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地虫

作者: 黒楓

今日の月曜真っ黒シリーズは怒涛です!

 この世は、相変わらずバカ親ドモが自分の子供にDQNネームを付けている様だが、オレの母親もその例に洩れない。

 結婚して『木村』姓になった彼女は一人息子であるこのオレに、事もあろうに『拓()』と名付けた。

 父親譲りのブサ面、母親譲りの(よく言えば)ぽっちゃり体形のこのオレにだ!


 そのお陰でオレは幼少の頃からあらゆる人から鼻で嗤われ、小学校低学年の頃からアダ名は『キ()タク』

 そしてこのアダ名には常に蔑みとイジメが付いて回った。


『キモタク』とは『キモいオタク』とも解釈され、オレの行動も半ばそれに当てはめらた。

 ならばと、小学校低学年の頃からネットゲームに世界に足を踏み入れたオレは中二の今では“プロ”のゲーマーへと成長した。

 幾つか持っているハンネの一つである『ブラックシリウス』は“その世界”ではかなり知れ渡っている。


 そんなオレの夢は成人して色んな規制から完全に自由になった暁には(その頃にはタレントの“キムタク”はジジイの仲間入りしているだろうから)ゲーム界に『キムタク』の名前を轟かせる事!

 そして名声を得たオレは亜季姉さんにふさわしい男として姉さんと結婚する!

 亜季姉さんはオレの従姉弟で……プロのテニスプレーヤーかつ体育大学の院生でもある才媛!勿論、美人だ!!

 幼い頃からオレを可愛がってくれた亜季姉さんを始めて女性として意識したのは“小二”で……親戚一同で行った旅行先でオレをお風呂に入れてくれた時だ。


「たっくんってポニョポニョしてて気持ちいいね」って言葉でオレの事を洗ってくれた亜季姉さんは……部活で真っ黒に日焼けした手足とテニスウェアで隠された真っ白に輝く姿態はウチの母親とは到底同じ生き物とは思えない完璧な美でもって、オレの目の前で()()()()()

 小学校高学年になり、体がモゾモゾと疼く様になると……オレは決まって、その時の亜季姉さんを思い浮かべ抱きしめ、()()した。

 亜季姉さんはテニスにも勉学にも本当に真摯に打ち込んで来たから……男なんて知る筈も無い!!

 だから「オレが亜季姉さんの“初めての男”になるんだ!」と固く決意していた。


 この亜季姉さんの祝勝会が昨日行われたのだが、オレは会場へ行けなかった。

 その理由を以下に述べる。



 ◇◇◇◇◇◇


 キッカケはクラスのクソ女だった!


「『宵闇に誓うforever love』の靴下!SRなのよね~!今日出たガチャ券でもダメで……ダイヤまた200貯めなきゃ!!」


 “プロ”のゲーマーのオレには、彼女が欲しがっているのは着せ替えゲーム『ポケシル』のアイテムだとすぐに分かった。



 オレのハンネの一つである“鷹取り名人”は……広範囲かつ複数のゲームをやり込む事によって各々のゲームのアイテムを貯め込み、SNSを通じ、アイテムの交換や売買(現金や仮想通貨ではだけでは無く“ガチャ石”も含め)を行い自分のやり込みたいゲームに回すプレイスタイルだ。


 なので、つい、言ってしまったのだ。


「『シルクイエローの靴下』なら4つ持っているからひとつあげるよ」


 女はまるで“犬のウンチ”を踏んだみたいな顔で一瞬、オレを睨み、すぐに隣の子とゲームの話を続けた。


 さして可愛くも無い女からこんなクソな仕打ちを受けたが……オレは黙って受け流すつもりでいた。


 しかしテニス部で自意識過剰なクラスの男が昼休みにオレに絡んで来てネチネチと因縁を付けた。


 オレは黙って聞いていたのだが、件の女が男の後ろから嗾けて来る。

 どうやら二人は“恋愛ごっこ”をしているらしい。

 さすがうんざりして「へぼプレイヤー(亜季姉さんを見ているオレの目からは実際そうなのだが)のくせに……」と口走ってしまった。


 途端にヤツは「運動音痴のくせにクソ生意気な!!」と掴み掛かって来てオレをぶん殴った。


 この状況ならヤツの方が悪いのは明白なのだが、倒れた先が女の足元で……女はオレに痴漢をされたと騒ぎ立てた。


 結局、クラス全員がオレに不利な証言をして……オレは3日間の自宅謹慎処分となり、酔って帰って来た父親にもぶん殴られ、亜季姉さんの祝勝会へ行く事ができなくなった。



 ◇◇◇◇◇◇


 自宅謹慎が解けたオレが真っ先にやったのは、亜季姉さんに相応しい豪奢な花束を注文する事で、ゲームで稼いでいるオレには造作も無かった。


 サプライズをやりたかったので、この大きな花束を抱え、オレは独り、亜季姉さんの家へ向かった。

 駅から歩いて坂の上に見慣れた屋根が見えた。

 足取り早くずんずんと近付いて行くと1台の車が停まっている!

 亜季姉さんの家の前で。

 その車は左ハンドルのスポーツ車でクルマに疎いオレでも、高級車だとすぐに判った。


 車には逞しい腕と精悍な顔を持つ男が乗っていた。

 そいつは窓から片肘を出し、亜季姉さんと親し気に話しているので、オレは足を止めた。


 やがて窓を上げた男は軽くクラクションを鳴らし、車をスタートさせると、その車が見えなくなるまで亜季姉さんは手を振り続けていた。

 ザワザワする気持ちに急き立てられながらオレは歩き出し、とうとう亜季姉さんに声を掛けた。


「こんばんは!」


 亜季姉さんはとても驚いた様子だった。


「やったね!サプライズ成功だね!」

 努めて陽気に声を掛けると亜季姉さんは少し口籠った。

「えっ!ええ……」


「優勝おめでとう! これはボクからのお祝い!」


「あ、ありがとう……」


「亜季姉さん! ボク、祝勝会に行けなかったから優勝トロフィー見てないんだよ」


「風邪はもういいの?」


「うん!すっかりいいよ! ボクね! 亜季姉さんの祝勝会に行けなくて本当に残念だったんだよ!」


「うん、ありがと……」


「だからね!トロフィー見せてよ!いつもの様に亜季姉さんの部屋に飾ってあるんだよね」


「……散らかってるから、ちょっと待ってて」


「もちろん!」


 さっき見た光景や亜季姉さんの様子で……オレの心は言葉と裏腹に重く沈み、悲鳴が蠢いていた。


「あれ、オジサンとオバサン居ないんだ……夕食食べてから出掛けたの?」


「ううん!違うの。今日は二人共、お出かけしてて、私の……コーチが来てて、今後の事を色々打ち合わせしてたの」


「そーなんだ!コーチから叱られる事、あるの?」


「どうして?」


「だって、オジサンやオバサンの居る前ではきまり悪いでしょ?」


「指導はされるけど叱られはしないわよ。じゃあお部屋片づけて来るわね」


 亜季姉さんが2階に上がるとオレはすぐさまリビングダイニングに残された晩餐を検証した。


 亜季姉さんの得意料理の痕跡にシャンパンとワインのボトルが1本ずつ、グラスが2種4個。2つグラスには口紅の跡。シャンパンは空で赤ワインは残り僅か。

 それだけで充分だった。

 そうでなくも、酒飲みの家の子供は酒の吐息のニオイには敏感で……オレは亜季姉さんからそれを既に嗅ぎ取っていた。


 ようやく降りて来た亜季姉さんに花束を押し付け、オレは軽い足取りを装って階段を駆け上がった。

 亜季姉さんの部屋を開けると微かだが、人の蠢いていた気配を感じた。

 オレは“ブタ”と揶揄されるくらい鼻が利いた。

 嗅いだことのあるにおいと初めて嗅いだにおいが入り混じっている。

 オレの鼓動は激しくなり、整えられたベッドを丹念に調べ始めた。

 そうしたら亜季姉さんの髪とは明らかに違う短い髪の毛を発見した。

 次にゴミ箱の中で結わえられているゴミ箱のこぶ結びを解くと……

 ()()()が溢れ出て来た。

 その()()()の片っぽはオレ知ってる()()()……

 オレが頭の中の亜季姉さんを抱いて爆発した時に嗅ぐ()()()で……

 もう1つの()()()と共に、丸まったティッシュを掘り返すと露わになった。

 それは使用済みのゴムの中身と周りから発散された物だった。

 そして丸まったティッシュすべてに

 それらは染み渡っていた。


 オレは部屋を出て下に降り、花束を花瓶に生けている亜季姉さんに声を掛けた。


「ありがとう!見せてもらったから帰るね!」


 スニーカーを突っ掛け、外に飛び出し、駅に向かって坂道を駆け下りた。

 嗚咽を上げ、涙と鼻水でグシャグシャになりながら……


 どうして世のオンナはすべて!!

 スポーツマンとやらに惹かれるのだろう!!

 それって極めて動物的過ぎやしないか??!!

 オンナとは所詮、()()()()()()()()を本能に握られているんだ!!

 まあ、それはもういい!!


 オレのこの!!

 思いは!!

 憤りは!!

 悔しさは!!

 どうすればいい??!!

 成人になるまで待つなんて!!

 聖人みたいな考えなんて持てない!!

 今すぐ晴らしたい!!

 世の中すべてに恨みを晴らしたい!!


 家に帰って、そのまま布団を被って拳を叩きつけて夜通し悶絶した挙句……ようやく一つの着地点へ到達した。


 スポーツでは太刀打ちできないなら勉強で“ざまあ”をやってやろう!!


 でも公立のトップ()()()高校への合格はどうあっても内申で届きそうにない!!

 なぜなら体育や美術は不得意の上に周りから絶対に足を引っ張られるから。

 だとしたら入試に当たって内申がほぼ無関係と言われる私立のトップ校!

 ウチの中学から未だかつて合格者の出た事の無い()()高校へ合格すれば“ざまあ”になるのではないか??



 ◇◇◇◇◇◇


 星開高校は東大入学者数で全国1、2位を争うトップ校で、合格には塾などの助けが必須だ。

 しかし塾の……いわゆる星開コースには入塾試験をパスしなければならず、その入塾の為の塾へ先ずは通わなければならないのが常識らしい。

 そんなバカげたまどろっこしい事などしていられない!

 オレは中二にしてプロのゲーマーだ!

 人と同じ事をして、今の地位は築けなかった!

 必ず、オレ流の突破口がある筈!

 血眼になって探していて1冊の本を見つけた。


(さきがけ)の戦略」と言うタイトルのその本は……

『進学塾魁』の塾頭、多門勝文(たもんかつふみ)が著した書物で、そこには『進学塾魁』の一風変わった……まるで昭和の時代のスパルタ?教育指導のあらましが書かれていた。


 授業料は入学金が2万円、塾は毎日3時間で月3万円、夏休みや冬休みや受験直前には合宿があり1日当たり1万円となっている。


 そして塾頭の座右の銘の1つは……『来るもの拒まず、去るもの追わず』


 オレはこの塾に賭けてみる事にした。

 そしてハンネ『ブラックシリウス』管理のアカウントのいくつかを競売に掛け、378万円の現金を得た。

 どうせしばらくゲームはやらないんだ!

 ()()()()にくれてやった方が腐らずに済む!


 オレはこの現金をカバンに詰めて『進学塾魁』へ乗り込んだ。



 ◇◇◇◇◇◇


 とは言っても、まともに乗り込んでも受付で相手にされないだろう。

 なにせ星開高校受験へのパスポートを握れるのは7クラスのトップたる特Aクラス!

 地底のFクラスから始めてはとても間に合わない!


 オレは本にのっていた『著者近影』に一つの突破口を見ていた。

 塾頭の背中の後ろの方にビール瓶が写っていたのだ。

 本の内容からも推察して、この“オッサン”は授業が終わる夜9時以降は痛飲の時間だ。

 こちとら“酔っ払い”の扱いは手慣れている。


 オレは塾生のフリをして塾内に侵入し、9時半に最上階の塾頭室へ突入した。


 案の定、塾頭はビール瓶2本を空けていた。


「見ない顔やな」


「入塾希望です」


「下に受付あったやろ?」


「『来るもの拒まず』とあったので直接伺いました」


「確かに拒まへんけど、何でや?」


「ここへ来たのは特Aクラスに入りたいからです」


「お前、何年や?」


「2年です」


「どっか塾おったんか?」


「いいえ。始めて塾と言う所へ来ました。“星開”へ入る為に」


「お前、アホか?!」


「ええ、アホです!ついこの間までは、そんなライフプランは僕にはありませんでしたから」


「ライフプラン?」


「僕のライフプランはゲームでトップを取る事で、それは今も変わりません」


「なら、それでエエやんか!アホな事、考えるな!」


「そうは行きません!僕は目の前の人生の障害を蹴散らす必要ができたんです!」


 そう言ってオレはカバンの中の378万円をビール瓶の前に積み置いた。

「これは誰の力も借りず、僕の腕一本で稼いだものです。これを前金としてお収めいたしますから僕にショートカットの道をご教授下さい!僕は本気なんです!」


 “オッサン”は今時珍しい缶入りのタバコを取り出し、100円ライターで火を点けた。


「その金、もろとこか」


「領収書は切ってくれますよね」

 そう尋ねると“オッサン”はカラカラと笑った。


「1000円の収入印紙は見た事あるか? こんなんやで」

 “オッサン”はビールまみれの舌で舐めた印紙を貼り、多門のハンコを上から割り印した領収書をオレに渡した。


 そうしてオレは『進学塾魁』へ入塾した。





                        おしまい





明日もお休みしなければならないので、生原稿の投稿です!


手直しは後日<m(__)m>



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 いまや、ゲームで一流になるためにも、そうとうな行動力が必要ですからね。  彼はなんだかんだで、エネルギーを前向きに使ってる。  反骨心を腐らせないタイプですから、成果を応援したくなりますね。
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