ゲリラ豪雨を愛せよ
「……ところでさあ!」
「うわっ! ……あん、何だよ。急に話しかけんなよ」
「ごめんごめん。でも、暇だからいいだろ?」
「いや、見れば分かるだろ? 読書中だ。暇じゃない」
「え? どう見ても暇じゃん。ページだって進んでないし」
「違う。目が疲れたから少し外を見ていただけだ」
「つまり、読書中じゃないってことだな? 」
「いや、暇じゃない」
「なあ~? 話そうよ~……?」
「本当にウザいなあ……。何の用だよ」
「あ、やっぱり暇だったんだ」
「違う、しつこいからだよ。……ほら、さっさと用件を言え」
「はいはい、素直じゃないんだから……。なあ、あの噂って知ってるか?」
「……いやいや、どの噂だよ」
「いやいや、そこはさ? 俺たちの仲じゃん? 言わなくても伝わるはず……」
「無理だろ。超能力者じゃあるまいし」
「試しに当ててみ? 案外当たるんじゃね?」
「……じゃあ、新作のゲームか?」
「いや~、残念っ! ハズレ!!」
「……くそ、ウザいわ」
「ああっ、読書に戻るな! もう答え言うからっ!」
「……じゃあ、何の噂だってんだよ?」
「そんなの決まってんじゃん! 異世界に行く方法、だよ!」
「………………はあ」
「何だよ! そんなにハッキリとため息つくなよ!」
「お前はネットの見過ぎだ。現実にそんなものがあるわけないだろ」
「それがあるんだって! 実際に行けたって報告もあるんだから!」
「ふーん……。で、ちなみにソースの出どころは?」
「え? ネットだけど?」
「……はあ。怠いわ……」
「ちゃんと信憑性のある話なんだって! 友達の友達の友達も異世界に行けたって言ってるし! 界隈では結構騒がれてるんだから! な、興味あるだろ?」
「興味ない」
「ああっ、本読むなって! おーい? おーい!?」
「耳元で叫ぶな……。うざいなあ、もう……。分かったから話してみろ!」
「へへへ」
「笑ってないでさっさと話せよ」
「そうだな。……夏にはさ、よくゲリラ豪雨ってあるだろ?」
「ん……? ああ、あるな」
「あれってどう思う?」
「何だ急に? ……どう思うって、まあ。急にドサッと雨が降ってきて嫌なんだよな」
「ふーん、そうか。嫌いなのか……」
「そりゃそうだろ。あんなもの、好きな奴なんているのか? 突然襲ってきて、あっという間に濡れるし、雷がうるさいし、いいことなんてないだろ」
「俺は好きだけどな? こう、ロマンがあるっていうか」
「は? ロマン? どういうことだよ?」
「なんか仕事人って感じしない?」
「……意味分からんが」
「誰にも予想できない、神出鬼没の黒い雲!」
「はあ」
「そして大量に降り注ぐ、爆撃のような大粒の雨!」
「……」
「家もビルも沈むほどの勢いで、あっという間に日本沈没!」
「……色々と誇張し過ぎだろ。創作の読みすぎだ」
「えー? ゲリラ豪雨ってこうじゃないの? 強そうな名前じゃん」
「もっと現実を見ろ。日本沈没なんてありえない。そんな状態になったら連日大ニュースだぞ?」
「む、そうか……。まあ、それでね、異世界へ行く方法なんだけどさ」
「ああ」
「ゲリラ豪雨について行けばいいんだよね」
「はあ? 何言ってるんだ?」
「ゲリラ豪雨ってさ、いつどこに現れるかイマイチわからなくて、気象予報士でも完璧には当てられないじゃん?」
「まあな」
「あの黒い雲ってどこから来てると思う?」
「いや、知らんけど」
「どうやら、ここではない場所らしいんだよね」
「は?」
「別の空間から次元の垣根を越えてやって来てる。だから事前に気付けない。予測できないんだって」
「……はあ? つまり、どういうことだよ?」
「つまり……」
「つまり?」
「異世界」
「……」
「だから、あの雲の中に入れば、異世界に行けるんだよ」
「ツッコミどころはたくさんあるんだが……」
「おう」
「まず……、どうやって雲の中に入るんだよ? 飛行機か?」
「それがさ、ずっと雨に打たれているとどういうわけか、雲の中に行けるらしいんだよね」
「……はあ?」
「多分、待っていると連れてってくれるんでしょ」
「ただ待っているだけ?」
「そう」
「傘をさして外に立っていればいいのか?」
「いやいや、傘をさすなんてゲリラ豪雨に失礼でしょ」
「は? 濡れたまま待つのか?」
「そう」
「風邪ひくだろ」
「風邪くらいで異世界に行けるなら安いもんでしょ」
「嫌だよ。安くねえよ。もし仮に異世界に行けたとして、異世界で風邪でうなされるのか? 何しに行くんだよ。意味分からん」
「なあ、一緒にやってみようぜ?」
「勝手に一人でやってろ」
「ええー……。あ、そうだ自由研究! ゲリラ豪雨で異世界に行く研究に……」
「ウチの高校には自由研究の宿題は無い」
「ケチ!」
「はいはい」
・・・
夏休みが始まってから一週間。俺は自室にひとり、何もすることがなく、完全に暇を持て余していた。
「……怠いな」
スマホを握りながらベッドに横になる。面白そうだが見る時間がないと溜めていた動画も、いよいよもって尽きてしまった。ゆえにただ寝転がるばかりで、何もせずに天井を見ているだけの有様だった。
夏休み中は毎日が快適だ。教室内のように突然うるさい声話しかけられることもないし、放課後に行くべき部活もない。ストレスフリーで快眠が続いている。
ただ、面倒事が減って嬉しい反面、暇が増えてしまった。全ての雑用がなくなった途端、時間が余ってしまった。随分と長い時間、耐えられないほどの退屈を持て余していたのだ。
「はあ、どうするかな……?」
しかし、いくら暇だからといって、夏休みの宿題は手につく状態ではない。昼間は暑すぎて頭がどうにも働かないのだ。太陽から降り注ぐ熱はやる気をそいでくる。体を冷やさなければやる気は起きないが、わざわざそこまでして勉強体を始める気力もない。そんな具合にどうしようもなく、自室でのっそりと倒れていた。
そもそも最後の週になってようやく焦り始め、期限に追われながら必死にこなす予定が入っているのだから、今から始める必要などありはしない。毎年、それで始業式までには間に合っているのだから、心配することはないのだ。
ならばと気楽な趣味を進めようと、夏休みにやろうと思っていた積読の消化をしようとしたが、それもやる気に満ち溢れた夏休み最初期の自分自身が本気を出してしまい、僅か三日のうちに読み終わらせてしまっていた。気分が乗ったときの行動は早い。しかしだからこそ余った時間は、本当に何もやりたいことが見つからないのだった。
やりたいことは秒で終わるが、しなければならないことは手を付けたくない。
……実に暇だ。一か月ほどある夏休みの一週目にして、虚無に陥ってしまった。
そうして何でもいいから退屈を紛らわす方法はないかと、外からの熱が厳しい自室の中で半目になり、脳内でぐるぐると思考を重ねていた。その結果、自室に居てもあまりにも退屈で仕様がないからと、駅前にあるコンビニにでも行くかと思い立ったのだった。
最近、巷で話題となっている商品がある。あるコンビニに置かれている新作のキワモノ系の塩アイスだ。無駄にカラフルで斬新なパッケージで世間の目を集めたのも話題のひとつだが、なによりもその味が常軌を逸していると、多くの声が上がっていた。
SNSには実際に食べてみたレビューがいくつも転がっていて、やれしょっぱいだの、それがいいだのと、賛否両論の喧々諤々、一触即発の地獄絵図となっている。クラスメイトも何人かその流れに乗っては、ウマいだのマズいだのと戦場にレビューという名の援護射撃を撃ち込んでいる。俺も一度食べてみて、その戦争に乱入するのもアリかもしれない。
普段はそうした雑談めいた催しに積極的に参加する方ではなく、むしろ無駄だと切り捨てる側なのだが、暇な長期休みともなれば例外である。この程度のくだらない論争でも、暇潰しにはちょうどいい。そのくらいに興味のハードルは低くなっていた。
そして思い付いたからには善は急げと、財布をポケットに入れて自室を飛び出し、サンダルを足にひっかけて玄関からマンションの外に出た。
……その瞬間、なんて愚行を思いつき、そして実行してしまったのかと、非常に後悔したのだった。
「あっつい……」
太陽は人類を嘲笑うかのように、連日のように最高気温を更新している。カラスもバテて空を飛ばないほどの真夏日だ。こんな時期に外に出るなど正気の沙汰ではない。……つまりは俺の脳みそは暑さにやられ、正気な状態ではなかったらしい。ああ、怠い。本当に怠い。
時刻は午後の三時。太陽が真上ではないとはいえ、それでもまだ暑い時間帯だ。しかもアスファルトに溜まった熱を考えれば、もしかしたら今が暑さのピークかもしれない。地面と空の両方から放たれる熱のサンドイッチ状態となり、オーブントースターのように熱波を浴びて、人類の脆い体なんてものは焼け焦げる寸前だった。
その結果、コンビニに入るころには猛暑に体力を削られており、完全にグロッキーになっていた。汗が止まらない。熱で頭も痛い。
……やはり、夏は外に出ないに限る。夜型バンザイ、夜型バンザイ。昼間の地獄のような時間を睡眠で誤魔化し、夜の涼しい時間に活動する。そうした自然の摂理を享受するために、夏休みというものがあるのだろう。
……にもかかわらず、夏の暑さに浮かされたためか、迂闊にも昼間に炎天下を歩いたせいで、貴重な体力を大量に失ってしまった。ああ、非常に怠い。冷房の効いた店内で十分に休憩を挟まなければ、帰る前に倒れてしまうだろう。
こんな時こそアイスである。冷たさと糖分を同時に摂取できる夏の必需品だ。熱くなった体を冷やし、失った体力を取り戻す。これほどまでに画期的な食べ物はないだろう。
……だがこれから食べようとしているのは、例の巷を騒がせている商品だった。そう気づいてしまった瞬間、何とも言えない無力感が襲って来た。どうして罰ゲームを自ら受けるような選択をしてしまったのか。これだから夏は嫌なんだ。人間の冷静な思考能力を、いとも簡単に奪ってしまうのだから。
冷凍ケースを見に行くと新商品と赤文字で書かれたポップと、山積みになっているネットでよく見たパッケージを見つけてしまった。長ったらしいカタカナで書かれた、どう考えてもネタにしかならないネーミングセンスをしている商品だ。値段は三百円。少々高めで一発ネタとして手を伸ばすには躊躇するギリギリのラインだ。
……しかも、その周りには大量に美味しそうな商品が並んでいる。定番のよく見るパッケージは、売れているから年中置かれているのだ。当然、味は担保されている。絶対に美味いに決まっている。
……もう別の商品にしようか。いや、何のために炎天下を歩いたのか。今日の目的はこれなのだ。そうして苦虫を嚙み潰しつつ、賛否両論の品をレジまで持って行ったのだった。
店内にある誰も居ないイートインまで持って行き、席に座って食べてみる。
まずは一口。……ああ、うん。そうだよな。分かってた、分かってた。
……いや、まあ。何と言うか、マズいと吐き捨てるほどではないが、確実に美味しくはない。点数をつけるなら三十点だろう。
複雑に組み合わさった塩味が仄かな甘さを際立たせた一品。……とは、ホームページの紹介文から引用したキャッチコピーだが、コンセプトが先行して味がついてきていない。一口食べた限り、そんな印象だった。
パッケージにも書かれている四種類の塩たちの独自主張が強すぎて、甘いという概念がどこかに封印されてしまっている。つまりは際立っておらず、まったく甘くないのだ。もう、ほぼ塩だった。
塩がたくさん取れるので、脱水症状の時ならばギリギリ食べたくなる可能性がある……、かもしれない……。まさに今の俺のような、炎天下を歩いてきた人間にとっては……。いや、それでも好んで食べたいとは思わない。ただの塩だし。つまりはハズレであった。
事前に想像していた味とはまったく違ったが、想定通りの微妙な味だ。しかもそのくせに、周りの商品と比べても割高の値段。これは紛れもなくアウトだろう。
スマホを取り出してSNSを起動し、ポチポチと文句を書き込み始める。少々表現を誇張して、これは食品ではなくただの塩だと投稿。すると反応が早い、もうコメントが付いた。……ああ、ネットの中はいつも暇人で溢れている。待ち時間を使わなくてもいいことだけは、ネットの数少ない長所だろう。
見知らぬアカウントに味覚音痴だの、深みを理解してないだのと煽られては、そっちが馬鹿舌だとの言い争いの手が進む。クーラーがガンガンに効いた店内で、塩を食べつつヒートアップだ。
訴えられないギリギリのライン。相手の意見を的確に論破しつつ、面倒な話題は誤魔化しつつ、適度に煽っては反応を楽しむ。ルール無用のチャットファイトが、同じく暇人の無数の乱入者を巻き込んで行われた。
そして、何の話だったかもう忘れるほどに脱線し、いつも通りに収拾がつかなくなってしまったところで……。そろそろ帰るかとスマホをポケットにしまった。暇潰しにしかならない無益なやり取りも、暇潰しを求めてここまで来たのだから十分な戦果だろう。
こんなくだらないことをしている間にも、炎天下を家まで帰る程度の気力は回復した。さて、気を引き締めて家に帰ろう。またあのオーブントースターのような熱波の中を歩かなければならないのだから……。
少々気が滅入りつつも、アイスをイートインの隅にあるごみ箱に捨ててコンビニを出た。そして視線を上げると……、
「……早すぎるだろ」
僅かな外出の間に、空は分厚い雲によって真っ黒に染まっていた。さっきまでの異常な暑さなど嘘のように寒くなり、風が強く吹いては強烈な音を鳴らしていた。
夏の空は異常そのもの。まったく油断も隙もない。もう少しゆっくりと店内でレスバを続行していたならば、本降りの雨の中でコンビニ内に閉じ込められ、帰るタイミングを逃していたことだろう。
家に帰れるギリギリのタイミングで気付けたのだから、運が良いのだろうか。……いや、予定にない雨が降ってきたのだから、その時点で運は悪いのだろう。最悪だ。
雷が鳴る。周りも慌ただしく走り出している。駅から出てきた通行人が、空を見上げてはダッシュでどこかへと走り去っていった。強い風が吹いてカラカラと空き缶がどこかへと転がっていく。みるみるうちに辺りは暗くなっていき、雨がぽつぽつと降り始めた。
……今にも嵐になる予感がする。いかにもヤバそうな雰囲気だ。俺もここで立ち止まっていても仕方がないと、すぐに覚悟を決めて屋根の下から外へと飛び出したのだった。
まあ、今ここでビニール傘を買えば、濡れる心配もせずに帰ることは出来るだろう。だが、まさか家までほんの七分程度の距離しかないのに、傘を買うだなんてもったいない買い物はしたくはない。ゲリラ豪雨なんて年に何回も遭遇するものに、いちいち傘を買っていたら家が傘で埋まってしまうだろう。
走れば家なんてすぐに着く。うだうだ考える前に走り始めて、本降りになる前に家に駆け込めば万事解決だ。簡単な話じゃないか。
そうしてサンダルをパタパタと鳴らしながら、雨の中を全速力で駆けて行ったのだった。
――だが結論としては、その判断はミスだったらしい。雨はものの数秒の後に土砂降りとなって、一瞬で全身がびしょ濡れとなってしまった。
「くそ……」
これがゲリラ豪雨。予測なんて不可能な災害。俺の想定を超えて爆発的に強まり、ビシャビシャと街と俺を濡らしていった。
まだ家まで半分以上の距離があるが、もうすでに下着まで濡れている。小学生のころだったかにした、着衣水泳のときのような惨状。全身がズブ濡れ。怠い、怠すぎる。これだから雨は嫌なんだ。
それもこれも、炎天下の昼間に外に出るなんて愚行を侵したのが原因だろう。やはり、夏の昼間は寝るに限る。興味本位で外に出てはいけなかったのだ。
雨も風もさらに強くなる。もはや夏の暑さが恋しい。早く晴れてくれ。こんな日にテンションが上がるのは……、アイツくらいなものだろう。
今、隣にアイツがいたならば、異世界に行くチャンスだと外へ飛び出し、雨の下で必死になって色々と試していたところだろう。なにせ、人並み外れた馬鹿だからな。
……いや、もしかしたら今この瞬間にも、数キロ離れた場所でテンションを上げているのかもしれない。いや、きっとそうだ。無駄に頭を働かせなくとも容易に想像できてしまう。
「もうすぐ異世界に行けるよ! ほら、ほらっ!」
……ああ。余計な想像をしていたら、うるさい幻聴が聞こえてきてしまった。雨音に混じる不快なノイズが酷い。勝手に他人の脳内に入って来るな。……まったく面倒な奴だ。
だが、そんな妄想で現実から目を背けなければため息が出てしまうほどに、頭上から降り注ぐ雨は非常に強く、そして何よりも鬱陶しかった。水分は服を濡らして肌にへばりつき、前へ進む気力を奪っていく。しかも、普段のゲリラ豪雨よりも三割増しで雨も風も激しい気がする。俺の勘違いでなければだが。
「くそ……、何で今日に限って……」
こんな日に濡れた道をサンダルは走るのはキツイ。それに暗くて足元が見えづらいのも面倒だ。たまの稲光が嬉しく感じてしまうほどに、辺りは真っ暗で視界が悪くなっている。
昼間にもかかわらず街灯がつき始めた。車も後方に飛沫を上げながら、ヘッドライトをつけて走っていた。
……何故俺はこんな時に外に居るんだ? 俺が何をしたって言うんだ? 滅多に外出しないのに、どうして偶然にも雨に降られてしまうのか。本当におかしい。これを雨男とでも言うのだろうか? 外に出た時に限って、空の天気はいつも最悪だ。そして俺の気分も常に最悪だった。
しかもまだまだ足りないと言わんばかりに、雨はさらにさらに強くなる。ついには目も開けていられないほどに、雨も風も容赦なく襲って来た。
「ぐうっ……!」
ヤバい、ヤバすぎる。視界が悪いという表現では足りないほどの豪雨だ。まるで山奥にある滝に打たれる修行かのよう。タンクの水をぶちまけたかのような量が、頭の上に降り注いだのだ。
「げほげほっ……。何だこりゃ?」
水が多すぎて息をするのも難しい。これでは流石に歩けない。雨が重いなんてことがあるのか。気を抜くと潰されてしまいそうだ。
ドドドとアスファルトが音を立て、跳ね返る飛沫は下からも体を襲う。おおよそ街中で聞かない音。アスファルトと共に地球が壊れるのではと心配になるほどの異常事態だ。
腕で頭を守るようにして、滝の中で押し潰されないように耐える。雨で周りの音も聞こえない。何も見えない。
誰がどう見ても分かる天変地異だ。……もしや、このまま世界が終わってしまうのでは? そんな予兆が脳裏を過った。そして同時に背筋が凍った。
このペースで雨が降り続けたとしたら、都市機能で排水できる速度を余裕で上回り、この街は沈没してしまうだろう。……そんなバカな。あり得ない。異常事態にも限度がある。許されないラインを超えている。
そして何よりも恐ろしいことは、アイツの予言が当たってしまうことだ。アイツの意味不明な冗談が、現実のものとなって真実になり、未来予知者になってしまう……。それは非常に困る。あってはならない。こんな異常気象なんかよりも、さらに許されない異常事態だ。たとえそれがラッキーパンチだとしても許してはならないのだ。
……だが、そんな風に一瞬抱いた一抹の不安は、杞憂となってすぐに消えた。世界が崩壊するほどの絶望的な降り方は、ほんの数秒で打ち止め。すぐに視界は戻ったのだった。通り雨の名の通り、ピークが上空を通り過ぎて行ったのだろう。ついでに風も弱まり、少々強めの雨だけが残ったのだった。
「はあ……、そりゃそうだよな」
髪についた水を軽く払い、ふうと息を吐く。
洪水なんて、そうそう簡単に起きるはずがない。雨雲にも蓄えられる水分に限界があるのだから、降る量にも限度は決まっている。一瞬の焦りで心配し過ぎた。そんなこと、あるはずがない。
「ん? 何だ……?」
一連の異常事態で疲れたのだろうか? 視界がなんだか、ぼんやりとくすんでいるように見える。体が冷えたのかもしれない。アイツじゃないのだから、このままだと風邪をひいてしまうだろう。
……いや、違うか。目のせいではない。街灯が消えてしまったのだ。さっきの異常な衝撃で、街全体が停電になってしまったのだろう。大雨で電線がイカれたか、どっかの施設でトラブっているのかもしれない。それほどまでにさっきの降りはおかしかった。
だが、暗くとも歩けないほどではない。ぼんやりと縁石の輪郭は見えるし、雨の勢いもよくある程度の異常さに収まっている。憎たらしい雷も、たまに光って道を照らしている。慣れた道なのだから、ほんの少しの光でもあれば十分だろう。
またさっきのような、異常の上をいく異常気象が起きても怠いだけだ。さっさと家に帰ろう。そして温かいシャワーを浴びよう。……ああ、そうだ。停電がすぐに直るといいが。夏とはいえ冷たいシャワーはもう十分だからな。
そうして一歩、再び家に向けて歩を進めようとした。
ざぽん。
「うわっ!」
その歩き始めた一歩目、右足が足首ほどまで水溜まりの中に埋まってしまった。さっきの土砂降りで側溝で排水もできないほどに、急激に水が増えてしまったのだろう。そう思って足元を見た。
……しかし、目に映ったのは水溜まりではなかった。
「……は?」
不定形の黒い靄。液体とも気体とも呼べない謎の物体。まるで今まさに空を覆いつくしている黒雲が、破片となって地上に落ちてきた……。そうとしか思えない不気味な異物がアスファルトの上に落ちていたのだ。
「おいおい……。何が起きてるんだよ……」
あり得ない。何かの見間違いじゃないかと目を凝らす。しかし何度見ても結果は変わらなかった。そこにあるのは非現実的な光景だった。
見た目は霧に近いのだが、足に触れている感触はただの水そのもの。まるで幻覚によって上書きをしているかのように、気味の悪い歪みが足元に絡みついていたのだ。
「何だよこれ……」
重い毒ガスのように足元で停滞する水に、ヤバいと慌てて足を引き抜くが、別に足に違和感はなかった。見た目が現実的ではないこと以外に、特に害になりそうな様子はない。ひんやりとした、ただの水溜まりである。水面に映像を差し込んだかのように、見た目が変わっているだけだった。
それでも気味が悪いことには変わりはない。距離を取ろうと一歩下がる。だが、後ろもすでに靄で覆われていた。後ろに引いた足もまた、チャポンと黒雲の中に沈んでしまった。……というか、浸水ならぬ、雨雲による地上の浸食が始まっていたのだ。
「おいおい……、どうなってるんだよ」
もはや逃げ場はない。サンダルを履いた足は完全に雲の中に浸かっており、くるぶしの上ほどまで溜まった水の感触があった。これが雲ではなくただの水であったとしても、普通に浸水としてヤバい状況である。洪水が起こる前触れだった。
こんな異常な現象が起きているのならば、周囲はさぞかし驚いていて、とんでもないパニックになっているだろう。車は進むことを恐れて立ち往生し、家の中からは外の様子を見て悲鳴が上がっているに決まっている。そう思って辺りを見渡してみた。
しかし、歩いている人はおろか、車さえ一台も走っていなかった。
「はあ?」
そういえば周りから物音ひとつしない。うるさい雨音のせいで気付かなかった。あの滝のような水が襲ってきたあとからだろうか? 車のエンジン音や空調の音など、本来あるはずの何かしらの人の気配が全く消えていたのだ。
……いや違う。周りが消えたのではない。唯一、俺だけが、いまだゲリラ豪雨の中に取り残されていたのだった。
「……どうなってるんだよ」
街灯の明かりも消えている。車の影もないのだからヘッドライトもない。唯一、目の前の道を照らしているのは、頻繁に光る雷だけだった。この異常な現象の元凶が、空でアピールを繰り返していた。
「くそ、調子に乗りやがって……」
異常な黒雲に向けて毒づき、どうすればいいのかと考えている間にも雨は降り続けている。しかも黒雲はどこかへと流れ出すこともなく、降った分だけ着実に蓄積していた。地上に落ちた黒雲はプールに水を貯めるように徐々にせり上がって来ていて、すでにくるぶしを軽く超え、脛の半分ほどまで達していた。
もう地面は雲に隠されて見えない。縁石も段差も見えない。走るには危ないし、そもそも水が重くて動きづらい。状況はみるみるうちに悪くなっていった。
「くそ、怠い……」
……対処の方法が分からない。思いつく可能性も見い出せない。だがとりあえず、まずは家に帰ろう。あともう少しの距離なのだ。家に帰れば何か道具があるはずだ。財布とスマホしか持っていない現状では、何かしらの打開策を思いつくことも、それを実行することも難しいだろう。
そうして早くしなければと、一目散に家へと向かった。黒雲を足でかき分けながら必死に前へと進んでいると、すぐに自宅のマンションが見えてきた。……近くて助かった。これがニ十分もある距離だったら、間違いなく間に合わなかっただろう。
空からは相変わらず強烈な雨が降り注ぎ、足元に積み上がる雲は信じられない速度で上昇している。水面が俺の体を登ってくる。膝、腰、そして胸……。ああ、くそ、早すぎる。見えているのにあと一歩が遠い。雲が邪魔だ。しかも冷たい。体力が持たない。
「はあ……、はあ……」
苦しい。雲かさが鎖骨を迎えたあたりから、息をするのも難しくなってきた。もはや足を地面に付けて歩くなんて不可能。サンダルは邪魔だと脱ぎ捨てて、泳ぐ体勢に入った。
家まで残りは二十メートルほど。着衣しつつの苦手な平泳ぎだ。幸いにも黒雲はどこかに流れていかないためか、水流という概念は存在しなかった。だからプールよりかは泳ぎやすい。着衣という枷をつけているなか、それだけが救いだった。
なかなか進まないながらに必死に手足を動かし、マンションの敷地内には入ることが出来た。だが、そうしている間にも、あっという間に水面が一階を超えてしまっていた。雲かさの上昇は留まるところを知らない。このまま待っていれば、どこまでも黒雲は積み重なっていくだろう。
この調子でどこまで雲かさが増していき、どのくらいの高度まで連れていかれるのかと空を見上げると、上空の異変に気付いてしまった。雲が急激に下がってきていたのだ。目に見えて分かる速度で、俺の方へと近付いてきていた。
黒雲が俺を飲み込もうとしている。上下で挟んで押し潰すつもりだ。しかも上の雲はビカビカとひっきりなしに光っている。触ったら感電するだろう。
「くそ……、何なんだよ……」
少なくとも見える範囲には逃げ場はない。雲は建物を無視して水平線まで伸びている。たかが人間が敵うスケールではない。絶体絶命だ。
上下からの黒雲に挟まれ、ゲリラ豪雨に飲み込まれた結果、俺はどうなってしまうのだろうか? アイツの言ったとおりに感電しながらも異世界へ飛べるのか? それともただ異常気象に巻き込まれて死ぬだけなのか? 何が起きるかは実際に試してみないことには分からない。すでに異常だらけなのだから、何が起きても不思議ではない。
……だが、どっちの可能性もお断りだ。俺は別にこの世界に愛層を尽かしたわけではない。異世界なんて御免だ。まだ、この世界でやり残したことはたくさんあるのだから。
……さて、問題はどうやってマンションの中に入るかだ。まあ、律義に雲の中に潜って、入り口から入るなんてあり得ないだろう。視界の悪い黒雲に潜るなんて自殺行為だ。緊急事態には緊急事態なりのやり方があるはずだろう。
今はむしろ、こっちが正規ルートだ。そう考えて、建物の壁を伝いながら、すぐ近くにあるベランダの方へと向かった。わざわざ玄関側へと回り込む必要はない。泥棒も入るのが難しい三階のベランダは、いつも鍵が開いているのだから。
雲かさはそろそろ二階の半分に差し掛かる。待機してタイミングを見計らう。もう少し待てば、手を伸ばして登れるようになるはずだ。
ここが正念場だろう。ふうと息を吐いて気を引き締めた。
「よし……」
家に入れるチャンスは一度切り。それも室内が浸水する前、まともに動ける時間を考えると、四分程度しかないだろう。その間に家の中から何かに使えそうな物を見つけて、そしてあの異常気象からどうにかして生き延びなければならない。
……いや、どう考えても無謀な挑戦だろう。この世のものとは思えない大災害に対して、生身の人間が道具を片手に立ち向かおうとしているのだから。だが、挑まなければ飲み込まれるだけだ。やるしかない。
ベランダから家に入り、出来るだけ多くの役に立ちそうな物をかき集める。出来るだけ臨機応変に、そして常識を疑って、この危機を乗り切るしかない。相手が理の外の存在だからこそ、対処法はあるかもしれないのだ。
そしていよいよ、三階のベランダに手が届いた。
「ふんっ!」
アルミ製の手すりを掴み、自分の体を上へと引っ張り上げる。そして柵を乗り越えてベランダの中に転がり込んだ。
べちゃっ!
「はあはあ……」
硬いコンクリートの床に倒れ込む。体が軋んで悲鳴を上げる。手足が冷たく、体の芯が寒くて思うように動かない。……しかし、休んでいる場合ではない。すぐに役に立つ道具を見つけなければ。
タイムリミットは迫っている。ここで倒れていても冷たい雨雲が押し寄せてきて、再び凍えるだけだ。ここで気合を出さずにいつ出すのか。
そうして心と体を奮い立たせ、どうにか起き上がってベランダのガラス戸に手をかけた。……その時だった。
「……ん? うわっ!?」
突然、後ろから強い光が差し込んできた。そして、急に気温が高くなった。
緊急事態とは思えないほど場違いな光に思わず振り向くと、強烈な赤色が目に飛び込んできた。そして目が眩んでしまった。
「あ……」
見えたのは夕日だった。ビル越しでも眩しいくらいに、赤く赤く輝いている。昼間の暑さが抜けない、ただの夏の夕暮れだった。
「はは……」
ありふれた日常。普段ならようやく日が落ちたかと、暑苦しい太陽に文句を言いたくなる時間帯。怠いと吐き捨てた街並みと、昼間の熱を吸った建物や道路がそこにはあった。
当然のことだが、そこに非現実的な黒雲は、影も形も見えなかった。
「帰って来れたか……」
どうやら助かったらしい。思わずベランダに倒れ、寝転んでしまう。
ゲリラ豪雨は、来るときも早ければ去るときも早い。何とも身勝手な異常気象だろうか。本当に呆れる。
安堵で疲れがどっと出た。苦手な水泳と緊張から、体力はとっくに限界を迎えていたようだ。
夏は暑い。それは夕方でも変わらない。冷たい雲で濡れた服すらもすぐ乾くほどに、俺の体も温めていった。今だけは昼間に吸収したベランダの熱が、岩盤浴のように心地よかった。
空を見上げて息を整える。どうして黒雲は消えたのかと、分かるはずもない理由を探す。……すると、ふと、アイツの言葉を思い出したのだった。
「ずっと雨に打たれていると異世界に行けるらしい」
覚え違いでなければ、そんなことを言っていた気がする。
……アイツの言葉なんて信用していないが、もしもその話が本当ならば一応の予想は成り立つ。つまり、裏を返せば雨から逃げればよかったのだろう。
雨に当たらない場所、建物の中や軒下に入り込めば、雨を凌ぐことくらいはできる。俗にいう雨宿りだ。家に解決策を取りに入ったはずが、図らずも雨の魔の手が届かない場所に避難していたらしい。そうして逃げ切り、帰って来れたのだ。
「はあ……。いや、そんな単純な話か?」
必死になって家へと泳いだ苦労に見合わない、至極単純な答え。……いやまあ、これはあくまで憶測の話だからな? 合っているとは限らない。
聞きかじった情報と、たった一回の成功体験。それらを組み合わせただけ。予想の範疇。根拠は薄い。確実な理由が知りたければ……、もう一度仮定をもとに実践してみるしかないだろう。
……あん? いやまあ、もう一度なんて絶っっっ対に嫌だけどな? また雲に飲まれそうになって、挙句の果てに仮定が間違っていたらどうするのか? 次こそは帰って来れないだろう。考えたくもない。
……それはそうと、今は何時なのだろうか? コンビニを出たのが午後の三時半くらいだったはず。しかし今は夕方。大体六時くらいだろう。
そうなると二時間くらいは異世界を彷徨っていたことになるのだが……。絶対にそんなに時間は経っていないはずだ。そんなに長時間、雨に当たったり、冷たい雨雲の中で水泳をしていたら、震えるほどに凍えてしまうだろう。
どうやら異世界とやらは時間も当てにならないらしい。現実の常識は通用しない。もう忘れることにしよう。思い出したくもない。
暑さの残るベランダに、大の字になって寝転がる。
ああ、疲れた。もうゲリラ豪雨はこりごりだ。
ガラガラ……。
「……何してんの?」
ベランダで倒れているところを母親に見つかった。……最悪のタイミングだ。
「あ、えっと……。これは……」
「え? もしかしてベランダで寝てた?」
「違う」
「でも、ずぶ濡れじゃない。何時間前からそこに居たのよ? とっくの昔に晴れてるんだけど?」
「寝てない」
「寝てたじゃん。……ああ、暑いからって頭がおかしくなった?」
「おかしくない。俺は雲に乗ってベランダから……」
「……寝惚けてるじゃん。風邪ひかないでよね? 看病するのも面倒なんだから……」
呆れ顔で去ってしまった。弁解する隙はなかった。
その日の夜、家族全員から揶揄われたのは言うまでもない。
・・・
九月。高校も二学期が始まり、いつも通りの退屈な日常が戻って来た。夏休みは暇で暇で仕方なかったが、休みが明けるとそれはそれで億劫である。
毎日の授業。宿題に予習、復習。学生は暇が少ない。それに部活もあるのだから、やることは多い。まったく、忙しさはいつも極端だ。
ふと窓の外を見ると、秋の薄い雲が浮いていた。夏の分厚い雲とは違う、雨も降らないし雷も鳴らない、ごく普通の雲だ。
「……」
雲を見るとあの事件のことを思い出してしまう。思い出したくなくても思い出してしまう。あまりにも衝撃的で、人生でも二度も遭遇しないような、頭のおかしい災害だった。
しばらく筋肉痛で動けなかったし、風邪もひいた。散々な目に遭った。何かしらの見返りが無ければ大損だろう。例えば、鉄板の笑い話になるとかな。それならば苦労にも甲斐があるというものだろう。
……だが、この体験を誰かに話す機会は一生ないだろう。説明するのがあまりにも怠すぎる。説明の苦労に見合わない。なにせ正直に話したところで、信じてもらえるとは限らないからだ。
「なあ、聞いてくれよ。外を歩いていたら空から大量の雨雲が降ってきてさ。……ああ、雨じゃなくて雨雲な。あのときは溺れるかと思ったよ。それで仕方ないから雲の上を泳いで、マンションの三階にあるベランダに逃げ込んだよな」
ああ、完全に意味不明だろう。どこまでも現実離れした出来事だ。もしも俺が聞く立場だったら、頭がイカれたのかと聞き流していることだろう。
変人だと距離を置かれても不思議ではない。得になる要素がひとつもない。だから、誰に言うこともなく、墓まで持って行くことにしたのだった。俺の脳内に封印し、二度と表に出すことはないだろう。
もし仮にこの封印が解かれる日が来るとしたら……。まあ、友人と怪談をする機会でもあれば、その時はもしかしたら口を滑らせてしまうかもしれない。ただしあくまでも、どこかで聞いた誰かの体験談であって、俺の実際の話とは言わないがな。
「結局、異世界って何だったんだろうな……」
「……XXX!」
「ん? なんだよ?」
後ろの席から声がした気がして、いつものように肘を背もたれに回して振り向いた。
……しかし当然ながら、そこには誰も居なかった。今座っている席は教室の一番後ろにあるのだから、後ろの席から話しかけられるはずがないのだ。
「……なんだ気のせいか」
どうやら空耳だったらしい。……もしかしたら脳が疲れているのかもな。昨日も夏休みの習慣で、三時まで夜更かしをしてしまっていた。
……早く昼型生活に戻さなければ。今日も朝から眠くて仕方なかった。一限の授業は眠すぎて、記憶から完全に飛んでいた。
「ふああ……」
大あくびをして前へと向き直る。あとで顔でも洗うかと思い、机の上へと突っ伏した。
振り向いた場所にうるさい席があったのは夏休み前、一学期のときの話である。あの時は本当に最悪だった。とにかく耳元で声がしては、どうやっても無視もできずに際限なく呼びかけられていた。ストレスで頭がおかしくなりそうだった。
だが、今は席替えをして、一学期とは比べ物にならないほど静かで快適な席を手に入れている。もう小休憩の度に話しかけられることもないし、授業中にちょっかいをかけられることもない。秋の学校生活は一学期とは大違い。静かで過ごしやすい日々が続いていた。
もしも願いが叶うのならば、ずっとこの席ならいいのに。まあ、絶対にありえない話ではあるのだが。
「そういえばあの噂……、誰から聞いたんだっけな?」