四話、急襲
戦闘が書きたかったんです。
彼方と蓮花は、東に向かうことにした。不良の情報を鵜呑みにするのもどうかと思うが、他の情報が全くないのである。桂花を探すためには、たとえ犬からの情報であっても使うしかないのだ。
彼方は気配を覚えた。二人は今、先ほどのスラム街から少し東に行った道を歩いている、そこで、確かに彼方は気配を覚えたのだ。一瞬だったが、殺気も感じた。
「敵かもしれん……」
彼方は、蓮花に忠告をする。ここは、『能力者』の世の中だ。食料や情報を求めて、他の人間を襲うことは、珍しくない。そして、蓮花はこの世界では珍しい高級品――猫耳フードを被っている。そのことから彼方たち二人組を『能力強者』と判断するのは難しいことではない。
「そうですか」
神妙に蓮花は頷いた。蓮花の能力は戦闘には使えない。なので、戦闘に関しては彼方に頼るしかないのだ。そのことを悪く思っているが、『能力』は十年前から変わらないのだ。変わった人の話など聞いたことがない。勿論十年の間で能力の使い方がうまくなった人の話はよく聞くが、なかなか戦闘用ではない『能力』を戦闘用に使うのは難しいのだ。
「――来る!!」
彼方が叫ぶ。そうすると彼方の右斜め前から人影が襲来する。蓮花はいったん隅に避け、戦闘の邪魔にならず、なおかつ捕虜にもならないように、周囲を警戒する。
「暗い!?」
彼方の顔面前方に、黒い靄が架かる。これが敵の能力か!? 彼方がそう判断する間に、敵は武器を構え、攻撃を開始する。
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
敵の声は、彼方の耳に響く。周囲の音から、彼方は敵の武器は銃と判断。この距離から考えてサブマシンガンだろう。彼方は自分の体に能力を発動する。
そして、彼方の体は上方に動く。黒い靄の場所からは離れたと思ったが、いまだに追跡してくるのは、敵の能力の範囲が自分の目の前方だったからだろう。
敵の銃弾は、先ほどまで彼方がいた場所を通過する。これで敵のマガジンに銃弾は一時的になくなる。敵のリロードの間に、彼方は自分の左手を、顔面前方にかざす。そして、能力を発動して、黒い靄を、全方位に移動させ、靄を晴らす。
リロードが終わった敵が、彼方の顔面から靄が消えているのを見て、驚く。
「な、なんだとぉ!?」
驚きようから少し品がないな、と、彼方は思いながら、敵の顔面に目を向ける。そこには、中年に差し掛かっている程度の年齢の男がいた。
そして、特徴的なのはその服装だった。全身が青を基調に彩られている服を着ていた。そして、その服は、10年前の警察のような雰囲気をまとっていた。
「『組織』か?」
彼方が口を開く。その服は、『組織』の制服だ。『組織』とは、『能力強者』と、『生産』系の能力を集め、それだけで国を作ろうとしている存在だ。全国の『能力弱者』は、時々『組織』の人間に物品を奪われるので、『組織』の人間を嫌っている。
「文句あるか?」
男が口を開くと同時に、またもや彼方の眼前に、黒い靄が架かるが、一瞬で彼方は左手をかざし、靄を消す。それを見て、男が舌打ちをするが、すぐに気を取り直して、銃の照準を彼方に合わせる。彼方は一瞬で空中から下に降り、砂を左手に握る。男が照準を、下に行った彼方に合わせなおすが、彼方の次の行動のほうが、数刻早かった。彼方は左前方に自分自身を移動し、左手の砂を、男の方へ音速の速度で移動させる。
瞬間。
男の心臓は砂によって撃ち抜かれ、そこから血を吹きだしていた。男の銃弾が彼方に向けて発されることはなく、彼方はそこに立っていた。
「『組織』の下級戦闘員か。『能力』は黒い靄。微妙だな」
彼方はひとり呟き、
「おい、蓮花。出てきていいぞ」
「あぁ、ありがとな」
蓮花は彼方に感謝をする。『組織』は、最近『心理』系を集めている。『組織』内でも『心理』系を持っている人間のほうが上に上れる。なぜなら『心理』系を持っていれば、同じ『心理』系で、心の中は見抜かれにくくなる
。見抜かれたら見抜き返す。見抜かれなければ見抜かない。そのような暗黙のルールが組織内にあり、それを破ったものは他の『能力者』の制裁を受けるのである。ただ、『心理』系を持っていなければ、『心理』系の能力を使われたことが認知できないので、『心理』系を持っていない人間は、心の中が見抜かれ放題なのだ。最近急速に勢力を伸ばしている『組織』内の人間は、『心理』系をほしがる。そして、今回は蓮花にその白羽の矢が当たったのだ。
「なんというか、不幸だったな」
「まぁ、仕方ないよ。ボクだって、『心理』系を持っていて便利なこともあるんだし。組織のために使うよりは、彼方とか、桂花ちゃんを見つけるために使ったほうが有意義だしね」
「おう、ありがとうな」
戦闘も終わったので、二人はまた、東に向かって歩き出した。