表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元いじめられっ子の俺、異世界から帰還する  作者: 斎藤ニコ
第三章 久遠奏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/52

第48話 終話ナースコール

 白い天井――というわけではなく、見知らぬ薄茶色の木造の天井だった。

 

 俺は寝ていて、今、目が覚めた。しかし、どこで起きたか思い出せない。緊張感は皆無だが――。


「ああ、そうか……ここ、四桜組だっけ……」


 そうだ。

 電力を魔力に転換して、ディスペルを使ったあと、俺は無様にも気を失ったらしい。そのあと、委員長の連絡によって、四桜組へ連絡。事件を察知しつつも、その場所を探りあぐねていた首領ともども、工場に助けにきてくれたというわけだ。


 それが、昨日の夜。


 で、俺は一度目を覚ましたが、問題なく事が収まっていることを首領から聞き、頭を下げられつつも、「もう少しお休みください」という言葉に甘えて、寝ていたというわけである。


 目は完全に覚めている。

 スマホはどこだろう。荷物は別室か。

 時計も見えないが、外の明るさを見るに、昼前ぐらいか。

 今日が休みでよかった。


 俺は寝たまま、布団の中で、伸びをしながら、独り言を口にする。


「やっぱり地球で魔力を使うと、色々と弊害があるなぁ……まあ、電気の転換を調べて実験してみるかなぁ……」


 そのまえにまず起きないと――と考えたところで、部屋のふすまが開いた。


「景山くん……起きた?」


 委員長の声だった。

 昨日の夜から、会えていなかったので、少し安心した。

 無事だとは聞いていたけど、やっぱり実際に顔を見ないとな。

 

「ああ、起きてるよ。委員長、よかったな、無事で――」


 起き上がり振り返ると、閉められたふすまの前に、委員長が居た。

 それはいい。

 問題はその恰好だ。


 委員長はナース服だった。だが、肌色の方が多い気がする。

 実用的な現代のものではなく、あきらかにコスプレ衣装である。

 頭にキャップをかぶり、胸元はやけにV字に開いており、作業ができないほどにミニスカで、白いニーハイを身に着けている。


 これ、あれじゃん。

 色恋の術の前哨戦じゃん……。


 付き合うつもりはない。


「おやすみ、委員長。もう少しあとで起きる」


 俺は布団に入りなおした。寝たふりで、やり過ごそう。


「ち、ちがうの、景山君っ――色恋の術じゃなくて、おじい様から、看病するように言われてるだけ……!」

「その恰好で……?」


 なにか企んでるだろ、絶対。

 でも、助けた身だしなぁ。そんな俺を、ハメるようなことはしないだろう。多分。


「その恰好はともかく――今回の件は、落ち着きそうか? 夜凪もそうとうやらかしたろ」

「あ、うん」


 超ミニスカナース服をなんとか下にひっぱって、下着を隠している委員長は、ゆっくりと近づきながら、言った。


「朝からおじい様――首領が、各所に連絡をとって、色々と固めているみたい。あのバカ息子……柳の長男も、なにかしらの罰がくだるだろうけど、それはまあ、これからの話ね」


 知らない間に忍者に巻き込まれ、気づかない間に何かを解決した。

 正直、勝手に過ぎる話だが――


「まあ、委員長の身が安全だったなら、良いけどな……」

「え、それって、どういう」


 俺は起き上がり、布団の上であぐらを組む。いつの間にか、旅館できる浴衣のようなものに着替えさせられていた。


「どういうもなにも、委員長に助けてもらってばかりだったから、今回は助けたかったんだよ。それに約束したしな、助けるって」



 近くまで来て、畳の上に座る委員長の顔を見ると、カァっと赤くなっていた。

 そんな反応をされると、こちらが恥ずかしくなってくるのでやめてほしい。

 つうか、丸見えのパンツのほうを恥ずかしがってほしいんだけど……。


 いつもならふざけてくるようなタイミングだが、委員長は素直な反応をした。


「助けるって約束、守ってくれてありがとう……」

「あ、いや、べつに」


 なんだか、調子が狂う。

 バカなテンションの委員長が一番、話しやすいと知った。


 委員長も、空気感に耐えられなかったらしい。

 用意していた着替えの浴衣を取り出す。


「あ、えっと、じゃあ……着替える? よね。手伝うね……」

「は!? いやいいよ! 自分でできるから……」

「遠慮しないで! 助けてもらったんだし、これぐらいさせて」


 前のめりに近づいてくる委員長。

 自分が、どんな格好をしているか、忘れているらしい。胸はこぼれおちそうだ。俺は視線をそらす。この前までなら、色恋の術に警戒して、逆にじっと見ることさえできたのに……何故だ。


「いいって! ほんとに!」

「やるから! ほら! 腰ひもとってあげるから!」

「それとったら、だめだろ!」

 

 委員長が四つん這いで、のしかかってくる。

 俺が無理やり立ち上がると、委員長がひっぱられるように、中腰になる。


「きゃっ、立ち上がらないで――」

「へんな体重をかけるなよ――」


 ぎゃーぎゃーと騒いでいる中に、どしーんと音がまざる。

 俺は後ろに倒れ、委員長は俺の腹あたりに顔をつけて、倒れていた。


 天井はやっぱり白くない。

 茶色で木造。


「いたた……委員長大丈夫か」

「ご、ごめんなさい……景山君」


 俺が寝っ転がったまま、そちらを見ると、委員長は、俺の腹から顔を少しあげて、こちらを見ている。

 ……俺の下半身にめちゃくちゃやわらかい何かがあたっている。


 それをどう伝えようかと悩んでいたら、委員長はぬれた瞳で俺を見つめた。


「景山君……お願いだから、わたしに、ちゃんとお礼をさせてほしいの……」

「え?」


 言葉の抑揚が、やけに真面目だ。

 それゆえに、今までのへっぽこくノ一ではなく、まっすぐに進む委員長のままの言葉に聞こえた。


 しかし格好は、ナース服。

 そのギャップに俺の心臓ははねた。


 真面目なやつが、そういう恰好をしていると、ドキッとしないだろうか。俺はすくなくとも、してしまった。


 委員長は吐息をはくように、つづけた。


「なんでもしていいよ……わたしにできることなら、なんもでするし……ちゃんと動くから……」

「いや、なんでもっていうか……礼もいらないし……あと、動くってなんだ……」

「でも、わたし、このまま何かが始まっても気にしない。動くというのは、上か下かってこと――」


 話がぐっちゃぐちゃになりつつも、成立している。

 このままだと大きなうねりに飲み込まれてしまいそうだ。


「――気にしないって……上か下って……」


 やばい。

 認識の問題が、普段の俺の冷静さを失わせてきた。


 いつも温かいものがはいっている、水筒に冷たいものが入っていた驚きというか。

 いつもアホだと認識していたくノ一が、委員長としての真面目さを持ちながら、めちゃくちゃエロいコスチュームを着て、さらに、俺に迫っている……。


 顔が赤くなるのを感じた――その時だった。


 違和感を感じた。

 今まで隠されていた、意識がふっと漏れ出てしまったようだ。


 ふすまの向こう側に気配……。

 俺は、探るように、聞き取るように、気配探知スキルと聴覚スキルを使う。

 やはり、一人いる。

 これは……首領か。あとは見知らぬくノ一が数名?

 彼ら彼女らは、なにかを呟いていた。

 すると、聞こえてきたのは、首領の声。


『いまじゃー! いまこそ、色恋の術をつかうんじゃー! 四桜の未来のために、その先へ行くんじゃー! 既成事実で、里入り直行!』


 俺の気持ちが、スンッと、収まった。

 だが、それに気が付かぬ、委員長が、どこか自慢げに言う。


「なんか知らないけど、いつもよりいい感じ……これならいけるかも――『色恋の術ッ』」

「効いてたまるか!」

「きゃあ!」


 俺は一気に、立ち上がり、委員長をつかみ上げると、そのまま外へ放り投げた。

 委員長は、ふすまのほうへ飛んでいき、そのまま突き破る。


「おじい様! やっぱり効かない~!」

「ぐうっ! 孫よ! もう少し責めるんじゃ!」


 なんだこの忍者たちは……。

 もう付き合ってられないので、服を返してもらって、家に帰ろう。

 そうすれば、ようやく日常に戻ることができるだろう。


「……はあ。地球に帰ってきてから疲れることばかりなんだが」


 こうして俺と忍者の出会いは終わった。

 実は今後、委員長は俺の手となり足となることを望み、色々と手伝ってくれるのだが、それはまた別の話である。










 Chapter 3 End

 Thank you for reading.





































     *






















 深夜に数分間だけ発生した、停電区域内にある、とある家のとある部屋だ。

 そこには一人の少女が寝ていた。


 完全無欠のギャルである。

 クールで、感情は動かず、人付き合いも悪い。本来なら嫌われるだろう性格でも、顔の作りが良すぎるために、それらは逆に、特徴となり、株はあがっていた。


 そんな美少女がスヤスヤと気持ちよさそうに寝ていると――窓の外が、一瞬、光った。強い光だった。それもそのはず、聖なる光である。

 

 ディスペル――それは、様々な呪いや異常を解除する、一方的な暴力でもあった。


 夢の中で大好きな『顔を思い出せない誰か』と、おいしい紅茶を飲んで、見つめ合っているところだった少女は、光を浴びて、寝たまま、背をそらした。


「……うぐぅっ!?」


 己の声にならぬ呻きに驚き、目を覚ました。


 白い天井――自室だ。

 それはわかるが、どこか、なにか違和感があった。


 ベッドの上で起き上がる。

 柔らかい。柔らかすぎる。藁の上で寝る夜とは、雲泥の差だ。

 

 地球。この惑星は、平和すぎる。

 あの世界での魔王との戦いに比べたら――。


「……あれ? あたし、なんでここに居るの……?」


 美少女クールギャルなどという存在になり果てた少女は、周囲を見回し、強烈な違和感を覚え――思い出した。


 吐き気がしたが、それは良いことだった。なにせ、嘘ではなく、事実であったことを証明してくれたから。


「勇者のカゲヤマ様を守って、あたし、死んだはずじゃ……」


 ここに今、異世界から地球への転生者が、ディスペルによって女神の呪縛から逃れ、記憶を取り戻した。


「ていうか、まって……教室にカゲヤマ様が居たような……?」


 ――あれ? ここって地球だ。カゲヤマ様が言っていた、元の惑星だ。

 ――もしかして、あたし、地球で第二の人生を送ってるのか……?

 ――カゲヤマ様みたいに、今度はあたしが地球にきたってこと?

 ――若い。クール美少女ギャル……胸もでかい……戦うこともないから肌に傷一つない……。これはイケる!

 ――でも、どうしてだろう? まあいいか……そういえば、青い髪の女神と話した気が……。


 ――まあいいか!


 ディスペルにより、第二の人生を思い出したクールギャルに、論理は不要だった。

 むしろ、目の前の人参を食べたい。


「だ、黙っていれば、カゲヤマ様に自然に近づいて、こ、恋人になれたりして……」


 突然の覚醒。

 深夜に考えることではない、ピンク色の計画。


 さあ、どうする景山蒼汰。

 己のディスペルが生み出した、次なるトラブルを乗り越えられるのか?


「う、うへへ……すごい状況になってきたぁ……」


 クール美少女はどこへやら。

 変な笑いが、深夜の部屋からいつまでも聞こえてきた……。










 Stay tuned――?





















ということで、3章完結です。

今後の流れが決まり次第動きます。


ここまでお読みいただき誠にありがとうございました……!



よろしければ最後に、評価の程よろしくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ