元魔王なちび令嬢の兄、学園に御守りを持っていく-その2
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てるてるぼうず、頑張ってます
ハリザード side
「ホワイタス嬢、先生方は?」
「草原に、熱が拡がっています。エリア一帯に火が広まっています。多数の大人の反応が火の外側に。おそらく、先生方が消火活動を行っているのでは、ないかと」
「土の魔術を使える者は、壁を作れ。私が、それを凍らせる。こちらに逃げてくる者達が入ったら、最後の壁を作って、封鎖しろ」
火トカゲの炎は、厄介だ。土では、消火出来ない。普通、対抗手段は水魔法か、氷雪魔法が使用される。ただ、私達の魔力の量では、この規模の火を消火出来るかどうか。
他の生徒が、私達の方に走ってきた。先頭のケルビンが、ケグレブを肩に担いで運んでいる。次々と、皆が壁の中に駆け込んで行く。
「ヤバかった。クラスで一番の水鉄砲持ちのこいつが、一番最初にやられたんだよ」
ケグレブは、半身に酷い火傷を負っていた。
「私の火の魔法だと、火トカゲにエサを与えてしまうからな。切羽詰まった私が魔力暴走してしまわないように、とにかく、先に逃げてきた」
火トカゲは、火の魔法を食べて自分の糧とするとんでもない魔獣だ。確かに、ケルビンは、火トカゲにとっては、格好のエサだ。
「土をかけて火を消そうとしたんですが、かけた土の上に、また、下から火が現れるんです」
ケルビンの班の土の魔力を持つマルテア嬢が、そう言って、後ろを振り向きつつ、土の壁を火トカゲの前に作りながら、私の横を走り過ぎる。
しんがりには、水魔法を持つ、ケグレブの配下のジグナムが走ってきた。土壁を壊して彼を追ってきている火トカゲに、時折、水で攻撃しているが、彼の攻撃では火トカゲはびくともしない。
火トカゲの周囲の熱で、彼の作り出す水弾は、火トカゲに届くことなく、途中で蒸発してしまう。
私は、氷の壁を火トカゲの前に作った。
「急いで壁の影に入れ!」
火トカゲは、私の方を見た。氷の壁は、すぐに溶けた。続いて、氷の槍を幾つも火トカゲに飛ばす。効いていない。火トカゲは、私目掛けて走り出した。
ジグナムが、私の横を走り過ぎる。私は、自分の前に氷でバリアーを作った。火トカゲの吐く炎で、私のバリアーが一瞬で消えた。
火トカゲは、再び炎を吐き、私のバリアーは間に合わず、『てるてるぼうず』が光り、
『お兄様、相手の攻撃を、自分の魔法に変えて反射して!』
半透明になったベルリーナが、私の下半身にしがみついて、言った。
『てるてるぼうず』の能力は、相手の攻撃を跳ね返す事。
ならば、その跳ね返る火の魔法を、私の氷の魔法に書き換えてやれば良い。
『流石、お兄様』
ベルリーナは、もう、いなかった。
火トカゲに跳ね返る魔力を使った氷の魔法は、火トカゲを凍らせ、更に周囲一面の火を凍らせた。
火トカゲは、氷の彫像となり、辺りには、燃え盛る火の形をした氷が、アートの様に地面から一面に生えていた。
これは、ベルリーナのお陰だよね、きっと。
私の腰にぶら下がっていた『てるてるぼうず』が、代わりに黒焦げになり、ボロボロと崩れて灰になって風に散って行ってしまった。
これが本来、私が辿るべき道であった末路だ。
そして、恐らく私の後ろで、壁に囲まれたクラスメイト達の辿ったであろう未来。
死は、意外と近くに有るものなんだ。
私の手の中には、『てるてるぼうず』の黒い灰の跡だけが残った。
この事件のあらましは、とんでもなく馬鹿な話だった。
ケグレブ・ワーナーは、繁みの中から隠蔽の魔法の掛かった袋を取り出し、袋の中から、眠っている小さな火トカゲを放り出した。
「こいつを殺せば、私の班が一番だな。スライムや一本角ウサギやらを、ちんたら倒していても、大した成果にならないだろう?賢く立ち回らなきゃな」
彼は、笑いながら、魔法で作り出した水を火トカゲに浴びせた。怒って目を覚ました火トカゲは大きく膨れ上がって火を纏い、彼の半身を焼いた。
ケグレブと同じ班に居た全員が、そう証言し、教師達と一緒にいた冒険者達によって確証を得た。
冒険者達は、ケグレブの依頼で火トカゲを捕まえて眠らせて袋の中に入れ、繁みの中に隠した事を認めた。
但し、冒険者達は後から気になって、近くに隠れていると、学園生がワラワラと、このフィールドに集まりだしたので、ビックリして事の次第を教師達に忠告に行った。
話を聞いた教師は、慌てて全教師を集め、集まった所に火が草原にまわり出したのだ。
すぐに魔術師団に連絡が行ったが、彼らがやって来たのは、氷の野原が出来た後だった。
「生きてて良かった」
魔術師団長に就任したばかりの叔父が、そう言って、私の頭をポンと叩いた。
叔父上は、先日、魔獣との闘いによって、死にかけたばかりだ。死と生を実感してるからこその言葉だと思う。
本当に『生きてて良かった』。
「ベルリーナのお陰だな。あの子の愛だ」
叔父上は、私の腰にぶら下がって残っている紐に触れた。
叔父上の腰にも、『てるてるぼうず』がブラブラとぶら下がっていた。ちょっと歪な顔の表情が、何となく愛らしい。
「叔父上の『てるてるぼうず』の方が、私のより大きいです」
「そりゃあ、愛の大きさ……じゃなくて、俺は、いつ死んでもおかしくないと思われてんじゃないのか?確かに、こいつには、えらく気合いが入った魔力が込められてるな」
私が少し羨んで叔父に文句を言うと、叔父は溜め息を吐いて、情けなそうな顔になった。
魔術師団の治療班と共に、魔術医の母も到着し、私の手を握って私の身体に魔力を巡らせ、異常がないかを確認した。
「服は多少焼け焦げているけれど、外傷も内傷も無し。一気に魔力を放出した時に、治ってしまったのかしら。
ただ、魔力が以前より格段に増えているわ。しばらくは、魔力を使う時は気を付けて。魔力操作の練習をしないと、とんでもない事になるわよ」
そう言って、母上は私を抱きしめた。その上から、もう1つ大きな影が私を抱きしめた。
「無事で良かった、くらい言えば?」
母上の言葉に、私が頭を上げると、父上の険しい顔があった。
「見事な氷雪魔法だ。火は、一片残らず氷と化している」
ただ、それだけ。でも、それが、私の父上だ。
父上が私を心配してくれていた事は、私達を抱きしめてくれたから、よく判る。私と同じく、言葉が足りない。困った人だ。
「流石、お兄様!」
「お……お嬢様、いきなり飛び起きて叫ばないで下さいまし。ノマは、もう、婆ですので、ビックリして、心の臓が」
「メイド頭~!!メイド頭~!!ノマが、大変~」
「ノマ、しっかりしなさい。お嬢様のお世話が出来るのは、魔力が多いあなたしか居ないのよ」
「はっ!!そうでした。他人より余分に貰ったお給金で、家買って、馬車買って、それから、お花畑……は、死んだら行くわね。
とにかく……まだ、死ねません!」
心臓が、心臓がと言いつつ、かなり元気なベルリーナのお世話係の老メイドです。




