どんまい
お題:薄汚い屍
蛇が死んでいた。
「どんまい」
なんとなくそう呟いて、蛇の死体の側にしゃがみこむ。
ここはまあ、ほどほどに田舎だったので、蛇自体はそんなに珍しくはなかった。「今日畑で蛇見たよ!」「えー、そうなんだ」ぐらい。後はイタチやタヌキやキツネもそんなに珍しくない。熊も。あ、いや、話がそれた。閑話休題っていう四字熟語はこういう時に使うらしい。閑話休題。
目の前で蛇が死んでいる。蛇って死ぬ時もとぐろを巻いているのか。知らなかった。
そんなに長くなさそうな蛇だった。ぐるぐるになっているのでわかりづらいけれど、まっすぐに伸ばしても、1メートルいかないくらいじゃないだろうか。子どもなのかもしれない。蛇の皮は茶色っぽかった。なんとなく、ヒョウの彩度を落としたような模様をしている。蛇が珍しくないとはいえ、蛇に詳しいわけではないので、なんの蛇かは分からない。もしかして毒とか持っていたかも。危ないな、死んでてよかった。
どうして蛇が死んでいるのかわかったのかと言えば、なんだか全体的にぺちゃんこだったからだ。多分、トラックの巨大なタイヤに踏み潰されたんだろう。この辺りはトラックがよく通るから。ここはほどほどに田舎で、さして車通りがあるわけでもなく、トラックの運転手にとってはちょうどいい近道のような感じなんだろう。他にもタヌキやイタチやキツネがよく踏み潰されている。あいつらは道路を横切りすぎだと思う。車に乗っていると危ない。後は老人も危ない。あいつら車が来ててもお構いなしに道路を横断するから。運転手の身にもなってほしい。
あ、いや、閑話休題。蛇の話だ。
多分そういう経緯で、蛇が死んでいる。だからと言ってなんだという話だが。このまま素通りしてもよかったのだけれど、というか普段なら絶対にそうするのだけど、今日はなんだか気分が違った。仕方がない、埋葬してあげよう、という気分だった。
しかし、相手は蛇の死体。素手で触るのはさすがに嫌だ。ただでさえこいつら地面を這っているっていうのに、今はトラックのタイヤに潰されてぺちゃんこだ。なんか色々出ちゃったらしく、蛇の死体の周りには謎の染みができている。出来るだけ触りたくないが、端っこだけつまんで引きずる、というのも、なんとなく死体を冒涜しているような気がする。蛇だけど。
あ、そうか。スコップですくって運べばいいのか。
どうせ埋葬するなら穴を掘る必要があるし、スコップは必須だ。そうと決まれば、一旦家に帰ろう。その場を立ち上がり、足早に帰路へつく。
家について、納屋の中からスコップを持って、また足早に蛇のもとに戻る。
けれど、そこには死体がなかった。
首を傾げてしゃがみ込む。確かに道路には謎の染みがついていて、その上に蛇は死んでいたはずなのに、今は綺麗サッパリいなかった。どこに行ったのだろう。鷹に取られたか、他の動物に取られたか、あるいはまだ生きていたか。いずれにしても、埋葬してやる必要はなくなったらしい。なぁんだ。
「どんまい」
もう一回そう呟いて、立ち上がった。スコップを引きずって再び帰路につく。途中でタヌキの死体を見つけた。車にひかれてぺちゃんこらしい。なんとなく埋葬する気分ではなかったので、見なかったことにして家に帰った。