第47話 七小節魔法〈ディスペル〉1発目 ~ 2発目
異世界での一コマを思い出した――それは、魔法使いが、自分自身だけでは成しえぬ〈大魔法〉を使う際に、自然の力を使うことだ。
たとえば、落雷のパワーを利用するとか。
理屈はわからないが、人間を通すと、落雷のエネルギーを魔力に転嫁することができるらしい。
さて、俺は、二つの点に気が付いた。
一つ目。薄暗かったが、工場の中にはまだ電気が通っているらしいこと。
二つ目。工場の中に、太い電源ケーブルが通っていること。
結論。
雷でそれができるなら、電気だって魔力へ転換できるんじゃなかろうか……?
魔法使いが、それを成し遂げるのを二度ほど見た。魔力転嫁とか、そういったスキルはなかったので、つまり、なにかしらのコツさえつかめば、流用できる技術のはず……。
魔力を生み出すのも、スキルではなく、自然的なもんだし。魔力はそもそも、異世界に漂う自然エネルギーを指す。
勇者である俺には、全属性の耐性が付いていたが、レベリングにより、それらはカンストしている。炎に関しては、吸収属性までつけている。魔王が黒炎魔法を使うからだ。
「死ぬことはないよな……」
だって、体力の低い魔法使いがしてたし……。
雷の流れを、魔力に変えるだけ――とか言ってたよな。
似てるからいけるんすよ、みたいな軽さだったはず……。
「ミナイデエエエ」
「コナイデエエエ」
「アッチイッテエエ」
放置して帰りたいところだけど、そんなわけにもいかない。
腹をくくるしかない。
俺は全ステータスに強化をかける。
雷耐性は常についている。
ヒール魔法は使えないが、チャクラというスキルによる自己回復は使えるはず。切断した腕をくっつけるような治癒ではなく、自己回復力のアップでしかないが、十分だろう。
電源ケーブルを切断し、そこに触れる。感電して……一般人なら大変なことだが、異世界帰りの俺ならば、そこに魔力と似た流れを見出せるはずだ……! 多分!
方針が決まれば、動くのは簡単だった。
俺は、バーサーカー忍者を横目に電源ケーブルが垂れている壁際まで一息にジャンプし、近づく。
夜凪組がさきほど落としていたらしい刃物を見つけていたので、それを使い、ケーブルを切断。
視覚的に最高に怖いのだが、やるしかない。
手を近づける。
「……っく」
良い誤算があった。
感電せずとも、そこにある電気を、俺の体が感じ取っていた。
「これは……!」
魔力だ。
異世界で大気中にただよっていた〈自然が発する魔力〉にだいぶ似た感覚を感じる。
いけるぞ……!
俺は再び、詠唱を口にする。
先ほどとは段違いの魔力が、体の中を駆け巡る。それは切断したケーブルから流れてくる電気を変換したものなのだろう。
雷よりも、エネルギーは弱い分、電気の流れは一律なので、制御しやすいに違いない。
これからは、ポータブル充電器でも持ち歩けば、魔力石のような使い方ができるかもしれない。実験して、色々と試さないとな。
でも、今は、とりあえず。
限界まで体内に溜めた魔力を一気に解放するように、俺は全力で叫んだ――。
「――ディスペルッ!」
工場内が、眩しいほどに光輝いた。
闇を打ち払う、聖なる光だ。
実は、同じ電力域に存在するすべての人間に影響を与えていたらしいのだが、それは、また別の話。
いくら攻撃しても倒れなかった、目の前のバーサーカー忍者たちが、
「ぐああああああああああああああああああ」
と、一様に叫び、身もだえ、地面にドサドサと倒れていった。
そうして、皮をむいた果物の実のように、委員長は現れた。
右を見て、左を見て、自分の体と口と、なぜかスカートの中を確認して。
「ふ、ふえ……? た、たすかったの……?」
ナニをされていたんだか、ナニをしていたんだがは知らないが、無事なようだった。
「委員長、聞いてくれ……」
「え……? なに、景山君。どうしたの、足元ふらふらで……?」
俺は、委員長へ話しかける。時間がない。
想定外な電気魔法には、予想外な事態が発生した。
ディスペルが、なにか、違う場所にまで到達したようだ。この範囲だけに使いたかったが、おかしなことに、電気ケーブルに魔力がひっぱられたようなイメージだ。
何が起きたのかは知らないが、一つわかることは、俺の体力がいきなり限界にきてしまったということ。
魔力とは自然エネルギーである。つまり人間におきかえると生命力だ。
魔力が不足していれば、魔法は発動しない。しかし、魔法が発動したあとに、魔力がつきそうになると、生命力まで魔力へ転嫁されてしまう。
俺はその、魔法発動後の魔力不足に陥ってしまったらしい。
俺は、なんとか声を出す。
「委員長、さっさと弥一郎を起こすなりして、ここに応援を呼べ。救助してもらうんだ。夜凪組もしばっておくこと……それで、なんとかなるだろう……」
そこまでで、限界だった。
一言でいえば、めちゃくちゃ眠い――。
「え? え? 景山君? 大丈夫なの!?」
俺は、足元から崩れ落ちた。
委員長の、あまりにも焦る姿が、妙に面白く見えたが、それを伝えるには至らなかった。




