九話、執事
彼方の耳に、妹の名が聞こえる。その言葉を発した人、蓮花が向いていた先は……
上!
そう理解すると同時、彼方は上を向く。隣にいる蓮花はまだ呆然と、上を見たまま顔を動かさない。
「桂……花…………!?」
「おにいちゃん!?」
彼方と、窓の向こうにいる少女、桂花の声が発される刻は同じだった。
三人が固まる。
彼方と蓮花は、ここに桂花がいるのでは? という希望を持ちながらこの屋敷にきたはずなのだが、それでも三年間も見つからなかった大事な人をいざみつけるとなると、驚き、固まるようだ。
桂花の固まり様は……驚きと言うより、困惑が勝っているように見受けられる。なぜここに兄と親友が? そんな感情が表情から感じられる。
「おまえ……どこ行ってたんだ? 何で組織なんているんだ? なぜ俺に連絡の一つもよこさない? 『移動』系の能力者はいなかったのか? お兄ちゃん心配したんだぞ」
二十歳近くの男からお兄ちゃんという言葉がでたら気持ち悪いだけだ。
と、純粋に蓮花と桂花は、感じたふが、このシスコンの彼方が三人が固まっていた所を溶いた。
そして、ご自慢ではないがシスコンっぷりを、三人にさらけ出しながら、矢継ぎ早に質問を繰り広げた。
「え、えっと……」
質問をされた桂花は、答えるのに悩んでいるようだった。言葉を選んでいるというより、言って良いのか悪いのかがわからないという感じだった。
「まぁまぁ、桂花も見つかったことだし、こんな遠くで話すより、近くで話さない? と言うわけで、桂花、屋敷に入れて?」
軽い調子で蓮花が言う。
確かに、屋敷の二階と地上では話しにくいだろう。蓮花がその提案をするのも、尤もなことだといえた。
「え、えぇ、良いわよ」
多少困惑しながらも、桂花が答えた。
その屋敷は、調度品がすべて高級かつ清潔に保たれており、ほんんとうに現代かと疑いたくなるものだった。一つ一つが現存するのすら疑わしい。そういう類のものだった。
その一つ一つに、目をとられ、なおかつ壊さないように注意しながら、彼方と蓮花は傍らの執事の誘導の下歩いていた。
階段の最後の一段を上り終え、桂花の部屋がまた一歩近くなる。それに会えることの充足感を、彼方は感じていた。
「ここでございます」
白い髭が生えたどこまでも古風な執事が指した先は、今までのドアとは違う雰囲気を纏っているドアだった。
「桂花は、ここのトップなの?」
堪えきれずに蓮花が聞いた。その質問を聞いた執事は、目を光らせながら、
「はい。そうでございます。桂花お嬢様は立派な信念の下この、『組織』、『統一者』を率いております。そして、すべての……」
ガチャッ
ドアが開く。それにより、執事の話が一時中断する。
「紫苑。そこまででいいわ。後は私が話す」
ドアからでてきたのは、紛れもない桂花だった。