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第三話『事件発生の阻止』

これから一か月間、俺は生徒会長である奥出の怪文書貼りを止めなければならない。そういえば、失敗した場合のことを聞いていなかったな。まさか手伝えなんてこと言わないよな。

「前回と同じだと、やっぱりすぐ見つかってしまうのね」

生徒会長にしては安直すぎないか? また俺のクラスに貼りに来るなんて、一番警戒すべきだろうに。

「そりゃ、片っ端から探すならここからだろ。ほら、それ渡せよ」

「野蛮な人ね。言われなくてもそうするつもりよ。はい、どうぞ」

これはまた、英語のようで英語でない何かなのだろうか。友人に聞いてみないことには分からない。

「それの意味、あなたには分かるかしら」

「そんなこと考えたって解決なんかしねえよ。『意味』のないこった」

「あら、少し気温が下がったみたい」

「うるせえ」

ああ、嫌みな奴だ。さむいと言わないだけマシだとでも?

「そんなに睨まなくても、今日はもう貼らないから安心して」

「そうか、それだけなら安心だな」

「それ『だけ』?」

「いちいち突っ込むなよ。何か他に隠してるんじゃないかって思っただけだ」

さすがに鋭い。生徒会長というのはお飾りではなさそうだ。しかし、本当に分からない。あの日からずっと考えている。俺より地位の高い奥出が、こんなしょうもないことをする理由を。

「あなたは私を何だと思っているの?」

「優秀な生徒会長様だろ?」

「あなたも嫌みな人なのね」

どうやら本人は、自分の性格を自覚しているようだ。分かるやつで何よりだよ。

「そういえば、失敗した場合の提案を聞いていなかったんだが」

「ああ、そうね。失敗したら、秘密のお手伝いでもしてもらおうかしら」

「怪文書貼りならお断りだぜ」

「そんなのずるいわ、あなたから聞いてきたんじゃない」

まあ、それはそうなんだが、まさか予想してた答えとは思わないだろ。

「じゃあ、俺と一週間付き合うってのはどうだ?」

「それは罰ゲームにならないじゃない」

「どういう意味だそれ」

「私と付き合えるなんて、光栄でしょ?」

奥出は、意外とイタイ奴なのかもしれない。俺の中のイメージが歪んでしまった気がする。ついでに顔も少しだけ。

「冗談よ、おバカさん」

歪みは修正された。訂正感謝するよ。

「本当、顔に出やすいのね。これじゃあ、あなたの心を読み過ぎて疲れてしまうわ」

「それが作戦だとしたら?」

「あなたに限ってそれはないわね。そういうのはあなたの友人のお仕事だと思うのだけれど」

「お前、俺のことどこまで知ってる」

クラスの中でも特に目立たない俺たちだ。奥出が存在を知っていることが奇跡だというぐらい、俺たちは本当に存在が薄い。

「どこまでって、氏名、年齢、生年月日、全生徒のそれぐらいは知っていて当たり前じゃないかしら」

「いやそれはお前だけだ」

怖い怖い。どこでそんな情報手に入れるんだ。というか、そんなの手に入れて得があるのか。

「私って、もしかして普通ではない?」

「生徒会長という時点でお前は普通ではない、と俺は思っている」

「あなたにそう思われているなんて、悲しいわ」

「いや、俺だけじゃない、かもな」

ちらっと友人の顔が頭の中をよぎった。あいつも大体俺と同じ思考してるからな。

「私、普通になりたいのよ」

「それは俺にはどうしようもないと思うが」

「言ってみただけよ」

「なんだそれ」

「じゃあ、今回はあなたの勝ち。またね」

あっさりとしている。し過ぎていると言っても過言ではない。とても犯罪まがいのことをしている奴とは思えないほど、余裕に見える。結局、何がしたいのか読めないままだ。


二日後の放課後、隣のクラスに奥出はいた。

「今回も余裕だったかしら」

「俺が言うのもなんだが、少しは工夫したらどうだ」

「それはどういう意味?」

「ほら、違う学年にするとか、さ」

奥出は少し考えこんで、すぐさま答えを導き出した。

「それは無理ね」

「どうしてだよ」

「目的にそぐわないからよ」

少しだけ行動のヒントが零れ落ちた。つまりそれは、三年の教室しか狙わないということ。

「情報提供どうも」

「あーら、口が滑ってしまったわ」

無駄ににやにやしている。わざと、だろうな。

「ちっ、つまんねえの」

「面白くしたつもりでしたのに」

「いいから紙渡せ」

「あー、怖い怖い。どうぞ」

渡されたのは前回と似たような文書だった。回収した怪文書は逐一友人に渡しているから見比べることは出来ないが、多分中身は違う意味合いなのだろう。英語のようで英語でない、俺にはその情報しかない。

「いい加減目的を教えてもらってもいいと思うんだが」

「そんなことしたらゲームの意味がないじゃない」

「俺からしたらゲームだなんて考えてないのさ。お前を更生させる、ただそれだけだ」

「あら、いつから正義のヒーローになったのかしら。どこかのだれかの友人みたいなこというのね」

こいつ、友人が言いそうなことまで当ててきやがる。いや、俺の友人とは言っていないからセーフなのか?

「ああ、どこかのだれかの友人の言葉が移ったみたいだ」

「そういえば私、今日用事があるのよ。だから今回もあなたの勝ち。またね」

不気味というより、影のある笑い方をする奴だと思った。尚更奥出のことが分からなくなり、尚更知りたくなった。あれ、目的が違うような、まあ、いいか。


休日、俺の携帯が鳴った。

「今日は学校はお休みね。でも、お休みにならないことも、世の中には存在するのよ」

間違いなく奥出の声だ。俺は電話番号を教えたつもりはない。誰かから聞いたのか、いや、友人しか知らないはず。もしくは、調べまくったのか。

「おい、休日出勤なんて聞いてないぞ、って切れてやがる」

俺には話す権利もないってか。益々サイコパス感が増している気がするのだが。俺は急いで高校へと向かった。

「あら、休日の学校に何の用かしら」

「お前が電話してきたんだろうが。てか、どうやって知ったんだよ」

「それは守秘義務があるから教えられないわ」

「むしろ俺の守るべき秘密だったんだが」

ああ、まさに怪文書を手に持っている。確信犯じゃないか。

「たった電話一本で来てくれるなんて、ものすごく紳士ね」

「脅迫電話だったからな。おかげで普段使わない体力を使い切ってしまったじゃないか」

「ええ、助けてくれてどうもありがとう」

「犯人はお前だ、ばーか」

まさか休日までやるとは思わないだろ。こいつに休みという概念はないのか。

「ばかなんて言葉、知力のかけらもないわね」

「ばかで結構、コケコッコー、なんてな」

「もう六月だというのに、今日は冷えるのね。本当、誰のせいかしら」

これは本気で反省したほうがよさそうだ。俺まで寒くなってきた。

「冗談はこのくらいで、怪文書を渡せよ」

「はいはい、仰せのままに」

英語のようで英語でない、これはお決まりのようだ。

「これ、本当に意味あんのか?」

「意味を探る『意味』などないと言ったのは、どこの誰かしら」

「あったらいいなと思っただけさ」

俺自身に矛盾が生じている。知りたくないと思っていたのに、『分からない』ということが俺の心にもやをかける。

「じゃあ、質問。違う人が同じ意味合いの文章を書いたら、それは同じ物と言えるかしら」

「意味が一緒なら同じだろ」

「そう。あなたからすれば、これはやっぱり英語でしかないのね」

なんだ、友人と同じような質問をして、同じような返答をするんだな。奇妙な感覚だ。結局何を聞きたいのか、俺には理解できない。

「お前、何が言いたい?」

「英語のようで英語でない文書の解読、頑張ってね」

明らかに奥出は、俺の知らない何かを知っている。

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