十話、復讐
彼方の目の前には桂花が座っている。その後ろでは、説明を遮られたことを残念そうにしながら、紫苑が立っている。
彼方は、木製の細工が施された椅子に座っており、その横でも同じような椅子に蓮花が座っている。
外から吹く風がカーテンを揺らす。桂花の長い黒髪も揺れたような気がする。蓮花の猫耳は……風などでは揺れないな。
「さて、どこから話したものかしら……」
話しにくそうに、桂花が切り出す。なぜ『組織』に、桂花が入っているのか。その疑問は桂花を見たときから何時までも頭にまとわりついていた。桂花に会うまではぐだぐだ考えずに、会うことを優先しようと決めたが、いざ会ってみると、その疑問がまた蒸し返されたような気分になる。
「単刀直入に言うわ。私はこの『組織』、『統率者』を率いているわ」
なぜ? その疑問が彼方の頭に涌く。
「な、なんで桂花が組織を!?」
その疑問は同じように蓮花にも出たようで、椅子を立ち上がり、前にあった机に手を叩きつけながら、疑問の声を張り上げる。
「私たちはね、『組織』に恨みがある人たちで作られているの」
じゃぁ、なぜそんな人が組織を?
「そして、この『統率者』の目的はね……
自分たちを虐げた『組織』への復讐よ」
目には目を、歯には歯を。同じ『組織』には『組織』を、ということか。数の暴力で圧倒されることはそれによりまずなくなる。だが、
「なら何でおまえ等はスラムを虐げているんだ?」
俺は思わず疑問が口に出ていた。あそこにいた男の姿。あれを見て、この疑問を考えない人間はいないだろう。居たとしても、自己中心的で驕っているナルシストな『能力強者』くらいなものだ。
そして、それを実行するのは……ナルシストか、利益だけを追求する非人道的な人間か、しかたないと言い訳しながらも、続ける愚者か。そのくらいのものだ。
彼方は桂花が好きだ。家族愛的な意味で大好きだ。だが、過ちを許すほど、甘くはない。
「………………」
桂花は歯ぎしりをする。無言の部屋に、歯ぎしりだけが響く。
隣の蓮花も今は何も言うまいと、飄々とした態度で座っている。
「仕方な……」
「何がだ? 仕方ないから人を虐げていいのか?」
説明が尋問へと変わっている。
「紫苑……」
諦めたように桂花がつぶやく。
「!!!!!???」
窓の下にいきなり気配が表れた!? 外だぞ!? おい、なぜだ!?
彼方は混乱した。気配がいきなり表れたからだ。彼方はかなりの腕を持つ『能力者』だ。戦闘経験も豊富にある。その彼方が気配を感じ取れないほどの相手。
「俺を殺す気か?」
「復讐のためです」
激しい兄妹喧嘩が始まりそうだった。