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それでも、人として

おめでとう

作者: マーク
掲載日:2026/01/29

『ツグ』


扉から音がする。

来客か。

扉を開ける。


『は……い?』


そこにはセイがいた。


『…なんで?』


落ち着いてセイを見ると、赤ん坊を抱えていた。


…は?


『セイ。その子はどうした?』


『とりあえずなかにいれてくれ』


『あぁ…分かった』


家に入れる。


『それで?どうしたんだ』


セイが自分から動いたのは初めてだ。

…なんで赤子を抱えてるんだ?

生まれて間もないように見えるが。


『…拾った』


『拾ったぁ!?』


やべっ。驚いて大きい声を出してしまった。

ユイがうちの子どもと寝てるのに。


『説明してくれるか?』


『…私も分からない。ただ、家の外にでたら、そこにいた』


『…捨て子か』


反吐が出る。


『あぁ。…それで、どうすればいいか相談しに来た』


『相談って…』


赤ん坊は、セイの腕の中で静かに眠っていた。鳴き声一つ立てず、ただ呼吸だけが小さく上下している。


『…生きてるよな』


『あぁ』


『セイ』


『なに』


『なんで連れてきた』


『愚問だね。君もそうしたろう』


『…まぁ、そうだな』


放っておけたら楽だったろうに…。


『選択肢は…二つ』


『それは?』


『お前が育てるか、どっか育ててくれるところに連れていくか。どっちかだな』


『後者だ』


迷わずそういった。


『理由を聞いてもいいか?』


『…私と暮らすと、この世界…社会の常識とは違うものが身に付く可能性がある。それは、この子が生きにくい未来を作ることに他ならない』


『ずいぶん先のことを考えるな』


自分の都合じゃなくて、拾っただけの子どもの未来を考えているんだな。

ほんと優しいよ、セイ。


『生きるなら、先がある』


『私といる限り、普通、常識は身に付かない。この子だけが特別というわけにもいかない』


『…まぁ。セイが言うんなら間違いねぇんだろ』


こいつが間違ったことないしな。


『そんじゃ、教会にでも行ってみるか』


今日は仕事ねぇし。


『ツグ』


『なんだ?』


『ありがとう』


『お安いご用だ』


机に書き置きを残して、外に出る。


『町に来るのはいつぶりだ?』


『前に来た』


『そういやそうだったな』


毎年記念日にパーティーしてるから、一年に一度は来てるんだよな。


…町で話題になってんだよな、一年に一度だけ町に来る妖精みたいな感じで。


『めっちゃ見られてるぞ』


『そうか』


『うーん。セイだなぁ』


『…なんだそれ』


『気にするな』


町の石畳を歩く。

人の気配、声、匂い、雰囲気。

その中心を、セイは赤ん坊を抱いたまま、まっすぐ進んでいく。


『なんか、慣れてるな』


抱き方を見て思った。


『さぁ。私には分からない』


赤ん坊は、相変わらず眠っている。

彼の腕の中が正解だと知っているかのように。




教会の前に着く。


『ここだ』


扉を叩くと、ほどなくして開いた。


『…お入りください』


こちらを見てなにか察したのか、通してくれた。


客間?に案内され、座る。


『それで、本日は何用でここに』


俺たちは事情を説明した。





『…そうですか。まずは、ありがとうございます。行き場のない子どもを、ここまでつれてきてくれて』


『いえ。それで、この子はどうなりますかね』


俺が聞いた。


『この子は、こちらで預かります』


『お金とか必要ですかね』


『いえ、必要ありません。…そうですね、暇なときにでも、手伝いに来ていただければ結構です』


『名前…はないですよね』


『はい』


『分かりました。…名前、つけます?』


『セイ。どうする?』


『私にその権利はない』


『そうですか。では、こちらに』


神父さんが腕を広げる。


セイが子どもをそこに。


すると、


『……あ』


声にならない声のあと、赤ん坊が泣き始めた。


『あらら』


神父さんが、少し困ったように笑う。


『よっぽど居心地がよかったんですかね』


泣き止む気配がなかった。


『どんな暮らしをすることになるか。見て構わないか』


セイがそう言った。


『はい』


一人で出ていった。


『あの』


『はい』


泣いてる赤ん坊を宥めながら、こちらの話を聞こうとしてくれている。


『捨て子って、どれぐらいいるんですかね』


『…残念なことに、さほど珍しいことではないです』


『そうですか…』


神父に抱かれた赤ん坊は、しばらく強く泣いていたが、やがて疲れたのか、いつの間にか止まっていた。


『お』


セイが戻ってきた。


『…問題なさそうだ。私は帰る』


『そうですか。改めて、つれてきてくださりありがとうございます』


赤子を抱いているので少し浅く、セイにお辞儀をした。


セイが出ていった。

俺も、それについていく。


『なぁ、セイ』


『なに』


『…俺とユイが逝っちまったあと、ツムギを任せてもいいか』


『君らが眠るとき、子どもはもう、子どもと呼べるものではなくなっているだろう』


『あぁ。でも、いつまでも俺らの子どもだ』


『…心配なんだな』


『あぁ』


『…よっぽどのことがない限り関与しないが、それでもいいなら』


『それでいい。…それが一番嬉しいよ』


家に着く。

すると早々に。


『私は帰る』


そう吐き捨てた。


『おいおい。せっかくだから泊まっていけよ。娘も会いたがってる』


『…どうして君たち家族は私を警戒しない』


心配そうに言う。


『ただの平和ボケだよ』


『…冗談はやめろ』


『いいや、望みだよ』


『あ!お兄さん!』


『お帰り、ツグ』


『ただいま』


『ねぇお父さん!なんでいるの?』


セイの方を見ながらそう言った。


『こんにちは、ツムギ』


『こんにちは!』


ツムギが元気よく"挨拶"した。

いいこ。


『なんでまた来たの?』


直球で聞く感じ、かわいいねぇ~。


『ツグに用事があったんだ』


『ふーん』


『ツムギ、お客さんをおもてなし出来るかな?』


『まかせて!』


『私が来ると毎回これだ…』


『付き合ってやってくれ』


ぱたぱたと走っていく。


ぎゃわいい!


セイを座らせて待っていると、ツムギがお茶を持ってきた。


『どうぞ!』


両手を使って、ゆっくりと机に置いた。


『ありがとう。上手になったね』


表情はまったく変わらないが、どことなく嬉しそうだ。


湯気がゆらゆらと立ち上がる。


『今日はいつまでいるの?』


『…あー。今日、泊めてもらえるかな』


『え!?』『え!?』


ツムギとシンクロしてしまった。


『どうしたんですか、セイさん。あぁ、もちろん、泊まってもらっていいですよ。でも、なんで急に』


『まぁ、直に分かる』


『よく分かんないけどやった!』


ツムギが嬉しそうだ。


『ねぇねぇ!髪伸ばして!』


『…はぁ』


セイの髪が不自然に延びる。

相変わらず、この世のものとは思えないほど綺麗だ。


『どうしょっかなー』


『……………』


『遊ばれてるなぁ…』


『セイさんには感謝しっぱなしだね』


『な』


『うーん』


ツムギが、セイの伸びた髪をくるくるしながら悩んでいる。


『切ってもいいけど、気をつけて』


『わかってるよ。セイお兄さん』


お兄さんねぇ……。

なんか面白い。


『うーん。三つ編みにしよう!』


器用な手つきで、三つ編みにされていく白い髪。


『似合う!』


『そう。よかったね』


自分のことを話しているという自覚がないぞコイツ。


『セイさん。お昼どうします?ちょっと遅いですけど』


ユイが台所から顔を出す。


『手伝おう』


『…お願いします』


神妙な面持ちだ。


台所に並ぶ、ユイとセイ。


『これぐらいの大きさでいいですかね』


『よく出来ている。…もう少しだけ小さい方がいいかもしれない』


『なるほどぉー』


ユイは、たまーーーに料理を教えてもらっている。


…教えてもらっているというか、セイが感覚でやっていることを、見たり聞いたりして学んでいる感じだ。


このときのユイはとても真剣だ。


もとから上手かったのになぁ。


『セイさんっていつも何してるの?』


ツムギが椅子の上に立って覗き込んでいる。


『君のお母さんと同じようなものさ』


『セイさん。子どもいるの?』


『そうじゃない』


『んー?』


よく分かっていない表情だ。


『謎があった方がかっこいいだろ?』


『そうかも!』


『ツムギ、危ないからそろそろ椅子に立つのやめようね』


『はーい』


何となく居心地のいい音が響いた。











『ツムギ。運んでもらえる?』


『分かった~』


四人で食卓を囲む。


『いただきます』


みんなで言った。


『あちっ』


ツムギが言う。


『ふーってしなさい』


『はふはふ……おいしい!』


『そりゃ、よかった』


淡々と言う。いつかを思い出すな。



食事を終える。


子どもがいる空間というのは、いいものだなぁ~。


『んで、なんで泊まるんだ?』


気になってセイに聞く。


『外を見てみるといい』


『あっ、雨か』


『嵐といってもいい』


『…誰にとってのだろうな』


『…君と話していると、成長を感じずにはいられないよ』


『なんだぁ?』


『ずいぶんと聡明になった』


『誰のせいだろうな』


『おかげと言ってくれ』


『…まぁ。そうだな』


数えきれないくらい相談にのってもらった気がする。


『お外すごい』


ツムギが外を見ている。


『強くなってきたなぁ』


『家大丈夫かな』


『大丈夫だ』


セイが言った。


『それじゃ、大丈夫だね!』


『……なぁ、いつまで三つ編みなんだ?』


『そういえば』


セイが髪をほどこうとする。


『ほどいちゃだめ!』


ツムギがセイの腕にしがみつく。


『そうですよ、セイさん。せっかくツムギがやってくれたんですから』


『私は人形じゃない』


外では雨が屋根を叩き、風が強く唸っている。

けれど、家の中は、柔らかい雰囲気に包まれていた。


『………』


『どうした?セイ』


『家の留め具が1つ外れている』


確信して言った。


『あらら』


『直してくる。工具はあるか』


『俺の部屋の引き出しに入ってる』


『…本当か?君、掃除できない人間だろ』


『物の場所はおぼえてるもんなんだよ』


『そうか?』


俺の部屋に入っていった。


『セイお兄ちゃん、お外出るの?』


『大丈夫。セイお兄ちゃんだよ?』


『うーん』


心配そうだ。

優しい子に育ったなぁ。


『ツグ!ないぞ!』


『やっべ』


掃除しなさいって怒られる~。


『上から三番目の引き出し!黒い箱!』


扉越しにセイに伝える。


少しして、工具箱を持ったセイが戻ってきた。



なにも言わず、玄関に向かっていく。


なんとなくついていきたかったので、ついていく。


セイが扉を開けると、風と雨が叩きつけてきた。


バランスを崩す俺と対照的に、セイは平然と立っている。


セイが外にでた。


バランスを崩している間に扉を閉められてしまい、ついていくことはできなかった。










しばらくして、セイが帰ってくる。


『直してきた。これで問題ないだろう』


『セイお兄ちゃん。かみぺたんこ』


『すぐに戻る』


目に見える速度で、彼の体に付いている水分が取り除かれていっている。


『どーなってんだそれ』


『私にもよくわからない』


『三つ編みくずれてる!』


『じゃあ、編み直してくれる』


『うん!』


小さな手が、髪を集めていく。





外は荒れているのに、家の中はやけに静かで、あったかかった。


–––––––––––––––––––––––––––––––


『セイ。どこで寝る?』


『どこでもいい。私にとってはどれも同じだ』


『じゃあ、リビングに布団敷くから、そこで』


『分かった』


そのとき、外で大きく音が鳴る。

雷だ。


『ひゃ!』


ツムギが驚く。


『大丈夫?ツムギ』


ユイが聞いた。


『怖い。…みんなで寝る』


『え』














『どうしてこうなった』


ツムギの一言で、リビングいっぱいに布団を敷いて、そこでみんな一緒に寝ることになった。


『これで安心!』


ツムギは満足そうに真ん中の布団にごろんと転がった。


左右にユイと俺。

ちょっと離れたところに、セイの布団。


『近くないか』


『近い方が安心!』


即答だった。


外ではまだ風が唸っている。

家がきしむ音がする。

そのたび、ツムギの手が、ぎゅっと俺の服を掴んだ。


『大丈夫。ツムギ』


ユイが優しい声で言う。


『セイお兄ちゃん。嵐、いつ終わるの』


『眠りから覚める頃には、止んでいるよ』






『ツムギ、ぐっすりですね』


『可愛い寝顔だな』


『…さて、私は帰ろう』


すっかり嵐は止んでいる。


『ツムギ、見送りたかったっていいますよ?』


『満足いかない別れの方が、次が楽しくなる』


『はいはい。お前に口で勝てるとは思ってないよ』


『勝負をしたことはない』


『…まぁ、会いたいなら、そっちから来るといい』 


『森行くの面倒だろ』


『それで行くのをやめるぐらいなら、来なければいい』


素直じゃない。

道に迷えば、迎えに来るくせに。


『それじゃ』


そのとき。


家の中から、ぱたぱたと足音。


『セイお兄ちゃーん!』


勢いよく、セイにダイブした。


それを、優しく受け止める。


寝癖でぼさぼさの髪、片方だけずり落ちた服。


『…起きてたのか』


『いっちゃだめ……』


半分寝てる。


『まだ眠っていなさい』


『やだ』


『……』


セイが困ってる。


『見送りたかったんだろ』


『うん……』


ツムギはセイに抱えられながら、見上げた。


『またくる?』


『必要があれば』


『や』


『…くるよ、また』


『やくそくね』


『あぁ』


そういって、歩いていった。


『行っちゃった』


『そうだね』


『……あ』


『どうした?』


『三つ編み、ほどいてない』


『あー。まぁ、いいだろ』

変と特別の違いってなんでしょうね?

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