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第5話 無関心ギャルとホームルーム

 なんの思い入れもなかったはずの高校――高盃学園こうはいがくえん


 それでも四年ぶりの教室の空気には、思わず深呼吸をするほどの懐かしさを感じたし、いちいち目にとめることもなかった量産品の机が並ぶ風景には、うるっときた。


 入口の前で、足が自然と止まった。

 教室全体を一枚の絵画のように見る。


 異世界では、常に命が危険に晒されていた。

 召喚されてから、闇夜の中に潜み続けた。

 異世界なんていう言葉で飾っても、それは、ただのリアルだ。回復魔法はあっても蘇生魔法はなかった。

 途中、少なくない仲間ができたが、大半は命を落とした。

 彼らの想いが安らかな場所で、静かに眠っていることを願う――。


「――邪魔なんだけど」

「ん……?」


 静かで冷たい……けれど、どこか熱い芯が通っているような声がした。

 振り返れば、けだるそうにスマホを弄りながら立っているクラスメイトが一名。

 

 見た目は白ギャル。

 肌は白いが、髪は銀色でネイルは黒。アイメイクもばっちりで、スカートは恐ろしいくらい短い――というか、足が長いのか。

 身長も高い。完全なモデル体型。

 彼女の名前は……そう。

 えっと……そう。

 たしか4月の自己紹介で聞いたはずなんだけど……やべ。名前、忘れちゃった。


 二年で一緒のクラスになってから、話したこと、一度もないもんな。

 申し訳ないけど、尋ねるしかないか……。


「……、……」


 あ、あれ!? 声がでないぞ!?

 騎士団長にだって、国王にだって、はったりかまして色々と交渉してきたはずなのに、女子高校生に名前聞けないんだけど!?


 そ、そうか……俺の本質は陰キャだったんだ……。

 パラメーター以前に、気質の問題なんだ……うう、なんてこった……。


 悲しみに打ちひしがれている俺をどう思ったのか、名前の知れない銀髪ギャルはようやくスマホから顔をあげると面倒くさそうに言った。


「ねえ? 邪魔、っていってんの。どいて」

「は、はい! 申し訳ございません!」


 思わず直立。

 異世界独自の敬礼方法をしそうになる。


「……? へんなの」

「とんでもございません!」


 視線ががっちりと合った。

 感情がのってないようで、めちゃくちゃ強い思いが伝わってくるような眼力。

 一見するとクール系に見えるけど、この子、内面にドラゴンでも飼っていそうだ……こ、こええ……。


「まあ、いいや。どいてくれて、ありがと」

「あ、うん」


 まさか、どいただけで、礼を言われると思わなかった。

 もちろんスマホを見ながらの杜撰なお礼だったし、俺なんて邪魔な岩くらいにしか思ってなさそうだけど――それでも、礼を言ってもらえたのは嬉しい。


 懐かしいとはいえ、いじめられていた記憶ばかりの教室で、何か新しいものを手に入れた気がする。


 俺は急いで返答した。


「あの……こちらこそ、ありがとう。お礼、言ってくれて……」


 めちゃくちゃアホっぽい言葉だった。

 もちろんギャルは立ち止まらず――しかし、首だけを動かして横顔は見せてくれた。


「やっぱ、へんなヤツ」


 口角が少しだけ動いた気がしたけど、それが『笑み』なのかはわからなかった。


 そして、彼女に名前は聞けずじまいだった。

 まあ、クラスメイトだし、そのうち聞けるだろう。


     *


 ホームルームはすぐに始まった。

 日本人って、完璧な時間管理で進むんだよなぁ。

 異世界なんて、分単位の時計という概念すらなかったから、待ち合わせとか大変だった。太陽みたいな恒星といくつかの衛星の位置関係で時間を計るのだ。


「おまえら~、連休明けだからって調子乗ってると、ぶん殴るからなぁ。わかったか――一番、アイバ! 返事!」


 ものすごい高圧的な点呼が始まった。

 そうだ、そうだ。ふざけた体育教師が二年の担任だった。

 こんな感じでいつだって、朝から俺の胃はきゅうっと縮んでいたんだ。


 それにしても……担任ってあんな顔と声だっけ? めちゃくちゃ怖い体育教師だったはずなのだが、異世界の騎士団長なんかに比べたら、全く脅威に感じない。腕も細いし、体格もそこまで大きくはない。


 向こうの武人って、まじでクマみたいな奴らばっかりだからな。

 覚えられるスキルも多くないから、体力と筋力だけで魔物と戦ってきた人種なのだ。パラメーター以前に、遺伝子レベルで頑強なんだ。


 なるほど、なるほどなぁ――なんて、ぼうっとしていたのが良くなかった。


「――おい! カゲヤマ! 返事をしろ!」

「あ、はい、すみません」

「返事は!? 朝から腑抜けか!」

「はい! 申し訳ありません! 次回から気を付けます!」

「……!?」


 不機嫌さを隠すこともない担任は、俺の対応が予想外だったらしい。

 眉間にしわを寄せると「っち」と舌打ちをし、次の点呼に移った。

 

 久しぶりの教室だが……本当に素晴らしい対応をする教師だな。

 俺のいじめ見過ごしていたし、この教室は閉鎖されていない監獄みたいなものだったんだ。

 

 教室を見渡すと、生徒はいくつかのパターンに分かれている。


 恐怖におびえるもの、我関せずというもの、へらへらと笑っているもの――ああ、イヤなヤツが目に入った。


 そいつも俺を見ていた。

 鋭い視線で睨んでいる――俺をいじめていた主犯格だ。

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