真っ白なままで出会えたら何か違ったのだろうか。
夢女子って何だ?と思った
理想の女の子と推しのカップリング?(これはまだあってそう)
つまり寝取らせ願望?(違うだろ)
その絶望的な解釈により思いついた百合
寝取らせさせられた苦悩を描きたかった……はずなのにただクズたちが独白しているだけになった。
私にはカノジョがいる。そのカノジョはかなり変わった子だった。草食動物みたいにおっとりしていて少し驚きやすいその子は、残酷で都合が良い言葉を何度も私に重ねた。クラス一の美少女と呼ばれたその子の名前はミカ。私の幼馴染。
ミカは何も私の初めてのカノジョじゃない。ミカの前にも私は何人もと付き合ってきたし、その度に身体の関係も持っていた。
私にカノジョがいることをミカは知っていたし、毎回別れた後には少し眉を下げて微笑んでくる。当事者でもないくせにしょぼんとしたその姿が愛おしくなったのはいつからだろうと疑問に思う。
ミカはカノジョになる前は当然ただの幼馴染だった。その前は幼馴染と言っても関係は希薄だったように思う。私達に一体何があったというのやら。まあ、そんなことはどうでもいいか。
私が多くのカノジョと別れた原因、それは私の浮気性(この表現は適切でない気がする)にあった。たとえカノジョがいたとしても、他の女と寝るような女とはやってられないのだろう。一般常識からするとこれは完全に私が悪い。しかし私にはその理論がどうもわからなかった。
カノジョたちのことを私は好きだったし、その他の女子とは確実に特別視していた。だが、他の女と寝るなと言われるのは別だと思う。興味があったから手を出したに過ぎないし、暇だから遊んだだけだ。そんな雑なことにカノジョを使えるわけがない。そう説明しても誰一人理解してくれなかったが。
そんなこんなで大体は交友関係が原因で別れてばかりだった。でも、ミカの前のカノジョは違った。ミカと私の仲が良すぎるから嫌だと言ったのだ。本当はミカのことが好きなんじゃないかって。彼女のあまりの剣幕にまくし立てられ、私は別れた。正直私にとっては心外も心外だ。私はいつだってカノジョが一番だったし、ミカはたまに話をする程度の、ただ私の話を笑って聞くだけのお人形に過ぎないと思っていたからだ。
けれど、自分の中でミカの存在が次第に大きくなっていたのは間違いなかった。カノジョと別れるたびに、新しいカノジョと付き合いだすたびに、うんざりしてきているのを本当は分かっていた。誰だって理解してくれない、勝手な解釈を押し付けては去っていく。この子もそうだった、この子もそうなんだろう、と諦めは視界から消えなくなっていった。そういうときにただ微笑んで私の話を聞くミカが、何も押し付けないミカが可愛らしく映り込んでくる。
この子を好きになって愛してしまえたらどんなにいいんだろうか。いや、ここまで愛すべき人は他にいるんだろうか。
そう思ったとき、私はミカに落ちていることを悟った。
初めて感じたふわふわとした気持ちに浮き立つ心を、ミカには私しかいないという優越感が地に着ける。私はミカが誰かと話しているところを見た事がなかったし、ミカから誰かの話を聞いたこともない。ミカはただ私が話に来るのを待っているだけのこだと思っていた。
ミカの部屋で二人ベッドに腰かけて話していたときに、私はおもむろに目を合わせて付き合って欲しいという旨を伝えた。ミカはいつもの話を聞くときのように微笑んだまま「いいよ」と答えた。その瞬間に枷が外れてしまったのだろう。私はミカを押し倒して許可も得ないままにキスをした。
ミカの中は思ったよりずっと温かいのだと知った。可愛いミカにも唾液は糸を引くし、歯もしっかり並んでいる。思い返せばミカに触れたのはそれがはじめてだった。幼馴染だというのに、腕を組んだことも肩に触れたこともなかったのだ。どこか触れてはいけないと思っていたのかもしれない。私は生温かい沼に入ったみたいにずぶずぶ沈んでいった。
ミカだって感じていたと思う。触れ合っていくほどミカは熱くなったし、声だって漏らしていた。そこにいたのはただ微笑んでいるだけの幼馴染ではなかった。何も知らない女の子が蹂躙される様を、胸を高鳴らせながら私はただ見ていた。
私は何度もミカと体を重ねたが、それは他の女子にもあった。ミカは私が他の女と寝るのが嫌じゃないのかと聞いたが「いいよ。何かある度かまってもらってたら私は疲れちゃうだろうし」とほほ笑むだけだった。ただ何も考えずに受け入れられているような気がして、私は前のカノジョよりもよくミカに痕を付ける。ミカが特別なんだと、私のものなんだと言い聞かせるようにいくつもいくつも残した。ミカはいつもその痕を見ながらちょっと不思議そうな顔をする。それがなんだか可愛らしかった。ミカはいつだって私に都合が良い。けれどどこか残酷だ。
「ユイはこの前誰を抱いたの?」
ただ疑問に思ったから聞いたのだろう。その言葉に私を責めるような響きはなかった。
「イツミ……だった気がする。結構明るい感じなのに、意外だったな」
急にどうかした? と一応尋ねようと顔を見ると、明らかにミカは驚いていた。心臓がきしむ音を聞きながら、私は黙って事を始めることにした。
それからのミカはおかしかった。初めから顔は赤いし鼓動も速かったが、そのうえ普段よりもやけに感じていた。ミカがさらに可愛い所を見せてくれるのは嬉しかったが、それが急でどうも不信感が強くなっていく。不安を拭い去るようにさらにミカを乱して、痕をつける。ぬくもりを一番に分かち合っているはずなのに、ミカを私じゃない誰かが蹂躙していくみたいで怖かった。付き合ってからこれまでにないほどグチャグチャにしたミカを抱きしめながら、私は心臓が不吉に鳴るのを黙って聞いていた。
翌日、私はいつになくぼんやりしていた。昨日のミカが頭から離れなかったからだ。
「ミカが遅刻なんて珍しいよな。小学の時からなんやかんや毎日ふつーに来てたのに」
「お前蓮野さんと小学からずっと同じなのかよ。うらやま」
男子達が何かミカについて話していた。
「そんなことないって、ミカ昔そこまで美少女キャラじゃなかったし。可愛くはあったけど、何も言わないし表情ないしでめっちゃ暗かったんだぜ」
そうだ。そう言えばミカは今みたいに微笑むことなんてなかった。話をしても表情一つ変えないミカに私は少しイライラしてたくらいだっけ。
「うっそだろ。静かだけどいつもにこにこしてんじゃん」
「そんなことなかったんだよ。あんな明るくなったの……確かイツミが転校してきてからじゃね?」
──イツミが転校してきてから?
言われてみればそうだ。それからちょうどしばらくしたあたりからミカは笑うようになった。ミカの雰囲気がなんとなく柔らかくなって、私はミカによく話をするようになった。
「イツミって隣のクラスのこ? 王子様系だけどなかなかの美少女だよな」
「そう。それそれ。当時からえげつないくらい女子に人気だったんだよ」
はーうらやまし、あれで男子だったら血の雨降ってたわなどといいながら話題は他へと移って行った。
もしかして、ミカの様子がおかしかったのはイツミのせいなのだろうか。その放課後、私はイツミに会いに行った。
昇降口で待ち構えていればイツミの方から声をかけてきた。
「僕のこと待ってたんでしょ? いったい何があったのかなぁ」
前までは何ともなかったその態度にどうも腹が立って私はイツミを急かした。
「今日は怖いね。気分転換に公園で話をしようよ」
イツミの提案に私は黙って頷いた。イツミも一つ頷いて歩みを始める。公園に着くまで私たちは喋らなかった。
イツミはベンチに座り、私はそのイツミの前に立った。見下ろすような形にイツミは苦笑する。
「それで? ユイは何が気になるの?」
余裕あり気にイツミが私を見上げているように見えるのはただ私に余裕がないだけなのだろうか。
「中一の時、ミカと何かあった?」
私の問いにイツミは僅かに目を見開いたのちに頷く。
「あーなるほど。別に、特には何ともないよ。ちょっと話しただけで君ほど仲良くないなぁ」
「何を話したの?」
すぐに言葉を重ねた私に険悪な空気を感じたのかイツミはギュッと口をつぐんだ。それから少し残念そうに口元を緩める。
何を思ったかは知らないが、私からすればミカが私以外と話していた時点で異常だった。
「あんま僕をいじめないでよ。そんな大したことないんだから。……質問されたから答えただけだよ。好きな食べ物とか好きな色とか好きな音楽とか好きな本とか好きなタイプとか、そんなたわいもない話。会ったばかりならよくするでしょう?」
質問されたから答えただけ? ならばミカから話しかけたのだろうか。私にだってミカから話しかけることはあまりないのにどうしたというのだろう。
黙り込んだ私にイツミが冷たい視線を投げつける。
「もう君は質問ない? じゃあ僕は帰るね。……あっそうそう、ミカちゃんに僕が好きな色青になったって言っといて」
どうも釈然としないまま私はイツミの背中を見送った。その背中はどこか私を嘲笑するようで、冷たい風がそれに頷いている。
私はミカの所に行ってただ膝を抱えた。
「ユイ、どうしたの? ちょっといつもと違うよ。疲れたのかな?」
『撫でてもいい?』と言うので私は黙って頷いた。ミカの手がそっと私の頭の上に置かれる。静かに時間が過ぎ、私は何となく落ち着きを取り戻した。
「いつもと違うのはミカの方だったよ。……私からすれば」
慰めてもらっているというのに少し悪い言い方をしてしまって私は大して言い訳にもならなそうなことを付けたした。不安になって見上げるもミカは「ごめん」と少し申し訳なさそうに微笑んでいるだけだった。
「イツミのことはどう思ってるの? ねえ、もしかしてミカは……」
──イツミのことが好きなの?
「イツミさん……? あ。ごめん。そっか。……私ちょっと変だったよね。イツミさんは私の『推し』だから。変に緊張しちゃった」
ミカの答えを聞いて私の頭は急激に熱くなった。勘違いをしてしまった恥ずかしさの後から、それはそれでどうなのかという疑問が残る。
イツミのことを思い出したようでミカは顔を赤くし、私の頭から手を離した。
…………もう戻らないんだな。
私は唐突にそう思った。
ミカの中で私はずっとイツミを抱いた女なのだ。その意識がなくなることはずっとないのだろう。
これから何度体を重ねたってミカを乱すのは私だけではない。イツミや何人ものカノジョと使いまわしてきた行為はどうもしてくれない。
ミカは私のものなんだと分からせたい。でもミカに触れるたびミカは誰かに侵されていく。
真っ白なままで出会えたら何か違ったのだろうか。
しかしそんなことは絶対にない。
もうどうしようもできない。
「ミカちゃんは僕のことなんて言ってた?」
僕がそう問いかけるとユイは怪訝そうな顔で僕を見た。僕に対する警戒、驚愕、拒絶、様々な感情を嫌悪にのせている。確実にユイにとって僕はただの女子から敵へと変化しているみたいだ。
「………『推し』。だってさ」
ユイの返事に僕は思わず手を打った。流石ミカちゃんだ。絶妙な所を突いてくる。
突然声を上げて笑った僕にユイは舌打ちをした。
「私が言えたことじゃないけどさ。イツミはミカに会わないでよ」
本気なんだな。ユイは意外とカノジョを大切にするタイプだったけど、ミカちゃんにはもっと特別なんだね。
本当は分かってたんじゃないかと僕は思う。どのカノジョにだって君はどこか本気じゃなかった。大切にしたいから大切にはするけど、どこか違うって気づいてたんじゃない? そんなお遊びを続けても虚しいって思ってたんじゃないかな?
でもさ。灯台下暗し、じゃないけど君にはずっとミカちゃんがいた。
きっと君は気付いてないんだろうね。僕がいなけりゃその君が大好きなミカちゃんはいなかったってことに。
ミカちゃんとあったのは転校してすぐ、たまたま席が近くだったから少し話をした。その時に何となく僕は分かった。このこ僕が好きなんだなって。当時転校生の僕の人気はすごかったし、想いを寄せられることにも慣れていたからすぐに気づいた。
ただ僕に話しかけずに視線を向けるだけなのは初めてのケースで、僕も無意識のうちにミカちゃんのことをよく目で追っていたと思う。
ミカちゃんから声をかけてきたのはある昼休み。みんなクラスマッチかなんだかに行ってしまってクラスで二人きりだから気まずかったんだろうね。好きなものについて片っ端から聞かれた。僕はそれに答えてたまに「ミカちゃんは?」と聞いたけど口ごもられてしまうことが殆どだった。なんだか必死で表情は変わらないけど自信なさげで可愛いなと思った。
その日からも僕は何となくミカちゃんのことを見てた。すると少しずつ赤色の持ち物が増えていっていることに気付いた。
「赤が好きなの?」と聞けば、「別に、イツミさんが好きな色だって言ってたから気になって」と返された。ただ見てるだけじゃなくて僕のこと意識してくれているんだなと感慨深くなって。だから僕は教えてあげた。
放課後の教室に、二人きり。その時間はある日突然始まった。
それは一番最後に帰ろうとする彼女の性質を利用したもので、僕と彼女はそこでにわかに仲を深めた。
「ミカちゃんには好きな人っている? 僕は特定の誰かがいるってわけじゃないけど、聞き上手な人はいいと思うよ。でもやっぱ笑顔の多い人が好きかな」
僕がそう吹き込んだ翌日から確実にミカちゃんは笑顔が増えたように思う。というより表情が前よりずっと素直になったというべきだろうか。ミカちゃんはだんだんと誰にも親しみやすい人物になっていった。
「話を聞いてくれてる時のミカちゃんの顔好きだよ」
話を聞いているときの少し微笑んだ穏やかなミカちゃんが好きだったのはホントだ。しかしわざわざ口にしたのはそれを知ってほしかったからだと思う。そしてもっと僕を意識してほしかった。
少しずつ僕のことを教えて少しずつミカちゃんを染め上げていった。ミカちゃんに僕の色がつくことに僕は優越感を覚えていた。世界が僕とミカちゃんの二人きりになったんじゃないかと思わせるくらい支配欲は僕を盲目にする。それは失敗したことがない僕の一番の弱点だ。
放課後。いつの間にか向かい合って座るのが普通になっていた。
「あの、いつもありがとうございます」
「へ?」
わずかに頬を染めたミカちゃんがはにかむように小さく頭を下げた。
「えっと、イツミさんは私の『憧れ』なんです。イツミさんがお話してくれるおかげで、私、ちょっとずつ変われてるのかなって思って。クラスのみんなも話しかけてくれるようになったし……ユイとも、うまく話せているような気がするから」
ありがとうございますともう一度ミカちゃんは頭を下げた。
そうか。そうなんだ。君のその瞳の熱は『憧れ』に対するものだったんだね。
確かに彼女はずっと一人で、誰かと話しているところを僕は見た事がなかった。そんな彼女なら大勢に囲まれていた僕に憧れるのも無理はない。
僕は顔も頭もいいし、自分のことが大好きだから、誰かを凄いと思う事も尊敬することもなかった。
そんな僕は今、目の前の女の子に圧倒されている。
僕が支配しているなんてただの勘違いだった。ミカちゃんはただ参考にしているだけ。変わるための材料にされているに過ぎなかったんだ。
正直にすごいよ。……本当にそれだけなら。
「どういたしまして! そんな風に言ってもらえてうれしいなぁ」
別にミカちゃんが僕の言葉にどう返そうが、うまく対応できたと思う。それなのに僕がミカちゃんの口を手でふさいだのは、多少やらかしても言い含める自信があったからだ。
手のひら越しにミカちゃんとキスをした。
「なんだよそれ……」
僕のつぶやきにミカちゃんは気付いていないみたいだった。状況を把握しきれていないのだろうか。
ミカちゃんは真っ赤に染めた顔を背けている。はくはくと口が動いて何か言いたげだったがそれが言語化されることはなかった。
「でも、残念。もう教えることはないみたいだ」
これ以上見ていたら気がおかしくなりそうで僕はそう言い放つと逃げるように教室から出た。
──僕のこと好きなの?
真偽のほども考えられないような問いが僕の中に溢れかえる。全く訳が分からない。
僕は大切なことを忘れていたのだ。
朱に交われば赤くなるというけど。ミカちゃんを染めようとしてたんだ。僕はどっぷり染まってないとおかしいだろ。
やられてしまった。染められたいたのは僕の方だったんだ。しかも相手は無自覚って笑えてしまう。
いっそのこと『好き』はないってはっきり分からせてよ。そんな態度をとるから、僕のせいなのかわからなくなる。
僕がミカちゃんにカノジョが出来たらしいと聞いたのは最近のことだった。正直僕は半信半疑だった。けど、ミカちゃんのカノジョが気になって僕はユイを誘った。
感想は正直これがミカちゃんの言ってたユイなのかなって感じ。ここまで不誠実そうなこをどうして受け入れてしまったんだろうって。ミカちゃんらしいけど、僕が新しくミカちゃんに教えてあげたいなと思うにはちょうどよかった。
ユイの話では僕を『推し』だなんて言ってたらしいから笑ってしまった。それって何が違うの? 僕もユイも変わんない。勝手に支配した気になって、特別だと思いこんでつけあがるバカなんだよ。
放課後。僕は久しぶりにミカちゃんと話した。穏やかな笑顔がしっかりと板についていて僕は息を漏らした。
「大きくなったねえ」
「ふふ。どうしたんですか。それはイツミさんもでしょ」
「凄く素敵になったなと思っただけだよ。でも、カノジョさんのほうはまだまだ子供みたいだね。キスとかした?」
ミカちゃんは小さくうなずいた。大切なことを思い出すように優しい陽だまりが隙間をちらつく。
「じゃあ、もう手のひらが無くても良いのかな?」
僕の問いにミカちゃんは首を傾げる。全く覚えていないらしい。そりゃそうだ。ミカちゃんにとってはきっともうどうでもいいことなんだから。教えてあげようなんて生意気な考えは何の琴線にも触れないと僕は理解させられた。
ミカちゃんにそんな回りくどいことは一切通じない。
もう刷り込みはできない。今の僕にできることはただ祈ることだけだ。
「完全にタイミングが悪いとは思うんだけど。僕はミカちゃんが好きだよ」
ミカちゃんを支配したいわけじゃないけど。ユイのものになってほしくないんじゃなくて、僕のものになって欲しいと思う。ユイの隣にいてほしくないんじゃなくて、僕の隣にいてほしいと思う。
「だから僕のカノジョになってくれないかな?」
自分に張り付く笑顔が気持ち悪い。けれど驚いたように瞬きする君を見ながら笑顔を取り払うのは怖くてできなかった。
「ごめんなさい。私、壊れたくないんです」
断られるとは思ってたが、予想外の理由に僕は目を見開いた。笑顔が剥げて涼しい風が吹く。
真面目なミカちゃんだからカノジョがいる手前、頷く確率は低いと思っていたけど、それ以外の理由を挙げられて意味がわからない。
「私は多分、ユイの隣じゃないと壊れてしまうんだと思います。そこにいる自分が怖くて、許せなくなると思うから。……イツミさんと会ったときに思ったんです。もしお母さんが優しかったら、ユイと出会ってなかったら、私が真っ白なままで出会えたら何か違ったのだろうかって、私はこの人を好きになってたんだろうなって。だから、嬉しいです。でも、ごめんなさい」
僕は自分のことを教えるばかりで彼女のことを知ろうとしなかった。そんな僕では頼りがないんだとは思う。
しかし、真っ白なままで出会えたら何か違ったのだろうかと言われるとそれは違う気がした。いままで僕はユイが好きになったのは僕が作ったミカちゃんだと思っていたけれど、そんなことは無いと思う。僕がいなくてもミカちゃんとユイは惹かれあっただろう。
僕がいなけりゃ二人はもっとマシな結末にたどり着いたのかもしれない。
そうならなくてよかったなと僕は思った。
「こちらこそごめんね。別にミカちゃんを泣かせたかったわけじゃないんだ。うれしいよ。ミカちゃんが正直に言ってくれて」
私がこの人を好きになっていたんだろうなというのは嘘だった。
私はずっとイツミさんのことが好きだから。
けれど、私はユイの隣じゃないと壊れてしまうから。私が触れられるぬくもりはユイだけだから。イツミさんとはもう何も出来ないと思う。
私はユイの隣で一生イツミさんを好きでいる。
都合の良さでは誤魔化せないくらいに私はユイに残酷なことをしている。
真っ白なままで出会えたら何か違ったのだろうか。
こんなことをせずに済んだのだろうか。