表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生徒会長の文書解読  作者: 畝澄ヒナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/30

第二十九話『拓斗の願い』

友人の言う通り、言ってみなければ分からない。俺の気持ちをちゃんと伝えてこそ、この事件は完全に終わることが出来ると思う。

「いきなり電話してくるなんて、珍しいわね」

「明日、俺の願いを伝えたい。放課後、俺のクラスの教室に来てくれるか?」

「分かったわ。楽しみにしているわよ」

今になって緊張してきた。奥出との電話も会話も、もう何回も経験しているはずなのに、本当の気持ちを伝えようとすると、口がもごもごして上手く伝えられなくなるのだ。


翌日の放課後、奥出は教室に現れた。

「わざわざありがとう。待ってたよ」

「拓斗くんは少しまるくなったわね。前はとげとげしていて、近寄りづらかったのに」

「そうだったのか? それはなんかごめん」

もしかしたら、クラスメイトがあまり近づいてこなかったのは、俺がそういう雰囲気を醸し出していたからかもしれない。友人も思っていたのだろうか。というか、言ってくれればよかったのに。

「別に気に障ったことはないわ。怒らせるようなことなんて何もしていないじゃない」

「それはそうかもしれないけど、やっぱり場の空気っていうのは大事だろ?」

「いいのよ。人はそれぞれ似たような人と集まって、場の空気を作り出しているのだから」

確かに、俺は友人といる時にはまた別の空気になっているから、友人は何も思わず、何も言わなかったのかもな。

「俺と一緒にいて、他に何か変わったか?」

「そうね、退屈な日々が、少し楽しくなったかしら」

「それなら良かったよ」

俺が誰かの楽しみになれるなんて、思ってもいなかった。それがまさか生徒会長だなんてことも、想像していなかった。


「それで、拓斗くんの願い、聞かせてくれる?」

「あ、うん。もちろんだよ」

「やけに緊張しているのね。そんなに言いづらいものなの?」

こんな気持ちは初めてだ。ずっと友人と一緒で、恋愛なんて無関係だと思っていた。俺が家族や親戚以外の人を信じ、仲良くなるということはあり得ないと決めつけていた。

「いや、言わなきゃいけないんだ。だからちゃんと隠さず言うよ」

「なんだかこっちまで緊張してしまうわ」

「俺、こういうの初めてだから、許してくれよ」

せめて友人が隣にいてくれたらな、少しは気が紛れるのに。でも、そんな方法は相手に失礼だって分かっているから。いい加減覚悟を決めないと。

「ゆっくりで大丈夫よ」

「俺と……付き合ってくれないか?」

「こんなこと言いたくはないけれど、それ、期間限定ってことかしら」

そりゃそう思うよな。俺だって同じ立場ならそう言うだろう。そうじゃないんだ、ちゃんと説明させてくれ。

「違う。この先ずっと、恋人として隣にいてほしいんだ」

「本気なの? 私のような面白くない女を選んで大丈夫?」

「そんなことない。この一か月、俺は奥出と関わってきて、会話だって面白いし楽しかったんだ。こんな出会い方だったけど、そんなの関係ないと思うから」

俺の願いなら何でも聞くって言っていたけど、奥出が俺のことをどうでもいいと思っているなら、この願いは叶わなくてもいい。

「あなたがそこまで想っていたなんて、知らなかった。このゲームが終われば、全て失うんだって思っていたの」

「なくならないよ。俺がそうさせない。奥出、お前の気持ちも教えてくれ。この願いは絶対じゃない、お前の気持ちで決まるんだ」

「私は……」

奥出が珍しく揺らいでいる。奥出もきっと、誰かと深く関わるということがなかったと思う。むしろ男となんて、嫌悪感すら抱いていたかもしれない。

「俺は奥出が好きだよ」

「私……私もよ」

「……え?」

聞き間違いだろうか、嬉しい言葉が聞こえた気がする。


「私も、拓斗くんが好きよ。あなたが言わなければ、私が言い出そうと思っていたくらいには好き」

「お、お前こそ本気なのか? お、俺でいいのか?」

「もちろんよ。あなたじゃなければ、他に誰が私とつりあうのかしら」

そんな強めの口調も嫌いじゃない。奥出は、確かに強気ではあるけど、どこか弱い部分もあるんだ。本当は色んなことを我慢してきたんだと、俺はこっそり思っているよ。

「俺の願い、受け入れてくれるのか」

「これは私の願いでもあったから、お互いさまね」

「まさか叶うなんてな」

恋人が生徒会長だなんて、ものすごい自慢になるだろう。いや、そうやって知らしめるのは良くないか。でも、言いふらしたい気持ちが抑えられない。


「ほら、恋人記念にハグでもしましょうか」

「い、いきなり?」

「恥ずかしいのなんて最初だけよ」

なんか経験者のように語っているが、絶対にそんな経験ないだろ。

「分かった。こ、これでいいか?」

「もっと近づかないと、私の体を抱きしめられないわよ」

「こ、これ以上?」

どうしよう、奥出がものすごく乗り気だ。こんなはずじゃなかったんだが。

「意外とハグって落ち着くのね。じゃあ、次は何をしようかしら」

「ま、まだあるのか?」

「次は私の下の名前を呼んで」

要求が一気に押し寄せてくる。そんな積極的だったのか、奥出。

「さ、早紀……」

「声が小さいわよ」

「早紀……!」

彼女の顔を見れない。どうせにやにやしているに違いない。


拓斗が知らないところで、友人は密かに見届けていた。

「本当に、世話が焼けるねえ」

校内には吹奏楽部の楽器の音色が、外からは運動部の掛け声が響き渡っていた。そんなものは気にせず、友人は拓斗と生徒会長の会話だけに耳を澄ませていた。

「両想いなんて羨ましい。僕にもできるかな」

「きっと、大丈夫」

友人は聞き覚えのある声に反応して後ろを振り返ったが、そこには当然、誰もいなかった。

「君が生きていたらよかったのに」

初恋というのはどうしても思い出深いもので、友人は割り切っていたつもりでも、その心の中には悲しみが溜まり続けている。

「僕は、拓斗と出会ったおかげで、君との思い出を全て塗り替えることに成功した。でも、今こんな場面を見ていると、拓斗までもどこかへ行ってしまいそうで怖いんだ」

これ以上何かを失うことが怖い友人は、拓斗の恋を邪魔することも、一瞬ではあるが考えた。拓斗が恋愛などしなければ、ずっと二人で、手を取り合っていくことが出来る。

「でも、邪魔なんかしたら、拓斗が可哀そうじゃないか。自分の幸せのために、拓斗の幸せを奪ったら、僕はもう拓斗の友達ではいられなくなってしまうよ」

誰かの願いが叶った時、それと同時に誰かの願いが叶わなくなることがある。拓斗と友人の間に、特別な関係性があったとしても、それは独占していい理由にはならないのだ。

「はあ、僕は二人の惚気を見るために、ここに来たわけではないんだけど。心のどこかで、失敗してしまえばいいって思っていた、なんてね」

友人は冗談交じりに言葉を吐いて、教室から離れていった。


俺は誰かの気配を感じて、教室の外を見た。

「どうしたの?」

「いや、誰かいた気がして」

「男女がイチャイチャしている光景なんて、見たい人がいるのかしら」

自覚はしていたようだな。でも、心当たりがないわけでもない、いや、さすがにあいつでも、そんなことしないか。

「思ったけど、恋人って具体的に何すればいいんだ?」

「別にいつも通りでいいじゃない。毎日会うことは前提だけどね」

「まあ、今度どこかに出かけようか」

奥出、いや、早紀は何時にも増して楽しそうだ。それにしても、事件のことについてまだまだ調べたいことがあるんだよな。これに関しては早紀にも手伝ってもらおう。友人の考察は合っていたのか、答え合わせの時間だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ