょがいい」


 絞り出すような――あまり言いたかないが――(つたな)いなりの、意思、ってやつを感じさせる。折れどころも飾り気も無い、直線的で小生意気な意思。

 それは、俺じゃなくとも、他者がどうこういって変えるべきでない事……たく。

 嘆息しながら、別段痒くはないが何とはなしに頭をかく。

 確かに、生まれ持った異能の制御は、急務であることに違いは無い。

 急に小賢しくなって覚えたてた言葉をずらっと並べたかと思えば、その内容もまたろくでもないときたか。

 だから、俺なんぞを参考にするなと言ってるんだ。小生意気で小利口な、可愛気のない口になる。

 ま、その形式で他の誰をアテにしろというのも違う気はするがな。


「……ごめんなさい」

「謝る所じゃ無ぇよ」


 やはり、心を読まれながらの対話というのは何か、キマリが悪いもんだ。

 顔をしかめながら、苛立ちまぎれにわしゃわしゃと無駄に長すぎる薄桃髪をかきまぜる。

 おい、そこで嬉しそうな悲鳴をあげるな。

 あげく普通に撫でられているのだと錯覚でもしたか、ガキは猫のようなしぐさで頬をこすりつける。

 呑気に幸せそうなガキに嘆息。

 おんぶしているからと調子に乗りやがって……

 しかし何となく、この小さすぎるガキを下ろす気になれず、それを理解してるのやもしれんガキは図々しく密着させた体をこすりつけ……また、深々と嘆息。


「……ま、この事態が終わるか……その必要がなくなるまでは。その不愉快な読心、ある程度認めてやるよ……アリューシャ」


 ――最悪の事態に備え、生き残るためにも、な。

 とりあえずの許可を出し、いい加減に痺れてきた両腕でガキを引き剥がす。

 下ろしたガキは、無表情――とはまるで違う、反射的に叩きたくなるような類いの笑顔のまま、しがみついてきた。

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