六話、過去と決意
彼方は、その言葉が信じられなかった。囚われていたじゃないか、俺と桂花と、蓮花は。何故、忌々しき『組織』の幹部に、桂花がなるのかの、理由がわからなかった。
約七年間。彼方と桂花と蓮花は、『組織』……『世界を立て直す者達』に、囚われていた。その『組織』は、名ばかりで、すべての人員が、世界を立て直すためではなく、自分の能力をいかに効率よく使うかを考えていた。そして実行していた。その『組織』に、『能力強者』一対一より、数を手懐けて、数の暴力で、自分の私腹を肥やそうという者がいた。そいつは、大人の『能力強者』には、全く目を付けず、能力をあまり使わない子供の『能力強者』ばかりをねらい、自分の手駒としていた。そいつの名前はなんといったか、よく覚えていないが、自分をモトナリと名乗っていたことは、朧気ながら思い出せた。
モトナリは、彼方達三人組を、特に可愛がった。当然だ。彼方達は、子供にしては『能力』の制御がしっかりしていて、なおかつ強い。彼方は『戦闘』系でも、屈指の強さを持っており、蓮花、桂花は、『心理』系と、『記憶』系。情報戦などで優位に立て、なおかつ制御できる者が少ない、レアな能力だった。
だが、その待遇は決して良いとは言えなかった。子供だから……という言い訳が聞かれるはずもなく、彼方は明くる日も明くる日も戦場に立たされ、モトナリの敵となる者を、討ち滅ぼしていった。今の『能力』制御が完璧に近いのも、そのときの経験のお陰と言えるだろう。
「くそっ、何でなんだよぉ!」
彼方は地面に吐き捨てるように、声を荒らげた。その声に一瞬周りの人間が吃驚とするが、すぐに興味を失い、自分のやっていることへ戻っていく。
「大丈夫ですか? 彼方君」
後ろから声が聞こえてきた。彼方が後ろを振り向くと、そこには蓮花が立ち、こちらを睨んでいた。
「どうした?」
蓮花の真意を計りかねるように、彼方が聞く。
「どんなときでも妹を助けるのが、兄としての役目じゃないの?」
彼方は思い出す。過酷な環境の中での、妹の笑顔を。彼方は思い出す。自分の妹への思いを。彼方は気づく。彼女も自分の妹のため、必死になって旅についてきてくれるということを。一瞬の驚いた顔の後、意を決したように唇に笑みを浮かべて……
「当然だな」
当たり前のようにそう言い返し、
「助けにいくぞ……桂花を」
そう彼方がつぶやく。そして、蓮花もそれにうなずき、
「私たちが桂花を助けなくて、誰が桂花を助けるっていうのさ。桂花だって好きでその組織にいるかはわからないんだしね」
「あぁ、桂花が無理矢理幹部に仕立てあげられている可能性もゼロじゃないしな!」
「えぇ。桂花は二人の手で救い出すのよ!」
二人は頷き会い、走り出した。『組織』の方向へ、妹のいる方向へ向かって。