一四話、人数
「ありがとうございました!」
隣の彼方が清々しそうに挨拶をする。それを一瞥した蓮花は下らなそうに目を宙に泳がせる。
捕らえていた人間を師と仰ぐ程に狂った同行者は、確かに強くなった。だが、自分の存在はどこへ行ったのか。
確かに情報収集程度しかできない能力だ。戦闘狂者の彼方には関係ない能力かもしれない。だが、なぜ自分はここにいる?
わからない。
まぁ、このまま流されて桂花を救いに行くという単純なことはわかる。
もう救われた少女に自分の主義主張を押しつけ、無理矢理こちらの意見に賛同させる。そして終わってハッピーエンド。救われてよかった。敵と同じものを創る必要はなかった。
果たしてそれでいいのか? 疑問が浮かぶ。
だが、そんなものは完全に狂って、戦闘のことしか頭がない人には届かない。
「あぁ、桂花君を救い出せることを期待しているよ」
目障りなモトナリ。
いなくなればいいのに。
不機嫌な顔は崩さない。
わざわざ彼方と一緒に行く理由すらも見あたらない。だって、私たちは、『組織』へ復讐するため、まずは桂花を救うはずだった。
そうなのだ。最初の目的はそうだった。いつ歪んだ。いつ『組織』を倒すという最終目標が桂花を救うことに取って代わった?
わからない。
「おい、行くぞ」
彼方が呆けていた蓮花に声をかける。行ってしまうのか、桂花の元へ。
救われた人間は、目標がある人間は、私たちが救うことができるのだろうか?
なんでだろう? せっかく桂花を助けることができるだけの力を得たのに、何故か蓮花は不機嫌そうだ。
彼方は悩んだ。
考えごとをしているようで、なかなか動きそうもない。早く助けた方がいい。そして“三人で”『組織』に復讐するんだ。そうすれば、過去を断ち切って、新たな道を歩める。
モトナリ先生は、俺に能力の使い方を教えてくれたし殺さなくてもいいけど、やっぱ、ほかの『組織』の人間くらいは殺さないとな。
だって、そうだろう。この壊れた世界で、さらに壊された俺たちに、逝く宛などないのだから。
彼方はどうやれば蓮花を動かし、桂花の元へと直行できるのかを、しばし考えた。
仕方ない、無理矢理にでもつれていくか。
「おい!! 蓮花!! 行くぞ!!!」
さぁ、桂花の前に目障りな黒装束と、執事を倒さないとな。あいつ等は邪魔だ。俺たちの『組織』壊滅の野望に邪魔だ。
「あぁ、行くよ。すまん。ちょっと考え事をしていた」
「うん。大丈夫だよ。さぁいこうよ、屋敷へ」
「あぁ、分かった。でも行くのは明日にしよう。少しのんびりしたい。最近いろいろあって疲れたからな」
明日? できるだけ早く行きたいんだけど、ほかならぬ蓮花の頼みだし良いか。
「うん。わかった」
そして、二人は向かう。『強能力者』用の宿に…………
「さて、精神汚染はどこまで進みましたかね……」
二人が去った後、モトナリは一人呟いていた。