あなたはなにでできてるの
お題:これはペンですか?違うわ、それは男の子
「女の子って、砂糖とスパイスと、素敵な何かでできているんでしたっけ」
「そうなの?」
ハスキーボイスが適当に相槌を打った。ユウさんの相槌が適当なのは今に始まったことではないので、わたしは構わず話を続ける。
「で、男の子は、カエルと、カタツムリと、子犬のしっぽ。そういうものでできている」
「へえ。マザーグースね」
「マザーグースです」
ユウさんは頷くわたしも見ないで、鏡を覗きこんでいる。ブィイイインと音を立てながら、電気シェーバーでヒゲを剃っているのだ。毎朝きちんと剃っているらしいけれど、夕方にはもう濃くなっちゃうそうだ。イヤだわ、もう、なんて言いながらヒゲを剃る、それがユウさんの日課だった。そしてそれを見ながら、どうでもいい話題をふるのがわたしの日課。
「じゃあユウさん」
「んー?」
「ユウさんは何でできているんです? 砂糖とスパイスの方? それとも、子犬のしっぽの方?」
「そりゃあ、あんた。やっぱり……」
ユウさんはヒゲを剃り終えたようで、ようやく鏡から顔を話してわたしの方を向いた。つるつるのアゴをなでて、口を開く。
「タンパク質?」
「そういう話をしているんじゃないです」
分かってるわよ、とユウさんは笑った。それからわたしのおでこを、ちょい、とつつく。眉間にしわがよっている、のサイン。よく注意されるのだが、そうそう治るものでもないので、よくこうして眉間をつつかれるハメになる。ちょっと痛い。
眉間をさするわたしの隣へユウさんも腰掛けて、そうねえ、と話しだした。
「お砂糖とスパイスと何か素敵なもの、で出来てるような存在になりたかったわけだけど、やっぱり無理だったのよねえ」
「……無理だったんですか」
そりゃそうよ、とユウさんは笑う。それから、じゃあこれかしら、と胸ポケットから取り出したのは、一本の黒いボールペンだった。
「これは、ペン、ですか?」
「違うわ。アタシが男の子だった証」
証、とわたしは繰り返した。証よ、とユウさんも繰り返して、それから柔らかに微笑む。
「遠い昔よ。中学生の頃。初めて女の子に告白されて、初めて貰ったプレゼント。アタシ、それがとても嬉しかったのよね。歳相応の男の子として。でも、思えばその頃からアタシは、お砂糖とスパイスとなにか素敵なもので出来ている、そんな存在になりたいと思っていたのよね」
きっと、とユウさんは微笑んだまま言った。わたしはユウさんの手に乗った黒色の、男の子だった証を見て、それにほんの少し嫉妬していた。




