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第五話『不思議な魅力』

友人との文書解読を終え、ひと段落着いた頃、新たに週の初めがやってきた。一週間でも大変だったことをもう後三週間も続けないといけないと思うと、憂鬱で仕方がない。

「あら、貝塚拓斗さん、こんなところで奇遇だこと」

「お前わざとだろ」

放課後以外に奥出と会うのは何だか新鮮な気がする。奥出の長い髪が朝日に照らされ、艶めいている。珍しく遅刻ギリギリではなく、余裕をもって学校に来るとこういうことも起きるんだな。

「わざとではないですよ、だってあなた、いつも遅刻ギリギリに来ているじゃない」

「なぜそれを?」

「あなたのことは、あなたよりも知っている、とでも言っておきましょうか」

「ストーカーかよ」

まず全生徒の基本情報を全て記憶していることが異常なのに、俺より俺を知っているなんて、そんなの怖い以上の何者でもない。

「ストーカーだなんて失敬な、むしろ豊富な知識を持っていると褒めてほしいくらいだわ」

「よくもまあ、誇れるもんだ」

「ここで会ったのも何かの縁だと思うから、ヒントを教えてあげる」

「ヒント? ずいぶん余裕なこった」

「余裕そうに見えているならそれは好都合ね。今日の放課後、どこかの教室に怪文書を貼るわ。一生懸命止めに来ることね」

自分で『怪文書』と言うあたり、普通ではないことは理解しているようだ。やはり引っかかるのは、頭脳明晰な生徒会長がこんなことをする理由、こんなことをしなければならない理由だ。誰かにやらされている? とは考えにくい。誰かの言うことを聞くような性格に思えないからだ。それとも、俺の勝手な思い込みなだけで、案外誰かに脅されるとか、そういうことがよくあったりするのかもしれない。

「お前、何か困ってるのか?」

「急にどうしたのかしら。極悪非道な私の心配なんて、あなたはしている暇がないはずよ」

「極悪非道って、大袈裟だなあ」

「周りからすれば、こんな行為はテロと変わらないと思っているわ。私なりに反省はしているのよ」

じゃあ、尚更なぜこんなことをしているのか分からなくなってきたじゃないか。反省だって? 反省してる奴は俺みたいな異端者をこき使って、意味の分からないゲームなんかしないだろ。

「やめるっていう選択肢はないのかよ」

「それはないわね。これは私の使命だもの」

「意志が固いことだけは褒めてやるよ」

「あら、ありがとう。素直に受け取っておくわ」

やっぱり、こいつの行動や言動は読めるものじゃない。少なくとも俺のような足りない頭では、これ以上考えることは限界だ。

「じゃあ、俺はもう行くよ。お前の言うことが本当なら、今日の放課後また会おう」

「ええ、楽しみにしているわ」

奥出と話していると、俺まで頭が良くなったのかと勘違いしてしまいそうになる。実際は頭の良い奥出が、頭の悪い俺をもてあそんでいるだけの、惨めな会話だというのに。

「珍しいじゃないか、拓斗」

後ろから声を掛けてきたのは友人だった。そんな幽霊みたいな声のかけ方をするな、危うく心臓が飛び出るところだっただろう。

「な、なんだ友人」

「君がこの時間帯に学校の廊下にいることは十中八九ないと確信していたのに、僕の予想が外れたのは今年に入って初めての出来事だよ」

「俺を何だと思ってるんだ」

「遅刻するかしないかのギリギリのゲームを日々楽しむ、生粋の変態だろう?」

本当に何だと思ってるんだ。てか、友人にはそう見えていたのか。別にわざと遅刻ギリギリに来ていたわけではなく、気が付いたらこの時間になっていた、ということがほとんどなだけだ。高校生には、よくあることだろう。

「まあ、いい。で、何の用だ」

「生徒会長となんだか親しげだったじゃないか」

「そんなものは気のせいだ」

「君のこの間のハレンチな質問は、もしかしてこのことと関係があるのかい?」

無駄に鋭い奴め。気のせいだと言っているだろうが。

「ななな何も、かかか関係などない」

「そうか、君がそう言うならそうなのだろうね。じゃあ、僕は先に教室に向かっているよ」

騙せたのか、騙されてくれたのか、とりあえず俺は心の底から安堵した。


放課後、生徒会長は有言実行を果たしていた。

「あら、今回も私の負けのようね」

「お前が言ったんじゃないか」

「でもどこの教室かは言っていないわ」

「たった四室だ、前も言ったように、片っ端から見ていったらいずれたどり着くものだ」

頭の良い奥出は、きっとまたからかっているのだろう。

「そういえば、以前の文書は解読できたのかしら」

「お前には関係のないことだろ」

「それもそうね。でも、なんて書いてあったか気になるじゃない」

その発言はおかしい。だって、考えたのは奥出のはずだろう?

「俺をおちょくっているのか」

「おっと、言い方を間違えてしまったわ。どう解読したのか気になるじゃない」

仮に間違えたとして、絶対にわざとだ。最近本当に度が過ぎるぞ。

「俺は、お前が何を考えているのか分からない。だから教えてくれよ、俺はお前を知りたい」

「それは、一種の告白かしら」

「真面目に言ってるんだが」

「だから、真面目に告白しているの?」

はあ、埒が明かない。断じて告白などではない。俺は恋愛感情なんて抱いていない、はずだ。

「違うって言ってるだろ!」

つい反射的に、強く反論してしまった。

「少しやりすぎてしまったわ。ごめんなさい。そんなに威圧的なのは、好きじゃないわ……」

「い、いや、俺も急に大声を出してすまなかった。俺も自分で驚いたよ……」

しばらく沈黙が続いた。こんな状況は初めてで、とてつもなく気まずい。俺たちは敵同士ではなく、ただ教室にいるだけの男女に成り下がってしまったようだ。

「先ほどの質問だけれど、このゲームが終わるまでは教えられないわ。これはあなたと私の約束だもの」

「ああ、分かったよ。俺が勝ち続ければいいだけだ」

簡単に言ってしまったが、俺は手加減されているだけな気がする。奥出が本気を出せば、俺なんか簡単に捻りつぶせると思うからだ。

「私は、私なりの正義で動いているのよ。あなたも、あなたの友人も、その他の生徒たちも、全員がそれぞれ異なる正義を持っていて、それがこうやって対立を生んでいるだけなのよ」

「それが分かっただけでもいいよ。俺は、お前がただの気まぐれでこんなことをやっているのかと、少し勘違いをしていたようだ」

「それは、悲しいわね」

「これからは疑わない。対立してようとも、お前には正義があると信じるよ」

戦隊ものの和解シーンのような熱い気持ちが俺の心に湧いてくる。こんなもの、ただのゲームだというのに、俺たちの間にはそれ以上の感情が芽生え始めている。

「ありがとう。今回もあなたの勝ち、文書はここに置いていくわね。それじゃあ」

「ああ、またな」

途中から奥出が立ち去る最後まで、気まずい空気は拭えなかった。喧嘩をしたというよりは、お互いの熱が少し冷めてしまっただけのことだ。きっと次会うときは『いつもの』俺たちに戻っているはずだから。

「なあ、拓斗」

今朝と同じように、俺の背後にいたのは友人だった。どうして今日はそんなに存在が薄いんだ。

「驚かせるなよ。いつからいたんだ」

「今来たばかりさ。教室の入り口に佇み、誰かと話しているような雰囲気の君を見つけたから近づいただけのこと。ちなみに驚かせるつもりはなかった」

「そうか。ただの独り言だ、気にするな」

「僕も生徒会長と話してみたいね。もしかして僕には話す価値もないのかな?」

「俺に嘘をついたのか、友人」

「君が聞かなかっただけのことさ」

こいつはどこまで知っている?

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