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アウル仮面  作者: 黒板係
誕生編
1/1

01 ヒーロー誕生その名はアウル仮面

陸峰怡玖(むつみねいく)の物語はここから始まる。

 2000年12月、東京都大東区浅草橋にある柳北公園のベンチ、安っぽいワイシャツにダボッとしたミリタリージャケットを羽織った男が座って数枚の角形2号の茶封筒の中を恐る恐る覗いていた。


「はぁ…。バンプレストもエポックも駄目か…」


中の書類は玩具メーカーの不採用通知書だった。あまり見ていていい気分にならないそれを筒状に丸めて斜め掛けのボディバッグにねじ込んで立ち上がった。


「行くか…」


公園を出ようと歩き始めると、数人の子どもたちが何かを囲んで見ている光景が目に入った。しかし何かがおかしい、焦った様子の子や半べそをかいている子もちらほらいる。


「君たち、どうかしたの?」


気になってのぞき込みながら聞くと、このような状況になっていた理由はすぐに分かった。発泡スチロール製の飛行機のおもちゃの翼がポキリとすっかり折れてしまっていたのだ。聞けば、気に引っかかった飛行機を落とそうと石を投げたところ、すんなり落とすことはできたようだ。だが、駆け寄った際に勢い余って転んでしまい、その時に手で折ってしまったそう。


「おじさんなおせる?」


「お兄さんな、まだ25歳だ。まあ貸してみな」


おもちゃの飛行機を手に取ると辺りを見回す。すると、一人の男の子がアイスの棒を持っているのを見つけた。季節は12月だというのに、と思ったが自分も子供のころは冬に外でアイスを食べることもあった記憶がある。そんなアイスの棒を、持っていた筆箱に入っている小さなハサミで飛行機の翼に合わせて切り、瞬間接着剤で固定した。


「すごい!すごい!もうなおった?」


「落ち着け、まだだ」


片方だけではバランスが悪い。もう片方の翼にも同じ手順でアイスの棒を接着し、次に花壇のブロックでアイスの棒が薄くなるように丁寧に擦り、仕上げに着ていたミリタリージャケットの裾で磨き上げた。


「…よし、完成だっ!」


飛行機を飛ばすと見事に飛んで行った。子どもたちはその飛行機を追いかけて元気に走っていった。


「ありがとう!おじさん!」


「(もうお兄さん…じゃないのか)」


そんなことを考えながら袖をチラッとめくり、カシオの腕時計を確認するとちょうどいいころ合いになっていた。


「…バイト行くか」


バイト先はここから400メートルちょっと歩いたところにあるおかず横丁、その一角に建つ定食屋だった。左衛門橋通りを北に向かってしばらく歩いていると、玉川国際ビルが見える交差点近くでなにやら奇妙な異変に遭遇した。


「前に進めない。何かいるみたい…」


体の向きを変えたり進行方向を少し変えたりしてみても効果がない。ぼんやりとした輪郭の何かがある。感触を確かめると硬い、しかし道を塞いでいるのは無機物ではなく動いている生物のような感覚だ。辺りを見ると、どうやら前に進めないでいるのは自分だけのようだ。道行く人々の視線が痛い。


「あっ、こういう時はばあちゃんに教えてもらったアレが使えるかも」


記憶を頼りに右手と左手でそれぞれ狐の形を作り、背中合わせになるように両耳を交差させる。そしてすべての指を伸ばし、中指・人差し指を反対側の手の親指で固定すると『狐の窓』の完成である。


「(この指の隙間をのぞき込んで呪文を唱えるんだったよな?)」


指の隙間を左目に近づけて早速呪文を唱える。


「けしやうのものか ましやうのものか 正体をあらはせ!」


呪文を唱えると目の前にいた存在が鮮明に見えるようになった。狐の窓を解いてもその存在はしっかり視認できる。彼は防弾ベストに羽織を纏い、ライオットシールドを構えた20代ほどに見える男だった。


「えっ…何者?幽霊?」


「うおっ!僕が見えるのか、そうかそうか…」


彼は何か考えている様子だった。話しかけられずにいると、今度はどこからともなく飛んできた円盤状の刃物である大きなチャクラムが彼に迫った。


「何だ!」


そう言って男の方を見ると、彼はライオットシールドでいとも簡単にチャクラムを弾く。刃物が飛んできたことに気づいた人々が足早にこの場所から離れていくが、自分はどうも動けずにいた。


「ちっ、当たらないか」


後ろから聞こえた声に思わず振り返ると、人型の小鳥の化け物のような存在とジュラルミンケースを持ったスーツの女性が並んで歩いて来ていた。その光景は奇妙で異様としか言いようがない。


「何事⁉あなたたちは誰?これって撮影か何か?」


その質問に誰も答えることなく突如として戦闘が始まった。


「邪魔をするなーっ!」


激高したライオットシールドを持った男がチャクラムを拾い上げて鳥の化け物に向かって投げ返す。すると鳥の化け物はそれをキャッチして、もう一つ取り出したチャクラムと共に二刀流で男に切りかかる。周囲の人間は突如出現した鳥の化け物に驚き一目散に逃げていく。そして自分はもたもたしているうちにあの鳥の化け物の隣にいた女性に腕を引かれ、物陰に身を隠した。


「…あれなんですか?」


「しっ!静かに」


スーツの女性に強く口を押さえつけられしゃべらせてもらえない。彼女は顔を出して戦闘を見ているようだ。


「君のその武器じゃ僕の守りは突破できないよっ!」


「クソッ!俺のチャクラムでは傷がつくだけか」


「(硬いな…アイツ。どうしたものかしら…)」


スーツの女性はふと、いま口を押さえている男の顔を見た。じっくり観察するように見つめて考えている。


「(この人…妖怪見えていたよね。顔も、なんかいい意味でバカっぽい。なんというか、祭りで屋台を任せたらいつの間にか太鼓叩いていそうな…そんな感じ)」


「プハァ…何なのもう」


スーツの女性はジュラルミンケースを開けて、取り出したものを渡してきた。


「これは…なんの冗談ですか?」


渡されたのは8枚羽のただの灰色の風車だった。厳重に仕舞われていたとは思えないような普通のおもちゃだ。


「はい立って、風車を振って変身して」


スーツの女性は風車を持って立つ自分をドンッと物陰から押し出し、グッドサインを出して見せた。


「何だかわからないけど、やってみよう!」


風車を持った右手を左肩の方に回して準備は完了だ。戦闘中の二人の方に歩みを進め覚悟を決めた。


「変身!」


掛け声と同時に腕を外側に振ると、風車の羽は想像よりも勢い良く回り灰色の羽が溢れ出してくる。その羽は歩き続ける彼に纏わり付き、余分な羽がボサボサ落ちると仮面を着けたフクロウの怪物に変身した。


「よしっ!やった!」


スーツの女性はガッツポーズをとった。そして戦っている鳥の化け物もこちらに気付いたようだ。


「葵のやつ、誰に風車を渡してんだ」


フクロウの化け物に変身すると、風車は巨大な回転のこぎりへと変化し、あたかも自分で攻撃しろと言っているかのようにギュインギュインと大きな音を立てる。


「よっしゃ!やってやるよ!って、うわっ!」


フクロウの化け物に変身して走りだしたものの、地面のでっぱりに足を引っかけ盛大に転んでしまう。その勢いでのこぎりは、偶然ライオットシールドの男の方に飛んでいきシールドに大きな傷をつけた。


「僕の盾が…いったん逃げるか」


ライオットシールドの男はそのままどこかへ走り去ってしまう。鳥の化け物もそれを追っていった様子だったが、見失ったのかすぐに引き返してきた。変身が解け、鳥の羽がバサバサ落ちると、その中から現れたのは自分と同い年か少し下のように見える短髪でトレンチコートを着た男が現れた。


「お前、このことは忘れろ。」


それだけ言い残して歩いて行った。


「ほんとに何だったの…」


こちらも変身が解け、羽がボトボトに抜け落ちると、例の風車をスーツの女性が拾い上げていた。


「ごめんね、変なことに巻き込んで。私は佐々木 葵(ささき あおい)。あの人は耳原 翔太(みみはら しょうた)、悪い人じゃないから安心して」


「俺は陸峰 怡玖(むつみね いく)


葵は怡玖のボディバッグに突っ込まれている封筒に目をやって、名刺を差し出してきた。


「もし求職中で私たちに興味があったら来てね。待ってるからねアウル仮面」


そして葵もジュラルミンケースを持って歩いて行ってしまった。呆気に取られていた怡玖だったがある重大な事実によって現実に引き戻された。


「バイト遅刻だ!」


走っておかず横丁に向かう怡玖、彼の次なる戦いはすぐ近くに迫っていた。

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陸峰怡玖(むつみねいく)

身長175㎝ 体重 65㎏

手のひらに乗るロマンを追い求めて求職中のフリーター。現在25歳、明るく前向きにが日々の目標で、いずれはたくさんの人を笑顔にさせる仕事に就きたいと考えている。ひょんなことから力を手に入れる。

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