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第二話『生徒会長の提案』

「秘密の話?」

「これから一か月間、私が文書を貼るのをあなたが止められたら、あなたの言うことを何でも聞いてあげる」

この提案に何の意味があるというのだろう。俺へのメリットが大きい気がするが、奥出はにやにやしながら俺を見つめている。

「ゲームは嫌いかしら」

「いや、やる意味が見いだせないだけさ。まずお前は、そんなおかしな文書を貼って楽しいのか? それにさっきの提案だってお前にメリットがあると思えないんだが」

奥出はふふっと笑い、相変わらず何を考えているのか分からない。

「楽しいかどうかは置いといて、この提案を呑めば、私が救われるのよ。もちろんこの騒動も治まるし、先生も助かるでしょ? たった一か月間でこの全ての事件が終わるとしたら、お得じゃないかしら」

「お得、ねえ」

救われる、という宗教みたいな言葉に、俺は奇妙さを覚えた。誰かに命令されているわけでもあるまいし、こんな校内だけの事件に黒幕なんてたいそうな者がいるとは思えない。友人は少し重く考えているようだが、俺はそこまで重要に感じない。

「別に、断ってもいいのだけれど」

俺が乗り気でないことを察したのか、急に冷たい態度をとり始める奥出。拗ねた子供のような、そんな可愛らしい足掻きだ。

「乗ってやるよ、その提案。俺が勝った時は、なぜこんなことをするのか教えてもらうぜ」

「あら、そんなことでいいのね。まあ、私もなぜこんなことをしているのか分からないけど」

「じゃあ、見つけてこい。俺が勝つまでに」

理由もなしにこんなことをするはずがないことは、当然分かっている。どこまでも余裕な奴だ。俺をからかっているのか、それとも強がりなのか。

「提案を呑んでくれたお礼に、この文書はあなたにあげるわ」

前と同じように、よくわからない言語が書いてある文書を手に入れた。解読は友人に任せるとしよう。きっと喜ぶだろうから。

「ああ、特別捜査員にでも渡しておくよ」

「頼もしいお仲間ね。それじゃあ私はもう行くわ」

奥出はさっさと教室から出て行ってしまった。

「なんだったんだ、本当に」

面倒くさいことに巻き込まれてしまった気がする。そうだ、忘れ物を取りに来たんだった。

「あったあった」

まあ、何ということもない、ただの数学のノートだ。ただ中を見られたくないだけの、ただの数学のノートだ。

「貝塚、こんなところで何してるんだ」

「げ、先生」

「げ、とはなんだ。忘れ物か?」

「そんなところです。では俺はこれで……」

「最近の怪文書、貝塚、お前じゃないよな?」

いきなりなんてこと言うんだ。そんな証拠どこにある。反論は自白みたいなものだ、下手に言い訳はできない。さっきの出来事を見せてやりたいくらいだ。

「そそそそんなわけ、なななないじゃないですか」

はあ、毎回謎に緊張するのはどうにか治せないものか。これじゃ犯人だと言っているようなものじゃないか。

「……そうか。何か知ってるなら早めに言うんだぞ」

これは、見逃してくれたということだろうか。先生は逆に何か知っているのかもしれない。まあ、犯人を知っている俺からしたら、もはや関係ないことなのだが。

とりあえず難は逃れた。俺もさっさと帰ることにしよう。


俺は早速家に帰り、友人に電話をかけた。

「なんだ、拓斗か」

「いや、電話番号くらい把握してるだろ」

「僕は登録しない主義でね、いつも運に任せているんだよ」

「ちょっと何言ってるか分かんない」

ちょっと待て。ここまでおかしな奴だったのか、俺の友人は。

「それより何の用だ。僕は今部活という任務についているんだが」

「ああ、忘れてたよ。テニス部だっけ」

「今はサッカー部だな」

なんだ、今はって。ランダム制だとでも言うのか。

「てか、なんで電話出てんだ」

「丁度休憩中なんだよ。見事なタイミングだ、拓斗」

「別に狙ってねえよ」

「で、何の用なんだ」

友人と話していると、それが必要か無駄か、分からなくなってくる。

「新しく怪文書を手に入れたんだ。欲しいか?」

「関与しないんじゃなかったのか」

「関与せざるを得なくなった、秘密ルートで入手しといたぞ」

そう言っておけば、向こうも乗り気になるだろう。

「拓斗も結局乗り気なんじゃないか。僕は信じていたけども」

くそ、なんか勘違いしてやがる。

「いいから、明日この怪文書を渡すよ。ノートにでも挟んでおけばいいか?」

「ああ、それでいこう。僕はまだ今回の秘密基地を見つけられていないからね」

友人の言う『秘密基地』とは、学校内の使われていない教室を占領することだ。確か新しい部活ができたことによって消滅してしまったと、去年友人が嘆いていた気がする。

「そういうことだから、もう部活に戻れよ」

「だから休憩中なんだって」

待て待て、友人の言う休憩中とは、もしかするとそういうことなのか?

「お前、補欠か?」

「ふっ、好きに思うがいいさ。じゃあな」

逃げやがった。あれは確定だな。


翌日、俺は化学のノートに怪文書を挟み、友人に手渡した。

「任務の遂行、ご苦労だった」

「うるせえ、別にお前のために集めてるんじゃないさ」

「ちなみに、化学のノートである必要はあったのかい?」

「特に理由はないが、不満か?」

化学だろうが科学だろうが、英語だろうが俺は別に何でもよかった。ただ、数学だけはダメだ。

「僕は化学が苦手だからね、少し投げ捨てたくなっただけだよ」

「やめろ、それは俺のノートだ。勝手に自分の投げとけ」

「というか、前に話しただろう? 文書の内容は英語のようで、英語でないと」

「だから英語のノートが良かったのか? もはや関係ないだろ。その言い方だと結局英語ではないんだろ? じゃあ、何でもいいじゃないか」

もう何の話なのか分からなくなってきた。どうでもいい、という結論を早く叩きつけてしまいたい。

「いや、英語ではあるんだ」

「どっちだよ」

「じゃあ、質問しよう。金属を溶かして型に入れ、全く別の形の物を作ったとしたら、それは同じ物だと言えるかい?」

「それはどう変わっても金属なんだろ? 俺は同じ物だと思うが」

「じゃあ、この文書は君からしたら『英語』だということだね」

本当に遠回しに話を進めるのが好きなようだ。そもそも英語だとして、和訳してくれないと意味は理解できない。

「和訳は出来たのか?」

「出来たよ。ただ情報が少なすぎて、何を伝えたいのかさっぱりだよ」

「一応これで三枚目だ。まあ、また報告してくれよ」

「結局気になるんじゃないか。強がるのはおすすめしないね」

「もうそういうことでいいさ」

友人には言えないが、俺は奥出の提案を呑んだだけだ。これから事件を阻止する日々が始まると思うと、憂鬱で仕方ないのだ。結局俺も、友人と同じ、自分なりの正義で行動しているだけで、自分の意志はそれほど関係ないのかもしれない。

「はあ、一時間目から化学じゃないか」

「そう悲観的になるなよ。化学はどこか数学で、どこか英語で、どこか現代文みたいなものじゃないか」

「僕には理解できないね。そんなごちゃまぜの勉強が楽しいとでも?」

「成績が’いい奴はそういうこと言わないぜ。少なくとも俺は言わない」

「君は僕より成績良くないだろ。むしろ言うべきだ」

「うるせえ、喧嘩売ってんのか」

いちいちムカつく奴だ。俺が勉強できないことは重々承知だが、友人もそうたいして変わらないものだ。順位で言えば一、ニ位差ぐらいだろう。

「ほら、チャイムが鳴っているよ。そう怒んないでさ」

「誰のせいだと思ってんだ、まったく。まあ、解読よろしくな」

「へいへい」

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